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デートを終えて三日程過ぎた。聖エルガー教国から勇者発表まで二日を切る。それに伴い周辺の魔物討伐の依頼が多数来る筈なのだが…。


「物の見事に偵察依頼とゴブリン討伐しか無いな」


「その様ですね。恐らく魔物達は何処かに集められてるのでしょう」


「だとしても、何処に集まってるのが未だに不明なのもは不自然よね」


聖エルガー教国に来た時の魔物の異常集団。多種多様な魔物が一団となって何処かに向かっていた。それが何を意味するのか。


「嫌な予感しかしないんですけど」


「大丈夫よ。今のこの国の戦力は結構な物よ?多数の冒険者達や旅団、更に親善使節として来た各国の航空艦も有るんですもの」


ローラの言う通りラリア連邦、アーカード帝国、サムラ共和国、マリネス公国から一隻ずつ巡洋艦の使節団が来ている。更に航空艦持ちの旅団や普通の旅団も来ていたりと、かなりの戦力が集まっていた。


「しっかし、他の依頼が無いのも考えものだな」


結局少し遠目のゴブリン討伐依頼を受ける事にした。すると丁度サラさんと出会した。


「あ、サラさん」


「おや?シュウ君にローラ、スピア、クロじゃ無いか」


久々にサラさんと出会った。相変わらずクール美人なダークエルフだ。


「サラは平気?この国だと色々やり難いでしょう?」


「ああ。だが問題無いさ。それでローラ達は依頼でも受けに来たのか?」


「勿論よ。少し遠目の場所に行くのよ」


「そうか。魔物の目撃情報は大分減っている。それに襲撃される事も殆ど無いそうだ」


それではと言い残し依頼を受けに行くサラさん。何と言うか近寄り難い雰囲気が出てるんだよな。その雰囲気を察してか他の冒険者達も遠目に見てる…いや、何時も遠目に見てるな。


「ご主人様、サラ様にはサラ様なりの理由が有ります」


「今はそっとして上げて。また前のサラに戻る筈だから。ただ、今の状況はあの時と酷似してるから」


「ああ、分かってる。それでも、見捨てたく無いと思うのは……」


俺の傲慢なのだろか。いや、何方かと言うと同情に近いかな。俺も全てを失ってる身だからな。唯、俺は直接家族や友達の死体や死に際を見た訳でも無いから実感がイマイチなだけだ。


「さて、ゴブリン討伐でも頑張りますか」


俺達はゴブリン討伐をする為に準備をするのだった。


……


ゴブリン。それは魔物として最も数が多いと言う点だ。更に村を襲い家畜や作物を奪い、女は攫い男は皆殺しにする連中だ。だが、個体としての能力は低く成人男性なら余裕で追い払える。

だが、ゴブリンの本質は個体では無い。集団戦と防衛戦、更に知恵を授ければ模倣出来る能力がある。つまり、舐めてかかる連中では無いと言う訳だ。


「彼処がゴブリンの巣か」


ゴブリンの巣は一度だけ入った事はある。尤も、その時はサラさんが一発の強力な魔法でほぼ壊滅状態にしてしまったが。今回は巣の中に侵入して皆殺しにする事だ。


「そうね。入り口には見張りが居るし、間違い無く上位の奴が居るわね」


「それにトーテムも有ります。間違い無いでしょう」


トーテムは此処は自分の縄張りだと主張する物らしい。特に人骨で作られる事が多く、俺達が襲うゴブリンの巣にも人骨が使われていた。つまり、何人もの人や冒険者が殺されてる訳だ。


「しっかし、此処のゴブリン達は何で移動してないんだろう?」


「ただ単純に従いたくなかったんじゃ無い?ほら、人間だって自分の物を勝手に使われたく無いでしょう?」


成る程な。つまり意地っ張りさんが居るんだね。尤も、意地っ張りな結果が襲撃される事になるんだから笑えないな。従い強力な力の加護に入り手先になるか、無視して自力で何とかするか。


「よし、なら早速行くぞ。ローラは見張りを狙撃。俺が前衛でスピアは遊撃、ローラは後衛でクロはローラの護衛だ」


俺達は最終チェックを済ませる。狭い場所に入る訳だから武器はサイガ12とUMPがメインだ。スピアもUMPとサバイバルナイフを装備。ローラはSR-25狙撃銃とベレッタM92。そしてクロは色々だ。だって渡した銃全部使ってるんだもん。

先ずはローラがSR-25狙撃銃でゴブリンを狙撃する。ローラの狙撃速度は速い。セミオートなのも有るが一瞬で六体のゴブリンを始末する。それと同時に俺達は前進する。


「ライト点灯。横穴と罠に注意」


俺達はゴブリンの巣穴に突入する。ゴブリンの巣は大きく作られてる。理由は捕らえた獲物を内部に入れる為だ。


「ご主人様。前方に複数の気配が有ります。それあら後方からも来ています」


「了解した。前方は任せてくれ」


ゴブリンの喚き声が多数聞こえる。そして姿を見せる。緑色の肌色、子供ぐらいのサイズで有りながら醜悪な顔をしている。そんな連中がナイフや棍棒を持ちながら此方に押し寄せて来る。


「来たぞ!撃ち殺せ!」


ドバァン!ドバァン!ドバァン!


「ゴブリンが私達に近寄れると思ってるの!」


「…………」


「プキャ!プキャ!」


様々な銃声が洞窟内に響く。その音に釣られてどんどんゴブリンは寄って来る。だが、此方の弾薬には余裕しか無いんだよな。

ゴブリンを引き寄せながら殲滅して行く。途中スピアが気配を探知して物陰に居るゴブリンを始末する。そして先に進むと広間に出る。


ヒュン ヒュン ヒュヒュン


「おっと!待ち伏せか。誰か閃光魔法で奴等の目を潰してくれ。と言うか使える?」


「私にお任せ下さい」


スピアはサイレントスキルを使い気配を消す。そして広間の中心辺りに行く。


『彼の者達の目を眩ませよ。フラッシュ』


一瞬にして洞窟内が明るくなる。ゴブリン共は目を抑えてのたうち回っていた。


「今だ。突撃」


俺はUMPに切り替えて撃ち殺す。因みにゴーグルは防弾とサングラスの役割も果たしてくれる。お陰で直ぐに視界を確保出来た。

ゴブリンの悲鳴と銃声、空薬莢の音がコーラスの様に広間に響いていたのだった。


……


「まだ居るわね」


「はい。奥に強力な気配を感じます」


「……ブキュ」


「確かに気配は感じるな」


どうやら三人は強力な気配を感じてる様だ。俺は気配ぐらいしか分からないが、雰囲気は結構ヤバげな感じだ。


ズシン ズシン ズシン ズシン


奥の方から鈍重な足音が近づいて来る。


『貴様ら、よくも我が可愛い下僕共を殺し尽くしてくれたな。楽に死ねると思うな!』


其処には巨大なゴブリンが居た。大きさは三メートル位は有るだろう。右手には巨大な斧を持っており、左手には盾を装備していた。。然も言葉を喋ってるじゃ無いか。


「ゴブリン・ロードですね。まさか、こんな近場に居るとは」


「魔物の異常集団と何か関係がありそうね」


『私の同胞を殺した報いは受けて貰うぞ。女共は孕み袋になって貰う。男は殺さず手足を潰して、女共が孕ませられる姿を見せてやろう!!!』


ゴブリン・ロードは叫びながら走って来る。しかし、俺に寝取られ趣味は無いんだよ!


「取り敢えず趣味が悪い奴だと理解したぜ!」


UMPで牽制する。その隙にローラは手をかざして呪文を唱える。


「食らいなさい!『ライトニングブラスター!!!』」


ローラの手から魔法陣が現れ一筋の閃光がゴブリン・ロードを襲う。


『ヌガアアアアア!!!効かんわ!!!』


「っ!防いだの!」


巨大な盾を構えるのと同時に障壁を出しローラの攻撃を防ぐ。あの攻撃を防ぐなんて。だが俺はその隙にサイガ12に切り替えて接近する。


「先ずは足から潰す!」


「プキャキャキャキャ!」


俺とクロはゴブリン・ロードの足を撃ちまくる。


『グギアアアアア!?猪口才な!!!貴様らから殺してくれるわ!!!』


斧を振り回しながら此方に来る。多少足にダメージは与えたが平気で動き回ってる。


「クソッ!此奴本当にゴブリンなのかよ!」


『我を下等なゴブリンとは違う!我はゴブリン・ロードなのだ!ゴブリンとは違うのだよ!ゴブリンとはな!?」


「てめえ!その台詞は選ばれし者だけが使って良い台詞だ!簡単に使うんじゃねえ!」


畜生!青い戦士を思い出したぜ。いやいや、今はそんな事を思い出してる状況じゃ無いし。


「なんて硬いの!シュウ!彼奴の硬さは普通じゃ無いわ!」


『我が下僕の半分を渡したのだ。然も強力な者達ばかりをな!コレぐらいの力を貰って当然だ!!!』


力を貰った?つまり黒幕が居るのか?


『我が強大な力の前に怯えるが良い!!!』


「そんなの知った事か!コレでも食らってろ!」


手榴弾を足元に投げ付ける。しかし、パワードスーツを装着する暇が無い。だが、M240G機関銃は出せた。


「此奴は俺の奢りだ!受け取りな!」


ドドドドドドドドドドドッ!!!ドドドドドドドドドドドッ!!!


流石に7.62㎜弾はキツイのか呻きながら斧と盾で防御姿勢を取り耐えてる。だが、防御は無意味だぜ。本命は俺じゃ無いからな。

弾が切れたら直ぐにリロードする。その隙にゴブリン・ロードは咆哮を上げる。


『人間!?貴様は必ず殺して「ご主人様に対する無礼は慎みなさい」っ!?!?』


いつの間にかスピアがゴブリン・ロードの肩に乗って居た。そしてモスバーグM500で散弾を両目ぶち込む。


『グガアアアア!?!?ぎざまら!?ゴロズううう!?!?』


「その台詞は聞き飽きたわ!受け取りなさい!『ライトニングブラスター!!!』」


再度ローラはライトニングブラスターを放つ。白い閃光は真っ直ぐにゴブリン・ロードの顔に直撃する。防ぐ事も出来ず直撃を受けたゴブリン・ロードは悲鳴を上げる事無く頭が爆ぜたのだった。


ドジイイイイイン!!!


流石にゴブリン・ロードと言え、頭が無くなれば動かないだろう。しかし、今回のMVPはスピアに決定だな。


「スピア、良くやったな。ゴブリン・ロードの目を潰すなんて最高だったよ」


「ありがとうございます。ですが、私はご主人様の奴隷として当然の事をしたまでです」


スピアは謙遜するがウサミミは嬉しそうに動いてるでは有りませんか。尻尾もピョコピョコと動いてるし可愛いじゃ無いか!


「いやいや、それでも中々出来る事じゃ無いからな。ローラも最後の締めは良かったぜ。ゴブリン・ロードの頭が吹っ飛んだのは見てて気持ち良かったぜ」


「当たり前よ!私はAランク冒険者よ!コレぐらいの余裕よ!」


ローラの耳もピコピコ動いてる。お前ら最高かよ!


「クロもご苦労様。一杯戦ったから疲れただろ?」


「プキュ!プキュ!」スリスリ


クロも俺に抱きついて来てスリスリして来る。この〜愛い奴め〜。


「さて、この先に行ってみるか」


ゴブリン・ロードの居た場所には間違い無く囚われた人達が居るだろう。ならば助ける必要が有る筈だ。


……


奥に行くと案の定囚われた人達が居た。誰もが穢された状態で酷い。


「ローラは回復魔法を。後はポーション使うぞ」


俺達は生きてる人達を介抱する。ただ、一人だけお腹が膨らんでる人が居た。それは突然起こった。女性が悲痛な叫びと痙攣を起こす。そして、そのまま破水が起きる。


「あっ!ああああ!!いやあああ!?!?」


悲痛な叫びが大きくなり、泣き声が新たに加わる。


「……コレは。一体どうすれば」


良い?と聞こうとした瞬間、スピアとローラはナイフを構える。


「ご主人様はお退がり下さい。後は私達が」


「そうね。シュウは周りを警戒しててよ」


そして何かを刺す音、悲鳴が僅かに聞こえる。暫く刺す音が何度も聞こえる。


(殺す?産まれたばかりだぞ?それなのに……殺すのか?)


その時だった、横から物音が聞こえた。スピアとローラは気付いていない。だから俺は其処に向かう。其処には藁が大量に敷かれていた。ゴブリンの糞尿やら何かの骨が散乱してる。だが、俺はそれを退かす。


「隠し…扉だと?」


俺は震える手でゆっくりと開ける。そして、ライトの光で見えた者達が居た。


「キィ…キキィ」「キガ…」「クルルル…」


ゴブリンの子供だ。数は十体以上は居る。


(殺すのか?この子供を殺すのか?)


俺は暫くゴブリンの子供を見ていた。


「ご主人様!お退がり下さい!」


スピアの声が聞こえる。だが、俺は退がれなかった。そして、あの時何故サラさんが全てを焼き尽くしたのか理解した。この子供が全てを奪うのだ。村を襲い、女を攫い、男は殺す。女は死ぬまで地獄を味わい続ける。男では絶対に味わう事が出来無い苦痛。魔物を…ゴブリンを産むと言う事。


ガチャ カチ チャキン


先程ゴブリンを産んだ女性を見る。最早生きる気力は無い表情をしている。ならば、これ以上の被害を出す訳には行かない。


「怨んでくれても構わ無い。だが、お前達は此処で死んでくれ」


もし、スピアやローラが捕まったら……。その捕まえたゴブリンが今目の前に居るゴブリンだったとしたら?答えは簡単だ。いや、考えるまでも無い。ベレッタM92の銃口をゴブリンの子供に向ける


そして引鉄を引いた。


ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!

キン キンカン キン カラン キンキン カラン


銃声と空薬莢が響く。俺はゴブリンの悲鳴を搔き消す様にベレッタM92を撃ち続けた。


カチン カチン カチン


「弾切れか……」


リロードしながら周りを見渡す。生きてるゴブリンは居ない。気配を探るが無い。だが、それでも物陰に居ないか探す。


「ご主人様もうゴブリンは居りません」


「シュウ、落ち着いて。もう大丈夫だから」


スピアとローラが俺を制止する。だが、そんな心配そうに見られるのは間違ってるんだ。


「俺は、一瞬だがお前達を嫌悪した。ゴブリンの赤ちゃんを躊躇無く殺したお前達を。だが、一番最低なのは俺自身だと直ぐに理解したよ」


「ご主人様…」「シュウ…」


俺の言葉に静かに耳を傾ける二人。


「俺は、自分の手を汚すのが嫌だったんだ。自分はのうのうと安全な場所居ながら、最低な事を思っていた。だけど、もしお前達がゴブリンに捕まったらと考えた。そして、その時感じた感情は憎悪だった」


「女性なら尚更だ。魔物を産む何て考えたく無いだろう。この劣悪な環境に居たく無いさ。だから引鉄を引いた。守る為に、これ以上犠牲者を増やす訳には行かない」


そう。二人がやった行為は間違って無い。コレは戦争だ。生存戦争なんだ。ゴブリン…いや、人間や亜人を媒体にしようとする魔物との生存戦争なんだ。


「もう、躊躇はしない。躊躇すれば俺が死ぬ。そして、大切な人達を失う」


なら、失う前に防ぐだけだ。その為なら躊躇しては駄目なんだ。


「二人共ゴメン。一瞬でも嫌悪した俺を許して欲しい」


俺は頭を下げる。所謂最敬礼という奴だ。暫く頭を下げ続けると声をかけられる。


「ご主人様。私達は怒ってなどいません。ご主人様の境遇が少々特殊なのは、何となくですが理解しております」


「そうね。他の人達とは違うものね。だからゆっくりで良いの。色々見て聞いて、そして自分で考えて決めて欲しいわ」


「スピア…ローラ……ありがとう」


俺は二人を抱き締める。二人も抱き締め返してくる。


「ご安心下さい。スピアはご主人様と共に何時迄も居ます」


「私も側に居て上げる。だから安心しなさい」


「うん…うん……」


昔の価値観。これは大切な物だ。その価値観を比べると途轍もなく辛くなる時がある。だけど、この価値観を持ちながら生きて生きたい。間違ってるのは重々承知してる。それでも、此れだけが最後の思い出なのだから。

暫くスピアとローラを抱き締めながら静かに涙を流すのだった。


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