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翌日、俺達は聖エルガー教国の首都アルクから出て行く事にした。次の目的地は魔法主義国家のマリネス公国だ。魔法が盛んな場所だから色々楽しみである。そして、此方側の世界で大規模なダンジョンが存在している。序でに魔法学院も近くにある。唯、依頼の一つぐらいは受けようと言う事で冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは随分と空いていた。報酬金貨20枚が手元にあるんだから休みたい気持ちはよく分かる。
「どの依頼を受けようかな?」
冒険者が居ないだけあって依頼は豊富にある。城壁や建物の修復、航空艦の製造の手伝い、護衛依頼、魔物討伐依頼が沢山ある。その中でも建物の修復と魔物討伐依頼は分厚い。
「この護衛依頼が丁度良いかも。ほら、マリネス公国の近くの町まで行くんだって」
依頼内容を見てみる。
サーマル町まで護衛
依頼人 マモス・サザン
先日の襲撃後、魔物が活発化している。報酬は金貨3枚。魔物の討伐数により報酬は上がります。
捕捉:食事、寝袋は自分で用意して下さい。
「ならこれにするか」
早速依頼を受ける為に受付に行く。依頼を受理して貰うのと同時に受付嬢から呼び止められる。
「コートニーさんとブロードハット様のお二人はギルドマスターに呼ばれています。今から案内しますね」
俺はサラさんと目を合わせながら受付嬢に着いて行く。スピア達には待ってて貰う事にした。
「ギルドマスター、コートニーさんとブロードハット様を連れて来ました」
「分かった。入ってくれ」
俺とサラさんはギルドマスターと会う。何故呼ばれたかは不明だ。だが、俺は勇者達と一悶着が有った。サラさんも民衆の前で仲間になる事を拒否したからな。
「さて、いきなりですまないが先ずは良い方の話からしよう。サラ・ブロードハット、シュウ・コートニー、先の戦闘により多大な戦果を評価して本日付けでSランクとBランクになる」
まさかの御褒美だった。そしてサラさんのギルドカードが虹色になり、俺のギルドカードは銀色になった。
「そして、悪い話だがな。貴様ら二人が魔族を倒したのは知っている。とある高貴な方から映像を観させて貰った。だが、魔族を倒した事を口外するな。それがお前達の為だ」
「俺達の為ですか?」
「正確に言うなら国に喧嘩を売るなと言う事だ。今回魔族を倒したのは勇者達だ。それで理解は出来ただろ?」
別にアルヴァを倒した事については構わない。何せ遂に俺はBランクになれたのだ。サラさんに至っては数少ないSランクだ。
「口止めとしてランクは上げる様に要請があった。本来我々ギルドは公正に判断して物事を進める。だが、それを曲げてまでやったのだ。この意味を良く理解して噛み締めろ。理解しなくとも噛み締めろ。何か異論は有るか?無ければお前達の日常生活に支障は無い」
「俺は構いません。サラさんは?」
「私も別に良いさ。この手で仇討ちが出来ただけで満足さ」
「そうか。なら、一つだけ忠告だ。シュウ・コートニー、お前の戦い方は危険過ぎる。周りに仲間も居るのだから頼れ。私からは以上だ」
ギルドマスターは用は済んだと言わんばかりに事務処理を始める。俺達も頭を下げてから退出する。この後スピアとローラが心配そうにしていたが問題無いと伝えて安心させた。
商隊の出発も昼頃らしいので、それまでに準備をする事にしたのだった。
……
そして昼頃になり、依頼人の所に向かう。しかし、アルクの活気はかなり高い。やはり勇者達の発表がかなり効いているのだろう。それに熱心なユーニスム教徒達も沢山居るので大丈夫だろう。
「しかし、何処もかしこも勇者勇者と話題になってるな」
「そうですね。民衆の前で大々的に宣伝してましたからね」
それに、アルヴァを倒したのは勇者達だと言われてるし。
「サラさんは良いんですか?折角アルヴァを倒したのに」
「ん?ああ、別に構わないさ。先程も言ったが私は仇打ちが出来ただけで良いさ。それに、今はシュウ君と一緒に居られる方が良い」
「サラさん……」
サラさんがデレた。普段はクールなのに、急にデレるんだから此方が照れる。何となく二人だけの世界に入りつつある。
「ゴホン!そろそろ待ち合わせ場所に着くわよ!浮かれてないでシャキッとするの!」
「お、おう。シャキッとなシャキッと」
この後直ぐに依頼人のマモス・サザンと商隊に会う。唯、商隊が結構な大規模だったのだ。一応他の冒険者達も居るには居るが、人数は少し足りない感じだしBランクの人は居ない。
「大丈夫よ!サラと私がAランクの冒険者なんだから!」
ローラは胸を張って自信満々に言う。そんなローラに現実を伝える。
「サラさんはAランクじゃ無いぞ」
「えっ!?嘘でしょう!まさかBランクに落ちたの!」
違うぞローラよ。もう、サラ先生は次のステージに言ってるのだよ。
「すまんなローラ。たった今Sランクになったんだ。まあ、ローラなら頑張ればSランクになれるさ」
サラさんは虹色のギルドカードを見せながら少しドヤ顔になる。そんなサラさんを見て、ちょっとだけ悔しそうになるローラ。
「ふん!私だって直ぐにSランクになれるんだからね!ちょっとだけ待ってなさい!」
「勿論さ。因みにシュウ君もBランクになったよ」
俺も銀色のギルドカードを見せる。
「流石ご主人様です!おめでとうございます!」
「本当だわ。確かにアルク防衛戦の時は大活躍だったものね。あれだけやってランクが上がらない訳が無いわね」
それから他の冒険者達と軽く打ち合わせを行う。
「あの、お願いがあるんです。出来ればサラ様とローラ様は前と後ろに別れて守って欲しいんです。情け無い事に我々は貴女達より弱いので」
と言う訳で離れて護衛をする事になった。
「なら俺は後ろの方に着くよ。M240G機関銃が火を噴くぜ。クロは前の方を頼むな」
「プッキャ!」
クロは銃を大量に出しながら了承する。
「なら私は後ろに行こう」
「じゃあ私も後ろに行くわ」
「私はご主人様の側に居ます」
全員後ろに行く事を希望する。
「「「…………」」」
一瞬の間が空く。そして次の瞬間、ゴングの音が聞こえた。
この後公平なじゃんけんが行われた。だが、全員ハイスペックな持ち主ばかりだ。サラさんとローラは精霊を駆使するし、スピアはサイレントスキルを発揮して見え難い様にする。
そして、約十分間のレベルの高過ぎるじゃんけんを制したのはサラさんでした。魔法とは無縁な俺でも分かるぐらいの高度な技術の応酬が有った。だが、これはじゃんけんなのである。もう一度言うがじゃんけんである。
「さて、行こうか?」
「あ、はい。じゃあスピアとローラも頼んだぞ?」
「「……はい」」
何か凄く落ち込んでるな。なら後で交代でもすれば良いんじゃないかな?
「サラさん「断る!さあ、行くぞ」ええー、俺何も言ってないよ?」
「私は全力で戦い勝ったのだ。なら今日一日はずっと後ろを守る権利が有る!」
「じゃあ俺が「それはダメだ」ええー、まだ全部言ってないよ?」
「シュウ君が言いたい事は直ぐに分かる。さあ、今日は私と一緒に後ろを守るぞ」
「分かりました。宜しくです」
それから商隊は出発した。サラさんがSランクになったと聞いた冒険者達はサラさんには羨望の眼差しを向ける。そして俺には嫉妬の眼差しを向ける。理由は簡単だ。サラさんが俺の隣に寄り添って座っているのだ。
(改めて思うけど、本当に美人だよなぁ)
初めて見た時のインパクトも有ると思うけど、兎に角美人なのだ。造形美と言っても良いだろう。
「ん?私の顔に何か付いてるのか?」
「いや、何でも無いです」
「フフ、そうか」
そう言いつつ恋人の様に寄り添うサラさん。抵抗?する訳ないじゃ無いか!
「シュウ君、君には本当に感謝しているよ。あの時に助けに来てくれなかったら、今頃此処には居なかった」
「と言っても最終的にはやられちゃいましたけど」
「そんな事は無い。誰もが見捨てる状況でも助けに来てくれた。それだけで充分なんだ」
そう言って、俺のマウスガードとゴーグルを外す。
「シュウ君……」
「サラ、さん……」
二人の距離が徐々に縮まる。そして……。
「魔物だ!魔物が来たぞ!9時の方向からウェアウルフ多数!」
サラさんとキスする一秒前に魔物が現れる。お互いビクッとして止まる。
「おのれ、魔物共め…良い所を」
サラさんは立ち上がり魔物に向けて魔法陣を展開。
「邪魔するな!!!」
詠唱無しで魔法を放つ。そしてウェアウルフの集団の中央に着弾。そして大爆発。
「キ、キノコ雲出来てるんですけど」
小規模ながら無詠唱でアレだけの威力を出すとかヤバ過ぎません?と言うか、威力上がってる。
「残念だが流石に続きをする雰囲気では無いな。だから、また後でな」
と言って再び隣に座るサラさんだった。
……
商隊の護衛は中々忙しい物だった。魔物が大量に野放しになった結果、この辺りの縄張り争いが激化。魔物同士の熾烈な戦いが行われているのだ。その縄張り争いの中には街道も入っているのだ。
勿論、聖エルガー教国も対応しているが手が足りないのが現状だ。
「それでも予定通りに進んでる事が驚きだよな」
「そうですね。しかしアレだけの魔物に襲撃されるのですから、他の商隊等は街道での輸送は困難を極めるでしょう」
「そうね。それに、魔物の活動範囲がどんどん広がってる筈だわ。今の内に手を打たないと大変な事になるわね」
「ローラの言う通りだな。だが、それを行う手札が少ないのも問題だな。恐らく暫くは聖エルガー教国の物価は跳ね上がるだろう」
「早めに出国出来て良かったかな?後は勇者とかが頑張るだろうから大丈夫じゃ無いかな?」
俺達は予定の中継場所の休憩所に来れた。それぞれが食事の準備をして行く。俺達も鍋料理の準備やテントの準備をして行く。
「結局、自分の身は自分で守るしか無いんだよな」
勇者だろうが英雄だろうが、全てを守る事は出来無い。
「さて、出来たぞ。はい、シュウ君のだ」
「あ、ありがとうサラさん」
サラさんが皿に盛ってくれる。スピアのウサミミがピクンと動く。この後は問題無く食事は終わる。因みに最初に見張りをするのは俺と他の冒険者だ。相変わらず空は澄んでいて星がよく見える。
「シュウ君」
「あれ?サラさん。どうしましたか?」
サラさんが俺の側に来て横に座る。
「シュウ君に伝えたい事があるんだ」
「伝えたい事ですか?」
サラさんは真剣な表情になる。しかし、何処か不安そうな雰囲気も出ていた。
「伝え無いで後悔するより、伝えて後悔した方が良い」
自分に言い聞かせる様に言う。
「シュウ君、いやシュウ。私は君が好きだ。君があの二人と付き合ってるのは知っている。だが、それでも私はシュウが好きだ」
「サラさん……」
満天の星空の下でサラさんの気持ちを伝えられる。
「返事は今で無くて良い。それじゃあ」
「サラさん!」
俺は咄嗟にサラさんの手を掴む。今此処で返事し無いと多分ずっと引き伸ばしてしまう気がする。
「俺は、初めてサラさんを見た時高嶺の花だと思っていました」
初めてこの世界に足を踏み入れて見たサラさん。凄く感動したのを覚えている。まさか本当にファンタジーの定番であるダークエルフが居たのだ。
「だから、憧れとかの感情の方が大きかった」
そんな存在が好きだと言ってくれた。
「俺もサラさんが好きです」
そう言った瞬間、俺はサラさんに抱き締められた。
「嬉しい!断られるのも、今までの関係が壊れるんじゃ無いかと思って」
サラさんは若干涙声になる。だからおれもサラさんを抱き締める。
「ハーレム作ってる奴だけど、良いんですか?」
「シュウと一緒に居たいんだ」
マウスガードとゴーグルを外される。そして、徐々にお互いの距離が近くなる。
「シュウ、愛してる」
「サラさ……んっ」
お互いの距離が零になる。そんな姿を満天の星空が見守っていたのだった。




