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聖エルガー教国の洗礼をたっぷり受けた翌日。俺は早々に未探索の軍施設を探索する為にバイクを出して出掛ける準備をする。
「成るべく早く戻る様にするよ。でないと色々困るだろうし」
「はい、お気をつけ下さい。しかし絶対に無理だけはし無いで下さい」
「スピアの言う通りよ。遅くなっても良いから無事に帰って来て」
「プキュ〜」
スピア、ローラ、クロは心配そうに見送ってくれる。
「分かった。俺も死にたく無いからね」
バイクのエンジンを掛ける。相変わらず快調で良い感じだ。
「じゃあ、行って来ます」
アクセルを回して走り出す。未探索の軍施設。其処には間違い無く充電装置がある筈だ。それさえ有れば何時でもパワードスーツを動かせる!
「しかし、未探索って事は放射能塗れなんだろ?つまり核の爆心地な訳か?」
だったら跡形も残って無い気がするけどな。
若干の不安を抱きながらバイクを走らせるのだった。
side ローラ・ブルフォート
「行っちゃったか。スピアは此れから如何するの?」
私はスピアにこの後の事を聞いておく。聖エルガー教国は人間にとっては住み易い所だが、私の様なエルフやスピアみたいな獣人には厳しい場所だ。
「私はご主人様を待ちます」
「だからその間を如何過ごすのよ?まさか宿に引きこもってるとか言わないでよ?」
私の言葉にスピアは目を瞑る。まさか本当に引きこもってるつもりだったの?
「でしたら、何か依頼でも受けます。成るべく人と…この国の人達と接しない依頼を」
「それが妥当よね。あ!そうだ!だったらさ、先に観光名所でも見て行かない?後はデザートとかも!」
我ながら良い事を思い付いたわね。シュウとデートして一緒に楽しんでから、夕御飯は素敵なディナーにしたいなぁ。それから、その後は……
『ローラ、綺麗だね』イケメンボイス&イケ面シュウ
『そうね。此処の夜景は綺麗よね』
『夜景より、ローラの方が綺麗さ』白歯キラーン
『な、何言ってるのよ……もう、恥ずかしいわ///』
そんな私の肩に手を乗せ、ジッと見つめながら…
『ローラ……』顔の周りがめっちゃキラキラしてる
『シュウ……ん///』
そして、愛し合う二人の距離がゼロに……
「私の存在を忘れてませんか?」
「きゃああああ!?!?///」
び、びっくりしたー!別に忘れて無いわよ!ちゃんと隅っこの方にウサミミが出てるわよ。
しかし、スピアはジト目で此方を見てくる。
「はあ。まあ、ご主人様とデートする為の下準備は必要ですからね」
「そうそう。あ、因みに私が最初だから」
「何言ってますか。私が最初です。貴方は私と同じデート内容でも繰り返してなさい」
「嫌よ!そんなのダメに決まってるわ!」
この後スピアと話し合った結果、西と東で別れてデートする事が決まったのだった。
side out
side シュウ・コートニー
バイクを走らせる事二時間ぐらい経っただろう。目的地に近づくと冒険者や商人がチラホラ見かける様になる。そして、到着すると中々の賑わいを見せる場所に着いたのだった。
「これは、ちょっとした街だな」
仮設宿や屋台等多数あり賑わいを見せていた。更に簡易冒険者ギルドも有る。どうやら此処がベースキャンプになるだろう。これならスピア達を連れて行けば良かったな。
「取り敢えず宿を確保するかな」
バイクを収納して徒歩で行く事にした。街を見渡すと色々売られていた。半分ぐらいは商人が持ち込んだ物だが、中には未探索の場所から見つけた物も多数売られている。然も銃もそこそこ売られていた。
宿を予約してから早速探索に行く。未探索の軍施設は左右に別れた場所に有る。先ずは右側から行く事にした。近くには戦前の町も有るので色々見つかりそうだ。
「まあ、後は……色々見えそうだけどな」
幽霊とか地縛霊とかその他諸々。だから成るべく刺激しない様に行こうと決めたのだった。
……
未探索の場所に近づくにつれて冒険者の数が増えて来た。そして、入り口の場所に到着する。其処には多数の冒険者達と聖エルガー教国の兵士、神官達が居た。冒険者達は兵士にギルドカードを見せてから先に進んで行く。それから別で兵士達も隊列を組みながら先に進んで行く。後は一部の冒険者達は神官の前で集まり浄化魔法を受けていた。しかし、浄化魔法に必要なお金を払ってる様子は無い。
取り敢えず兵士の所に並び神官達について聞いてみる事にした。すると意外な返答が返って来た。何と浄化魔法は無料で行ってくれているのだ。表向きはボランティア活動の一環らしいが、実施浄化魔法の訓練の為らしい。後は聖エルガー教国のイメージアップだな。それから兵士達も探索に行ってるとの事。何でも市街地戦の訓練とグール化した冒険者、兵士の回収を行ってる。
「俺も行くか。取り敢えず無理だけは止めておこう」
門を潜り先に進む。目的地は山を越えた先に有る。俺は少し人目の付かない森の中に入り耐放射能防具服を着る。相変わらず重たいし動き難いが我慢だ。武器はM16A4を装備する。背中にはサイガ12を背負う事にした。後はバレットM92をとサバイバルナイフを装備して、最後にRADディフェンダーを飲み準備完了だ。
山道を歩きながら思ったのは、アンダーグランドを生き残れたし未探索の時も大丈夫だった。だから今回も大丈夫だと思っていた。だが、それは運が良かっただけだと後から知る事になるとは……この時は考えてもいなかったのだった。
……
山を越えたら直ぐに目的地の場所は見えた。其処には廃墟と化した街が有った。若干靄が掛かっており先が見えにくいが、木や草等が生えてるのが分かった。だが、戦前の建物は健在で静かで不思議な雰囲気を醸し出していた。そしてPDAから放射能を検知した。まさかこんな山頂辺りから放射能があるとは思わなかった。
そんな事を気にせず冒険者達は先に進んで行く。確かに無料で浄化魔法を受けれるから多少は無理が出来る訳か。俺も探索に向かう事にする。
「しかし軍施設が見当たらなかったな。取り敢えず探すだけ探すか」
周りを見渡したが軍施設らしき所は見当たらなかった。もしかしたら奥の方に有るのかも知れないな。M16A4を構えながら廃墟に突入する。廃墟は結構広い。探索するには時間が掛かるかも知れんな。しかし、入り口付近と言えども中々放射能濃度が高いな。早めに探索して進むべきだろう。
暫く歩いて行くとグール化した冒険者を見つけた。人数は五人。なら直ぐに仕留めれるな。照準を頭に狙い撃つ。グールは音に反応するが此方に来る前に全て仕留めた。更に前進しようとした時だった。
「グガアアアア!!!」
「ッ!しまった!」
横の建物からグールが飛び出して来てM16A4を掴んでしまう。その拍子にM16A4を手放してしまった。
「くそっ!離せこの野郎!」
グールを蹴飛ばし距離を作りM92を構える。そのまま一気に連続で撃ち込み倒す。
「そうか、市街地戦になるからな。UMPに切り替えるか」
.45口径だから威力は有る。何より連射速度だとUMPの方が良いしな。俺はUMPを構えなおし先に進む。途中何体もグール化した冒険者、兵士を見掛ける。しかし、意外にも数が多い事に驚きだ。冒険者の死体を見ると直ぐに分かった。彼等は低ランク冒険者だ。駆け出しだからお金は無いし、危機意識も足りないのだろう。だから無茶をしてしまう。
ローラ達に言われた事を思い出す。無理は絶対にしない事だ。俺も死にたくは無いからな。
廃墟の街を歩いて行く。目の前に何人かの集団を見つけた。物陰に隠れながら、何をやってるのかと眺めていると死体を運んでいた。だが妙な事に全員がフラついていた。意識が朦朧としているのだろう。確かにこの辺りは放射能濃度が高くなってるからな。それにしても死体回収してるが何処に持って行くんだ?何と無く後をつけて様子を見て行く。
暫く後をつけて行くと……とんでもない物を見つけてしまう。
「な、何だ……あの植物は……」
其処には様々な物が混ざり合った植物が存在していた。大小様々な花を咲かせているし、かなりの大きさもある。元は花屋だったのだろうが、建物を突き破りながら成長したのだろう。もう少し近付いて見て見ると、色々な物を取り込んでいた。車や看板、そして……人間も取り込んでいた。そんな時だった。
「は、離せ!離せよ!この化け物共が!?」
三人の冒険者が巨大植物の前に引き摺られて行く。しかし化け物?どう見ても同じ冒険者じゃ無いか。だが、このまま見捨てるのは不味いな。然も二人は気絶してるか死んでるかの何方かだろうしな。俺はUMPを構えながら物陰から出る。
「お前ら!何をしている!その人達を離せ!」
その時、其奴らは此方を見る。そして、化け物と言われた理由が分かった。
「マジかよ。話し合いは無理そうだな」
彼等は頭部や胸等に植物を植え付けられていたのだ。つまり、此奴らはもう……人間じゃ無い。
一瞬思考が止まるが敵は此方に走って来る。然もかなり速い!UMPで敵の頭部を狙う。鮮血と脳味噌が飛び散るがそれでも突っ込んで来る。
「寄生花を狙え!」
その言葉に頭部や胸に寄生している花を狙う。花と同時に根元の膨らんだ部分も撃ち抜くと、黄緑色の体液をばら撒きながら倒れて行く。しかし、数が多い。UMPからサイガ12に切り替え吹き飛ばす。花も根っこ諸共ミンチにして行く。すると冒険者が倒れている二人の冒険者を引き摺りながら此方に走って来る。
「助かった!早く此処から逃げるぜ!このままだと彼奴らの餌にされちまうよ」
「そうだな。俺も逃げるのには賛成だ」
相手の提案に強く同意する。つまり、戦略的撤退だ!俺達は脇目も振らずに逃げるのだった。
……
「はあ、はあ、此処まで逃げれば大丈夫だろう」
「あ、ああ、そうだな。しかし、あの植物の化け物は何だ?然も寄生花?とかヤバそうなのが有るみたいだが?」
「ヤバい所じゃ無いな。あの植物の親玉が寄生花の種を植え付けるんだ。そして、植え付けられた連中は寄生者になって一生あの植物にこき使われる。そして、最後は親玉の栄養になるのさ」
利用するだけ利用して、最後は血肉にするのか。本当にアレは植物なのかよ?
「兎に角助かったぜ。俺はベックだ」
「気にすんな。俺はシュウ・コートニーだ。処で一つ聞いても良いかな?」
「おう、構わねえぜ」
「そのな……倒れてる人の背中なんだけど、何か寄生して無い?」
倒れてる冒険者を指差しながら言う。ネバネバしてそうな何かが根を生やしていたのだ。
「何てこった。もう、此奴はダメだな」
「仲間じゃ無いのか?」
「いや、臨時でパーティ組んでたからな。流石にこうなると手に負えん。俺が出来る事はこれぐらいだ」
そう言ってベックは倒れてる冒険者に手をかざし呪文を唱える。手からファイアーボールが飛び出し冒険者を火で包む。
「はあ、嫌なもんだな。だが、このまま放置すれば更に犠牲者が出るからな」
「寄生花ね。あの巨大植物が操ってるのか」
「言っとくが、アレにちょっかい出すのはやめておけ。ここら辺一帯の寄生されてる連中が一気に戻って来るからな。それに、あの植物に何人も寄生されてるんだ。無闇に攻撃しない方が良い」
もう一人の冒険者を叩き起こしながら撤退する。流石に彼等を見捨てるのは心苦しいからな。途中寄生されてる連中やグール等に出会うがサイガ12で殆どワンショットだった。
「その古代兵器凄いな!敵を一撃かよ!」
「遠距離は無理だが、近距離ならかなり心強いよ」
それに市街地戦だから尚更サイガ12が役に立つな。よし、明日サイガ12をメインにして行くぜ。
こうして俺達は出入り口まで逃げ切り、最初の探索は終了したのだった。




