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次回の続きは8月中旬ぐらいからにしま………
と思っていましたけど、キリが悪いのでもう少し続くんじゃよ。
魔物を振り切る頃には日が傾いていた。バイクを収納してから安全地帯に戻る。他の冒険者も続々と探索を中断して戻って来ている様だ。そんな中、長蛇の列が出来ている所があった。誰もが並んでいるのだ。先頭を見てみると白い服装に身を包んだ人達が呪文を唱えていたのだ。
『その身を蝕む悪気を浄化せよ プリフィケーション』
如何やら神官が放射能に汚染された冒険者の身体を綺麗に浄化している様だ。しかし、魔法で放射能を浄化するなんて凄いよな。まさにファンタジーだな。暫く神官の浄化作業を見ていると後ろから声を掛けられる。
「よう、お前さんは新入りか?浄化は済ませたか?ちゃんと浄化して貰わないと危ないぞ」
振り向くと6人パーティの冒険者達が居た。多分俺が列に並ばずボーッと見てたから声を掛けたのだろう。
「え?あぁ、そうですね。浄化は幾ら位しますか?」
「金貨1枚はするよ。だが、あの金額は間違い無くぼったくってるよ。因みに彼処で探索物を換金出来るぞ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってから換金場所に向かう。指輪とか結構あるから交換しよう。指輪を1つ取り出す。うん、やっぱり呪われてる感があるな。俺は指輪を換金場に持っていく。換金場は結構頑丈な作りになっていた。多分荒くれ者が多数居るから頑丈にしてるのだろう。
「すみません。この指輪の換金をお願いします」
「はい、分かりました。少々お待ち下さい」
指輪を渡し暫く待つ。それから金貨2枚出て来た。指輪のダイヤが小さいから妥当な値段かな?コレで金貨は手に入れたので良しとする。仕方無く行列に並び順番が来るまで待つ。それから金貨1枚を支払い一箇所に集められる。そして若い男性神官が出て来て浄化を行っていく。PDAで体内の放射能を確認する。
「確かに放射能は無くなってるな。放射能、魔法に負けちゃったよ」
ファンタジーも馬鹿に出来んな。それから出店を見て回りながら食事を済ませる。ただ、風呂は無かったのが残念である。
「お、さっきの新入りだな。無事に浄化は済ませたみたいだな」
其処には先程の6人の冒険者パーティの人達が居た。男女3人ずつに分かれており、パーティ構成もバランスが取れてる感じに見える。
「さっきの指輪何処で手に入れたの?この辺りじゃ無いわよね?」
ちょっと際どい格好の女性が話しかけて来る。しかし、残念ながら貧乳気味である。
「放射能…毒の空気が強くなってる場所に有りましたよ。ただ、オークやゴブリンなどの魔物も大量に居ましたけど」
「やっぱりね。ただ、あんまり無茶しちゃダメよ?死んでしまったら意味無いから」
「所でお前さんは何でこんな場所に?依頼で来たのか?」
「いや、ランク上げ試験で来ました。因みに自分はDランクですけど」
すると全員が驚いた表情をする。
「それは本当か?中々運が無い奴だな。まあ、頑張れよ。そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はプラットだ。このパーティ『暁の鐘』のリーダーをやってるや」
それからパーティの自己紹介をしてくれた。
リーダー 中衛 プラット 男性
サブリーダー 前衛 シアン 女性
遊撃 ラッツ 男性
前線 アーレン 男性
後衛 ナオミ 女性
神官 ヨランダ 女性
「自分はシュウ・コートニーと言います」
「まあ、一応先任からの忠告だ。あまり欲を出し過ぎるなよ。じゃないと死ぬからな」
「大丈夫ですよ。明日病院の探索したら引き上げる予定ですから。唯、魔物の数が多かったので最悪諦めますよ。それに自分はランク上げ試験も成果を出せば良いだけですしね」
「病院?古代の病院なのか?」
「そうですよ。この通りの奥の方に大きい病院有りましたよ」
俺が指を指しながらそう言うと、彼等は目を合わせる。
「そうか。まあ、あんまり無茶はするなよ?」
「はい、忠告感謝します。それでは」
俺はお礼を言って彼等から離れる。なんだ、意外とマシな冒険者も居るじゃないか。少しホッとしながら簡易宿に泊まるのだった。
……
side パーティ『暁の鐘』
「おい、さっきの話聞いたか?」
「えぇ、ばっちり。あの子も馬鹿よね。普通そんな話は黙ってる物なのに」
「俺達にはミランダも居るからな。毒の空気の心配は無いしな」
「なら、明日の朝一に行くぞ。流石に夜の廃墟探索は危険過ぎるからな」
彼等の目には欲望が見え隠れしていた。
「大体、何時迄も廃墟探索は飽き飽きしていた所だったからな。やっと解放されると思うと気が楽になるぜ」
「あのシュウて奴より早くに病院に行って、全て奪って行くぞ。それに他の連中も聞き耳立ててるみたいだしな。魔物供は奴らにくれてやるよ」
「うっわ〜、リーダー考えがエグいね」
仲間がリーダーを茶化しながら言う。
「よし、明日に備えて早めに休むぞ。この薄気味悪い場所から出て行く為にな」
それから暁の鐘のパーティメンバーも各々に休んで行く。そして、誰もが欲に塗れた目をしていたのだった。しかし、病院を狙うのは彼等だけでは無い。この話を偶々聞いてしまった冒険者は他の冒険者達に情報を売ってしまったのだ。古代の病院にはヘルスチャージが大量にある。なら、危険を承知で行くのは当然だった。
side out
side シュウ
次の日、バイクを出して一気に病院近くまで行く事にした。バイクの音でグール化した魔物が寄って来るから、病院まで着いて来させない様に離れた場所に止める。
「そろそろ防具服に着替えるかな」
PDAからRADディフェンダーを取り出して飲みながら耐放射能防具服を着る。視界が悪くなるし、重くなるが防具服のお陰で放射能に対して万全の態勢で行ける。それから病院に向かって行く。しかし、病院に向かう途中、様子が可笑しい事に気付く。人の声が聞こえるのだ。怒声や悲鳴が病院の方角から聞こえる。
「もしかして、病院の場所がバレて居たのかな?うーむ、取り敢えず行って様子を見てこよう」
慎重に歩を進めながら病院に向かうのだった。
side パーティ『暁の鐘』
「おい、まだ見つからねえのか?」
「この辺りは来た事が無いからな。だけどもう直ぐの筈だ」
「なら急ぎましょう。他の冒険者も来るだろうし」
シュウが指差した姿は他の冒険者達も見ていた。そして見ていない者達も情報を買って知っている。つまり、競争率が高くなってしまったのだ。更に悪い事に犯罪奴隷の集団が廃墟の奥の方へ走って行く姿も目撃されていた。
未探索地には一攫千金を狙ってる冒険者が殆どだ。今回は病院がある。という事は古代の医療品が大量にある可能性が高い。ヘルスチャージ1つでも金貨10枚するからだ。
「チッ!あのシュウて奴は本当の馬鹿野郎だぜ。俺達だけに聞こえる様に言えば良かったのによ!」
「我慢して。サッサと病院に向かうべき。ヘルスチャージだけでも回収したい」
「分かってる。ヨランダ、定期的に浄化しろよ」
「なら早く行きましょう。ヨランダの魔力は多いけど無限じゃ無いし」
しかし、彼等の目の前に他の冒険者達が病院に向かって走って行く。それを見た暁の鐘のメンバーも焦りが出る。自分達も遅れを取る訳にはいかない。誰もがそう思ってしまう。
「俺達も走るぞ。このままだと出遅れちまう」
リーダーのプラットの指示により全員が病院に向かって走って行く。しかし、彼等は忘れてしまったのだろうか?先任としてシュウに忠告した言葉を。
『欲を出し過ぎるな』
…と。
side out
side シュウ
「うわー、病院に近付くのは無理だな」
総合病院が見える所から様子を見て呟く。何故無理かって?冒険者達とグール化した魔物が入り混じってとんでもない事になっているのだ。然も、犯罪奴隷まで居る始末だ。
「オラァ!死ねや魔物が!」「グガアアアア!」「く、来るなあああッ!ガッ!」「お宝はオレ達のもんだ!」「お前らにやるもんは何も無えよ!」「貴様ら裏切りッ!」「これで全部俺のもんだ!あは、あははは!」
冒険者達とグール化した魔物同士の争いだけでなく、人同士の争いまで勃発しているのだ。正に欲を出し過ぎた結果だな。
「ん?あれは、『暁の鐘』の人達じゃ無いか?」
双眼鏡とかスコープが無いから何とも言えないけど、多分そうだと思う。しかし、『暁の鐘』のメンバーも他の冒険者を押し退けて病院の中に入って行く。
「うーむ、もしかして俺が総合病院の事を教えたからこうなった?」
だとしても殺し合う場所に早変わりさせる事は無いだろうに。病院なのに怪我人だしてどうするんだよ。
「取り敢えず他の場所を探すか。個人経営の病院位あるだろうし」
そうと決めれば耐放射能防具服を片付けてからバイクを出して他の場所を探す事にした。バイクの音も煩いが、彼等の怒声や悲鳴の方がグール化した魔物共には魅力的だろう。病院で争う声を聞いて思う。
「病院は人を救う場所だというのに争い殺し合う場所になるとはな。皮肉としか言えんな」
そう呟き他の場所を探したのだった。
……
総合病院から離れた場所でバイクを収納して個人経営の病院を探す。すると運が良い事に簡単に見つけれた。しかし、大分放射能が高い場所になっている。急いで防具服を着込む。それでも少々厳しい所だが。
「考えたらヘルスチャージとか汚染されてるんじゃ無いかな?」
取り敢えず病院の中に入って行く。中は静かなものだ。周りを見渡して見る。棚とかに置いてある薬品などは全て無くなっている。更に病院内の奥を探索する。時々グールとかが居るが問題無くM16A4で始末して行く。そして頑丈な扉を見つける。しかし、ダイヤル式の鍵と普通の鍵が掛かっており開きそうに無い。
「こんな時は医院長の部屋とかにある筈」
グールをM16A4で始末しながら医院長の部屋を探す。そして部屋を見つけて中に入る。部屋の中は思ってたより綺麗な物だった。部屋の中には風化してボロボロの白衣を着た白骨死体がある。そして、白骨死体の手元には日記が有った。
7月14日
最近隣町に新しいゴミ処理施設が完成した。自分達の町にゴミ処理施設が出来なくてホッとしたよ。ただ、コッチにまでゴミの匂いがしたら速攻でクレームは入れるつもりだがな。
7月25日
この町は平和な物だ。世間では戦争が始まるのかとか言われてる様だが。少なくとも後5年は冷戦状態だろう。それ以降は分からんがな。
8月9日
この時期は熱中症とかが多いが、熱中症とは別の体調不良を訴えてる患者が多い。食中毒の可能性があるかも知れないな。
8月20日
熱中症患者より原因不明の体調不良の患者が多い。食中毒の症状では無い為何かが変だ。私の医師としての勘がそう囁く。
9月10日
未だに原因は不明だ。然もこの街にも同じ症状を訴える人々が増えて来ている。早く原因を追求しなくては。総合病院の医院長と話をしてみるか?
9月18日
話にならなかった。患者が増えて儲けが出て良いじゃないかとか抜かしやがった。強欲な奴だと思っていたが、此処まで愚かな奴だったとはな。いつか社会的に始末してやる。
11月15日
原因は分からない。しかし、日記を読み返してある事気付いた。あのゴミ処理施設が出来てから体調不良の患者が増えて来てないか?
12月3日
ゴミ処理施設の近くに行って確信した。間違いない。放射能が漏れてるじゃ無いか。このままだと町を…病院を捨てる事になる。どうする?私の全てを捨てるのか?いや、それだけでは無い。他の人々の生活をも捨てさせる事になる。あのゴミ処理施設の責任者共が罪を認めない限りどうする事も出来そうに無い。
しかし、やるしか無いだろう。
12月24日
今日政府の人間が来て黙っておく様に言われた。ゴミ処理施設…いや、正確に言うなら秘密裏の放射能保管施設の事を公にするなと言われたのだ。対応はすると言っていたが信用出来ん。しかも代わりにこの町の全ての病院に大量の医療品と耐放射能用の部屋を用意するらしい。それで何とかする様に命令が来た。
最高のクリスマスプレゼントだよクソッタレ%¥$*=」〆|+€%#
以下解読不可
1月1日
扉のロック番号********
鍵はこの日記の最後のページに隠した。正直どうでも良い事だ。
以下白紙。
「医院長さんも苦渋の決断だったんだろうな」
日記の最後のページを開くと鍵が張り付いていた。その鍵を貰い医院長さんの死体に手を合わせる。
「結果的にこの町も放射能まみれになってしまったが、この病院にある医療品は頂きます。他の所も放射能だらけなので」
そう言いながら部屋を出る。そして部屋の鍵を開けて中を覗く。其処にはある程度の医療品が残されていた。それでも、1人で使い切る事は無い量を手に入れれたのは嬉しい限りだ。
「他の病院も見て回るか?いや、やめておこう。この量だけでも充分さ」
総合病院の光景を思い出して断念する。全てのヘルスチャージ、RADディフェンダー、RADキャンセルを回収する。更に包帯や消毒用アルコールなども回収する。
「さて、帰るか。宝石やアクセサリーは全て提出して医療品はやめておこう」
こうして俺の未探索地の探索作業は終了する事にした。後は王都ミスティに帰るだけだ。病院から出てバイクを出して跨る。最後に病院を振り返って見る。病院は散らかってはいたが、争った形跡は無かった。多分患者達を一生懸命救おうとしたのだろう。あの医療品の消耗具合を見るとそう思える。
最後に目を瞑り黙祷する。そしてエンジンを掛けてバイクを出したのだった。
side out
side パーティ『暁の鐘』
彼等は今総合病院の中にいた。周りが争っている中6人全員が生き残っているのは流石だろう。
「なあ、そろそろ引き上げようぜ?このままだと俺達も死ぬぜ」
「待ってよ。まだヘルスチャージがちょっとしか回収出来て無いのよ?こんな危険な毒の空気の中まで来て、たったこれだけのヘルスチャージなんて割りに合わないわ」
「ダメ、そろそろ引き上げる。私の魔力も限界が近い。それでも残るなら私は戻る」
「1人で戻る気?私達以外、全員敵しか居ないのよ?」
しかし、探索する派と撤退する派で分かれてしまっていた。
「私も撤退に賛成だよ。幾ら何でもこの場所は危険過ぎる。さっきから誰かに見られてる気もするし」
「俺も見られてる気がする。クソ、これだから古代遺跡は嫌いなんだよ。サッサと成仏しろっつうの!」
「私も同じ。だから早く逃げよう」
サブリーダーのシアン、遊撃のラッツ、神官のヨランダは撤退派。然も誰かから視線を感じている様子だ。
「だが、あの頑丈な扉を開ければ必ず高度な薬品が手に入る筈だ。それにヘルスチャージ以外の薬品も手に入る可能性が高い」
「そうだぜ?扉を開ければお宝が大量に手に入るぜ。あんだけ頑丈な扉なんだ。多少の傷には目を瞑ろうぜ?」
「そうよ!だから全員の魔力と魔石を私に預けて頂戴。そうすればAクラスの火力は出せる筈よ」
リーダーのプラット、前線のアーレン、後衛のナオミは賛成派。然もナオミには扉を壊す手段を提案する。
「それは危険。私達の魔力をナオミが扱いきれるとは思えない。それに全員魔力は少ない」
「そうだぜ。大体ナオミは肝心な時に失敗する時が多いじゃねえか。今回は諦めろよ。後でデザート奢るからさ」
「何よそれ!私の援護で助かった時もあるでしょう!後デザートは貰うわ!」
ヨランダとラッツの言葉に言い返すナオミ。そしてラッツからデザートを奢って貰う約束を果たす。しかし、悠長に話してる時間は無かった。誰かが近づいて来ていたのだ。冒険者、犯罪奴隷、グール化した魔物が来ても結果が変わらないのは全員が理解していた。
「仕方ない、迎撃するぞ。こんな連中に殺されるなよ!」
全員が覚悟を決めて戦う。彼等の前に現れたのはグール化した冒険者達だった。理性を失いただ食欲のみを満たす為に彼等に迫って行く。
最初はグール化した冒険者達を見て驚いたが、直ぐに頭を切り替えて戦闘に入る。互いに連携しながら敵を倒して行く。敵も一方の通路からしか来なかった為、シアンとアーレンが盾役になりプラットとラッツは2人をフォローしていく。そしてナオミは後方から魔法で敵を纏めて倒していく。ヨランダも傷付いた者達を回復させていく。暫くして敵を倒し切り一度体制を整える。
「皆良くやってくれた。冒険者の死体から魔石とかヘルスチャージを回収しよう。此奴らには必要の無い物だからな」
全員が回収作業に入る。しかし、時間に余裕は無い為サッサと作業を進めて行く。
「あっ!マジックポーションが有るわ!ヨランダにこれ上げる…ヨランダ?」
ナオミがヨランダにマジックポーションを渡そうとするが居なかった。
「ねえ、ヨランダ何処行ったの?」
「何?ヨランダ!何処だ!」
リーダーのプラットが声を出すが返事は無い。全員が辺りを見渡してヨランダを探すが見つから無い。
「マジでヤバイぜ。ここは一度撤退しよう」
「ヨランダを見捨てる気?私達仲間でしょう!」
「見捨てるんじゃ無えよ。体制を整えてから再度探すだけだ。それに、さっきから嫌な予感がしてならねえんだよ。妙に静かだし」
暫く如何するか話しをする。しかし、時間は限られている。今こうして話し合ってる暇は無いのに。
「もういい!私1人でも探しに行くわ!」
「落ち着けナオミ。勝手な行動は許さん。今は撤退する。そして体制を整えてからもう一度探す」
プラットが全員に向けて言う。頷く者や不満気な者、安心した表情をする者も居るが兎に角引き上げる事を選んだのだ。
「よし、引き上げるぞ」
全員が引き上げ様とする。しかし、サブリーダーのシアンが動かない。
「…?如何したシアン。サッサと行こうぜ?お前も撤退したかっただろ?」
「う…くっ…あ、足が動かないんだ。何かに掴まれてる」
全員がシアンの足を見る。何も付いてない。しかし、ズボンの皺が手の形に動いていた。それも一つや二つじゃ無い。
「おいおい、こんなの聞いて無いぜ?」
「は、早く助けてよ!ねえ!」
シアンの言葉に全員がハッとする。そしてシアンを引っ張るが動かない。そんな中、暗い廊下から人影がゆっくりと近づく。最初に気付いたのはナオミだった。
「ヨランダ…?ヨランダなの!皆ヨランダが居るわ!何処行ってたの!心配したじゃ無い!」
ヨランダは目を瞑りながら、ゆっくりと近づく。そして、
『ねえ、何で私を見捨てるの?』
「ヨランダ?何を言ってる。私達は見捨てる事なんて…ねえ、皆?」
「そうだぜ。仲間を見捨てる訳ないだろ?」
『嘘…嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘ウソダアアアアアアアア!!!!!!』
その声は普段大人しいヨランダが出す声では無かった。ヨランダはゆっくりと近づく。
『辛かった…誰も助けに来なかった…警察も軍も。助けに来なかった。でも、此処に居れば寂しく無いよ?だから…』
ヨランダの目から血涙が流れる。いや、体中の穴という穴から血が出始めている。そんなヨランダを見て全員が硬直してしまう。
『ダレモ…ニガサナイ…アハ、アハハハ、アハハハハハハハハハハハ!!!!!!』
ヨランダの後ろが歪んで見える。その中から多数の呻き声や悲鳴、助けを求める声が聞こえる。
「う、うわああああああ!!!」
ラッツが悲鳴を上げて逃げる。そして全員が逃げ出そうとする。しかし、シアンはプラットの腕をしっかりと握っていた。
「ま、待って!助けてよ!私「離せ!」……え?」
「離せ!お前はどのみち助からん!なら離せ!」
「ふ、巫山戯んな!あんたリーダーだろ!なら最後まで私を助けな!今迄の借りを此処で返して「離せええええ!!!」…え?あ、ああああ!う、腕がああああ!!!」
信じられない事にプラットはシアンの腕を剣で斬り捨てたのだ。そしてシアンを見捨てて走り出す。
「プラット!!!あんた、絶対に許さないからな!!!絶対に、絶対に!!!『マズ…ヒトリメ』ひっ!や、やめ…いやああああああああああああ!!!」
シアンの悲鳴を背中越しに聞きながら走るプラット。しかし、絶望は終わらない。魔物や冒険者、犯罪奴隷がグール化した中を行かなくてはならない状況。然もパーティはバラバラに行動している。つまり、最早生きて帰る事が出来ない。
「クソ!退け!グール風情が!犯罪奴隷が俺に触るんじゃ「グガアアアア!!!」アグッ!や、止めろ!はなあああああああ!!!」
ラッツはグール化した犯罪奴隷達に食い殺される。
「こ、こんな事になるなら、探索なんてするんじゃ無かった「バキッ」え?うわああああああ!!!」
アーレンは床が抜けてそのまま暗闇の中に消えて行く。
「い、嫌よ。こんなの、嫌…ゴホッゴホッ…はあ、はあ」
ナオミは部屋の中に隠れている。しかし、放射能はナオミを蝕み続ける。グール化するのも時間の問題だ。
「クソクソクソ!!!全部あの小僧の所為だ!!!絶対に生きてあの小僧に借りを返して『ネエ…カリヲ…カエシテモラウワヨ』っ!シ、シアン!?や、やめろ!来るな!!!」
プラットは剣を振り回す。しかし、シアンの姿は見えない。そして、気が付けばあの頑丈な扉の前に来ていた。そして、その扉がゆっくりと開いて行く。その中から多数の透明な手が出て来てプラットを掴んで行く。
「ッ……フッ………ウッ……!!!」
口元を押さえられ声が出せないプラット。ゆっくりと扉の中に連れられて行く。
「ッ!!!」
プラットが最後に見た光景は、大量の白骨体のみが有る部屋だった。医療品なんて1つも落ちてない、屍だけが残されてる部屋だったのだ。そう、此処の総合病院の医院長は国から受け取った薬品を大量に横流ししていたのだ。つまり、彼等の行動は無駄だったのだ。そして、ゆっくりと閉まる扉。扉が閉まり切る時には以前と同じ静かな病院が佇んでいたのだった。
side out




