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第27飛行隊ティグリス小隊との連絡が途切れた。これによって他部隊の飛行隊が確認しに行くと、魔物の大群と高魔力の魔雲を確認した。それを聞いた聖エルガー教国の軍、政治、宗教の上層部は話し合いを行なっていた。
「では、勇者達の出番は首都アルク防衛時に出ると?」
「その通りです。本土防衛航空艦隊には魔物の間引きをして貰いたい。そして魔物の数が減って首都アルクに到着した時に陸軍と共同して魔物を叩きます」
地図上を指し棒で示して行く。魔物の大群は予想戦力は3万規模だと推定。但し、魔雲が広範囲に展開している為詳細不明な点が多い。
「勇者達は使えんのかね?」
「大規模戦闘で使うのはまだ早いかと。出来る事なら…」
「ふん、間引き後の魔物群ならやり易いか。仕方無い。我々本土防衛航空艦隊が先陣を切ろう」
本土防衛航空艦隊の司令官は現状の勇者達の戦力を切り捨てる。それに魔物に対しての砲撃は非常に効果が高いのだ。
この後は冒険者ギルドにも大規模な魔物討伐の依頼を通達する事を決定。また現在滞在中の他国の重鎮、重役や貴族達の安全も確保する為に連絡を決定した。但し、民衆には避難警報を出さず現状維持になった。この決定の裏には勇者の存在があった。勇者が側に居るのに避難をするとなれば、勇者の存在価値の低下を恐れたのだ。
皮肉にも勇者の存在が民衆を危機に陥らせる形になるとは、勇者達自身は考えてもいなかったのであった。
……
side シュウ・コートニー
攫われた人達を教会に運んだ後に冒険者ギルドに向かった。ゴブリン・ロードの話をする為だ。
「ですから、何か別の勢力が動いてるんです。証拠は無いけど」
「証拠が無いと、此方としても対応出来かねますので」
冒険者ギルドの受付嬢にゴブリン討伐の報告をする。そして、その時に現れたゴブリン・ロードの話をするが肝心の討伐した証拠が無いのだ。
「そうだよなぁ。それでも何か出来ません?例えば警戒通知を出すとか」
「警戒通知ですか…」
「私からもお願いするわ。警告と言わなくても警戒通知だけでもして欲しいの。間違い無く危険が迫ってるわ」
ローラも真面目顔で言ってくれる。正直ローラの真面目顔はかなり綺麗です。
「分かりました。Aランクのローラさんも言うのであれば。早速警戒通知だけでも出しますね」
信頼と安心の実績と実力のあるローラが援護してくれたので冒険者ギルドから警戒通知が出される事になった。だが、この警戒通知は直ぐに意味を成さなくなってしまうが。
ゴブリン討伐の依頼を完了したので御飯を食べに行く事にする。その間にも魔物の大群は着実に迫って来ていた。
……
翌朝、首都アルクで突然サイレンが鳴り響く。
「んん?アラームセットなんて頼んで無いよ〜」
まだ眠たいので布団の中に潜り込む。だが、スピアが来てそれは叶わぬ夢となる。
「ご主人様。戦闘準備をして下さい。恐らくゴブリン・ロードの件についての事かと」
「ゴブリン・ロード……分かった。直ぐに着替えて準備するよ。ローラは起きてる?」
「今から起こして来ます。それでは」
俺はPDAを操作して着替える。ヘルメット、ゴーグル、マウスガードに戦闘服を着る。銃は安心のM240G機関銃、サイガ12、ベレッタM92。サバイバルナイフと手榴弾三個装備して準備完了だ。
「さてと、一体何が起こってるんだ?」
サイレンは未だ鳴り止む気配は無い。そんな中ふと思う。魔物の異常集団行動、勇者発表日、そしてサラさんの過去。全てが偶然なのだろう。だが、様々な思いが交錯するのでは無いだろうか。人々は不安そうな表情をするが特に何かをする訳では無い。冒険者や兵士達は駆け足気味になっている。
「ご主人様、準備が整いました」
「シュウお待たせ。早速ギルドに向かうわよ。やっぱりゴブリン・ロードに関係があるのかしら?」
「分からん。だが無関係とは言い切れんな。兎に角ギルドに行くしか無いだろう」
俺達も駆け足で冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドに着くと次々と冒険者達が中に入って行く。俺達も冒険者ギルドに入って行く。中はかなり騒ついていた。未だにサイレンが鳴り止んで無いのも有るだろう。そんな中、聖エルガー教国の兵士数人と美人の女性が現れる。
「あの方はギルドマスターです」
「ほほう。まあ、俺にはスピアとローラが居るから興味無いけどね」
するとギルドマスターは声を張り上げる。
「冒険者諸君!朝から騒がしくして申し訳無い。だが、たった今冒険者ギルドは聖エルガー教国から緊急依頼を受けた!」
ギルド内がザワザワと騒がしくなる。そんな中聖エルガー教国の文官らしき人物が一人が出て来る。
「冒険者の皆さん、おはようございます。さて、今回は簡単な依頼です。現在魔物の大群がこの美しい首都アルクに迫っています。その魔物から首都アルクを守って頂きます」
文官は冒険者達を見ながら更に話を続ける。
「勿論我々聖エルガー教国の軍勢も何もしない訳では有りません。この後直ぐに本土防衛航空艦隊が出撃して魔物を間引きします。つまり、アルクに来る時には数は激減してます。そんな魔物を討伐して頂きたいのです。我々聖エルガー教国の軍も勿論参加します。報酬も防衛戦に参加するだけで金貨10枚、更に魔物を討伐した分だけ支払いますよ。また高い功績を挙げた者には士官候補も検討させて頂きます」
魔物が間引きされる。更に防衛戦に参加するだけで金貨10枚。そして極め付けは士官候補だ。これだけの好条件に冒険者達は目の色を変える。
「よっしゃあ!俺達は参加するぜ!」
「俺達もだ!一発デカイのを当ててやろうぜ!」
「良いな。金貨10枚なら新しい武器の新調出来るしな」
盛り上がりを見せる冒険者達。だが、そんな中こんな声が聞こえた。
「俺達は不参加だ。行くぞ」
それは獣人と言われるグループだ。他にも亜人なども冒険者ギルドから出て行く。
「おや?宜しいのですか?ペナルティーが発生しますが?」
「ふん、安心しろよ。この国には二度と近寄ら無いからな。それに、お前らを守るぐらいならペナルティーを受けた方が百倍マシだ」
そう言って1/4ぐらいの冒険者が出て行く。此処に来て聖エルガー教国の風習が仇となる。更に…。
「私達も遠慮するわ。メンバーの数人が酷い目に遭ったし」
まさか旅団クラスの所まで去って行く。旅団は様々な種族が所属する場所が多い。そのメンバーが酷い目に遭ったと言うなら、この国の人達を守りたいとは思わ無いのも納得だ。
「あ、サラさん」
冒険者達が減った事でサラさんを見つける事が出来た。如何やらサラさんは残るみたいだ。俺はスピアとローラを見る。二人共頷くだけだった。如何やら俺の判断に任せる様だ。
「俺達は参加しよう。確かに色々嫌な目に遭った。けど、良い人達も居る訳だ。それに、このままサラさんを置いていけ無い。何てったってローラの幼馴染だもんな」
「シュウ。うん、ありがとう!」
結局冒険者達は1/3が出て行った形になった。正に身から出た錆び。自業自得。最早同情する気にもならんな。だが、残って戦う者達に取っては良い迷惑だが。
「さて、それでは勇敢な冒険者諸君!貴方達の武運を祈ります」
そう行って文官と兵士達は去ろうとする。だが、今帰らせる訳には行かない。
「質問宜しいですか?」
「ん?ああ、別に構わんぞ」
「敵の到着時間、戦力はどの位ですか?又軍の戦力貸し出し、支援砲撃、航空支援など出来てるのですか?詳細も無く防衛戦を行うとなれば流石に自分達も撤収します」
ギルドマスターに聞く形になってるが、文官に聞こえる様に言う。だが、文官と兵士達は足早に去ろうとする。
「おい、空気読めや!お前らに聞いてるんだよ!」
「ッ!…その辺りはまだ調整中でして。勿論此れから決めて行く予定です」
「なら今直ぐ決めろ。美味い話程怪しい物は無いからな。それともアレか?俺達を使い潰した後に勇者を出そうってか?」
当てずっぽうで言ったこの言葉。文官は分かりやすくビクッ!となる。それを見た冒険者達は険しい表情になる。
「何か怪しいな。おい!ちゃんと説明しろよ!」
「そうよ!私達は命張ってんのよ!あんた達は後ろで能天気にサボるつもり!」
「せめて魔物の数と構成ぐらい言えよ!まさか分からない訳が無いだろ!」
文官にジリジリと寄る冒険者達。だが、ギルドマスターが大きな声を出す。
「現在情報は収集中だ!支援砲撃と航空支援は有るだろう。だが、戦力貸し出しに関しては諦めろ。恐らく勇者護衛の為難しいだろう」
ギルドマスターの言葉に不安そうな声を出す冒険者達。俺はPDAを操作して戦車ロトをチェックする。
(最悪戦車は自前のを使うしか無いな。けど弾が少ないんだよな…ん?あれ?)
ロトの状態をPDAで確認すると主砲部分が使えないと出る。修理しようとするが部品不足と出てしまう。アンダーグランドで亀型の化け物と戦った時の影響が出てしまう。
(えぇ…ロト出せないの?なら、此奴でやるか)
M10ブラッドレー歩兵戦車なら大丈夫だ。だが、弾薬が足りない。多数手に入れたが直ぐに撃ち尽くしてしまうだろう。
「ギルドマスター、戦力貸し出しが無いなら代わりの物が欲しいんですけど」
「……言ってみろ」
「30㎜弾と12.7㎜弾。後は7.62㎜弾が有れば防衛戦は出来ます」
「古代兵器の弾薬か。少し待て」
ギルドマスターは文官の元に行き話をする。すると意外にも直ぐに話が付いた。
「多少の弾薬なら融通出来るそうだ。弾の安い古代兵器で良かったな」
この後、俺達は自分達の持ち場の確認をする。如何やら左端の方の防衛を行う様だ。そして俺達が防衛する場所まで行く。
「やれやれ、君も豪胆な所が有るね」
「ん?あ、レイスさん。お久しぶりです。レイスガーディアンズも参加するんですか?」
「勿論だ。それに、支援砲撃は一つでも多い方が良いだろう?ただ、航空艦を動かす訳だから地上に出せる戦力は二十人が限界だ」
航空艦を持つ旅団はレイスガーディアンズのみだ。だが、それでも有難い事に変わりは無い。
俺達は防衛戦となる場所に来る。其処で柵などを作ったりする。俺は塹壕を作る為に地面を掘る。
そんな中、聖エルガー教国の本土防衛航空艦隊が出て行く。聞いた話によると本土防衛航空艦隊の全てを間引きに使うらしい。本来なら国境付近の航空艦も呼び戻したいのだろうが難しいだろう。
「航空艦隊か。迫力はあるけど……何か旧式なのが多そうだな」
砲塔が妙に丸いし、砲身も短い。更に見た目は立派だが、余り速くは無さそうだ。勿論最新鋭と言える航空艦も有るが少ない様だ。
見た限りでは戦艦3、巡洋艦8、駆逐艦15だ。聖エルガー教国の持つ航空艦の約半分を戦線に投入していた。
「おお、結構本気だな。正直あんまり期待して無かったんだよな」
悠然と飛行して行く航空艦隊は、正に空の王者の風格抜群だ。
「旧式艦が多いが、その分安定した戦力だろう。それに、砲塔の数も多いから間引きには持って来いだろう」
「成る程。なら俺達もやる事やりますか」
俺達は他の冒険者達と共に防衛線を構築する。この後魔物が到着するまで約6時間後だと通達が来た。思ったより早い時間で少々吃驚した。そして、敵の規模は推定3万以上。だが魔物周辺に濃い魔雲が発生しており、正確な魔物の構成は不明だ。
勿論悪い事ばかりでは無い。弾薬が届いたのだ。30㎜弾、12.7㎜弾、7.62㎜弾は大量に来たし、他の弾薬も届いていた。更に魔石や弓矢等も大量に届いたのだ。これには他の冒険者達も大喜びだ。30㎜弾は全てHE弾だったが、魔物相手なら充分だろう。また、他の冒険者は30㎜弾は使わない様なので全て回収する。12.7㎜弾からの弾薬に関しては使う冒険者達と分けて行く。ただ、銃の状態が良い俺達が多めに貰う事になる。
「さて、M10ブラッドレー歩兵戦車でも出しとくか」
適当な物陰に隠れてから出す。そして、クロと一緒に中に入る。
「操縦方法はロトと殆ど変わらないからな」
「プキュ…」
クロの元気が無い。如何やら昨日の晩飯抜きが響いてる様だ。
「ほら、元気出せって。この戦いが終わったらご馳走だぞ?」
「プキャ!プキャ!」
ご馳走と聞いて直ぐに元気になる。可愛い奴め。クロに指示を出してM10ブラッドレーを走らせる。そして防衛線付近に停める。
「スピアは中に入ってM2ブローニングを使ってくれ。ローラは上に乗ってM240G機関銃を頼む。序でに障壁も展開して防御してくれ」
「畏まりました」
「分かったわ。私がしっかり守ってあげるわ」
更にM10ブラッドレー歩兵戦車の兵員室の中にポーションも入れておく。怪我人を救助する時に役に立つだろうしな。そしてパワードスーツのウォールを出して装着する。但し待機モードに切り替えて節電したながら車内で待つ。多少注目を浴びたが、着々と準備に入る。俺達の戦いが間も無く始まろうとしていた。




