48 ラリア連邦内乱5
駆逐艦アーレイが離陸する間、俺達は魔石設置場所に待機していた。
「ねえ、そもそもあの航空戦艦に近付ける事は出来るの?」
「他の味方艦と協力すれば多分大丈夫かな?と言っても運要素が強いけど」
「それって大丈夫なの?」
「うーん……厳しい「大丈夫じゃよ」ん?」
其処には作業服を着ているおじさんが居た。
「儂はこの艦の整備長をやっている。じゃが安心せい。儂等が何としてでもお前達を、あの航空戦艦まで連れて行く。例えこの駆逐艦が駄目になろうともな」
「そう。ならお願いします」
「うむ!まあ、戦艦に乗った気分で寛いでくれ!尤も実際はボロボロの駆逐艦じゃがな!はっはっはっ!」
整備長さんは大口を開けて笑うが、こっちは全然笑えないっす。
「サラさんも準備は如何ですか?」
「大丈夫だよ。この艦に搭載されてる魔石の大半を使えば1キロ以上は行けそうだ。それから、転移する時は私の周りに居てくれ。転移魔法の陣に入ってないと意味が無いからね」
此方も準備は大丈夫な様だ。後はこの駆逐艦が動き出すのを待つのみだ。
……
side 駆逐艦アーレイ 艦長バンクス
「艦長!機関室から準備完了との事です!」
「よし、他の艦艇にも通信をしろ。『これより我が駆逐艦アーレイは敵航空戦艦に肉薄する。援護射撃求む』と」
「了解!」
通信士が無事な艦艇に通信する。
「これより我が駆逐艦アーレイは、敵航空戦艦に肉薄をする。総員、直ちに第1種戦闘配備につけ!機関始動!」
駆逐艦アーレイから動き出す為の唸り声と振動が響き渡る。
「艦長、離陸準備良し!」
「離陸開始!これより敵航空戦艦に突撃する!操縦士!しっかり舵を握れよ!」
「了解です!」
そして駆逐艦アーレイは地面から離れる。無事離陸は出来た様だな。
「さて、敵さんに一泡吹かせてやろうか!機関最大戦速!」
駆逐艦アーレイが加速する。そして他の艦艇も動き始める。しかし艦艇数は我々を含めて5隻、無傷な艦艇は無い状態だ。しかし、やるしか無いのだ。
「さあ、ラリア連邦軍人の意地を見せてやるぞ!」
そして眼前の敵航空戦艦に集中するのだった。
side out
side 無名の戦艦 艦長
「艦長、敵が動き出しました」
「ふん。そのまま逃げ惑っていれば見逃してやったものを。恐らくこれが敵の最後の攻勢になるだろう。それに、我々の時間も残り僅かだからな。主砲!射撃用意!今度は当てて行け!」
私は射撃命令を下す。そして各主砲が狙いを定める。
「目標が決まり次第射撃を開始しろ!」
「了解、各砲座射撃開始せよ。繰り返す射撃開始せよ」
そして暫く待つと主砲から砲撃が開始される。主砲の攻撃を回避する為、どの艦艇も右往左往する。
「ふふふ、無様な姿だな。軍艦が逃げ惑う姿を見るのは何と悲しい事か」
「そうですね。しかし、彼等も無謀な事をしますね」
しかし、1隻の敵駆逐艦が更に接近してくる。
「あの駆逐艦か。副砲!あの駆逐艦を追い払え!」
そして副砲から多数の弾幕が張られる。
「ふん。たかが1隻の駆逐艦で何が出来ると言うのか」
私は静かに敵駆逐艦を見ていたのだった。愚かな選択をした駆逐艦には同情の余地は無いがな。
side out
side 駆逐艦アーレイ 艦長バンクス
敵航空戦艦は未だに微速で動いている。なら今がチャンスだ。
「機関最大戦速を維持しろ!何が何でも近付くんだ!」
敵航空戦艦から砲撃が開始される。轟音、そして爆音。
「巡洋艦ニーナイ、ナナイ被弾!尚も戦闘続行中!」
「味方が敵の注意を引いている間に何としてでも食い付くんだ!!!」
しかし、敵航空戦艦も此方の動きに気付いたのだろう。副砲から大量の砲弾が撃ち込まれ始める。
「左舷被弾!3番機銃座大破!」
「艦首にも被弾!更に被害拡大!」
「此方も主砲で反撃せよ!敵艦との距離をもう少し詰めるんだ!魔導誘導弾発射用意!」
駆逐艦ならではの切り札を用意する。魔導誘導弾、これは駆逐艦でも大型艦艇に確実な大ダメージを与える武装だ。然も発射した者が誘導出来る為命中率は高い。しかし弾速が遅い為、殆どが迎撃されてしまう。
更に敵航空戦艦に接近する。此方の思惑に気付いたのだろう。ゆっくりとだが航空戦艦が動き出す。
「今更動いた所で遅い!1番から4番魔導誘導弾発射!!!続いて5秒後に5番から8番発射!!!」
「了解!魔導誘導弾1番から4番発射!」
駆逐艦の側面から魔導誘導弾が発射される。
「5番から8番を発射し終えたら上昇!魔導誘導弾を囮にする!」
「了解!魔導誘導弾5番から8番発射!」
そして駆逐艦を一気に上昇させる。しかし、敵は此方の動きに迅速に対応する。
「艦長!敵艦の主砲が此方に向いてます!」
「くっ!回避運動!防御魔法展開!」
魔力の消費は抑えたかった。だが、主砲の直撃だけは……。
ドオオオオォォン!!!
敵航空戦艦から主砲が撃ち込まれる。私はただ祈った。しかし、その時白い閃光が空を走り抜け砲弾を迎撃した。
「ッ!?まさか、あの冒険者達が?」
……
「ふん!そんな攻撃なんて私の精霊魔法の前には無意味よ!!!」ドドン
「ローラ!そろそろ戻るぞ!と言うか、俺が側にいる必要ある?」
「有るわ!さっきの精霊魔法凄かったでしょう!」
「凄かったけど……もしかして自慢したかっただけ?」
「まあ、そう言われたらそうかも知れない……かな?」
ローラは可愛らしくテヘペロしたのだった。
……
「艦長!敵艦との距離2kmを切りました!」
「良し!彼等に伝えろ!そろそろ時間だとな!」
バガアアアン!!!
「下部に被弾!及び左右の推進プロペラに被弾!速力低下!」
「構わん!そのまま高度を下げろ!一気に近付くんだ!!!」
上昇させていた駆逐艦を一気に下降させる。
「さあ、勝負だ!漆黒の戦艦!!!」
私は近付いて行く戦艦に吠えたのだった。
side out
side 無名の戦艦 艦長
「敵駆逐艦から魔導誘導弾発射を確認!」
「ふん!この距離なら迎撃出来る。各砲座迎撃せよ!」
やはり魔導誘導弾だったな。だが、この距離で発射しても無意味だな。
「敵駆逐艦、更に魔導誘導弾を発射!駆逐艦は上昇して退避して行きます!」
「駆逐艦も逃すな!だが、先ずは魔導誘導弾の迎撃を最優先せよ!」
副砲、機銃座から射撃が開始される。仮に迎撃出来なくとも多少の被弾なら問題無いがな。
「あれ?か、艦長!敵駆逐艦が撤退してません!此方の上空に向かって上昇してます!」
「何?ならば1番主砲で吹き飛ばせ!」
バカな駆逐艦だ。無様に腹を見せるとはな。
「主砲1番発射!!!」
轟音と共に砲弾が駆逐艦に向かって行く。直撃は必須だった。だが、駆逐艦から白い閃光が出て砲弾を全て迎撃したのだ。
「ば、馬鹿な!迎撃されただと!」
そして駆逐艦は此方に向かって突っ込んで来る。
「まさか……体当たりか!機関最大!奴との間合いを取れ!」
この航空戦艦は確かに速い。だが、駆逐艦より遅いのは事実。また初速も戦艦並なのも変わらない。
「くっ!総員!対ショック姿勢!」
最後にしてやられたな。ラリア連邦の軍人を甘く見過ぎた私のミスだな。
side out
side シュウ・コートニー
駆逐艦が下降する。機関室の近くに魔石が設置されてる為、かなりの修羅場だと理解出来た。
「班長!このままだとエンジンが燃えてしまいます!」
「水魔法か氷魔法を使え!兎に角保たせるんだ!」
ボンッ!ボボンッッッ!!!
「うわあああ!パイプが一気に破裂したぞ!?」
「そこのバルブを締めろ!!!」
ピイイイイイ!!!!!!
「そこの装置のレバーを上げろ!もう意味が無い場所だ!」
兎に角修羅場だった。更に駆逐艦に何発も被弾してるのだろう。振動が艦内に響き渡る。
「お前達!準備は良いか!後10秒もしない内に敵戦艦との距離は1kmを切る!」
「分かりました!サラさん、準備は良いですか!」
「ああ、いつでも行けるぞ!」
そして遂にその時が来た。
「距離1kmです!御武運を!」
その瞬間、サラさんの周りが青白く光りだす。
『目標、漆黒の航空戦艦の後部甲板上 テレポーション』
その瞬間、俺の視界は一気に変わり漆黒の航空戦艦の甲板上に居たのだった。
「成功したのか!そうだ、駆逐艦は!」
駆逐艦の方を見ると、黒煙を出しながら俺達の頭上を通って一気に下降して行くのが見えた。
「ご主人様!早く艦内に侵入しましょう!このままですと銃座によって殺られます!」
「そうだな。急いで中に入ろう!目標は艦橋の制圧だ。行くぞ!」
M240G軽機関銃を構えながら艦内に侵入する。勿論敵さんも俺達の存在に気付いてる筈だ。ならば迅速に行動しないとな!
俺達は各々の武器を構えて行きながら艦内に侵入したのだった。
……
side 駆逐艦アーレイ 艦長バンクス
役目を果たした駆逐艦から火の手が上がり始める。修復は最早出来ないだろう。
「諸君、御苦労だったな。これより退艦命令をだせ。それから推進力のプロペラも停止させろ」
「了解です!総員に通達する。直ちに退艦せよ!繰り返す直ちに退艦せよ!」
艦内放送で全員に退艦命令が伝わる。
「私は全員の退艦が出来次第退艦する。さあ、急ぎたまえ!」
「「「「了解!」」」」
そして誰もが甲板上に行ったり破損した穴から脱出して行く。
私も艦橋から退出しようとする。しかし、最後に艦橋内を見渡す。この駆逐艦であの航空戦艦に肉薄出来た。彼等を届ける任務が遂行出来た時点で、我々の勝ちだ。その勝ちを取る事が出来たのも他でも無い、この駆逐艦アーレイのお陰だ。
ザッ!
私は最後に敬意を持って艦橋に向かって敬礼したのだった。共に戦ってくれた戦友に対して。
side out




