19
次の日朝食を食べようと下の食堂に降りたらローラが居た。
「何でアンタ昨日付いてこなかったのよ!」
朝一で怒られました。
「兎に角、私達のリーダーのレイスが呼んでるから行くわよ」
そう言うと俺の腕を掴み歩く。どうやら学習した様だ。
「ちょっと待ってくれ。せめて朝食だけでも」
「レイス艦にはもっと美味しい朝食があるから、それまで我慢しなさい」
仕方ないな。我慢しよう。
こうしてローラに連れられて旅団レイスガーディアンズのレイス艦に乗船する事になった。
……
「やあ、おはようコートニー君。まあ席にかけたまえ」
レイス艦に乗船して旅団のリーダーレイスさんがいる部屋に案内されると、長テーブルがありその奥に居た。相変わらずのイケメンで羨ましいな。
「さて、昨日はローラを使者として送ったが何故来なかったのかな?」
「え?だって、俺の名前呼んでなかったし。それにサッサと行ったから別の人かと思ったんだよ」
「…ローラ?」
「うっ…ご、ごめんなさい」
レイスさんの睨みに萎縮しつつ謝るローラ。
「まあ、良い。さて、話とはアンダーグランドに付いてだ」
「別に構いませんよ。ただ、2つ良いですか?」
どうぞと頷くレイスさん。
「1つはアンダーグランドに関してはギルドマスターから他言無用の契約を結んでるんですよ」
「それなら心配は要らない。何故なら今回の依頼はそのギルドマスターからだからね」
食事をしながら言うレイスさん。
「分かりました。ならもう1つ、こんなに離れた状態で話を進めるんですか?結構声出さないといけないんですけど?」
長テーブルの端と端に座ってる俺とローラにレイスさん。因みに側にはメイドが居る。
「ふっ…様式美だ。我慢したまえ」
「あ、はい」
様式美なら仕方ないな。
「さて、本題に入っても良いかな?」
俺は頷く。
「コートニー君。君が見つけたアンダーグランドの探索については、我々レイスガーディアンズが一任する事になった。だが、出来れば強いメンバーが必要だ。もしくはアンダーグランドから生還した者がだ。これだけでも大体理解出来たのでは無いかね?」
レイスさんの言葉に頷く。
「本来ならサラだけ勧誘して後は君の話だけを聞こうとしたのだ。君は無魔らしいからね。アンダーグランドは危険な場所だ。なら戦力にならない者は連れて行けない」
成る程な。つまり、パーティ解散して欲しいのか。
「だが、君は無魔でありながら生き延びた。本来ならサラだけを勧誘するつもりだったが、君も協力してくれないか?」
「レイス!あんたバカじゃ無いの?」
「ローラ、口の利き方には気を付けなさいといつも言ってるだろう?そんなんだからコートニー君を連れて来れないんだよ?」
「レイス!!無魔をアンダーグランドの探索メンバーに入れるなんて正気じゃ無いわ!!」
何やら言い争ってるが。
「レイスさん。このお話は無かった事にして下さい」
俺はナイフとフォークを置きながら言う。
「何故だい?我々と共に探索に行くだけでも充分な価値があるのだぞ?」
「アンダーグランドは…地下鉄には幽霊や化け物が居る」
そう呟く俺。そして静かになる。
「地下鉄には戦後の人々か避難生活をして居た形跡がある。そして、地下深くで死んだ奴らの魂が彼処には存在してる。つい最近まで幽霊とか信じないタイプだったけど…地下鉄に入って理解したよ。居る所には居るってさ」
俺はそう言うと食事を再開する。
「何よアンタ、ビビってるの?」
「うっさいな!怖いもんは怖いんだよ!」
「大体そんなダサい仮面なんて付けてるからビビリになるのよ!」
だ、ダサい…だと?
(思えば子供達にも大不評だったな。クロにも負けるし、依頼人の顔は皆引き攣ってたし…あ、なんか泣けて来た)
俺はソッとヘルメットを被りフェイスガードを付けた。
「何よアンタ…泣いてるの?」
「な、泣いてねえし!勘違いすんじゃねえよ!バーカ!バーカ!」
ち、チクショウ!
「ほら男でしょう?泣かないの。ほら、私のウィンナー1本上げるから」
ローラがウィンナーを1本くれた。
「…プキュ!」
なんと言う事でしょう!あの食いしん坊のクロが目玉焼きの白身の一部分をくれました!
俺はソッと鼻をかみフェイスガードとヘルメットを外す。
「お前達…ありがとうな」
「ふんっ」「プキァ!」
何だかホッコリしてると、
「あー、もう良いかね?」
呆れた顔で話し掛けてくるレイスさん。そこからレイスさんのメイドから説明が始まった。
要約すると今回の依頼はギルドマスターからレイスガーディアンズに直接依頼があった事。そしてまだ未探索のアンダーグランドの探索をしてロストテクノロジーの回収が目的だ。後はアンダーグランドの安全確保をする事により魔物の大群襲撃からの脱出通路にするか避難場所にするらしい。
要はアンダーグランドの利権を確保する人は少ない方が都合が良い為レイスさんに依頼されたらしい。
「利権はやれないが代わりに報酬は弾もう」
利権は要らないのでこの提案は嬉しい…しかし、
「彼処には化け物が居ますよ?どう対処するんですか?」
「我々レイスガーディアンズの戦力は並の相手には遅れは取らん。そこにサラが加われば尚良いがね」
レイスさんはそう言い切る。しかし、やっぱり俺は戦力外だよな。
「分かりました。一応パーティ組んでますのでサラさんに相談してからでも良いですか?」
「勿論。出来れば早目に決めて欲しい。君がギルドの床下から出て来たのは殆どの冒険者が知ってるからね」
俺も好きでギルドから出て来た訳では無いんですよ?話は纏まりサラさんに相談しに行く。すると案外乗り気だった。
「私は構わないよ。しかし、アンダーグランドか……初めて入るから腕が鳴るよ」
と余裕の笑みを浮かべて居た。
……
そしてその日の夜。ギルドが閉まり中にはレイスガーディアンズの一軍、二軍の殆どのメンバーにサラさん。オマケで俺とクロが同行する。まさか今日行成突入すると聞いたので急いで弾薬やらポーションやら食料などを買ったり、ホロサイト等の充電もした。因みに報酬は金貨50枚と高い。更にロストテクノロジーなどを見つければ追加報酬を出すと言う。
(通路の安全確保だけでも凄い額になるんだな)
俺はUMPとモスバーグM500を再確認し、ライトの充電も確認している。更に手榴弾や閃光弾も付いてるかも確認する。
「諸君。これよりアンダーグランドの探索に向かう。何が起こるか分からない以上気を引き締めてくれ。また、情報によれば強力なモンスターも居る。各員の奮戦に期待する!」
レイスさんがメンバーを奮起させる。
「それでは、突入!」
こうして俺は再度地下鉄…いや、アンダーグランドに入って行く。今回は仲間が居るから多少はマシだろう。ま、邪魔しない程度に探索しよう。
レイスガーディアンズのメンバーは次々と床下に入って行く。其処にはローラの姿もあった。
「さて、行きますか」
俺はそう呟きライトを点けたのだった。
……
アンダーグランドの中は相変わらず暗い。そしてレイスガーディアンズのメンバーは物珍しげに周りを見ていた。
「凄い…地下にこんな広い場所があるなんて」
「あれは魔導列車か?いや、魔導列車のモデルになった奴か?」
「古代人は一体どうやってこんな技術を?」
全員地下鉄のホームの広さに目を奪われている。
「さて、コートニー君。君は何処から来たのかな?」
「彼処から来ました。で、あっち側はまだ未探索です」
そう言うとレイスさんは頷き全員に伝える。
「よし、ならば私とサラに一軍メンバーは未探索の方へ。コートニー君と二軍メンバーは通路の確保に行ってくれ」
「待て!私はシュウ君とパーティメンバーだ。こんな編成など認めれるか!」
結局サラさんに言い負かされたレイスさんは俺も未探索に同行する形になる。
「さて、二軍メンバー諸君。其方側は無魔のコートニー君でも攻略出来た通路だ。大した敵は居ないだろうが、気をつけるように」
何故だろう…小馬鹿にされてる気がする。
しかし、二軍メンバーは苦笑いで通路確保に向かう。
「皆さん!決して威力の高い魔法を放た無い様に!流石に500年の劣化には対処して無いトンネルですので!」
一応声を掛けて注意しておく。
「分かったよ。ご忠告どうもな。尤も、初級魔法も使え無い奴が言ってもな…ははははは!」
そう言いながら先に進んでしまった。
「コートニー君。彼らはダンジョンにも入ってるベテランだ。だから平気だよ。さて、我々も行くぞ」
レイスさんは苦笑い気味にそう言って、未探索の通路に進んでしまった。
「シュウ君、余り気を落とすな。彼等は彼等なりのプライドがある」
「…分かりました。ただ、ダンジョンの様にこの場所でさえ強力な化け物が出て来ても可笑しく無いんですけどね」
「それは本当か?」
流石にこの場所も危険と言われ周りを見渡すサラさん。
「ようこそ…戦後の世界へ。もしかしたら戦後の人達の声が聞こえるかも知れませんよ?」
そう言って俺も先に進む。サラさんも後に追従する。こうして二手に分かれた俺達は探索する。この選択が吉と出るかは、まだ分からない。
……
「ちょっと無魔!本当にロストテクノロジーなんて有るんでしょうね?」
暫く歩いてるとランタンを持ったローラが話し掛けて来た。
「分からんよ。そもそもロストテクノロジー自体アンダーグランドに有ると言う前提が間違ってるよ」
「なんでよ?」
「此処に居た人達は外の世界から避難して此処に来た。自分が持てる荷物だけを持ってね。なら、技術の高いロストテクノロジーは外の方が多いと思うよ」
「なんで外から避難したのよ?」
此奴…つい最近まで歴史知らなかった俺より無知なのか?
「あのな、500年前に世界大戦があったの。で、えー毒の空気か?アレを撒き散らしまくって外で生活出来なくてアンダーグランドに来たの。分かった?」
何故か歴史を教える事になった。その時サラさんから声を掛けられる。
「ローラ、少し良いか?」
「サラ?何よ一体」
「精霊を感じなくなった。ローラは如何だ?」
「私は…嘘、何で!?」
精霊を感じなくなり狼狽するローラ。
「落ち着けローラ。お前も魔力は有るだろ?だが、無闇に無駄撃ちするな。良いな?」
「わ、分かったよ」
(精霊ねえ…)
俺は暗闇の通路にライトを当てる。ライトの光は闇に飲まれる。精霊が居なくなった…いや、近付けなくなったのかも知れないな。
此処で死んだ連中の魂が居てさ。
その時前方から声が上がる。
「待て!何か居るぜ?全員気を付けろ!」
斥候役の奴から警告が来る。
「わ、私だって精霊魔法が無くても戦えるわ!」
ローラが前の方に移動する。
「おいローラ!待て!」
「チッ…サラさん、クロを頼みます。クロ、サラさんを守れ。良いな?」
「プキュ!」
クロは返事をするとサラさんの胸に飛び込んだ。
「ローラ待つんだ!サラさんと一緒に居た方が良い!」
「何よ!無魔の癖に!私に指図しないで!」
「敵が来たぞ!?」
その瞬間ライトを前に当てる。そして、あのネズミの化け物が大量に突っ込んで来た。
「全員!ありったけの魔法を撃ち込め!!!」
レイスさんがそう言うと全員が呪文を唱え始める。て、待て待て待て!!!
「だから!崩れるから程々の魔法で「放てええええ!!!」…あ、オワタ」
俺が見た光景は大小様々な炎や電撃に氷などか飛んでいき……
「ライト二ングアロー!!!」
ローラまで気合の入った魔法を放つ。
ドドドドドドッッッ!!!!!!
ドカアアアアアアアアアアン!!!!!!
ゴ……ゴゴ……パキン…ビシ……
「あ…俺知らねー。サラさん!クロ!元の道に戻れ!急げ!!!」
俺は走り出す。それを皮切りに全員が慌てながら走り出す。その時だった。
「きゃっ!」ガジャンパキン
誰かが倒れる音が聞こえた。俺は振り返るも暗闇しか無い。だが、気の所為では無い。
「み、皆待ってよ!ら、ランタンが割れて見えない!?」
この声はローラか!
「ローラ!何処だ!声を出せ!!」
「此処よ!早く助けに来てよ!!」
戻りたく無い。だが、見捨てたく無かった。
「何処だ!ローラ!何処にいる!何か魔法使って場所を教えろ!!」
その瞬間ローラが見えた。俺はコケそうになりながらもローラの何処に走る。
「急いで立て!もう崩れるぞ!」
「あ、足が痛くて…多分挫いた」
振動と同時に上から石やらが多数降って来る。
「肩を貸すから早く「ギジャアアアアア!!」っ!死に損ないが!!!」
その時、生きてたネズミの奴が動き出し俺の足を噛む。至近距離からUMPで撃ちミンチにする。しかし、もうダメだった。
ドオオォォン!!!ドゴオオン!!!ドゴオオオン!!!
轟音と同時に大きい瓦礫が降り注ぐ。俺は周りを見渡す。そして、管理通路に繋がる扉を見つけ、ローラを連れ行きながらUMPで撃ちながら扉を蹴破る。左右の通路はまだ崩れてない。此処からなら合流出来る。
そう考えた時、壁に伝っていたパイプが破裂しながら通路を塞いで行く。
「こっちだ!急げ!死んじまうぞ!!!」
「ま、待って!!」
俺はローラを引き摺る様に走る。そして目の前の扉を開けようとした時、上から太いパイプが降って来る!
「伏せろ!!!」
俺はローラを下にして覆い被さる。
(俺は運が良いみたいだからなぁ…それに賭ける)
そう思いながら目を瞑り衝撃に備えたのだった。




