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此処で一旦区切ります。ストック切れです。
再投稿はしますが、いつからは未定です。
Twitter、lobi、活動報告から再投稿を伝えます。
これからも宜しくお願いします。
目が覚めたら知らない天井だった。
「此処は……そうか、アーカード帝国の巡洋艦の中か」
周りを見渡すが誰も居ない。更に身体中が包帯塗れだし、右腕と胸部はギプスで固定されていた。
「痛みは無いけど、感覚も無いとは。結構重傷だったかも」
暫く待っていると誰かが入って来た。
「おや、目が覚めた様だね。まあ、あれだけ傷付いていたのだから当然と言えるね」
「貴方は?」
そこには王子様みたいな中性的な美青年がいた。その容姿に嫉妬する気にもなら無い。その後ろには軍服姿の青い髪の女性が控えて居た。
「そうだね。自己紹介がまだだったな。私はアーカード帝国第5王子、セーファス・アーカードだ。そして、こっちの女性が君を助けたメビウス1だ」
「初めまして。メビウス1です」
「え?それ名前なんですか?」
「さて、話を進めようか」
「進めちゃうの!良いの?」
因みに青髪の女性はエルマと言い、階級は中尉だそうだ。
「先ずは戦況がどうなったか教えよう」
「お願いします」
結果は勝ったそうだ。魔族アルヴァが死んだ事により魔物の統率力が失われた。結果元々啀み合う魔物同士がお互いを攻撃。その隙に隊列を戻し攻撃を仕掛けた。しかし、戦力を整わせるのに時間が掛かり過ぎた様で魔物の半数以上が逃亡した。
「半数が逃亡ですか。それって不味くないですか?」
「うん、そうだよ。中々察しが良いね」
この戦いの結果、約一万五千の魔物が逃げた。航空艦も弾薬不足が相次ぎ追撃が不可能になったのも原因だ。更に人間と直接戦闘を行なった魔物の厄介度が増した。今まで新兵だった奴が実戦を経験してマシになったと言った感じだ。
流石に不味いと判断した聖エルガー教国は、国境付近の兵士、戦車を一部輸送路に配置する事を決定。そして現在進行形で防衛している。更に冒険者ギルドにも依頼を決定した。
「しかし、上手く話は進まないのが現実さ」
「まさか冒険者が集まらなかったとか?」
その通りだった。と言うか、当初の情報とは違い過ぎる魔物の数に冒険者達は不満の声が上がっていたのだ。更にあれだけの大規模戦闘をしたのにも関わらず金貨10枚では割に合わない。結果、聖エルガー教国からの依頼のボイコットが発生した。
聖エルガー教国も報酬を倍にして対処した結果下級冒険者や新人冒険者までは良かったが、ベテランや高ランクの冒険者の不信感は消えず聖エルガー教国から出て行こうする動きがあるそうだ。
「因みに俺どのぐらい寝てました?」
「三日間です。今は丁度夕方になっています」
この戦いの傷跡は非常に大きな物となっていた。先ずは第三城壁が全壊、第二城壁にも被害が多数出たし、第一城壁にも被害が出た。更に民間人にも多数の死傷者が出てしまった。
「ああ、君の所為では無いからね。あれだけの強大な力を持っていた魔族だ。正直、私達を含めて航空艦隊は全滅してただろうし、第二城壁も破られて更に被害が大きくなって居ただろう」
「そう…ですか……」
「寧ろ君は中央付近の兵士達を救ったと言っても良いね。君が魔族の攻撃を上に逸らした結果、生き残ったのだからね」
シールドを斜めに構えてアルヴァの攻撃を逸らしたのが功を奏した様だ。
「それから勇者達の存在だがね。どうやら明日発表を行うらしい。と言うかサッサと発表しろと発破をかけてね。それに、傷付いた民衆を元気付けるには最適な存在だ」
色々な理由があるが、漸く勇者達がお披露目をするらしい。
「後は、君が使っていた古代兵器を回収しておいたよ。今はパワードスーツの格納庫に有る。着いて来たまえ」
「え?今からですか?俺結構重傷なんですけど」
しかし、セーファス王子は行ってしまう。そしてメビウス1ことエルマさんが車椅子を用意していた。
「いつの間に用意を」
「そこに有りましたから。さあ、どうぞ」
取り敢えず車椅子に座って移動する。そして、格納庫に行く途中様々な人に声を掛けられる。「良くやったな」とか「凄かったよ」とか。俺はサラさんを助ける為に我武者羅に戦っただけだったけどな。ただ、褒められるのは悪い気分では無いね。
「漸く来たね。此処に有るのが君の古代兵器だ。確認してくれ」
そこにはボロボロのウォールに、壊れたM63バルカン砲、原型を留めてな耐物シールド5型、ほぼ無傷のR-20パイルバンガー。
「確かに俺のですね。回収ありがとうございます」
「気にしなくて良い。所でだ、君は冒険者なのだろう?」
「そうです。まあ、楽しくやってますよ」
「だが不安も有るだろう?冒険者より軍人になった方が安定もしている。そこでだシュウ・コートニー君、もし君が良ければ私の直属の部隊に入らないか?」
「うえ!?直属の部隊ですか!」
変な声が出てしまったが仕方無いだろう。アーカード帝国の第5王子の直属の部隊はかなりエリートなんじゃないか?
「君を助けに行ったパワードスーツ部隊も私の直属の部隊でね。今回彼等に無理を言って行かせたのさ。だが、無理をしてでも君を手に入れたいと思っている」
「セーファス王子……」
まさか、こんなにも熱い思いを当ててくるとは。俺の心がユ☆ラ☆グ!
「本音は唯やりたいだけですので。お気をつけ下さい」
…………は?やりたい?
「シュウ君。どうだい?私とヤラナイカ?」
言葉が出なかった。まさか……この人。
「安心したまえ。私は両刀だ」キリッ
「いや、そう言う問題じゃ無いし!」
えっ?違うの?みたいな顔すんなよ!全然違うわ!俺はドノーマル何だよ!
「そうか。私なら下手な女より気持ち良くさせる事が出来るのだかなぁ」チラリン☆
「早くこの艦から逃げたい」
流し目されても困る。まさかこんな展開が待っていたなんて誰が想像しただろうか?確かにセーファス王子は中性的な美青年だ。だからと言ってセーファス王子に簡単になびく訳無いだろ!
「コートニーさん安心して下さい。セーファス王子の直属の部隊の半数以上は既に王子と親密な関係になっています」
「何処が安心出来るの!?」
えっ?違うんですか?みたいな顔されても困るわ!どうして論点が其処に行き着く!
「気が向いたら是非来たまえ。私は君を歓迎するよ。それと、今回の戦いの功績を讃えてコートニー君にはコレを授けよう。正式に渡すと色々五月蝿く言う連中が居るからね」
特に宗教関係と本国からね。と一言付け足しながら勲章を俺に渡す。その勲章は純金製でアーカード帝国のシンボルマークにドラゴンが付いている。更にドラゴンの目には赤と青の宝石が付いており色々手が込んである。
「何で俺に勲章を?」
「コートニー君の活躍は見ていたよ。君の活躍がこの戦いの勝敗を決したのは言うまでも無い。だが、それを認める人は居ないだろう。だから、私が出来るのは名誉を与えるぐらいしか出来無いからね」
「セーファス王子……」
「君の今後の活躍に期待するよ。それでは」
セーファス王子はそう言ってエルマさんを連れて行く。そして暫く勲章を見た後にパワードスーツを見る。此奴のお陰で俺は生き残れた。かなり無茶をしたお陰で半壊状態になってるし、魔物の血が未だにこびり付いてる。俺自身もボロボロになったが生き残れたのは間違いウォールのお陰だ。
そっとウォールに触れる。
「俺の無茶に付き合ってくれて、ありがとうな」
俺は暫くウォールの装甲を撫で続けたのだった。
小話
「そう言えば、医務室は何処だろう?」
ふと気付いたら場所も良く分からない格納庫に取り残されてしまって居た。結局、パワードスーツを整備してる人に聞いて医務室に戻りました。
……
一日安静にした後にスピア達が迎えに来てくれた。ずっと寝てたきり状態だったから結構寂しい物があった。
「おーい!皆んなー!無事で良かったよ!」
「ご主人様!」
「シュウ!良かった、無事だったのね!」
「プキャー!!!」
クロが誰よりも早く俺に突っ込んで来る。だが、顔面にくっ付いて来るのは想定済みだ。先にクロを抱きしめる事により対処する。
「プキャキャキャー!」ズブズブズブ
「ちょっ!そのパターンは対処できムググ……」
しかし、クロは俺の身体を包み込む。側から見たらスライムに捕食されてる姿である。この後スピア達に何とか救助されました。
「取り敢えず皆無事で何よりだよ」
「ご主人様、かなり深傷を負っていますが大丈夫ですか?」
「そうよ。私達よりシュウの方がボロボロじゃない」
確かに。俺はスピアにPDAからヘルスチャージを出して貰う様に操作をお願いする。
「あの、反応が無いのですが」
「嘘!壊れちゃった!?」
PDAが無くなると多分冒険者を続けるのは困難だろう。だが、壊れた訳では無かった。如何やら俺以外の操作を受け付け無い仕様だった。結局右手のギプスをナイフで外す事で解決した。そして即ヘルスチャージを打ち込み元気百倍だ。
「所でサラさんは?あの時ぶん投げたから心配なんだよな」
「サラなら無事よ。ただ、ちょっと…ううん、かなり面倒な事に巻き込まれてるけど」
「面倒な事?それまた何で?」
スピアとローラから話を聞く。何でも勇者達の仲間として勧誘さるているらしい。本人は拒否してるが中々上手く行かないらしい。
「因みに今日の昼から戦勝パレードが有るわ。其処で勇者達の紹介と仲間を紹介するらしいの」
「この戦勝パレードには私達冒険者も強制参加の様です。重傷者は流石に無理ですが、それ以外は参加する様にとの事です」
「戦勝パレードに勇者達の紹介ねぇ」
更に勧誘した仲間も紹介するのか。中々面倒な事になってるな。
「俺も参加した方が良いのかな?」
「そうね。シュウの怪我はもう直ってるから参加した方が後が楽ね」
「聖エルガー教国のユーニスム教の熱心な信者は多数居ます。そんな中で参加せず別の所に居るのがバレると嫌がらせを受けます」
「具体的にどんな嫌がらせを?」
「ユーニスム教の勧誘の嵐です。それでノイローゼになった優秀な冒険者は多数居ますので」
地味に嫌な嫌がらせだな。しかし、勧誘を受けたら如何なるんだ?
「その場合は直ぐに勧誘が終わります。次に寄付金を要求して来る様になります」
「本当に面倒だな!でも仕方無いか。よし、参加しよう」
俺達は格納庫に向かう。あのウォールのお陰で勝てたと言っても過言では無いから。それに、激戦を生き残りましたとアピールにもなるしな。
この後、ウォールを最低限修理する。フレーム、関節部、開閉装置は修理した。
「それから、ご主人様の戦車は冒険者ギルドに待機してあります」
「そっか。なら先ずはM10ブラッドレーを回収してからだな」
俺達は巡洋艦マルゲータから降りる。その際色々セーファス王子から流し目を向けられたが全力で無視したのだった。
……
冒険者ギルドに向かいM10ブラッドレー歩兵戦車を回収する。その時丁度ベックとザニーに出会った。
「シュウ!無事だったんだな。良かったぜ」
「心配したんだぜ?気が付いたらお前だけ居なかったんだからな」
「悪いな。色々あったんだよ」
お互いの無事を喜びながら今後の話をする。
「まあ、俺達はパレードに参加したらラリア連邦に行くよ」
「今回の参加報酬は結構な額になったからな」
「そうか。しかし、冒険者ギルド……随分と静かになっちまったな」
ふと周りを見渡すと落ち込んでる連中や呆然としてる奴も居た。
「そりゃあそうだろう。今回の戦いで結構な戦死者が出たからな」
「もう少し戦力を融通してくれれば良かったのにな。正直、聖エルガー教国のやり方に不満を抱いてる奴は結構居るぜ」
「逆にレイスガーディアンズに入りたい連中やアーカード帝国に行く連中は増えたみたいだが」
成る程な。勇者を優先した結果がこれか。
「まあ、戦勝パレードの後は中央の城でパーティが有るんだぜ?豪華な料理に綺麗なねーちゃん!」
「シスターとの恋も有るかもだぜ!」
二人共相変わらずの助平野郎で安心したよ。
「でも、この国のシスターとか綺麗なねーちゃんを捕まえたら永住確定だな。然も高級奴隷もお預けだな。きっとお前らが一生懸命貯めたお金は教会の寄付金に成るんだろうな」
そんな二人に有り得そうな現実をプレゼントする。すると直ぐに真顔になる。
「俺、飯食ったら直ぐにラリア連邦に行くわ」
「俺もだ。高級奴隷ちゃんが俺を待ってるし」
「それが安牌だな」
二人共話してると回復魔法を駆使し続けたメイさんにも会う。
「こんにちわコートニーさん」
「メイさん、無事だったんですね。良かった」
「ええ、仲間達も全員生きてたから本当に運が良かったわ」
この後メイさんのパーティメンバー共話をする。やはりこの人達もやる事やったらサッサと出て行くそうだ。
「もう航空艦のチケットも取れたからね。この国は、今は悲しみを背負ってる人達が多過ぎるもの。私達も含めてね」
メイさんは周りを見渡しながら言う。もしかしたらメイさん達も仲の良い冒険者を失ったのだろう。
そして、時間は戦勝パレードが始まる時間になる。俺達は正規軍の歩兵部隊の後からついて行く。その後ろには戦車部隊が待機している。
「サラさん居ないな」
「多分選抜メンバーに入れられてるわ。最後に民衆の前で仲間になるか聞くもの。私もこの後に行くんだけどね」
「民衆の前で?うわー、拒否し辛いな。あれだろ?断るとKYな奴だなとか言われるんだろ?」
ローラがKYて何?と聞かれたから教える。そして納得してくれた。
そうこうしてる内に俺達の番になる。
「全員!進め!」
如何やらギルドマスターが先導するみたいだ。因みにレイスさん達はレイス艦や仲間に被害が出た為、参加を見送った。本来ならダメだと言われるんだろうが、左翼側の防衛戦維持の功労者に無理を言うと色々厄介になるので止めたとか。
「しかし、何か変な感じだな。俺達に祈ってる訳でもないからな」
確かに此方を見て歓声を上げてる民衆は多い。だが、そんな中でも空に向かって祈りを捧げる人達が居るのは変な感じだ。
「仕方有りません。彼等は神に祈る事が正しい事だと思っています。どれだけ私達が動こうとも神の意志と言われます」
「成る程ね。最早切っても切れない縁みたいだな」
まあ宗教国家だしな。仕方無いか。
「それより、そのパワードスーツ大丈夫なの?色々壊れてるけど」
「大丈夫だよ。最低限動く様にしてるから。それに、こんだけボロボロになるまで戦いましたとアピール出来るし」
目に見える形にしないと理解してくれないだろうしな。しかし、スピアとローラは相変わらず注目が集まるな。
「ローラ様!素敵です!」
「教官ー!俺は今でも貴女が好きでーす!」
「そこのラビット族の人も綺麗ー!」
と言った感じで男女共に注目を集めてる。
「うわー!カッコいい鎧だ!お父さん!僕アレ欲しい!」
「俺、将来タンク職になるよ!」
「あっ!手振って来た!」
と言った感じで子供達、特に男の子に人気でした。別に良いんだよ?子供達からの声援や羨望の眼差しも悪く無いし。序でに奥様方からの羨望の眼差しも欲しいんだけどな。お父さんのキラキラした眼差しは要らないです。
「その鎧幾らで売ってくれますか!」
売らないよ!大人気ない事言うな!
戦勝パレードも順調に進み、俺達冒険者は広場で待機する。その間にも正規軍は整列して行く。そして、広場の台の上に数人が現れる。
「あれは聖教祖ですね。この国の代表の方です」
「ほお、確かに服装は立派だし雰囲気が違うな」
そして民衆は段々静かになる。しかし何も言わずに静かにさせるとは、学校の先生が見たら羨ましがるだろうな。
『諸君、先ずはこの首都アルクの防衛に全力を尽くしてくれて感謝する。君達の奮戦が無ければ間違いなくアルクは荒れ果てた土地になっていただろう』
声が拡張されて聞こえる。如何やら魔法を使ってるみたいだな。
『そして、この戦いで多数の勇敢なる者達が散って行った。だが、我々は彼等の死に報いねばならん!』
『彼等の死は魔族が関わっていた。だが、その魔族も最早居ない。それも一重に勇者の存在が有ったからに他なら無い!!!』
ワアアアアアアアアアアアッッッ!?!?!?
民衆や正規軍から歓声が上がる。一方、冒険者達はお互いの表情を見ながら軽く拍手する。
『本日、勇者たる者達を紹介しよう。若くして人類の命運を背負う5人の勇敢なる者達だ!!!』
歓声の中、台の上にやって来る勇者達。正に物語から出て来た様なイケメン、美少女が其処に居た。更に歓声が強くなるのと同時に冒険者達は悲しみの表情になる。中には涙を流す人も居る。
「きっと仲間を失ったんでしょうね。私でも此処に居たいとは思わないもの」
「そうだよな。仲間は勇者を守る為に戦ってた訳じゃ無いしな」
何方かと言うと使い捨ての盾にされたしな。
『そして、この首都アルクを守った功労者達を紹介しよう』
其処には多大な戦果を挙げた高ランクの冒険者達や正規軍の兵士が居た。その中にはサラさんも居た。
『彼等はこの首都アルクを守る為に全力を尽くした英雄達である!よって、彼等には勇者のサポートをして貰いたい!!!』
歓声が更に上がる。しかし、この中で断るのはかなり厳しいんじゃ無いか?今からサラさんの所に行く?仮に行ってどうするよ。俺が先にパーティを組むからとか言っちゃう?流石に不味いだろう。
『如何だろうか。君達の様な素晴らしい者達が勇者と共に戦って貰えれば心強いのだが…宜しいかな』
聖教祖が冒険者達に近付く。そんな中、サラさんが一歩前に出る。そして…。
『いえ、お断りします。私はこの後パーティを組む約束が有りますので』
歓声が一瞬で沈黙した。勿論俺達も沈黙する。そして、俺はサラさんと目が合う。
『シュウ君!無事だったのだな!今から其方に行くから待っててくれ!』
「ブフゥ!?ちょっと!て、うわぁ…民衆の視線がめっちゃ怖いんですけど!?」
ヤバイよヤバイよ!俺、この国から入国禁止が言い渡されるんじゃ無いか?いや、生きて出れるかな?しかし、聖教祖と勇者達の悪夢は続く。
『あの、私も夫と仲間達が居ますので。それでは』
『借金の返済が有るから無理。と言うか報酬少な過ぎて無理』
『自分もこの後アーカード帝国に行く予定なんで』
『恋人が亜人だから無理です』
『えっと、習い事あるんで』
次々と去って行く冒険者達。最後に一人だけ残った冒険者は。
『……皆行かないって言うんで』
頭を下げてサッサと去って行く。何という悲劇。いや、喜劇だな。ぶっちゃけ笑いそうです。
「ぷっ…くくく」
「ローラ、笑うなって…ぶふっ」
「な、何よ。シュウだって…くふ」
もう色々限界だった。周りの冒険者達も下を向いたり上を向いたりしてりし、拳を自分の口に入れて誤魔化そうとしてる奴もいる。一番多いのは顔を布や手で隠してる奴だ。但し、声は控えめだ。
「シュウ君!無事だったんだな!本当に心配したんだぞ!」
「サ、サラさん。色々言いたい事がフグッ」
俺はサラさんの豊かな胸に抱かれる。しまった!パワードスーツを装着するんじゃ無かった!だが、バイザーが割れてるからサラさんの香りは堪能出来る!
俺はサラさんに抱き締められてる事に関しては一切の抵抗はしませんでした。逆に抵抗したら失礼だろ?
結局、この後聖教祖が一生懸命演説を行い誤魔化した。そして、勇者達の紹介を行なって何とか場は盛り返したのだった。
……
勇者達の紹介の後、聖エルガー教国から感謝の意味を込めて勲章を渡された。この勲章はアルク防衛戦に参加した冒険者達全員に渡される。
「勲章か。セーファス王子からも貰ったけど良いのかな?」
二つ貰う事になっちゃったな。俺はサラさんを助けたい一心で戦ったからイマイチこの勲章の有り難みが良く分からない。
「どうやら、聖エルガー教国内でこの勲章を身に付ければ名誉を得る事が出来るのでしょう」
「そっか。まあ、貰った物は有難く貰っとくか」
勲章を貰った後は城の敷地内で料理が振舞われるとか。因みに待ってる間は屋台とか出店が出ていたので行く事にした。因みにパワードスーツは止めて戦闘服にしている。
「随分と明るい雰囲気だよな」
「恐らく無理矢理明るくしているかと。今回に戦いでの死傷者は民間人も含まれてますので」
そっか。そんな中で勇者達の発表があった訳だしな。色々縋りたいのかも知れんな。
「スピアの言う通りだな。空元気でも良いから死んだ者達を安心させる事が出来れば良いだろう」
サラさんは空を見上げながら言う。銀髪が風で軽く舞う。その髪を手で押さえる姿と先程の言葉が凄く様になっている。
「サラ、もう大丈夫なの?」
「ああ。ローラには色々心配掛けたな」
「本当よ。本当に…沢山、心配……したんだから」
ローラの目から涙が溢れ落ちる。そんなローラを抱き締めるサラさん。
「ローラ、ありがとう」
俺とスピアは静かに二人を見守る。この二人には家族よりも確かな絆が有るのを感じたのだから。
……
そして夕方近くになると、城の正門が開かれる。其処には様々な料理が並んでいた。どれもこれも美味そうな料理ばかりだ。
「あっ!ねえ、あの料理凄く美味しそうよ!」
何故かあのゲテモノ料理が有った。然も中央付近にあるから違和感抜群だよ。
「行ってらっしゃい。俺は普通の料理で大丈夫だよ」
暫くゲテモノ料理は嫌でござる。因みに、この料理を食べれる人達はアルク防衛戦で戦った者達全員が参加可能だ。流石に一般人は無理らしい。料理を食べるが、やはり冒険者や兵士達のテンションはちょっと低い。仲間や同僚を失ったのだから仕方無い事だろう。
「やあ、コートニー君。君も参加するとはね。身体は大丈夫なのかい?」
「げっ、セーファス王子とエルマさん。身体は大丈夫です。だから触ろうとしないで下さい!」
「いやいや、これは下心は無い触診だよ?嘘じゃ無いさ。皆これには大喜びだし。ね?エルマ」
「さあ?私は純粋な乙女ですから分かりません」
何の話してるんだよこの残念王子は。そして乙女かも知れんが純粋では無いからな。
「それで、彼女達が君の仲間なのかい?」
「そうです。皆頼もしい仲間達です」
「ほう、ふむ…流石に略奪愛は趣味では無いからね。どうだい、皆でやらないか?」キリッ
この野郎。本当に自重しないフリーダムな奴だよ!こんなのが王子で大丈夫か?アーカード帝国の未来が心配だよ。
流石にセーファス王子の言葉には皆苦笑いで答える。
「さて、私はそろそろ別の所に行くよ。パーティを楽しんで行くと良いさ」
「それでは失礼します」
セーファス王子とエルマさんは歩いて行く。多分挨拶回りをしてるんだろうな。
「シュウ君、料理を持って来たよ」
「あ、ありがとうございます」
サラさんが料理を持って来てくれた。だが、俺のスプーンとフォークが無い。
「あの、これじゃあ食べれ無いんですけど」
「ん?安心しろ。ほら、あーん♪」
突然の展開に思考が止まる。だが、考える必要は無い。煩悩に従うんだ!
「い、頂きます」
「どうだ?美味いか?」
ウンウンと頷く。美女に御飯を食べさせて貰えるだけでどんな料理も美味く感じるよ!
「シュウ!私のも分けてあげる!はい、あーん♪」
「普通の料理をチョイスして欲しいな!」
それでも食べます。例え辛くても我慢しますとも!
「ご主人様、お水です。さあ、どうぞ」
「ありがとうスピア。本当に助かるよ。本当にな」
スピアからも水を飲ませて貰う。まるで何処ぞの石油王の気分だぜ。
「シュウの奴〜〜クソ羨ましい!」ガツガツガツガツ
「俺もハーレム欲しいよ〜〜!」モグモグモグモグ
ベックとザニーが羨ましそうに見てるが気にしない。そんな風にイチャついていたら豪華な祭服を着た一団と勇者達が現れた。
「これはサラ・ブロードハットさんですね。それにAランク冒険者のローラ・ブルフォートさんにサイレントラビットのスピアさん。そして、その主人のシュウ・コートニーさんですね」
「貴方は一体?」
「これは失礼。私はユーニスム教の神父ユアハースと言います。まあ、立場上序列は五位ですがね」
序列五位か。結構な立場の人が来たな。
「それで一体何の様かな?何度も言ってるが私は仲間にはなら無い」
「ええ、存じております。ですから、ローラ・ブルフォートさん。貴女の強力な精霊魔法は勇者達にとっても勉強になります。どうかご教授願いたいのですが」
サラさんが無理ならローラに頼ると?別に勇者なんだから自然と仲間なら集まりそうだけどな。
「嫌よ。私はシュウ達とパーティ組んでるもの。他を当たって頂戴」
ローラはまるで興味無しと言った具合だ。
「でしたらサイレントラビットの貴女に」
「お断りします。私の髪の先から指の先まで、全てご主人様の物ですので」
スピアもバッサリ斬り捨てる。
「仕方有りませんね。無魔である貴方は……まあ、良いでしょう。貴方の持つ古代兵器で勇者達をサポートしなさい」
「嫌です。て言うか、人に頼む態度じゃ無いし!三人よりめっちゃ雑だし!スピア〜、このおっさんが虐めるよ〜」
「まあ、大変です。さあ、私の胸の中に」
両手を広げてウェルカムになるスピア。これを待ってました!
「ふむ。シュウ君、私も慰めて上げよう」
「私も!もう大丈夫だからね」
こ、これは!六つのマシュマロに囲まれてる!た、堪りません!?
「シュウ〜〜変わって下さい!と言うかその豪運を少し分けて下さ……いや、探索地で存分に分けて貰ったな」
「そうだよなぁ。シュウのお陰で高級奴隷を買う目処も着いたし」
何故か悟り始めるベックとザニー。結局この後おっさんが何かを言ってたが無視する事になった。正確に言うならマシュマロを堪能するのに、それどころじゃ無かったです。
「此処は僕達に任せて下さい」
「そうですね。勇者である貴方達が直接話した方が確実でしょうから」
五人の勇者達が前に出る。一人目は爽やかなイケメン。二人目は野生的なイケメン。三人目は童顔なイケメン。四人目は和風な美少女。五人目はほんわかした美少女だ。
なんだ此奴ら、何処かのアイドルグループかプロ俳優ですと言われたら信じる位のレベルだぞ。そう思いスピア、ローラ、サラさんを見る。こっちの方が更に上でした。
「初めまして。僕は今代の勇者クレイグだ」
取り敢えず皆でどうもと頭を下げる。
「今の情勢はとても危険なんだ。今回の魔族の件もあるから非常事態と言っても過言では無いんだ。だから君達の力を僕達に貸して欲しいんだ」
「ああ、お前達の力は他より群を抜いてるぜ。俺達と一緒に世界を救う救世主になろうぜ」
「そうです!僕達は正義なんです!だから魔王を倒して平和な世界を作りましょう!」
男性陣からの熱烈なアプローチを受ける。しかし、正義ねぇ。
「それに今でも魔族の存在に苦しんでる人達が大勢居るわ。その人達を救わないといけません」
「そうですわ。一緒魔王を倒し、魔族を滅ぼしましょう!」
苦しんでる人達?魔族を滅ぼす?無理だろ。魔族を滅ぼすとか夢物語過ぎて話にならんな。
「あー、御高説有難うございます。では、自分達はこの辺りで」
「待つんだ。今は重要な事なんだ。君達の個人の我儘が罷り通るとは思わないでくれ」
「何?個人の我儘だと?」
俺達の行動が個人の我儘と言われては黙っていられない。俺達は左翼側の防衛戦で必死こいて戦ったんだ。兵力の貸し出しも殆どしなかった癖に。我儘なのは聖エルガー教国の方だ。
「そうだ。君は古代兵器使いだそうだね。なら、その力を魔族に対して使うべきだ。人類を救う為に必要な力だ」
随分と都合の良い事しか見えてないじゃ無いか、この勇者様は。銃が人類を救う?笑わせる。
「一つだけ教えておきますよ。銃は人を効率良く殺す為に作られた兵器だ。決して人類を救う為の物では無い」
その言葉を聞いて驚きの表情をする勇者達と親父達。
「別に驚く事じゃ無いだろ?拳から棍棒、棍棒から剣、剣から槍、槍から弓矢。そして小銃か魔法の何方かになるだけさ。魔法だって人を効率良く殺す為に日々研究してるだろ?」
「そんな事は無い!魔法は魔族を滅ぼす為に研究されてる!それに魔法を学ぶ事で様々な恩恵が有る!」
「だが現実は火力の高い魔法は軍では採用されてる。その他の恩恵だって軍からのお下がりか劣化版だろ」
創作と破壊。この二つは切っても切れない縁な訳だしな。仕方無いだろうけど。
「それにさ正義とかを振り被るならさ、足元の問題を解決したら?」
「足元の問題?僕達勇者が居る所にそんな物は無い」
本気で言ってるんなら何言っても無駄な気がするな。と言うか救い様が無いか。
「ならさ、聖エルガー教国で公然と行われてる獣人や亜人に対しての差別問題を何故解決しなかった。お陰でアルク防衛戦の時に獣人や亜人の冒険者達が居なくなったんだぞ。これはお前達の慢性的な怠慢による結果だ!そして、その皺寄せが今日この地で散って行った者達だ!」
このまま此奴らに好き勝手言わせたら、戦死した冒険者達の死が本当に無駄になる。だが、流石にこの言葉を聞いた神父達が前に出ようとする。しかし勇者達がそれを抑える。
「確かに、その問題は有ったのは知っていた。だが、それが全ての原因では無い筈だ」
「一つの大きな要因にはなってる。それに、腐敗した政治はどうやって処理するつもりだ?どうせ寄付金をポケットに入れてる連中なんて沢山居るだろ。ほら、勇者様方のすぐ後ろに居ますよ。そんなんで一致団結しようだなんて無茶言うなよ」
「馬鹿な事を言うで無い。我々は常に正しい行いをしている」
「その内容と帳簿を合わせてみろよ。それに不透明な内容なんだから疑われるのは百も承知の筈だ。個人の我儘とか言ったな。なら、あんた達の我儘を先ずは直せよ。話は其処からだ」
お互い本気で睨み合う。
「まあ、貴方達が不正をやってる証拠は無い。だが、疑われてしまう政治をしているのは貴方達自身だ。なら存分に疑われてしまうといい。その結果が今のこの状況だよ。残念だったな。俺が無知な奴じゃ無くてさ」
暗に無知なら奴なら使えるよと教えてやる。もっとも、それを認める連中じゃ無いだろけど。
「今までの発言を全て取り消して貰おう」
「剣の柄を握りながら言うなよ。悔しかったら言葉で言い返せよ。ああ、言葉で言い返せないぐらい図星過ぎたか。悪いな正しい事言ってな」
勇者クレイグが柄を握る。俺もレベッタM92を握る。更に勇者の仲間達も構える。そしてスピア達も武器を握る。場が一瞬で緊迫状態になる。その時だった。
「ほらほら、物騒な会話はし無いの。勇者様方は振られたんだから潔く諦めなさい。代わりに、僕がベッドの中で一晩中相手をするからさ。今夜は寝かさ無いぜ?」
野生的な勇者の尻を撫でながら至近距離で臭い台詞を吐く。あちゃー、ヤバイ奴が来ちゃったよ。
「こ、これはセーファス王子。あの、距離が近いから離れてくれ!そして尻を撫でないで下さい!」
「僕はね、君の様な反抗的な男は大好物だよ!」
「俺も彼処まで欲望全開じゃ無いな」
セーファス王子、自重と言う言葉を学んだ方が良いよ。
「でも、シュウも私達や街の薄着姿の女性を見るとあんな感じよ?」
「なん……だと……?」
バレてた……だと?馬鹿な!フルフェイスのマスクやゴーグルとマウスガード付けてるからバレて無いと思ってたのに!?
「シュウ君が私達をあんな風に自重せず見るのは構わないが街中ではやめた方が良いぞ?」
「ご主人様、スピアは貴方の味方ですから。どうか気をしっかり」
「……ごめんなさい」
優しい言葉が痛いです。これからは自重します。でもチラ見ぐらいは良いですか?
この後セーファス王子のお陰で場の雰囲気は戻り、勇者達は別の場所に向かう。
「さて、さっき振だね。まさか君が勇者に喧嘩を売るとはね。少々想定外だったよ」
「まあ思う所が有ったので」
正義。この言葉は歴史を開けば良く聞かれる言葉だ。正義の為に戦う。正義の為に復讐する。正義とは一体何なのか。その意味を分からず使う勇者達に少し腹が立った訳だ。まあ、大半は皺寄せの仕返しだけどね。
「やれやれ、これは一つ貸しにしておくよ。本当ならこの貸しをチラつかせてお触りをしたい所だが、後ろに居る素敵な女性達を悲しませる事は本意では無いさ」
それでは。と一言言い残して去っていくセーファス王子と付き従うエルマさん。セーファス王子には色々借りが出来てしまったな。だが、身体では返さないからな!
この後居心地が悪くなってしまったので、宿に帰る事にした。スピア達も此処に残るつもりは無いらしく一緒に来るらしい。しかし、帰路の途中で集合墓地の近くに大きな石碑を見つけた。然も名前の部分がボンヤリと光ってる。
「あの石碑は何だ?」
「あれはアルク防衛戦で戦死した者達の名前が刻まれております」
成る程な。死体が残らなかった者達や、身寄りが無い者達の慰霊も兼ねてるのか。俺は石碑にゆっくりと近付く。そして、石碑に触れて思う。彼らの死は、間違い無くこの国を救った。それは、誰にも変えられない事実だ。
「死後の世界に金は持っては行けない。だが、名誉ぐらいは持って行けるだろ?」
俺は聖エルガー教国から貰った勲章を外して、石碑の所に置く。流石にセーファス王子から貰った勲章は駄目だな。持ち逃げされたら色々危険だろうしな。
「せめて名誉が価値ある場所だと良いんだがな。俺が出来るのは、これぐらいだから」
聖歌を歌う事は出来無いし、念仏も唱えれ無い。少し感傷に浸ってるとスピア、ローラ、サラさんも勲章を置く。
「本来なら彼等も受け取る筈の勲章だ。なら、私達が渡しても問題あるまい」
「そうよ。それに、私達は生きてる。それだけで充分よ」
「彼等も安らかに眠れる為に祈りましょう」
各々が自分達の信仰する祈りのポーズを取る。俺は両手を合わせる。すると、クロも皿ごと肉料理をお供えするでは有りませんか!
「クロ、良いのか?その料理、後で俺に内緒でこっそり食べる分だろ。なのに」
「…プ、プッキャ!」
どうやら我慢する様だ。暫く石碑の前に居ると、後ろから足音が聞こえる。
「メイさん?それに、他の方々も。向こうでの御飯は良いんですか?」
「はい。丁度私達も此方に来たかったので…あら?」
メイさんと仲間達は石碑に置かれてる勲章を見つめる。
「まあ、俺達にはこれぐらいしか出来ませんから」
「そうですか。それでも、何もしないより良いですね」
すると石碑の近くに行き勲章を置いて行く。その後暫く話していると他の冒険者達もやって来る。そして石碑の方に向かって行くのだ。
「なんか、結構な人数が集まったな。そうだ、此処で何か食べません?」
「あ!それは良いかも知れませんね。折角皆さんが自然と集まって来れたんですから」
そして丁度ベックとザニーが来たので金貨五枚を渡してパシらせる。最初は渋ったが、お釣りは上げると言ったら喜んで行ってくれた。子供かお前ら。
それから結構な人数が集まり盛り上がる。高級料理は無く屋台とかに出ている物ばかりだが、こっちの方が気楽だ。
「シュウ君、改めて礼を言うよ。仇を打たせてくれてありがとう」
「偶々ですよ。サラさんが居なかったら危なかったから」
「私が無茶をしなければ問題無かっただろう?」
「さあ?分かりません」
お互い顔を見合わせて笑う。魔族と魔物の襲撃の傷痕は様々な所に出ている。建物や城壁、そして人々の心に。だが、それでも立ち上がらなければ成らない。泣いても構わないし、助けを求めても構わない。それで立ち上がって生きる必要がある。それが生き残った俺達の義務だ。
ゆっくりと過ぎて行く時間の中、満天の月と星空が俺達を静かに見つめていたのだった。




