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商隊の護衛は半分を過ぎた所に来ていた。途中村や町に寄り、魔物も適当に倒したり追っ払ったりしながら順調に進んでいた。
「しかし、コートニーさんの武器は素晴らしいですな。その古代兵器があれば安心ですな」
御者が俺に言う。
「そう言うもんですかね?」
俺は御者と話しながら軽く情報収集していた。因みに俺のポジションは変わらず1番後ろだ。
「後は、このまま順調に進んでくれれば良いんですがね」
御者はそう呟く。
「まあ、大丈夫でしょう。コレだけの戦力が有りますし」
「ははは!それもそうですな!それに、コートニーさんも古代兵器を持ってますしね」
御者はそう言うと安心した表情で前を向いた。
……
side 盗賊団 ブルックス
俺の名前はブルックス。盗賊の頭をやってる。今回の獲物は大物だ。あの悪名高いサイレントラビットを捕獲するんだからな。
「お頭、連中が街を出たそうです」
「ほぉ、ようやく来たか」
しかも、あの高級奴隷専門のルピノの商品付きと来たもんだ。最初は仮面を付けた怪しい連中の依頼だった。だがサイレントラビットさえ手に入れれば報酬は支払うし、他の奴隷は好きにして良いと言う。
「久々の大物だな。テメェら!今回はいつも以上に気合いれていくぞ!然も高級奴隷だからな!御丁寧に扱えよ?」
「「「「「ギャハハハハハ!」」」」」
俺の冗談に笑う部下達。最高のお宝だと分かってるから士気も高い。これならイケるだろう。
「なら作戦開始だ!馬を用意して道を塞ぐ様に指示を出せ!」
今回の為に馬、弓、魔道具を用意した。部下達は走り出す。さあ狩りの時間だ。
side out
……
馬車が突然止まった。休憩には速いだろうに。なら一体何が?その時だった。
ピイイイィィィィィ!!!
笛が鳴る。
「敵襲!盗賊の可能性有り!全員注意しろ!」
誰かが大声を出す。周りは木に覆われており見晴らしの良いとは言えない場所だ。
「周りを囲まれてる!全員戦闘用意!」
誰かが叫ぶ。俺は外を見渡す。そして、左右の森から多数の弓矢が飛んできた。
「全員隠れろおおおお!!!」
言われるまでもなくシールドを構え防ぐ。俺が乗ってるのは幌馬車だから矢が貫通するんだよな。シールドを構えながら外に出る。そして馬車の屋根な乗り周りを見渡す。すると後ろから土煙が見えた。SR-25を構えスコープで覗く。そして、見たのは人だった。
綺麗な身なりでは無く、正しく盗賊と言える連中だ。更に左右の森からも盗賊は出てきた。
「クッ…マジか…」
先ずは後ろの連中に照準を合わせる。距離は大体500mだ。だが……
「ハアッ……ハアッ……ハアッ……」
俺はスコープを覗いたままでいた。
(人だ…ゴブリンやオークじゃ無い。人間だ…う、撃たなきゃ…撃たなきゃ…ダメだ)
引き金に指を掛ける。だが、引けなかった。
「ハアッ…ハアッ…ハアッ…む、無理だ……撃てない」
PDAが危険を探知し戦闘補助機能を起動する。しかし、冷静になれば成る程彼の常識が邪魔をする。
(だって人だぞ?撃てる訳が無い…そうだろう?)
「おい!シュウ!何やってる!?早く撃て!!!」
「ッ!…ハアッ…ハアッ…クッ」
誰かが俺の事を呼ぶ。
「まさか、あいつ初めてなのか?」
「っ!クソ!仕方ねえ。兎に角目の前の敵に集中だ!来るぞ!」
馬車の左右で戦いが始まる。そして矢に混じって火の玉や氷の槍などが飛んで来る。
「魔道具だ!魔道具まで有りやがる!優先して潰せ!」
後方から来る連中は400mを切った。
それでもスコープから覗き続けるしか出来ない。
その時だった。
「コートニー様」
「ッ!…あ、あぁスピアさん。分かってますよ。う、撃ちますよ。だから、ちょっとだけ…待って」
そこにはスピアさんが居た。とても冷静な表情をしている。
「コートニー様。どうか私達をお救い下さい」
スピアさんは哀願する。しかしな……。
「簡単に、言うなよ。知ってるか?俺はDランクの冒険者だぜ?然も魔力はゼロだ。魔法なんて使えない。お前達は魔力あるだろ?だったらそれ使えよ!俺に助けを求めるな!!」
(そうさ、俺は魔力はゼロだ。ただ、銃を使えるだけの奴なんだよ!そして、そんな言い訳をする臆病者に助けを求めるな!)
心の中で言い訳しても敵は止まらない。距離500m。
「人を撃つなんて…出来るかよ。人間だぞ?何で人殺ししなきゃいけないんだよ!!出来る訳無いだろ!!!」
俺はスコープを覗きながら叫ぶ。撃てない。引き金から指が外れる。
その時だった。背中に重さを感じた。そう、スピアさんが抱き付いていた。そして耳元で囁いた。
「貴方の罪は私も背負います。ですから、どうかお救い下さい。シュウ様」
綺麗な声だな。歌とか上手そうだ。俺は、ゆっくりと引き金に指を掛ける。敵との距離は350mを切っていた。スコープの照準を先頭の奴に合わせる。
「スゥ…フゥ…スピアさん、ありがとう」
そう呟き、引き金を引いた。
銃声が響くと同時に先頭の頭が吹き飛ぶ。直ぐに照準を横にズラし撃つ。今度は胸の辺りを狙い確実に当てて行く。更に狙いを付けて行く。此処で躊躇しては行けない。他の冒険者や護衛の人達が戦ってるのだ。だから急いで後方の連中を叩かなきゃ周りが。
「大丈夫です。周りは他の者が抑えております。ですから、目の前の敵に集中して下さい」
その声に従って撃ち続ける。それでも距離は150mを切る。だが、敵の数は10も居ない。
「クソッタレがああああ!!!あいつだけでも殺しガヒッ!!」
「ひっ!ふ、ふざけんパァ!!」
敵の怒声が聞こえる。しかし撃つのを止めない。後方の敵が5人になり左右に分かれた。多分左右の連中と合流するのだろう。
「次は、あの魔道具持ってる奴か」
俺は起き上がる。それと同時に重みが無くなる。代わりに肩に暖かさがある。次々と魔道具兵や弓兵を撃ち殺していく。スコープを覗いたまま殺すという事は、敵が死ぬ瞬間も目にするという事。きっとこの事はずっと忘れないだろう。
そう思いながら狙撃し続けた。
……
気が付けば盗賊は退却していった。しかし、数名逃した形になってしまった。今回此方に死者は出なかったが、重傷者か10名以上出てしまった。
そんな中、俺は森の中にいた。
「おえ〜…げろげろ」
※注意 カエルのモノマネだよ♡
俺は初めて人を殺して吐いていた。
「はあ…はあ…気持ち悪い」
多少落ち着けたが何とも言えない気分だ。この戦いで味方が死ぬ可能性もあった。重傷者には今回復魔法とポーション使って治療している。それに、あの場に残るのは無理だった。
「最初から撃ててたら良かったのか?」
自問自答しても答えは出ない。その時だった。茂みが揺れる。そして……
「くたばれえええ!!!」
「ッ!生き残りか!」
盗賊の生き残りがナイフを構えて此方に突っ込む。俺は咄嗟にM92を抜き撃つ。そして2発撃ち盗賊の肩と胸に当たる。だが、奴は止まらなかった。俺はそのままタックルを受けて倒れる。
「この野郎おおおお!!!仲間の仇だああああ!!!」
奴は俺のヘルメットにナイフを突き立てる。だが、強化フレームで出来たヘルメットを突き破り事は何て。
「ああああああッ!!!!!」
奴の身体が光る。そして突き立てたナイフが更に進み始める。
「く、クソッ!」
「死ねえ!!死ねえ!!お前が仲間を!!!」
顔が汚くてよく分からなかったが、多分年は近いのだろう。そんな奴が本気で殺しに来てる。
「うああああああ!!!!「ザンッ!」……あ?」
その間抜けな声と共に奴の首が此方に落ちた。更に血も大量に降りかかる。
「ご無事でしたか?コートニー様」
ヘルメットが血まみれで前が見えないがスピアさんが助けに来てくれたのは理解出来た。
「助かったよ、ありがとう。だけどさ…夢に出てきそう」
確かに助かった。それは分かる。だが、贅沢言うならもう少し綺麗に助けて欲しかったと思った俺は悪く無い。後生首が横に転がってる時点で色々一杯だった。
「さあ、お手をどうぞ」
「ど、どうも」
慣れてるんだなと嫌でも理解した。いや、他の冒険者や護衛の人達も同じなんだ。
つまり…俺が異端なだけなんだ。
その事を認識した俺は如何すれば良いのだろうか?答えはきっと先になるんだろうなぁ。そんな風に思いながら商隊に向かうのだった。




