47 ラリア連邦内乱4
突如現れた漆黒の航空戦艦が砲撃して来た。凄まじい轟音、そして爆発音。更に何かに誘爆したのか連続して爆発音が聞こえた。
「や、やりやがった。こんな事したら戦争は確実だぞ」
いや、相手がアーカード帝国だと知っているのは俺達だけだろう。それに相手がアーカード帝国だと実証出来るのは、今の所捕虜だけだしな。
「ご主人様。僭越ながら、この場から撤退する事をお勧めします。敵は間違い無く準備万全な状況で攻勢に出ています。最初の暴動、軍の動きの遅さ、更に航空戦艦の侵入を許す等を考えれば上層部に内通者も居るでしょう」
「そうね。残念だけど、今のラリア連邦はもう駄目よ。こんな後手にしか対応出来ていない……ううん、後手ですら満足に対応出来てないもの」
スピアとローラは逃げる事を提案する。だが、今逃げたら王都に居る民間人達はどうなる?知り合ったウィリスさんやローレンツさん達は?無事に逃げれるのだろうか?
俺はサラさんを見る。何故見たのかは分からない。ただ……何かを求めて見たのだろう。
「ふむ、確かにスピアとローラの言う通り逃げた方が良いだろう。我々に出来る事は然程有る訳ではない」
そりゃそうだ、普通はその考えが正しいんだ。こんな所で戦って死んでしまったら割に合わないからな。
「本当に俺達にやれる事は無いのか?」
「シュウ君……君は優しい子だな。その気持ちは中々持つ事は難しい事だ」
ヘルメット越しだが、サラさんに頭を撫でられる。
「私は転移魔法が使える。それであの航空戦艦に乗り込む事も考えた。だが魔力消費が激しい上、距離が有り過ぎる。それに航空戦艦に乗り込めたとしても、魔力切れで身動きが取れ無くなるだろう」
結局無理な事だと言う事が分かった。なら、そんな中でやれる事をやって行こう。
「分かりました。なら撤退しながら敵を倒して行きましょう。少しでも民間人の逃げる助けになりたい」
「そうか。なら私も協力しよう」
「サラさん……ありがとうございます」
俺はサラさんに頭を下げる。俺の我儘に付き合って貰うのだから。
「ご主人様!私もお手伝いします!」ズイッ
「私も手伝って上げるわ!感謝しなさい!」ズイッ
俺とサラさんの間に無理矢理入って来るスピアとローラ。別に無理して入って来なくても良いんだよ?
「ああ、ありがとうな。よし!なら行動開始だ!」
冒険者ギルドに王都から逃げる事を伝える。しかし冒険者達と民間人達はその場に残るらしい。どうやら此処が彼等の故郷だからだそうだ。なら逃げ遅れた民間人とかはギルドに行く様に言う事にする。そちらの方が安全だろうからな。
ギルドを出て空を見上げる。未だに航空戦艦からは砲撃が継続されている。そしてラリア連邦も駆逐艦1隻に損傷している巡洋艦3隻が応戦している。だが、不思議な事に王都の街には砲撃していない様に見える。勿論流れ弾は来るが、意図的に砲撃してる感じはしない。それなら別に構わない。兎に角脱出する事を優先する。
「この先に公園がある。其処からなら早く出れる筈だ」
サラさんに促されて付いて行く。途中暴徒達と鉢合わせするが、全て倒して行く。スピアが気配無く敵に近付き背後から1人1人消して行く。ローラとサラさんは精霊魔法で纏めて吹き飛ばして行く。俺とクロもUMPを使い市街地戦を行なって行く。
「しかし、ガラの悪い連中しか居ないな。もう黒幕連中は逃げたんだろうな」
「その様ですね。しかし、お陰で撤退は難無く行えそうです」
「そうね、流石にあんな航空戦艦が居る場所に何時迄も居たく無いわね」
確かにな。それから途中何人かの民間人や冒険者を見つけ、冒険者ギルドに向かう様に伝える。俺達が通って来た道なら少しは安全になってる筈だ。
しかし、公園に向かう途中影が走る。上空を見ると航空駆逐艦が煙を出しながら墜落していた。そして轟音と振動が響き渡る。
「駆逐艦が堕ちたのか。仕方無い、兎に角広場に向かおう。可能なら駆逐艦の乗員も助けたい!」
「やれやれ、シュウ君も中々無茶を言うな。だが、先程の轟音で周りの暴徒共が寄って来る可能性は高い。なら、其奴らを倒そう」
流石サラさん!何だかんだと言って付き合ってくれる!惚れそうだよ///
くだらん事を考えながら広場に向かいつつ駆逐艦の元に向かう。そして広場のど真ん中に駆逐艦が墜落していた。しかし、思ってたより破損してる様には見えない。
「不時着したのかな?」
「そうみたいだな。ん?やれやれ、団体様の御到着の様だな」
暴徒共の集団が駆逐艦に向かっていた。しかし、駆逐艦も何もしない訳では無い。銃座から銃声が鳴り響く。更に魔法も撃ち始めて反撃している様だ。
「俺達も援護しよう。駆逐艦の中に侵入されたらマズイだろうし」
「畏まりました。それでは行って参ります」
「私は駆逐艦の上に乗るわ。其処から狙撃するから」
スピアは暴徒に接近、ローラはSR-25狙撃銃で狙う為駆逐艦に乗り込む。
「さて、私もやるかな。シュウ君は私の側から離れない様にな」
「分かりました。では、自分も早速スピアの援護と行きますか」
サラさんは剣と魔法を使い、クロは後方警戒をする。俺はM240G軽機関銃で暴徒共を掃討するのだった。
……
暴徒共を掃討した後、駆逐艦の中から乗員が手招きしていた。俺達は周りを警戒しながら駆逐艦に乗り込む。
「援護感謝します!艦長が呼んでいます。案内しますので付いて来てください」
そう言って俺達を艦内に案内しようとする。俺は皆んなを見るが頷くだけだったので、付いて行く事にした。艦内は慌ただしくなっている。消化作業や修復作業の為かなりの修羅場になっていた。誰もが必死に動いており、戦意は失っていなかった。そして俺達は駆逐艦の艦橋に案内された。
「艦橋!先程援護をして頂いた方達を呼んで来ました!」
「御苦労だったな、下がって良いいぞ。私は駆逐艦アーレイの艦長のバンクスだ。先程の援護感謝する。それで君達は冒険者なのだな」
壮年の男性が此方を見ながら感謝の言葉を言う。
「そうです。自分はシュウ・コートニーと言います。こっちは仲間達です」
「ほう、中々綺麗な方達が揃っているな。さて、私はこれより艦を放棄しようと思っている。従って乗員を安全な場所に誘導したいと考えている。出来ればその手伝いをして欲しいのだ」
艦の放棄か。そんなに状況は悪いのだな。
「失礼ですが、貴方達が護るべき国や国民を見捨てるのですか?」
その時、サラさんが艦長のバンクスに睨みながら質問する。
「だが、我々では最早どうする事も出来無いのだ。あの航空戦艦に何かしらの形でダメージを与えれるならやる。しかし、この艦ではその火力を届かせる前に撃墜されるだろう」
バンクスは苦渋に満ちた表情をする。
「我々は軍人だ。国を護る為ならどんな事でもする。例えこの艦で突撃しろと言われればする。だが敵は強大な存在であり、更に外部だけでなく内部にまで居る始末だ」
バンクスは帽子のツバを目元まで下げる。
「無念だよ……何も出来無い無力感に包まれるのはな」
艦橋が静かになる。外からは未だに砲撃音と爆音が響き渡っている。
「そう言えば、サラさんの転移魔法はどの位まで行けますか?」
「ん?そうだな、私の魔力全て使って1キロメートル行く位だろう」
「なら外部の魔力、例えば魔石から魔力を使って転移魔法使えますか?」
「勿論使えるぞ。だが、それ相応の魔力が必要になる」
それ相応の魔力なら有るじゃないか。かなり賭け要素が大きいけどさ。
「バンクスさん、この艦を放棄する前にもう一仕事やって欲しいのですが」
「何か案でも有るのかね?」
「この艦で、あの航空戦艦に近付いて欲しいんです。最低でも1キロメートルは近付く必要は有ります」
「先程のダークエルフが言っていた事だな。だが、その後は如何するつもりだ?仮に近付いて乗り込んだとしても、ダークエルフの魔力切れは必須だぞ」
その通りだ。だからこそ賭け要素が大きいんだ。
「駆逐艦に搭載されてる魔力をサラさんに下さい。そうすれば転移魔法を使っても大丈夫な筈です」
そう言った瞬間、バンクスさんは目を瞑る。
「我々は捨て駒に近い形になる訳だな。確かに駆逐艦と言えども貯蔵されてる魔力は多い」
「そうです。それに、元々この駆逐艦を放棄する予定だったのでしょう?ならば最後に一仕事して欲しいなと」
「成る程な……」
バンクスさんは暫く目を瞑る。
「ねえ、本気でやるの?仮に乗り込んだとしても脱出は如何するのよ?」
「そこはサラさんの転移魔法で脱出さ。脱出用の片道切符は用意出来た訳だからな。それより、勝手に決めちゃったけど大丈夫なの?」
ふと気になり皆を見ながら聞く。
「まあ、見捨てるのも気分悪いものね。私は別に構わないわよ?」
「私はご主人様に従いますので」
「シュウ君らしいと言えばらしいからな。今回は協力しよう」
「プキャ!プキャ!」
お前達……俺の我儘に付き合ってくれてありがとうな。
「其方の話は纏まった様だな。此方も覚悟は決めたよ。君の提案に乗ろう」
「艦長!宜しいのですか?」
「元々艦を放棄する予定だったのだ。なら、この艦の魔力ぐらい全てくれてやろうでは無いか。それに、我々は脱出用のパラシュートが有るからな」
バンクスさんは此方を見ながら少し笑う。そして姿勢を正す。
「我々は君達を不明航空戦艦に何としてでも運んで見せる。それまで魔石がある場所で待機していてくれ。副長、機関室に繋げてくれ」
そう言うとバンクスさんは機関室に居る人に連絡を取るのだった。
「それでは魔石設置場所まで案内します」
「はい、宜しくお願いします」
俺達は魔石設置場所に向かう。ラリア連邦とは無縁だが、見捨てたく無いのは嘘偽りの無い事実。なら、俺はその思いを貫き通して見せる。
side out
side 艦長 バンクス
『そんな無茶な事出来ませんよ!大体、先程の戦闘でも機関にかなり負担を掛けてるんです!人手も足りて無いのですから無理です!』
「確かに君の言う通りだよ。だがな……我々ではあの航空戦艦に勝てない。しかし、我々の代わりに戦う者達が居るのだ!本来なら我々がやらねば成らない事を……我々の代わりに彼等に託すしか無いのだ!!!」
私は機関士に己の無力感を伝える。
『艦長……』
「私は、この駆逐艦アーレイを放棄する事も考えた。だが、最後まで軍艦として……我々軍人としての役割を全うする機会を得られたのだ。無茶をしても構わない。機関に負荷を掛けても構わん……だが、何としてでも……あの航空戦艦に一矢報わなければ成らんのだ!」
今も悠々と上空を飛行している漆黒の航空戦艦。我々の攻撃をほぼ無力化する装甲に高い機動性、更に高い火力も装備している。だが、何時迄も好き勝手されてたまるか!
『分かりました。1時間……いや、30分時間を下さい。他の被弾箇所の修復作業も最小限で行います』
「出来るのか?」
『勿論です!ただし、この駆逐艦は完全にスクラップに成りますが宜しいですよね?』
「構わん。責任は全て私に有るからね」
『了解しました!直ちに作業に掛かります!』
そう言って機関士からの通信は途切れる。
「副長、艦内放送の準備を」
「はっ!了解しました」
暫く待ち艦内放送をする。
「総員に通達する。これより30分後に再度離陸する。そして敵航空戦艦に肉薄する事を決定した。その後、この駆逐艦アーレイを放棄し脱出を行う。よって、全員脱出用パラシュートの準備をする様に。我々ラリア連邦軍人としての意地を奴等に見せてやろう。王都ミスティにちょっかい掛けて来た事を後悔させてやろう!!!諸君達の奮戦に期待する!!!」
私は自分の思いの丈を全員に伝える。航空戦艦は現在沈黙している。味方の巡洋艦も有効射程に入れていないのだろう。そして私は再度漆黒の航空戦艦を睨み付けるのだった。




