22
アンダーグランドから脱出した俺達は、ローラの精霊を頼りに人里に繋がる道を教えて貰っていた。
「精霊て便利だな。俺には無縁の世界だけどな」
「確かにシュウは人間だから精霊との縁が無いわよ。それに、精霊に語りかけれるのはエルフぐらいだもの」
ちょっとドヤ顔のローラ。
「それにアンダーグランドから出たら精霊の存在をより強く感じる様になったのよ!このまま成長すれば、いずれは精霊と対話出来るかも!それに、今の私ならAランク以上の攻撃力ならあるわ!」
「ならもう一回アンダーグランドに潜るか?」
俺は冗談で言う。しかし。
「遠慮するわ。暫く暗い所には行きたく無い」
ドヤ顔がどんよりとしてしまった。
「あー、すまんすまん。暫くアンダーグランドのネタは止めとくよ。それよりだ!街までどの位掛かりそうだ?」
「え?そうね、今日は野宿確定よ!」
なんてこったい!残念過ぎる!
「仕方ないでしょう?こんな人の居ない所に出てしまったもの」
ローラは慣れてるのか涼しい顔だ。
「それより、この先に川があるわ!そこで体を洗いましょう」
身体を…洗うだと?つまり、覗きのチャンスですな!←
「あ、覗いたらライトニングブラスター打ち込むから見張り宜しくね」
ですよねー。
「分かりました」
この後お互い交代で身体を洗ったが、俺だけ新しい服に着替えたの気付いてローラはズルいと騒ぎ出す。
「シュウだけずるいわよ!私も着替えたい!」
「すまんなローラ!俺は男物しか持って無いんだ!」
「それでも貸しなさいよ!」
しかしローラよ、コレは男物なんだぞ?つまりだな。
「ちょっと!この服胸元と…その、お尻がキツイんだけど?」
「それは男物だから仕方ないだろ?」
何という事でしょう。ローラの豊かなお胸様が警察用防具を身に付けて谷間がバッチリ見えてます!しかもお尻も凄い事になっててもう…本当にありがとうございます!!!
この時程フェイスガード付けて良かったと思った事は無かった。
結局あの後チャックを下ろし、防具の位置を調整した。しかし、ズボンに関しては諦めて貰った。
「俺直せないもん」
「はあ、仕方ないわね。新しい服に着れただけでも良いか」
多分PDAなら直せそうだけど、絶対にやらん!こうして俺達はお揃いの警察用防具で街に向かう。しかし、ファンタジー要素の無い格好だなぁ。別に良いけどね。
小話
「と、所でさ…その、私達…今お揃いの服着てるけど。周りから見たらどう思われるかな?」
「普通に冒険者パーティにしか見られないだろう。いや、ローラもこのヘルメットとフェイスガードを付ければ完璧だぜ!」
「遺言はそれだけかしら?」
何故か右手に精霊魔法を展開して光り輝いており、更にキレ気味のローラが居た。この後ひたすら謝りました。
……
1日野宿した後、街に向かってる途中盗賊に出会った。
「へへへ、おい!お前ら武器を捨てな!女はコッチにこれば命だけは助けてやるぜ?」
気が付けば俺達は盗賊に囲まれて居た。
「あら?貴方達だけで私を捕らえれるとでも?笑わせてくれるわね」
ローラは不敵に笑う。俺もUMPを構える。だが、撃てる気がしない。人撃つ何て普通はやらない事だ。なのに、何でこんな簡単に撃たざるを得ない状況になる?
「ああ?この数が分かんねえのか!?然も弓兵も居るんだ!さっさとこっち来いや!!!」
こんな状況でも、俺の中の価値観が邪魔をする。
「ふふ、丁度いいわ!貴方達にAランク以上の火力をその身に味あわせて上げる!感謝しなさい!!!」
ローラの周りに光が集まり出す。
(ローラの反応が当たり前で有り普通の反応なんだ。異端なのはこの世界じゃ無く…俺自身なんだ)
そう、俺は結局臆病なだけだ。自分の手を汚したく無い唯の卑怯な奴なんだ。だってそうだろう?このまま放っておけばローラが盗賊を殲滅する。
「さあ!死ぬ最後にお祈りは済ませたかしら!?」
「ひ、お、お前ら!攻撃だ!此奴らを殺せ!!!」
盗賊は此方に突撃する。だから俺は…。
「すまん…」
UMPの引き金を引いた。
「ちょっとシュウ!何邪魔すんのよ!」
銃声が辺りを響かせる。ローラの怒鳴り声に盗賊の悲鳴が木霊する中、空薬莢が落ちる音だけが妙に耳に響いた。
……
UMPの弾を全て撃ち尽くした。M92に切り替え更に盗賊だった物に銃口を向ける。
「ちょっと!もう連中は死んでるわ!」
ローラが俺の腕を掴んだ。
「ッ!…そうか。終わったのか?」
「そうよ!シュウが殆ど終わらせたわよ。ま、弓兵や隠れてた連中は私が全て殲滅したけどね」
ローラは自慢気に言う。
「そうか…なら、良かったな」
UMPをPDAに仕舞いM92をホルスターに片付ける。ホルスター?ああ、警察用防具と一緒に付いてるからな。
「ちょっとシュウ、大丈夫?何か変よ?」
「大丈夫だよ。兎に角先に進もう」
俺は先に進もうとする。しかし、ローラに腕を掴まれる。
「何処が大丈夫なのよ!何?盗賊に毒とか食らったの?」
「食らってない。そもそも連中は間合にすら入って無い」
良いから先に行こうぜ?この場に残りたく無い。
「何処が大丈夫よ?腕震えてるじゃ無い。やっぱり怪我してるんでしょう?そのヘルメット取りなさい!」
ローラが俺のヘルメットを掴む。しかし、俺は抵抗する。
「止めろ!別に平気だから…ッ少し放っといてくれ!」
「放って置けないでしょう!良いから言う事聞きなさい!」
ローラの身体が光り出す。此奴!身体強化しやがった!
そして、俺のヘルメットとフェイスガードが取れる。
「良し!…何よ、泣いてるじゃ無い。やっぱり何処か怪我したの?」
「…して無いから。だから頼む…少しだけ放っといてくれ」
俺はローラに背を向け歩く。だが、腕を掴まれる。
「何で泣いてるのよ。まさか、あの盗賊に同情したの?」
「ッ!」
「そう…シュウ、アンタがそんな奴だなんて思わなかったわ」
「…何?」
俺はローラを見る。しかし、ローラは毅然とした表情で俺を見ていた。
「彼奴らは殺されて当然よ。彼奴らは男は殺して捕らえた女は死ぬまで犯される。なら、排除するのは当然よ」
「…分かってる」
「分かって無いから言ってるのよ!?良いシュウ、彼奴らは敵なのよ!殺さないとダメなのよ?例え捕まえても死罪は確定なのよ!」
「分かってるって…言ってるだろ」
頼むから黙ってくれ。
「良い?情けなんて掛けたら別の所で暴れるわ。そして犠牲者が増えるだけなのよ?」
だがら…黙れよ…黙れってんだよ!!!
「分かってるって言ってるだろうがああああああッッッ!!!!」
俺はローラに怒鳴り返した。
「な!…何よ!アンタがそんな奴だなんて思わなかったわ!信じらんない!」
「全部俺が間違ってるのは分かってるんだよ!!!」
その瞬間、ローラの顔に困惑が見えた。
「そうさ、お前は正しい。この世界じゃあそれが普通だ!殺して当たり前…そんな事、もう分かってるんだよ」
「じゃあ…何で泣いたのよ」
泣いて無い。泣いてたまるか!
「人殺しとは無縁だった。学校行って、友達と喋って、勉強して、部活やって、家に帰って、飯食って、宿題やりながら友達とメールして、風呂入って、歯を磨いて寝る。そんな普通の暮らしだった」
俺は当たり前の生活を言う。
「気が付けばカプセルの中に居た。そして、ファンタジーの定番のゴブリンに会った。ゴブリンだぜ?信じられるか?俺が居た所には居ない生物だったよ」
周りを見渡しながら喋る。不安が遂に口に出てしまい止められない。
「銃だって撃った事なんて勿論無い。喧嘩だって小学生以来やってない。なのに…なのに、いきなり殺し合いとか何なんだよ?」
ローラを見ながら言う。
「古代兵器?古代遺跡?魔導車両?違う…全部違う!銃だ!此奴はベレッタM92!お前が背負ってるのはSR-25狙撃銃!防弾チョッキにプロテクター付きの警察用防具だ!POLESて背中に書いてるだろ!魔導車両?電車だ!アンダーグランド?地下鉄て言えよ!遺跡じゃ無い…色んな人達が使う交通手段だ!」
止まらなかった…だが、ローラに言った所で意味は無いのは分かってるのに。
「航空艦って何だよ?浮遊石?知ら無いな!エルフ?獣人?魔族に魔王だ?更に勇者もいるそうじゃ無いか!?はっ!ファンタジーはな、創作の中で充分何だよ!!!」
これが現実なのは良く理解している。こんな状態なのにPDAは律儀に機能していた。
「核戦争で全てが無くなったそうじゃ無いか。そもそも、此処は俺が居た世界なのか?パワードスーツなんて聞いた事無い!!!じゃあ皆何処に行った?父さんは?母さんは?学校のクラスメイトに友達は?甥っ子にお小遣いを良くくれた叔母さんは何処に消えた?」
色んな記憶がある……なのに……。
「なのに、何で…顔も…名前も思い出せ無い!?そもそも、この名前だって壁に書いてあったのを借りただけ何だぞ!?」
俺の荒い息遣いだけが響いている。
「分かってる。もう皆居ない事は。500年以上経ってるもんな。見つけても白骨化してる」
「シュウ…貴方、もしかして」
「ローラ、俺はなコレから先もこの価値観を持ち続ける。何故なら…コレしか残って無いから」
本当にコレしか無いんだ。だから、頼むから。
「最後のコレを…奪わないでくれ」
「ッ!…そ、そんなつもりじゃ」
俺は再度歩き出す。
きっとアンダーグランドで化け物共と戦ったり、人殺したりして俺のキャパシティがダメになったんだな。
(ローラには悪い事したな。後で謝っておこう)
その時、ローラが背中に抱き付いてきた。
「シュウ…ごめん」
「お前は悪く無い。だってそうだろ?お前の価値観が正しく、俺の価値観が違うだけなんだ」
しかしローラは更に力を入れてくる。
「なら、何でまだ泣いてるのよ」
「さぁな、何でだろうな。何でか涙が止まらないんだよな。でも、平気さ。暫くしたら止まるだろうに」
「平気な訳無いでしょう!それに…私が居るでしょう?」
「ローラ…」
俺は振り返りローラを見るが頭を背中に埋めて見えなかった。
「私はシュウを1人にしないから。だから泣くのを我慢しなくて良いから」
…我慢なんてして無いさ。
「ローラ、知ってるか?エルフってさ、エロ同人誌やエロゲーだと定番種族なんだぜ?」
「何よ、そのえろどうじん?とえろげーは。ただ、響きは怪しいわね」
勘が鋭いね。
「兎に角、今は我慢しなくて良いから」
そう言うとローラは俺の頭を掴み胸に抱き抱える。
「…良いのだろうか?」
「大丈夫よ。私はシュウの側にずっと居るから」
その瞬間、涙が溢れた。
「全部…知らないんだ。それに…何も…無いんだよ。だから…俺は…」
俺はローラの胸に抱かれて泣いた。ローラは何も言わず俺を抱きしめ続けた。




