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襲撃から数日が経つと、色々な人達がウィリスさんの所に訪れていた。奴隷商人達から貴族や成金に金貸や貿易商の人達等、様々なお金持ちや使いの人達がお見舞いに来ていた。尤も、一番心配していたのは高級奴隷オークションに出品出来るかどうかだったけど。そんなのを尻目に思う。後1ヶ月もしない間に奴隷オークションは始まるのだなと。
そもそもこの奴隷オークションは大小様々な奴隷商人が商品をより高く売る為の行事であり、自分の奴隷の質を見せて宣伝する目的もある為大々的に行われる。つまり一般の奴隷から犯罪奴隷、更に高級奴隷も多数出品される訳だ。
この奴隷オークションは一種のお祭りみたいな物で、このラリア連邦の目玉行事と言っても過言では無い。
そして、俺がウィリスさんから貰った招待状。これは高級奴隷を落札する為の物である。そして、実はこの招待状結構なレア物である。普通は最低でも金貨30枚を決められた奴隷商人へ支払い高級奴隷落札権を買う。そしてそれから落札していくのだ。しかし、この招待状は先ず前列に指定席がある。より良く奴隷を見る事が出来る為。そして、招待状には限りがある。前列は座れる数が決められてるからだ。普通に高級奴隷落札権を買ったとしても前には行けないし、大きな声を出さなければならない。しかし、競り落としを決める人が聞こえない場合もある。だが、招待状はそんな心配は無い。だって名高い奴隷商人達が招待した人達を蔑ろにする訳が無いからだ。
「偉いもん貰っちまったよなぁ。これ売ったら幾らになるかな?」
プレミア価値も合わせて金貨50…いや、100枚以上は行くんじゃ無かろうか?まあ、売らないけどさ。
暫く客人達を見ながらそんな事を考えている。何せ、今の所やる事無いんだよな。基本的に俺はウィリスさん達とは無関係だし。なので、ウィリスさんの側にはスピアさんと護衛達が守ってるのだ。そんな中、立派な一団が入って来た。恐らく貴族だろうが他の人達とは雰囲気が違った。
年は30代前半だろう。茶髪をオールバックにして、雰囲気は正に刀と言うぐらい鋭い感じだ。そして服装も正装姿で貴公子と言う言葉が似合う男性だった。
「これはアトリー公爵様が直接来て頂けるとは、光栄にごさいます」
「ルピノか。何、偶々近くを通ったからに過ぎん。だが、怪我とかは無さそうだな」
暫くウィリスさんとアトリー公爵が話をする。
「スピアよ、久しいな。お前も無事の様で何よりだ」
「アトリー公爵様もお変わりない様で」
「もう直ぐお前は私の物になる。その時は存分にサイレントラビットとしての力を示すが良い。そうすれば今より良い生活は保証してやろう」
「オークションまで1ヶ月程あります」
「1ヶ月など直ぐに終わる。荷造りは早目に終わらせておくのだな」
アトリー公爵はスピアさんにそう告げる。この人はスピアさんを買うつもりなんだ。
「ほう、貴様随分と綺麗な古代兵器を持っているな」
すると、アトリー公爵は俺の持つUMPを見つめる。
「その古代兵器幾らで売って貰える?金貨100でどうだ?」
「え?嫌です」
その瞬間、アトリー公爵は固まる。自分NOと言える人間なんです。
「貴様!アトリー公爵様に無礼な!?」
護衛が剣を抜く。俺は其奴に銃口を向ける。
「剣を離して頂けますか?出来れば撃ちたくない」
「ほう、貴様随分強気だな。私はボニフェース・アトリー公爵の護衛隊長だぞ?」
其奴は偉そうに言う。だから、言い返してやった。
「アトリー公爵家の護衛は教育が出来てない様だな。今この瞬間も、アンタは雇い主に恥かかせてるって知ってる?雇い主に恥かかせたく無ければ…剣を仕舞え」
「ッッ!!貴様!!」
其奴は殺気を漲らせ此方を睨む。俺はいつでも撃てる状態だ。一歩でも動いたら…撃つ。場が緊迫する。しかし、そんな中アトリー公爵は声を出す。
「剣を戻せ。私の品格が疑われる」
「はっ!失礼しました!」
アトリー公爵の一言で護衛隊長は剣を鞘に戻す。そして、アトリー公爵は俺を見る。
「随分と上手い言い方だったな。あの様な言われ方をされれば、私が止めざるを得ん訳だ。中々愉快だったぞ?」
「その人はアトリー公爵様の護衛隊長と言ってましたから。ですから、その地位を利用させて頂きました」
アトリー公爵から直接話し掛けられるとかビビるわ!勘弁してくれよ。俺のハートのキャパシティは広くないのよ!
「ほう、成る程な。なら私も今度から利用させて頂こう」
そう言うとアトリー公爵はドアに向かう。
「スピアよ、私がお前を競り落とす。これは決定事項だ。今の内に準備はしておけ」
そう言ってアトリー公爵は護衛を引き連れて出て行った。場が沈黙する。
「さて、諸君!次の客人を迎え入れよう。気持ちを切り替えてくれ」
ウィリスさんはそう言って次の客人を呼ぶ。しかし、俺はスピアさんの事を考えていた。
(あのアトリー公爵がスピアさんを買う。つまり、もうスピアさんには会えなくなる訳だ。なら俺がスピアさんを買う?無理だ、金が足りない。公爵家とか貴族社会じゃあトップに位置してるだろ?そもそも、奴隷を買う事自体が問題だろ?でも、このままだとスピアさんは…)
この考えがずっとループし続けてしまい、気が付けば来客は全て終わっていたのだった。
……
「はぁ、如何すれば良いんだ?」
夕日を見ながらそう呟やく。奴隷を買うと言う事は、極端に言えば人身売買すると言う事だ。勿論この時代には奴隷は必須な存在だ。店や公共施設、又は労働力として存在してる。更に言えば高級アクセサリーとしての価値まである訳だからな。
「買うとしても絶対に足りない」
手持ちは金貨720枚だ。スピアさんを買うとしても最低金貨600枚は必要だ。更に公爵が手を出すと言う事は金貨720枚は超える額は持ってる筈だ。
「銃を売る?それこそダメだ。銃は俺にとって生命線だ。銃が無くなれば俺は如何だ?無力な存在になるだけだ」
今までだってPDAと銃が有って生き残れた。その銃を無くすとなれば、俺は死ぬだろう。
「はぁ…ダメだ、考えても答えが出そうに無い」
結局、また頭を抱えて始めから考える訳だ。
「コートニー様、お食事の用意が出来ております」
そんな事を考えていると、スピアさんが呼んできた。
「あ、はい。分りました」
「それでは、行きましょう」
俺はスピアさんと一緒に食堂に向かう。
「あの、スピアさんは、その…アトリー公爵に」
何と言えば良いのか分からず、言葉が詰まってしまった。
「私はウィリス様の商品です。ですので、誰かに買われるのは必然です。ですが、アトリー公爵等の野心家に買われれば利用され続け、最後は捨て駒にされるでしょう」
なのに教えてくれるスピアさん。しかし、捨て駒かよ。
「スピアさんは、それで良いんですか?捨て駒なんて…」
「私は商品ですから。覚悟はしております」
スピアさんは凛とした声で言い切る。しかし何故だろうな、表情も変わってないにも関わらず悲しそうに見えてしまうのは。
(あぁ、そうか。ウサ耳がタレちゃってるのか)
スピアさんのウサ耳は、正直に今の内面を表してくれていた。
「そうですか。変な事聞いてすいません」
「いえ、お気になさらないで下さい」
スピアさんのウサ耳を見て決めた。何とかして助けたいと。
……
食事を終えてから庭に出る。そしてクロを頭に乗せて考えた結果、二つ案を思い付く。
一つ目は金貸から金を借りる。ただ、冒険者Dランクの無魔に貸してくれる金貸が居るかどうか。二つ目は高額な依頼を無理に受ける。ただ、金貨100枚超えの依頼があるかどうか。
「て、結局ダメじゃねえか!」
「プキャ!」
畜生、早速行き詰まったよ。1人で考えてると背後から人の気配があった。
「やあ、コートニー君。随分と悩んでる様だが?」
「あ、ウィリスさん。まあ…そうですね。色々悩んでますね」
「1人で考えても答えは出ない時もある。なら、私に相談してみては如何かな?力になれるか分からんがね」
ウィリスさんに心配されてしまっていた。だが、折角の好意なのだから聞いてみる。
「俺、1ヶ月以内にお金がどうしても必要なんです。最低でも金貨500枚は絶対なんです」
我ながら無茶な事を言ってるなと思う。
「金貨500枚か。流石にそれだけの高額な金は用意は難しいだろう。少なくとも私の手が届く範囲では無いな」
それはそうだろう。簡単に金貨500枚超えの依頼がある訳ない。
「コートニー君。今から言う事は独り言だ。良いね?」
(ウィリスさん?まさか心当たりがあるのか?)
俺は頷く。いや、頷くしか無い。
「工業都市メイフィスにアンダーグランドの入り口があるのは知ってるね?」
勿論だ。あのアンダーグランドは俺が見つけたから。
「現在アンダーグランドの通路確保をしようとしている。だが、メイフィスの最大戦力だったレイスガーディアンズに大きな被害が出た。よって、現在通路確保が滞っている訳だ」
「つまり、ギルドから出口までの確保が出来れば良いと?」
「うむ。勿論、敵性勢力の排除及び灯りを残す作業も必要だ。ほら、街灯に使ってる灯りを置いて行くか取り付けて行くのさ。アンダーグランドの化け物共は明るい光に近付かない傾向がある」
「成る程。灯り自体は支給されるんですか?」
「勿論だ。あの街灯は大した値段では無いからね。その程度ならギルドが負担するさ」
ウィリスさんの話を聞いて考える。何方の通路確保もかなり厳しいだろう。だが、やるしか無い。時間も余裕がある訳では無いのだ。それに、他に大金が手に入る依頼は無いだろう。後はメイフィスギルドのギルドマスターの…名前忘れた。
と、兎に角!交渉して最低でも金貨500枚を貰える様にしよう!
「ウィリスさん。情報をありがとうございます」
「なに、気にする事は無い。私は独り言を言っただけなのでな」
ウィリスさんは少し悪戯小僧みたいに笑う。
「明日、朝一で行こうと思います。ですので、ウィリスさんの護衛は…」
ウィリスさんは手を上げて止める。
「言わなくとも分かっている。ただ私が焚き付けて言うのは間違っているが、死ぬんじゃ無いぞ」
ウィリスさんは真剣な眼差しで言う。
「はい。分りました」
お互い自然と握手する。今思えば不思議なものだ。奴隷を良しと考えて無い俺が、高級奴隷商人のウィリスさんと親しくなっているのは。
だが、悪く無いな。
……
side スピア
私はコートニー様とウィリス様の会話を聞いていた。そして本来商品としての立場なら絶対にやってはならない事ですが、私はウィリス様を問い詰めた。
「ウィリス様、何故コートニー様にあの様な危険な情報を?」
「彼が求めていた事だ。それに、私が焚き付けなくとも他の危険な事に手を出していただろう」
「ですが!」
「スピアよ。お前が彼に好意を持っている事は知っている。そして、彼も君に好意を持っている。普通サイレントラビットに好意を持つモノは、残念ながら殆ど居ないだろう」
ウィリス様はそれを知っていながら何故?
「今の世の中、彼の様な存在は居ないだろう。彼の存在は現代に合っていない、異物その物だろう。私は彼がアトリー公爵とのやり取りを見て確信した。彼は確かな教育を受けている。それだけでは無く、明らかに高度な戦闘技術をも持っている」
ウィリス様はコートニー様が異端その物であると言い放つ。
「無魔でありながらアンダーグランドを二度に渡り生還した男だ。もしかしたら彼は古代人かも知れんな」
コートニー様が古代人?
「古代兵器に古代の遺物。なら、古代人が居ても不思議ではあるまい。スピアよ、もし彼が古代人だとしたら如何する?」
「愚問です」
考えるまでも有りません。
「私が奴隷として買われたのなら付き従います」
「そうでは無い。スピアよ、お前自身に聞いている。奴隷や商品としてでは無く、1人のスピアとしてだ」
「それは…」
私は考えます。もし、彼が私を買ってくれるなら。
彼との出会いを思い出す。初めて彼が人を殺した時、ありがとうと言ってくれた時、私の気配の消し方や戦い方を凄いと褒めてくれた時。彼ならきっと私をスピアとして見てくれる筈。なら答えは決まってます。
「それでも構いません」
「そうか。なら、彼を止めるで無いぞ。それと、明日朝一でコートニー君の専属では無くなる。良いな?」
私は唯頷くだけだった。
(コートニー様……どうか無理をなさらないで)
本当は貴方に買って貰いたい。でも、どうか生きて居て欲しい。唯、そう祈るぐらいしか出来ませんでした。




