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聖エルガー教国。この国の特徴を一言で言うなら、読んで字の如く宗教国家だろう。国とは明言して無いが、実質国として扱われてるのが実情だ。また人間至上主義のユーニスム教が主流となっており、人間からの支持が多いだろう。更に勇者の因子を持つ物を確保してる辺り、中々面倒くさそうな雰囲気がある。
ただ、聖エルガー教国は観光地としては結構お勧めらしい。治安が良く、街並みも綺麗である為観光客は多いのだ。清潔感を保つ為、国全体で綺麗になろうとしているからだ。まあ、信者を増やす為には第一印象は大事だからな。街並みが汚いと入信する気にはならんわな。
ただ、一方で人間以外の種族を見下す傾向がある。なので他種族の方達がが観光に来るなら良いが、永住するのは余りお勧めはしない。良くも悪くもお国柄が出てしまってる訳だな。
俺達はファステストに乗りながら聖エルガー教国に向かっていた。
「今日はこの町で休憩だな」
そろそろ日が暮れ始める頃に、丁度中継地点の町があったので助かった。
「ほう、もうこの町に来たのか。この調子なら明後日には聖エルガー教国に着きそうだな」
「やっぱりこの車速いわね。ねえ!私にも運転させてよ!」
「ローラは車運転した事あるのか?」
「無いわ。でも運転したいわ!」
「ならダメです」
俺はPDAのお陰で、車から戦車まで様々な兵器の動かし方が分かる。だが、ローラは運転した事無いなら危ないわ。この車馬力が有るしピーキーだからな。
「それでは宿の方に行きましょう」
「そうだな。取り敢えず一休みしたいぜ。なあ、明日は馬車にしない?ゆっくり行っても良いと思うんだけど」
「嫌よ。馬車はお尻が痛くなるもの。それに、魔物と出会う確率も高くなるし」
魔物と出会っても、このメンバーなら瞬殺出来ると思うんだけどな。
「それよりだ。シュウ君は何故聖エルガー教国に向かうんだ?」
「パワードスーツのバッテリーに必要な充電装置が必要なんですよ。普通そんな物売ってませんしね」
「成る程な。確かに聖エルガー教国には未探索の場所が複数有るな」
それから宿を予約して外食をする。しかし何というか3人共美女、美少女なので男性女性問わず視線を独り占め状態だ。こんな小さな町に突然現れる美女美少女達。間違い無く男性陣に大きな衝撃を与えてるな。現に隣にいる女の人を見て溜息をついて、ビンタをモロに受け取ってる人も居るし。
「なんか俺、勝ち組になってるなぁ」
こんな美女美少女に囲まれながら冒険してるんだから最高だな!然もスピアとローラに関してはハーレムに成っちゃってるし。
「何で勝ち組なのよ?」
「この状況が勝ち組なのさ」
俺の言葉にローラ達は首を傾げるのだった。
………
小話
宿の部屋に泊まりながらクロと戯れてる。最近忙しくて構ってやれなかったからな。
「プッキャ!プッキャ!」ポヨンポヨン
しかし、クロと戯れてるとドアがノックされる。如何やらスピア達が部屋に来たみたいだ。
「皆如何したの?こんな時間に俺の部屋に来るとは」
「此処に来るまで音楽を流していただろ?今からでも聞けるかなと思ってね」
「んー、別に聞けますけどイヤホン一つしか無いからな」
スピーカーは持ってないから2人しか聞けないんだよな。イヤホンをスピーカー代わりにしても限界があるしな。仕方無く交代で音楽を聴いてもらった。そして、クロにもイヤホンを付けて音楽を聞かせると……
「ジャンジャンジャジャーン♫」
クロが思いっきり震えたりトンがったりしながら音楽が俺達にも聞こえた。そして、この瞬間クロに新しい役割が与えられたのだった。
クロスピーカーの誕生である。
こうして、俺達は音楽を静かな音量で流しながら楽しんだのだった。
……
次の日は馬車で行く事にした。何故ファステストを使わないのか?理由はずっと運転してると疲れるからさ。ただ、明日はファステストを運転する事を約束したけどね。それから馬車を予約してから待合所で待機する。
「いやー、スピアのお弁当が楽しみだね。早く昼にならないかな〜」
「プッキャ!プッキャ!」
俺とクロはスピアの手作り弁当が楽しみでウキウキ気分だ。そして、そんな2人を見て微笑むスピア。
「確かにスピアの御飯は美味いのは認めるわ」
「それは楽しみだな。私は食べた事が無いからな」
暫く談笑していると数人の冒険者達が話しかけて来た。
「あの、もしかしてAランクのサラ・ブロードハットさんとローラ・ブルフォートさんですよね!?まさかこんな所で会えるなんて感激です!?」
「スゲー美人だぜ?俺達運が良いな!」
「やっぱりローラ様が1番だぜ。何せファンクラブ会員だからな!」
「俺はサラ様の親衛隊だかな!まあ……非公式だけど」
それからローラとサラさんは冒険者達に囲まれながらも応対する。因みに俺とスピアは静かに談笑する。スピアも美人だからファンクラブ出来そうだけど、中々迫害の影響は抜けない様だ。今でも数人はチラ見してくるが、話し掛け様とはしない。
「それで今回は馬車の護衛に参加するんですか?」
「参加はしないわ。今回私達はお客さんとして馬車に乗るから。まあ、頑張りなさい」
「そういう事だ。君達の頑張りに期待するよ」
ローラとサラさんに頑張れと言われて気合が入り始める冒険者達。それから邪魔するのは悪いと思ったのか冒険者達は元の場所に戻って行ったのだった。
「しかし凄かったな。俺にもファンクラブとか出来無いかな?」
「その仮面を外せばチャンスはあるわよ。と言うか、仮面は前の戦いで壊れなかった?」
「そうだよ。ヘルメットも壊れたしな。コレは予備のヤツだよ。次は別の柄を考え無いとな」
次は牙の生えた口とか描きたいよな。後はシンプルに行くのも有りだな。
「その仮面だけでも充分でしょう?それでも結構怖いわよ?」
こ、怖いとな?俺はスピアとサラさんを見る。2人とも苦笑いをするのだった。
それから馬車の出発時間になる。今回の俺の装備はメインがAKMでサブがサイガ12だ。弾薬も豊富にあるから使って行きたい。
「弾薬の節約はしなくて良いしな。いざとなればM240G機関銃も有るし」
俺も火力だけなら大したもんだよな。ただ、魔法は使え無いけどな。
暫く待つと馬車の発車時間になる。
小話
馬車に揺られる事1時間が経過しただろう。ローラが座る位置を変えたりする。
「如何した?トイレに行きたいのか?」
「シュウ……死にたいの?」
真顔で言われてしまう。
「別に何でもないわよ。ただ、馬車だとお尻が痛くなるのよ。だから馬車じゃなくて車で行こうって言ってたの」
「皆んなも痛いのか?」
スピアとサラさんにも聞く。
「少しだけですが問題有りません」
「私もまだ平気だがそろそろかな」
そうなのか。俺は平気だがな。
「ふーん、まあ毛布とか引いててもやっぱり厳しいんだな。確かに馬車にはバネとか付いてなかったしな。はい、干し肉」
「プキュ」
俺はクッション代わりになってくれてるクロに干し肉を上げる。定期的に上げないとクッション辞めちゃうからな。
「それ狡いわ!私もクロに座りたい!」
「残念だったな。此奴は1人乗りだよ」
「良いじゃない!私にも座らせなさいよ!」
そう言ってローラが俺に覆い被さってくる。
「確かにシュウ君だけ狡いな。よし、私も混ざろう!」
「お伴します」
普段クールな2人が何故か混ざってくる。
「お、落ち着けって。ほら、クロは俺の従魔じゃん?つまり主人特権だよ?」
しかし、そんな事は知らんと言わんばかりに此方に混ざって来たのだった。ただ、完全に役得だったよ。美人3人が覆い被さって来るもんだから、抵抗はしませんでした!
この後、クロが大きくなり全員で寛げる空間になりましたとさ。
……
「魔物だ!!!魔物が出たぞ!!!」
馬車に揺られながら寛いでいると護衛の冒険者が声を張り上げて警告を出す。しかし……
「まあ、俺達客人だしな〜。頑張れ冒険者諸君」
「そうですね。私達は客人ですからね。下手に手を出すと後々面倒になるでしょう」
「そうよね。魔物ぐらい倒せないと冒険者とは言えないわ」
「ふむ。気配を察知したが、特別強い魔物は居ないようだな。なら、私達が動く必要はあるまい」
全員それっぽい事を言って馬車から出ようとしない。
「まあ、ぶっちゃけ動きたくないっす」
だってクロクッション柔らかいんだもん。動きたくないもん。ダラけたいもん。皆んな同じ気持ちになっており、誰1人として動こうとはしなかったのだった。
side 冒険者達
「うおおおお!!!」
ザシュ!
「グガアアアア……」
「よし、次は何奴だ!」
1人の冒険者がオークを斬り伏せる。しかし、敵はオークだけでは無かった。
「おい、一旦引こうぜ?敵の種類が地味に多いぜ!」
「チッ、ゴブリンまで居るとか如何なってんだ?」
彼等の疑問も尤もだった。普通はオークはオーク、ゴブリンはゴブリンと言った感じで種族によって集団行動をする。中には共生する種族も居るが基本は種族によって分かれているのだ。
「だが、ゴブリンやオークが幾ら束になった所で俺達に勝てると思うなよ!」
だが、彼等にとって魔物の異常行動より気になる事がある。それは何か?
「俺の戦い振りをローラさんに見て貰ってパーティ組むんだあああ!」
「うおおおお!来いや魔物どもめ!サラさんに良いとこ見せる必要が有るんだよ!」
「どんどん来いよ!俺の魔法で吹き飛ばしてやるぜ!」
そう、冒険者Aランクのサラ・ブロードハット、ローラ・ブルフォートの2人に対するアピールなのだ。彼等の妄想の中ではサラと一緒に冒険したり、ローラに甘えられたり、時には危険な事をすると泣きながら抱き着かれたり。そして最後はベット・イン……序でにゴール・イン!
「「「「「よしゃああああ!!!ドンドン来いやあああ!!!」」」」」
彼等の妄想を現実にする為に雄叫びを上げるのだった。
side out
「なあ、俺達も戦った方が良くない?」
何か冒険者達の雄叫びが聞こえるんだけど。
「ん?大丈夫さ。何時もの事さ」
「そうなの?いや、確かに雄叫びの一つや二つは出るとは思うけど」
何かこの雄叫びは違う気がする。
「仕方ないな。少し様子を見ておくよ」
俺はAKMを持ちながら馬車から出る。確かに冒険者達が優勢だな。敵はもう殆ど居ないし。暫く見ていると全ての魔物は討伐された。そして何故だろうか、冒険者達が此方を見てる気がする。
「「「「「何で野郎が見てるんだよ!!!」」」」」
「えぇ……理不尽」
そして何故か怒鳴られてしまったのだった。
魔物の襲撃はアッサリ終わった。結果を皆んなに伝えたら特に心配して無かった様子だ。俺も気配ぐらいなら何と無く分かるけど、強いか弱いかまでは分からない。多分ローラとサラさんは精霊の存在も有るのだろう。スピアは……まあ、色々スペック高いからな。それから暫く馬車で移動して昼休憩に入るのだった。すると、冒険者達がワラワラと集まって来て、ローラとサラさんを囲い始める。
「サラさん、如何でしたか?俺の戦い方は?もし良ければパーティ組みませんか!」
「ローラさん!俺なら貴女と一緒に冒険出来る実力は有ります!」
「ふっ、俺と一緒に来な。冒険と言う名の夢が俺達を待ってるぜ?」
「俺達のパーティに来て下さい!不自由にはさせませんよ?」
わーお、凄い勧誘と売込みの嵐。コレが有名税と言う奴かな?
「ご主人様、お弁当の用意が出来ております」
「そうか。でも少し待ってて上げよう。流石に俺達だけ先に食べるとエルフコンビが怒りそうだし」
正確に言うならローラのライトニングボルトが俺に降り懸かりそうだし。その後の姿をサラさんが辛辣に突っ込みを入れて来そうだ。
こうして、俺とスピアとクロはお茶を飲みながらのんびりしていたのさ。
……
「ちょっとシュウ!良い加減助けに来なさいよ!私もお弁当食べたいのよ!」
その台詞に周りの冒険者達が反応する。
「でしたら俺達と一緒に食事にしましょう!」
「いやいや、俺達なら温かいスープも有りますよ!」
「俺はローラさんを食べ……ローラさんと一緒に食事が出来れば!」
ローラに冒険者達が集中してる隙にサラさんが此方にコッソリ来た。
「お帰りなさい。はい、お茶どうぞ」
「ああ、ありがとう。全く、今日は何時もより酷いな」
「それは多分俺とスピアと一緒に居るからだと思いますよ」
1人は無魔で1人はサイレントラビット。だけど、ローラもサラさんもそんな所を気にしないんだよね。いや、ローラは最初気にしてたっけ?
「ああん!もう!良い加減に離れなさい!!!」
バジイイイイイイイイ!!!
「「「「「あぎやああああああ!?!?」」」」」
遂に堪忍袋が切れたローラは、冒険者達に精霊魔法をブチ込んだのだった。




