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意志の力

「きたな」


「そうだな」


三井と前川は短い会話をしていた。

二人は今、裏野ランドの観覧車の前にいた。


「ここにいるのか?」


「わからない。

ただいたとしたら少しでいいから話をしたい」


そこに若い女が近づいて二人に聞いた。


「おじさん達も幽霊を探しにきたの?」


「まぁそんなところだ。

そう言う君達もなのか?」


前川は答えた。


若者は前川の質問に対して少し残念そうな顔をした。


「普段は結構見かけるらしいんだけどなんか見られなかった。

おじさん達も出直したほうがいいかもね」


「そうか。

もう一つ質問なんだが、この遊園地は心霊スポットとしてそんなに有名なのか?」


「有名も何もテレビでも取り上げられているくらいなんだよ?」


「それは知らなかった」


「それじゃぁ俺はもう行くから。

おじさん達も見つかるといいね。

幽霊が」


「そうだな。

ありがとう」


そう言うと女は去って行った。


「三井、結構いい子じゃないか」


「あぁ最近の子も捨てたもんじゃない。

あんな子達がいる限りはこの国も大丈夫なのかもしれないな」


「前川がそんなこと言うなんて…お互いにだが年をとったもんだな」


「当たり前だろう。

俺たちももう、五十代なんだからな。

初老と言われる年齢だ。

もう若くはないってことさ」


二人は楽しく話していた。


やがて前川は喜びのあまり言った。


「こんなに楽しく話すなんていつ以来だろう。

もう学生の時以来かもしれないな」


「そんな時があったか。

あの子が恭平が生きていたら、今年で30歳そろそろ結婚していたんだろうな」


「優太は生きていたら今年で27歳になるか。

こっちも結婚したいからなんだろうな。

二人は生きていたら一体どんな人生を歩んでいたんだろうな」


「死者がもし生きていたらなんてこと考えないほうがいい。

考え始めてしまうとそれはもう死者の世界に行くしかない。

それしか心を満たす手段がなくなる。


たら、ればの話は死者のいう分類においてはやってはいけないこと。


俺はそう思っている。

だから何をしていたんだろうとは考えで俺はそれ以上深追いはしないようにしている」


辛くないのか?」


「辛いか辛くないかで言ったら辛い。

だが、そ以上考えたほうが辛いんだ。

俺の勝手な考えなど恭平は受け入れないな決まってるからな」


「それは優太にも言えていることかもしれないな。

さて、そろそろ行くか。

まだかって言われてしまいそうだ」


「そうだなそうするか」


そう言って二人は観覧車の中に入った。

この遊園地はは定期的にメンテナンスをしていてアトラクションを動かそうと思えば動かせたのだ。

そしてそのコントールパネルを今前川は持っていた。


「よし三井動かすぞ。

もし優太が会いに来なかったとしても俺は満足なんだ。

こうして20年ぶりに優太との最後の場所になることができるんだからな。

こういった目的だな」


そう言って前川はコントールパネルのボタンを操作して、観覧車を動かした。

ゆっくりと動き出した。

観覧車はなんの不安もなく、動き続けた。


中ではやはり二人で会話をしていた。


「俺は辛いよ。

後悔の日々だった。

もうこれ以上何も大切なものを失いたくない

そう思って生活をしてきた。

だが、大切なものを全て守りきることはできなかった」


「前川、お前何か勘違いをしていないか?」


「俺は勘違いなんて…」


途中で言葉を遮って三井は言った。


「全てを守り切るなんて不可能だ。

もし守りきれるのならそれは人知を超えている存在つまり神の領域だ。

我々のような生を持って生まれた人間には不可能だということだ」


「お前は相変わらずわかりにくいことを言うな。

年をとって余計にわかりにくくなった。

だが、俺もそう思う。

頭では分かっているんだ。

でも心は理解してくれないんだよ」


「俺も恭平が死んでから何回も何回も考えたよ。

なんでだなんであの子は死なねばならなかったんだとね。


でも暫くしてふと思ったんだ。

そう考えるのはあの子はどう思ってるだろうってね。


絶対にあの子はこう答えたと思う。

そんなこと考えるなクソ親父ってな。

そう思うと心が少し軽くなった。


それは他の人から見たら責任逃れになるのかもしれないし、逃げていると思われるかもしれない。

でも、俺は思うよ。

そう考えないとこっちの身も心も持たないってな。

そしてあの子もそのほうが報われるんじゃないかってな」


前川は神妙な表情で外の景色を見つめて言った。


「それでも俺は守りたい」

「お前がそう思うなら俺はもう何も言わない。

ただそれで後悔するなよ」


そう三井が言った瞬間に、周りが輝いた。

そして声が聞こえた。


「お父さん、お父さん」


小さな声だった。


「誰だ?」


三井がそう言ってすぐにぼんやりとした姿で優太が現れた。


「ありえない。

これが意思の力なのか?」


三井は呟いた。


前川も驚いて言った。


「本当に優太なのか?

それならなんで?」


優太は笑って答えた。


「僕は、お父さんたちに会いたくて来たんだよ。

もちろんお父さんたちも会いたがっていた。

だからこうしてお父さんたちに会うことができたんだよ」


「そうか…今まで済まなかった。

足させられなくて済まなかった。

弟に合わせられなくて済まなかった」


前川は涙を流しながら言った。


「なんで泣いているの?

僕はお父さんに感謝しているんだよ。

楽しいことをたくさんしてくれた。

思い出をたくさん作ってくれたから。

だからね僕も言わせて。


今までありがとう。

そしてこの気持ちを今まで伝えられなくてごめんなさい」


「それは俺が言わなくちゃいけないことなんだ…

優太は何も罪のないのに殺された。

死んだ。

俺の責任でもあるんだ。


でもこれだけは言わせてくれ。

俺にとって優太と過ごした日々は宝物だ。

それはこれからも忘れることはない。

そんな宝物をくれてありがとう。

そして父さんと母さんの子供に生まれてきてくれてありがとう」


前川は大泣きしながら言った。

「お父さん僕もお父さんとお母さんの子供でよかったよ。

それじゃ、もう時間だから行くね!」


「待ってくれまだはなしたいことがたくさんあるんだ!」


そう前川は言ったが優太は笑って消えた。

消える直前にこうも言った。


「僕はお父さんとお母さんの記憶の中にいるよ」


三井は泣いていた前川に声をかけた。


「よかったな。

会えたぞ。

優太くんに。

心が少し軽くなっただろう?

思い切り泣いていいんだ。

それでいい。

そうしないと乗り切れないんだからな。

俺が恭平と会った時は泣くなよって言われたよ。

だがお前は泣くなとは言われなかった。

だから思い切り泣いていいんだ」


「ありがとう」


前川はぐしゃぐしゃの顔で言った。


「お前の息子はいい子だったんだな。

お前の教育が良かったんだな。

父親としては俺もあんな風に言われたかったよ」


「優太は俺に言った。

記憶の中にいると。

だからこの記憶を俺は大切にする。

何が会っても守る」


「記憶は一生守ることのできる数少ないものだからな」


「俺も恭平の記憶を持ち続ける。

あいつを見てからそう決心したんだ」


そう言った三井も泣いていた。


その後観覧車から降りた二人は家路に着いた。


二人の妻はその話を聞いて泣いていた。

しかし同時に心が軽くなったと言った。


感じていたのは夫と同じだったのかもしれない。


そして数日が経ち三井と前川があった時に三井はこう言った。


「きっと恭平と優太が俺の前に現れたのはきっと意思の力だと思うんだ。


絶対に何か伝えたいことがあったから俺たちに会いに来た。

そう考えるのが普通じゃないか?」


「そうだな。

意思の力か。


あの子たちも強くなっていたということだな。


親としてはそんなに嬉しいことはないな」


「そうだな。

そして一つわかったこともあるな」


「遊園地の噂か?」

「きっと優太と恭平のイタズラなのかもしれんな」


「それならますますあの遊園地はしっかりと手入れしとかないといけないな」


「そうだな。

それと前川、ありがとう。

俺もお前がいたからここまで来ることができた。

本当に感謝してる」


「それはこっちのセリフだぞ、三井。

俺も感謝しきれないほどに感謝しているんだよ」


「そうか」


短い返事を三井はした。

そして恭平の写真を見た。


「なぁ前川これから定期的にあの観覧車にならないか?」


「そうだな。

そうすればあの子達にも会える気がする。

心霊スポットでもいいさ。

でも俺たちにとってはあそこは光で満ちている場所なんだ」


そう言って二人の男は立ち上がった。

これから訪れる未来を考えて。

優太のことを考えて。

恭平のことを考えて。


優太と恭平はこの二人を見て笑っていた。

とても穏やかな表情で。



最終話です。

ありがとうございました。

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