63
あの悪夢の様な光景を見た後は探索を続行していた。
「お?昔のお金か。まあ、貰っておくか」
「こっちは……古代兵器だ!然も状態が良さそうだ。シュウ、こいつは使えるか?」
ベックはお金を拾いながら探索を続け、ザニーは俺にハンドガンを見せて来る。ハンドガンはグロック17の様だ。ただ、ずっと野晒し状態だから中身がダメだな。
「中身がボロボロだから、このままだと使えないよ。部品を交換するか修理して貰えよ」
「ならシュウなら直せるか?」
ザニーがグロック17を直せるか聞いて来る。だが、流石に直す訳には行かないだろう。もし俺が銃を直せると外部に漏れたら、間違い無くヤバそうだ。具体的に言うなら拉致、監禁、強制労働、最悪殺されるだろう。
「悪いな。流石に直す事は出来ないよ」
「そっか残念だな。まあ、仕方無いか」
ザニーは他の物を探す為に探索をする。二人共目に見える範囲には居るから大丈夫だろう。
「あ、寄生者だ」
この辺りは巨大植物に近いと言えば近いだろう。だから寄生者とよくかち合う。だが、直ぐに始末するから寄生者も迂闊に手を出しては来ないだろう。少なくとも俺達から巨大植物の方に行くつもりは無いからな。
「なあなあ、俺達なら巨大植物を倒せると思うんだが。お前達はどう思う」
「無いです」
俺は間髪入れずに否定する。しかし、ベックの野郎は空気読めないよな。
「ええー、そんな事無いだろ?俺達ならやれるって!」
「いや、シュウの言う通り無理だ。それに、巨大植物に関しては情報が少な過ぎる」
そう、巨大植物の弱点や習性など殆どが未知数なのだ。この辺りは巨大植物のテリトリーだ。そんな中、平然と探索をしてる俺達は有る意味異常だろう。
「でも今は寄生者は襲って来ないぜ?」
「代わりに様子見してる奴は居るけどな」
向かいの角に居る寄生者を指差す。最初この辺りに近付いた時は沢山襲って来たが、殆どをM240G機関銃で倒したからな。多分手駒が少ないから監視してるんだろう。
「やれやれ、本当に植物なのか疑問だね。あの巨大植物の中に脳味噌が有っても納得するよ」
この後巨大植物に関しては無視する方向になった。暫く探索を続けるが依然として見つからず。
「なあ、もう少し奥に行かないか?このままだと埒が明かないし」
「俺もベックに同意だな。リスクは高いが奥に行った方が良いと思うんだが」
二人共俺を見ながら聞いて来る。確かにパワードスーツを装着してる俺が居ないと探索は困難だろうし、持ち帰りも大変だろうしな。
「仕方無いか。ならコレ飲んどけよ」
俺は二人にRADディフェンダーを渡す。流石にこのまま放置は厳しいだろうからな。それに、二人は防具服着てないし。
「これって、RADディフェンダーか?良いのか?これ結構高いだろ?」
「別に良いよ。途中で倒れられても困るし。それに、折角知り合えた奴が目の前で死なれるのも目覚めが悪いしな」
「シュウ……お前」
「ありがとな。助かるよ」
二人はお礼を言ってRADディフェンダーを飲み込む。しかし、上手く飲み込めてない。
「ほら水だよ。飲んだら先に行こう。但し、時間は一時間だけだ。それ以上の探索は危険過ぎる」
「分かった。しかし、お前は良い奴だよな!これからも助け合って行こうぜ!」
「そうそう!お互い助け合ってこそ冒険者冥利に尽きるってな!」
「ええい!調子良く言ってんじゃねえよ!そして纏わりつくな!」
「照れるな照れるな〜。感謝してる事は嘘じゃねえしな!」
「照れてねえし!全然照れてねえし!」
「ほら行こうぜ?早くお宝見つけて今夜も飲むぞー!」
俺達は危険な場所に居るのにも関わらず、騒がしく廃墟街の奥に進むのだった。
side ブルーム
俺はブルーム。昔はこの未探索の場所を縄張りにしていた冒険者だ。今はまだバレてはいないが盗賊にまで落ちた唯の屑野郎だ。
全員布を口元や顔にしっかり巻いて顔がバレないようにしている。それに、少しでも毒の空気を触れない為だ。
「ボス、このままだと俺達も不味いかと。此処は一気に襲撃しましょう」
部下の言葉に頷くしか無かった。奴等は更に奥の方に行ってしまったのだ。それに、このまま待ち伏せするのも危険な場所だ。
「仕方ねえか。お前ら、奴等が探索を始めた時に襲撃する。今から心構えをしておけ!」
「「「「「おう!!」」」」」
仲間達は奴等を追いかける。
「さて、色々ケジメは付けねえとな。みっともない所を見せちまうとカッコ悪いしな」
俺は一人の少女を思い出す。幼い時から俺の全てを教えた。一人でも生きて行けるだけの実力もある。最後は顔を知ってる連中は全て消す。
「シュウとか言ってたな。悪く思うな。彼奴を自由にする為に……死んでくれ」
俺は一人呟き奴等を追い掛けるのだった。
side out
探索を続けると半壊したショッピングモールに来た。俺達はショッピングモールを探索する為に足を踏み入れた。中は白骨死体が大量に転がっていた。恐らく逃げ遅れた人達が此処で死んだのだろう。
「うへぇ。何か、嫌な場所だな」
「そうだな。何かに見られてる気がする」
あながち間違いでも無いだろう。俺も見られてる気はする。しかし生体反応、震音共に無し。それで視線を感じるのは間違い無い。
「今まで以上に視線を感じるな。何が起こるか分からん。正気をしっかり保てよ」
取りあえずクリスタルを出して全部置いておく。これで後は勝手に放射能を吸収するだろう。そして俺達はショッピングモールの探索を開始する。店内はかなり荒らされた後があった。食料は全て無し、工具や衣服等も全て空っぽだ。
「おぉ、この絵の人スゲー美人だな」
「こんな美人中々見ないぜ」
「見惚れてないで探索しようぜ?」
それから探索は続く。探索の途中で店内案内板を見つける。そこで高級腕時計屋に行く事にした。多少は見つかれば運が良い方だろうし。
「なあ、この人達生きてるぞ?」
「何処だ此処は?随分と賑やかな場所だな」
その時だった。ベックとザニーの様子が可笑しい。何故なら呆けた様な状態になってる。そして、俺も例に漏れず巻き込まれる。
「……此処は、ショッピングモールか」
其処には戦前の綺麗なショッピングモールが存在していた。子連れの家族、恋人、友達同士、老人達等が居る。俺には見覚えのある光景だった。
「あ、バーガー売ってる」
間違い無い。世界チェーン店のファーストフードのバーガーがある。久しぶりに食べたいな。
「お金有ったっけ?……いや、もう存在して無いよな」
この光景は偽りだ。散々体験して来た事だ。俺はM92を抜きファーストフードの看板に銃口を向ける。
「食べたくても食べれないとはな。本当に残念だよ」
ダンッ!
銃声が響く、弾丸は看板に穴を開ける。空薬莢が床に落ちる。その瞬間、世界は沈黙する。従業員や客も誰もが俺を見ている。
「俺はそっちには行かない。此処で生きると決めた。だから……さよならだ」
そう呟いた瞬間景色が戻った。だが、目の前に奴が居た。
「お前は、あの時のグール」
「グウウウ……」
其処には他のグールとは違う、しっかりとしたグールが居た。そう、俺を投げ飛ばした奴だ。そして奴の手には大剣が握られていた。多分死んだ冒険者から奪ったのだろう。
「こっちはパワードスーツ着てるぜ。それでも来るのか?」
「グウウウ……グガアアア!!!」
奴は咆哮を上げながら此方に来る。俺はM240G機関銃を奴に向けて発砲する。だが、奴は大剣を盾にしながら真っ直ぐ此方に来る。
「本当にお前はグールかよ!」
「グガアアア!!!」
奴は大剣を振り回しながら攻めて来る。然も我武者羅に振り回すのでは無く、此方の頭部や関節部分を的確に当てようとしてる。
(此奴、相当な修羅場潜ってるぞ?グールだと侮ってたのは間違いだった)
何とかウォールの装甲部分で防いでるが、時間が経てば潰される。俺はM240G機関銃を手放し、拳を握り締めて殴り掛かる。
「ッ!グガア!」
即座に反応して大剣で防ぐものの吹き飛ばされる。だが空中で態勢を立て直し、大剣を地面に突き立てて止まる。何だその無駄にカッコ良い動きは。
しかし、距離を作れなかったのは痛いな。出来ればPDAを操作して武器を出したい所だが仕方無い。俺はサバイバルナイフとベレッタM92を抜く。お互い睨み合う。そして……。
バッ! ダンッ!ダンッ!ダンッ!
「グガアアア!!!」
ベレッタM92を撃つ。同時に奴も走って来る。それに9㎜弾を物ともせず突っ込んで来る。大剣を振り上げるその瞬間、一気に前に出る。
「ガアアアアア!!!」
ガギイイイン!!!
大剣はウォールの頭部に直撃した。だが、それが狙いだった。
「ウォールの一番硬い場所は頭部と胸部だ。被弾しながら反撃するをコンセプトにしてるからな!」
急所を守る設計だったからこそ出来る芸当だ。だからワザと狙い易くした。そして、そのまま左手に持つサバイバルナイフを一気に突き立てる。奴は悲鳴を上げるが逃しはしない。もう、お前は俺の間合いに入ってるからな。それでも奴は抵抗する。
「これで終わりだ!!!」
ドスッッッ!!!
奴の頭部にサバイバルナイフを突き立てる。奴は一瞬動きを止める。そして暫く見つめ合う。何かを言おうとしてるが俺には分からん。そして、奴はそのまま力尽きて倒れるのだった。
「お前も、犠牲者何だよな。すまんな…助けてやれなくて。俺にはこれぐらいしか出来ないから」
俺はそう言って奴の瞼を閉じる。
「はあ……あ、ベックとザニー!」
急いで二人を探す。しかし、何故か気持ち良さそうに寝てるではありませんか。人がそれなりの死闘を繰り広げてるにも関わらず、呑気に寝こけていやがって!なので八つ当たり気味に少し強めに叩き起こす事にしたのだった。
……
二人を叩き起こした後は高級腕時計屋に向かう。そして、少ない数だが高級腕時計を見つける事が出来た。
「おお!これは遺物じゃねえか!」
「然も貴族には人気が高いヤツだぞ?」
「なら急いで回収しよう。何時迄もその場に留まる訳には行かないし」
決して見逃された訳では無いだろうしな。直ぐに腕時計を回収していく。その時、エリスから警告が来る。
《6時方向震音検知。数は尚も増大中》
敵が来たか。まあ、普通のグールぐらいなら対処出来るだろう。普通だと良いなあ。
「二人共、外に敵がいるみたいだ。俺が倒しておくから回収を続けてくれ」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「大丈夫さ。余程の攻撃が来ない限り負けはしないさ」
俺は震音のある方に向かう。そして、そこで見た者達はグールでは無かった。
「お前さんがシュウだな」
「……そうだが、あんたは?」
其処には顔を布で巻いてる連中が十人程居た。武器は魔導具に杖、剣やボウガン。そしてリーダーと思われる人物は大楯を持っていた。
レーダーで周辺確認すると、彼等以外にも五人が隠れている。
「君に直接的な恨みはない。だが、我々の存在を知ってる者を生かしていく訳には行かない」
「あんたらの存在なんて初めて知ったけどね。尤も、この状況を見てしまった以上意味は無さそうだけどな」
M240G機関銃を握り締める。周りの連中も身構える。
「いや、それ以前の問題だったさ。君は運が無かった……唯、それだけだ。全員掛かれ!古代兵器とは言え直ぐに壊れる!」
リーダー格が合図を出す。その瞬間、俺達は動き出す。俺はM240G機関銃をリーダー格に向かい発砲。7.62㎜弾の弾幕が襲い掛かる。
「ふん!そんな攻撃は効かん!!!」
だが、大楯を斜めに構え全て防ぎきる。多少は減り込んではいるが、殆どが弾かれてしまう。
「はあ!!!」「貰ったぞ!!!」
その隙に二人が襲い掛かってくる。更に上から五人が迫って来る。だが、全てレーダーで把握済みだ。先ずは上の連中をM240G機関銃で始末する。浮いてる状況で避ける事は出来ない。
「次!」
左手でM92を素早く抜き前方の二人を連射で仕留める。
「この!よくも仲間を!?」
魔導具と杖から様々な属性の攻撃が迫って来る。俺は一気に前進して、攻撃を掻い潜る。先程まで居た場所には、背後から攻めて来た連中が味方の攻撃に巻き込まれて悲鳴を上げる。
そして、味方を撃ってしまった事で動きが一瞬止まる。
ダダダダダダダダダダッ!!!
M240G機関銃で制圧射撃する。魔導具持ちを二人潰すが、防御魔法の障壁により防がれる。だが、俺はそのまま射撃しながら前進。第1世代とは言えパワードスーツ。近代化改修もされてるウォールのパワーは伊達では無い!!!
「うおおりやああああああ!!!」
左手を握り締め、腕を思いっきり振り上げる。そして障壁を殴り破る。
「なっ!?馬鹿グブユゥ!?」
魔法使いの顔面に拳がめり込む。そのまま大量の血を流しながら吹き飛んで行く。
「く、くそがあああ!!!」
ボウガンを此方に向ける。だが、俺の方が速い!
ダダダダダダダダダダッ!!!
そのまま何も言わずに死んで行く。そして、リーダー格の奴が此方に迫って来る。
「まさかな!此処まで圧倒されるとはな!」
大楯を構うながら此方に来る。その速度は速く、とても大楯を持ってるとは思えない速度だ。
「諦めて投降しろ!」
M240G機関銃で応戦するが全て防がれる。だが、例え距離を詰められたとしてもパワーでは負けない。
「ボス!援護します!ファイアーアロー!」
「チッ、まだ来るのか。いい加減諦めろよ!」
此方にファイアーアローを撃ち込むで来る。だが、俺は咄嗟に避けM240G機関銃で反撃する。敵は障壁を展開するのが間に合わなく、そのまま撃ち抜かれる。
「最後通告だ。武器を捨てて投降しろ。もう、仲間の反応は無いぞ」
「投降はしない。代わりにお前には死んで貰うからな!!!」
そうリーダー格は言って接近して来る。俺は迷わずM240G機関銃を撃つ。此処で躊躇すればベックとザニーは間違い無く殺される。
ダダダダダダダダダダッ カチ
「チッ、弾切れか」
M240G機関銃を放棄、左手で再度M92を抜く。そして今度は右手を握り締める。
(大楯を吹き飛ばす。そして吹き飛ばされた奴を撃つ。それで勝てる!)
更に接近。此方も助走を付けて右腕を振り上げる。
バゴオオオオオン!!!
大楯を殴るとウォールの攻撃に耐えれず、思いっきり凹みながら吹き飛ぶ。そのまま前進してリーダー格を探す。だが、見つからない。
「何!?何処だ!」
急いでレーダーを確認する。そして……上空に居た。
「ッ!この!」
「取ったぞ!!!」
リーダー格はナイフを突き出す。俺はM92を向ける。
ガキイイィィン!!!
ダンッダンッダンッダンッ キンキンカラン
ウォールのヘルメットにナイフが当たる。M92の弾丸はリーダー格の腹部に当たる。空薬莢が床に落ちて行く。
《頭部被弾、損傷無し。戦闘続行可能です》
エリスの音声が聞こえる。
「ガハッ……お前は、その……古代兵器を……扱いきれてる……のだな」
「まあな」
リーダー格と暫く目が合う。
「ふっ、お前に……関わった時点で……運を使い…果たし……たか」
カラン
ナイフを落とし、それに続き倒れるリーダー格の男。最後に何かを言う。そして、そのまま目を開けたまま動かなくなった。
「だったら、最初からこんな事すんなよ」
俺はリーダー格の瞼を閉じる。そしてナイフを拾う。ナイフはとてもシンプルだが、刃こぼれはしていない。先程パワードスーツに当たったが無傷だ。
「さて、ベックとザニーの様子を見に行くか。多分大丈夫だと思うけどな」
俺は駆け足で二人の元に向かったのだった。
……
あの後無事二人を見つけて、急いでクリスタルを回収して撤収する。まだ他にも敵が居るかも知れないし。二人は銃音に付いて色々聞いてきたが、今は時間が惜しいので後で説明すると伝える。しかし、ショッピングモールから出て行く途中で冒険者の死体を見つけて納得した様だった。
今回俺達が手に入れたのは高級腕時計を数点だ。この辺りの物も貴族が好んで買う。後は偶に高ランク冒険者も買うそうだ。正確な時間が分かるし、壊れ難いから重宝するらしい。
帰りは問題無く行けた。最初にグールはある程度始末したからな。それに寄生者も寄って来なかったのもある。
「シュウはオークションには出さないよな」
「ああ、その場で鑑定して貰って換金して貰うよ。それだけでも、かなりの金額になるだろうしな」
それに、早い所スピア達に会いたいのも有る。
「そっか。ならさっさと鑑定して貰おうぜ。オークションに出さなくても結構纏まった金額にはなるだろうしな」
こうして俺達は冒険者ギルドに向かい、腕時計を鑑定して貰う。ついでに、前回探索した時に手に入れた骨董品の鑑定も終わってるだろう。
鑑定金額は骨董品が金貨250枚、高級腕時計は金貨40枚。合計金貨290枚を手に入れたのだった。
因みにこの金額だけなら高級奴隷は買えるだろう。俺が貰う金額を見てベックとザニーは途轍もなく助平な顔になった事に関しては責めはしなかった。但し、ギルドの受付嬢には軽蔑の視線を貰っていたがね。
俺は一旦二人と別れる。そして一人の少女を探す。恐らく直ぐに見つかるだろう。きっと彼女も詳細を聞きたい筈だ。
案の定、彼女は俺の前に現れた。
「よ、カレン。昨日ぶりだな」
「うん。シュウ、その……」
聞きたいけど聞けない。此処で彼等について聞けばカレンは間違い無く仲間だと言ってるもんだしな。
「なあ、カレン。さっきまで廃墟街を探索してたんだ。其処である冒険者達に襲われたんだ」
「……そう。それで、シュウが戻って来たって事は」
「ああ、俺達が生き残った。それが答えだ」
カレンは顔を俯かせる。表情は分からない。そんなカレンに、あのリーダー格のナイフを渡す。
「最後に戦った奴はな、かなり強かったよ。俺はパワードスーツを装着してたが、敵の攻撃を全て避けていた。それに、パワーでも勝っていたしな」
カレンは顔を俯かせたまま聞いている。
「だが、最後にリーダー格の奴から一撃を貰ったんだ。正直パワーと位置情報が有るから無傷で勝てると思ったよ。だけど、奴は俺の攻撃を全て弾いて接近したんだ」
心無しか震えてる。そして小さくだが嗚咽も聞こえる。
「最後に俺の頭にナイフを突き立てた。だが、パワードスーツは硬い。パワードスーツのお陰で、俺は助かった。生身の状態だったら死んでただろう」
そして、最後に彼の言葉を伝える。
「『カレン、すまなかった』そのナイフを持ってた奴の最後の言葉だ。その言葉の意味を理解出来るのは、カレンだけだろうし」
その言葉にカレンは嗚咽を漏らす。俺に出来る事は少ない。此処でカレンを警備隊に引き渡すのが正しい事かも知れん。だが、俺はそんな事をしたいとは思わなかった。
暫くするとカレンは泣き止む。
「シュウ、ありがとう」
「……カレン」
俺はカレンに近付こうと一歩前に踏み出す。だが……
「来ないで!!!」
「ッ!カレン……」
カレンの強い拒絶。そして表情は前髪に隠れて見え無い。
「貴方には感謝してる。でも、私の大切な人を殺して憎い気持ちもある。ボスも仲間達も私も殺されても文句は言え無い立場だって分かってる」
カレンの目には憎しみと敵意と理性が織り混ざっていた。俺は何も言えず、唯々カレンの言葉に耳を傾けるしかなかった。
「だけど、それでも死んで欲しくなかった。一緒に生きて欲しかった。唯…それだけ」
そしてカレンは俺に背を向けて歩き出す。
「シュウ、さよなら。もう二度と貴方とは会わない。もし貴方と会う事になるとするなら、それは敵同士になった時だけ。出来る事なら会わない事を祈るわ」
そう言ってカレンは走り去って行く。俺はそんなカレンを見送るしか出来なかった。
俺は間違えていたのだろうか?仮に生け捕りにしたとしても、俺は警備隊に引き渡すだろう。なら結果は同じになってしまう。
「結局、俺に出来る事は何も無かったのか」
カレンの明確な敵意。しかし、俺は命の恩人だから見逃された訳だ。だがカレンの言う通り、次に会う時は敵同士なのかも知れない。
俺はカレンが走り去った後を何時迄も見続けた。だから俺も願う。敵として会う事が無い様にと。
……
その頃のスピア達
スピア、ローラ、クロは聖エルガー教国にてシュウの帰りを待っていた。その間観光名所やデートスポットを把握したり、ナンパする連中や差別する連中を無視しながら過ごしていた。そして、そんな中ある情報が世聖エルガー教国から世界に向けて発せられた。それは、シュウが探索に出掛けて直ぐの事だった。
【我々人類の希望である勇者を公開する】
この情報が発表された瞬間、聖エルガー教国の住人は熱烈に歓喜した。更にその情報を得た様々な商人や貴族、更には航空艦持ちの旅団もやって来た。正に国全体が連日お祭り状態であった。
「本当、色々な種族が居るわね。今迄だったら信じられない光景ね」
「そうですね。それだけ勇者の存在が大きいのでしょう。何せ魔王を倒す因子持ちは勇者のみですからね」
正確に言うなら、魔王を倒せる聖剣を扱うには勇者の因子が必要であると言う事だ。それ以外の人が持つと途轍目なく重たい剣になるのだ。
「もしかして、教官ですか?」
「あら?貴方は確か……」
ローラの目の前には、かつてレイスガーディアンズで教え子としていた好青年が居た。
「ローラ、元気にして居たかね?君も勇者を見に来たのかな?」
そしてレイスガーディアンのリーダー、レイスと他のメンバー達が居た。
「久しぶりね。別に勇者なんてどうでも良いわよ。私達は偶々此処に来ただけだもの」
「そうか。それで、後ろに居る高級奴隷は君のかな?いやはや、中々高価そうな奴隷を買ったね」
「違うわよ。私のじゃ無いわ」
「なら……まさか、彼なのかい?」
ローラの否定の言葉に一瞬戸惑うが、直ぐに誰が買ったのかを思い付く。だが、正直信じられないと言う表情だ。
「申し遅れました。私、シュウ・コートニー様の奴隷でスピアと申します。以後宜しくお願い致します」
シュウに恥をかかせる訳には行かないスピアは営業スマイルで愛想良く挨拶をする。
「……あ、あぁ、此方こそ、宜しく頼む。私はレイス。レイス・ラングリーだ///」
スピアの営業スマイルに見惚れてしまい、一瞬遅れてしまったが名前を名乗るレイス。だが、頬が若干赤いのは気の所為では無いだろう。それに後ろに控えて居た男性陣も見惚れてるし、露骨に嫌らしい視線を向けてる。更にそんな男性陣を間近で見た女性陣の視線が痛い。
「そ、そうだ。これも何かの縁だろう。良かったら晩御飯を一緒にどうだい?」
レイスの提案にスピアとローラは互いに目を合わせる。因みにクロは子供達と遊んでる。
「それに、この国で人間以外での食事などは少々不自由では無いかな?それに、美味しいデザートがある店でも有るんだ」
「な、なら仕方ないわね!少しぐらいなら付き合って上げるわ」
「私は保護者として付いて行きます」
「そうそう、保護者なら安し……ちょっと!何で保護者なのよ!」
「貴女を一人にすると危ないですから」
二人は漫才をしながら了承する。確かに外食の時は色々不自由だ。それに、特に断って無闇に荒波を立てる必要も無いだろう。
そして、何よりデザートは食べたいのであった。だって甘い物は正義ですから!
それからレイスガーディアンズの一部のメンバーと共に晩御飯を食べに行く。そこは中々小洒落たレストランだ。
「さあ、今日はご馳走させて貰うよ。好きな物を好きなだけ頼んでくれて構わないよ」
レイスがそうスピア達に言う。多分レイスは自分の懐の大きさをアピールしたかったのだろう。だが、その台詞を聞いた瞬間スピアとローラの目がキュピーンと光る。
「そうなの?クロ、やったわね。今日はご飯沢山食べれるわよ?」
「そうですね。今日は好きなだけ食べて良いですよ」
「プッ!プッキャ!プッキャ!」
クロは大喜びになる。普段も沢山食べるが、何時もシュウがセーブしている。それに、シュウがこの場に居ればクロに自重する様に言っただろう。だが、先程の台詞を止める者は此処には居ない。
何気に気合いの入ったレイスとローラ大好き青年。そして、それ以上に気合いの入ってるクロ。次々と料理が来ては平らげるクロ。そして、会話もそこそこに何気に沢山食べるスピアとローラ。そんな三人を見て段々顔が青ざめるレイスとレイスガーディアンズのメンバー達は、この後のお会計の値段に恐怖するのだった。
……
次の日。俺はバイクを出してスピア達の元に向かう。ベックとザニーはオークションの手続きなどを行う為、もう少し残るそうだ。二人に別れを言ってバイクを走らせる。
バイクを走らせながらカレンの事を考えた。立場によって味方になるし敵にもなる。もし、俺の立ち位置が変わっていたらどうなるのだろうか?だが、考えるだけ無駄だと悟った。何故なら、今の立ち位置が全てだ。それ以上もそれ以下も無い。バイクの運転に集中してアクセルを回すのだった。
何かを得れば何かを失う。
悲しいぐらいの現実がそこにはある。
何かを失えば何かを得る。
これもまた事実である。




