10
依頼を受注して3日後に工業都市メイフィスに行く事になった。だから待ってる間は旅の準備とクロを戦える様に鍛えた。
鍛えたと言うか、ニューナンブM60の扱いをひと通りレクチャーしたのだった。
因みにこんな感じに教えた。
「よし!先ずはあの岩に俺が射撃するから、俺の動きを見てろよ!」
「プキュ!」ポヨン
俺はニューナンブM60で岩に射撃して、リロードする流れを見せる。その後クロに渡してみるが……
「……?」「ですよねー」
俺はゆっくり教える事にした。しかし、中々教えるのが難しい。
「一旦休憩するか!」「プキャ!」
言葉は伝わるのだがな。
御飯を与えながらふと思う……御飯で釣ってやってみるか?
「クロ、俺のラビットジャーキーが欲しかったらあの岩に射撃してみな「パパパパパンッ!!!ジャラ ジャキン」…………」
コイツ……リロードまでやりやがった。
「やれるんだったら最初からやれ!」
俺はクロにダイブした。如何やらクロは遊びたかったらしい。
因みに命中率は凄く良かった。多分衝撃を身体が全て吸収した様だった。
クロの属性についても調べた。黒色だから闇属性だそうだ。闇属性には相手の攻撃を吸ったり、自分の影を複数作り出し攻撃に使うなど出来る。しかし、クロはスライム。そこまで高等魔術は使え無いだろう。使えても魔力が足り無いか……。
そう言えば闇と言えば収納も出来るかな?やってみるか。
「クロ、このラビットジャーキーを収納してくれ」
「プキュ」
クロは自分の体内に入れる。そして5分後……
「さっき渡したラビットジャーキー出してくれ」
「プキュ!」
ラビットジャーキーが出てきた。結果収納出来るみたいだ。
「良し!ならニューナンブM60と弾薬200発をお前に預ける。食べるなよ?お前の大切な武器何だからな」
「プッキャ!プッキャ!」ポヨンポヨン
如何やら自分専用の武器を貰えて嬉しいみたいだ。
それから暫くクロと戯れながら街に戻る道中に俺が以前助けたパーティに出会った。
「あ!シュウさん!こんにちわ!」
「お?お前達か。今から討伐か?」
「はい。草原の魔物狩りをしてきます。後は序でに薬草摘みに」
成る程な。
「確か、リザ……さんだったかな?怪我の具合は?」
「はい。この前はありがとうございました。然も古代の回復薬で助けて頂いて」
何だか恐縮気味だ。
「まあ、これは貸しだからさ気にするなって。お前達、ちゃんとビックになれよ?最低でもBランク冒険者になってから恩を返しに来いよ?」
Bランクまでの道のりは長い。しかし…それで良い。こいつらが無駄死にしなきゃな。
「っ!は、はい!頑張ります!」
「気長に待つから安心しろよ。じゃあな」
そう言って俺は街に戻ったのだった。
…
……
それから3日が経ち俺は商隊がいる場所に向かう。すると随分な大所帯になっていた。
荷馬車を見ると飾りも無い普通の馬車が俺が護衛するのだろう。しかし、別の区画には豪華な飾りが付いた馬車がある。さらにサスペンション付きなのは素直に羨ましい。
商人の1人を捕まえて聞いてみた。
「あの、彼処一帯にある豪華な馬車は一体?」
「ん?ああ、アレは奴隷商会ウィリス様の所だよ。今回目的地も一緒だから序でに一緒に行こうとルピノ様から言われてな。いやー、これなら道中安心だろうからな」
奴隷商会ルピノ・ウィリス……知らんな。
俺は商人に礼を言い奴隷商会ウィリスの馬車を見る。中には人の気配は殆ど無い。
「何処かで朝食でも食べに行ってるのかな?…奴隷連れて?」
適当にに言ってみたらその通りだった。だが、確かに外出を許されるだろう外見ばかりだ。
誰もが見栄えも良く、清潔感ある美男美女ばかり。それに宣伝もかねてるんだろうな。だって後ろに一般市民や冒険者が沢山居るし。
「面倒事は勘弁願いたいね」
「プキュ?」
それから俺達冒険者と商会ルピノ・ウィリスの私兵は一端集まり話し合う。お互いに依頼主曰く商隊を守るのを希望してる筈だが……私兵共は違った。
「我々はウィリス様の私兵。よってウィリス様、ウィリス様の所有物である馬車と奴隷を守るのを最優先とさせて頂く」
まあ、最優先と言うがぶっちゃけ自分達の馬車しか守らないという事だ。
「おいおい兄ちゃん。お互いの雇い主が決めた事だろう?そこは如何するんだ?」
今回冒険者側で指揮官役になっているのは、Bランクパーティー『斧の鉄槌』のリーダーのガルムさんだ。
「ふん!ウィリス様はお優しい方だが甘い方でもある。だが、我々は我々の仕事を最優先とさせて頂く!」
互いの主張はこうだ。
・ウィリス側は自分達の馬車だけ守りたい。
・冒険者側は言われた通り全ての商隊を守りたい。
一見大丈夫な様でダメなやつだ。
「ならお前達だけ先に行けよ!大体俺達はルピノ・ウィリスの護衛までやるなんて聞いてないぞ!」
他の冒険者も不満を口に出す。それもその筈、基本このグループにはC、Dが多いのだ。Bランクのパーティーが居たのはラッキーと言えよう。それに、重要人物等の護衛依頼はBランク以上と相場で決まってるのだ。
それに冒険者の言い分も正しい。仮に一緒に護衛するにしても商隊が多ければリスクは大きくなる。
因みに依頼料はウィリス側の奴隷達から手渡しで金貨5枚貰ってる。やったね!
「あのさ……だったらさ、見た目だけ協力してる風にすれば?」
俺の台詞に全員が振り向く。
「別に馬車を混ぜて行く訳じゃ無いんだろ?前に俺達の馬車、後ろにあんた達の馬車で固めて行動するで良いんじゃない?」
「……本当に見た目だけだな」
「他にアイデアが浮かぶならどうぞ」
「我々はそれで構わん」
冒険者も互いに見合いリーダーのガルムさんを見る。
「はあ……本来ならダメといいたいが、先に進みそうに無えしな。仕方無え……それで行くか。ただし、言い出しっぺのお前はウィリス側の馬車に乗れ。形だけでも必要だからな!良し解散!」
あ、あの野郎!
「おい待てコラ!こんな厄介事満載の馬車に乗れと!?て、待てよお前達!俺達同じ冒険者の仲間だろ!無視か?無視なのか!?……行っちゃった」
俺の言葉を悉くスルーして行く冒険者達。
「ふん!仕方ない……行くぞ。付いて来い」
俺はガックリとしながら付いて行った。
……
多少ゴタゴタしたが無事出発した。
目的地までの道のりは1週間は掛かる。しかし、大所帯の商隊になったので小物の魔物は先ず近寄らなくなる。だが、小物では無い魔物は来る訳だ。
因みに俺はウィリス側の1番後ろの馬車に乗ってる。そこは如何見ても人が入るスペースが無いんです。腹いせに寝袋が積まれてる場所に陣取ってやったわ!
ピイイイィィィィィ!!!
笛の音が聞こえ敵襲を伝える。
「前方にオークがいて道を塞いでる!あっ!左側からオークの集団だ!数は20以上!真っ直ぐに突っ込んで来る!」
この腹いせ!貴様らにぶつけてやる!序でにSR-25の力を試すのに丁度良い。
……
馬車は止まり全員が戦闘体制を取る。そして何故かウサ耳メイドも出てる。
しかし、ウサ耳メイドはかなりの美人だった。何と言っても巨乳だ!そして黒紫色の艶やかな髪で肌の白さが強調されている。更に真紅の切れ目の瞳がちょっと怖い……。そしてセラさんに負けず劣らずな美しい容姿だ。
俺は見惚れてしまっていたが直ぐそこに敵がいるのを思い出し、急いで馬車の奴隷が入ってるだろう立派な馬車の上に乗る。その馬車は全部木で出来てるため屋根に乗れるのだ。
ハイポットを立て照準をオークに向ける。スコープを除き倍率を調整す……いや、するまでも無いな。距離は300mぐらいだろう。だから充分射程内だ。
そのままスコープの中央にオークを狙う。そして……
ダアァン!!
オークの頭が破裂した。
そのまま横に照準をズラし引き金を引く。銃声が鳴る度にオークは一体ずつ地面に倒れていく。
そしてマガジン1つを撃ち切った時はオークは逃げていた。だから冷静にリロードして背中を撃ち抜いた。
オークはゴブリン同様人や亜人等のメスを攫う。そして攫った後はお察しという奴だ。だから殲滅するのに躊躇はしては成らない。
……
オークは全滅した。前方のオークは5体ぐらいだったので冒険者達が倒していた。
その後オークの死体を回収する。因みにオークの肉は臭みがあるものの柔らかく美味しいのだ。屋台にもオークの串焼きは定番メニューだ。
「今夜はオーク肉のバーベキューだぜ!」
「お!?良いのか!」
俺が23体を遠距離から倒したので全て俺のになる。
「構わないよ。その代わり捌いてね」
PDAからでも捌けるが……怪しまれそうなので止めた。
「任せな!おおーい!シュウの奴がオーク肉使って良いってよ!」
「「「「「やったああああ!!!」」」」」
喜ぶ冒険者達。
「おい。お前達も捌くの手伝えよ。そして一緒に食おうぜ?数は多いんだからさ?」
「っ!……ふん!まあ…手伝ってやらん事も無い……」
男のツンデレは見ても得しないんだがな。
こうして俺達の晩御飯はオーク肉のバーベキューになった。
……
そして夜。ルピノ・ウィリスの奴隷達とウィリスさん本人も一緒にバーベキューを共にする。
「君がコートニー君かな?私はルピノ・ウィリス。奴隷商人だよ」
「ど、どうも初めまして。冒険者Dランクのシュウ・コートニーです」
握手しながら思う。奴隷商人だから太って欲望まみれな奴だと。しかし、爽やかな初老の男性が現れたのは正直想像して無かった。
「しかし、オーク肉のバーベキューは久しぶりだよ。いや、私も今はこんな立場だが昔はそこそこやんちゃした物だよ」
そう言いながらオーク肉を食べる。そしてウィリスさんに付き従うウサ耳メイド。
「この人は食べないんですか?」
気になり聞いてみる。
「ん?ああ、勿論食べるよ。そう言えばまだ自己紹介して無かったね。彼女はサイレントラビットとのスピアだ。彼女は商品だが少々特別でね」
「スピアです。宜しくお願いします」
丁寧にお辞儀した後、彼女は肉を取り食べる。
「所で、先程は見事な射撃だったね。オークを近寄らせる事なく殲滅したのはね」
そう言うとウィリスさんは背中に背負ってるSR-25を見る。
「まあ、この狙撃銃は優秀ですからね「プッキャ!プッキャ!」…お前も優秀やで」
クロを撫でながら言う。
「ほほう?スライムを従魔にしたのかね?初めて見たな」
珍しげに見るウィリスさんとスピアさん。
「まあ何とか従魔に出来たのは良かったですけどね」
クロを撫でながら言う。
「中々珍しい物を見せて貰えて良かったよ。所で、その古代兵器を見せて貰っても?」
「構いませんよ」
俺は弾を抜いて渡す。
「ほお……これは中々良いね。中の方も……壊れてないし。うん、良くこの状態の古代兵器を見つけたね」
「はい、かなり良い状態のを見つけれたのは運が良かったですよ。暫くは俺の相棒ですよ。勿論クロもな!」
「モグモグ…?」
こ、この野郎……。
「そう言えば先程スピアさんが特別だと言っていましたが?何故なんですか?」
「ん?……そうだね。サイレントラビットを知ってるかね?」
ウィリスさんにの言葉に首を横に振るう。
そしてウィリスさんは、サイレントラビットについて話してくれた。
・サイレントラビット
獣人のラビット族から極稀に生まれる存在だ。サイレントラビットの身体能力は狼、熊、虎等のスピードやパワーに匹敵する。そして、容姿もラビット族同様かそれ以上に優れているのだ。
しかし、本命はそこでは無い。サイレントラビットは天性の暗殺技能を持っているのだった。また、自分の容姿が整ってるのを利用して仕掛けを使い仕留める事も躊躇はし無い。実に合理的で冷静な者が殆どだと言う。
かつて中規模勢力だった帝国がサイレントラビットを起用してから帝国領が増え、今の巨大国家になったのもサイレントラビットのお陰だと言われてる。
この事を知った各国の王達はこぞってサイレントラビットを捕獲しようとしたが、暗殺技能に付属する気配遮断能力も相まり殆ど捕まらなかったと言う。
「サイレントラビットは自分達のコロニーを守る為に生まれたと言われてる。そして自分達の家族を守る為にサイレントラビットは魔王軍に数多く身を置く事でコロニーを守る事を選んだのだ」
こうしてサイレントラビットは魔王軍側に付き、今尚活動していると言われてる。
「えっと……完全にマッチポンプじゃ無いか。それに……」
(え?魔王軍?……魔王とか居るのか?そもそも、帝国……王……?民主主義や資本主義は何処に消えた?)
自分の中に焦りが生まれる。そう……俺は何も知ら無いのだ。今の情勢に……そして此処が何処なのかを。
(考えてみたら生きる為に一生懸命だったしな。よし!次の都市に着いたら色々調べるか!)
今考えても仕方ない。なら、取り敢えず先に見送る。
本来なら此処まで冷静に判断は出来ないだろう。しかし、軍事用PDAが危険を感知し液晶が光っていたのを彼は気づかなかった。
「確かにね。ただ全てのラビット族が魔族側に付いたわけじゃ無いから……そこの所は理解して欲しい」
ウィリスさんはそう言いながらスピアさんを見る。
「踏み込んだ事を聞きますけど、スピアさんは何故商品に?」
「ウィリス様に私の家族達を雇って頂きましたので」
「彼女達を守るにはコレしか無くてね」
当時スピアさんは幼かった。しかし、サイレントラビットとしての力は覚醒していた。だが、多勢に無勢。彼女は一族諸共自分達の居場所を捨て難民になってしまう。
そしてウィリスさんの屋敷の前で死に掛けていた所を保護された後、一族全てをウィリスが雇う形で救われた。
「結局、彼女の弱味に漬け込んだに過ぎ無いがね」
そう自傷気味に笑う。
「そんな事は無い」
「……何故かね?」
俺は否定してウィリスさんは聞く。
「『何もし無い善より、何かをする偽善』俺はこの言葉が好きなんです。だからウィリスさんのやった事で救われた人達は大勢います。確かにスピアさんを売れば破格の値段が付くでしょう。でも、メリット無しで動く奴なんて……それこそ聖人様ぐらいじゃあ無いですかね?」
俺はそう言う。ウィリスさんは呆然とする。そして……
「ふ…ふふ……ふははは!そんな風に言われたのは初めてだよ!今まで「サイレントラビットを手に入れる為に!」とか「所詮奴隷商人か!」としか言われなかったからな!」
それは人の話を聞いて無い人達じゃ無いか?
「さて、久々にいい気分になったよ。ありがとう」
「いえいえ、俺は別に「おーい!シュウ!お前は今日の功労者だろ!?コッチ来て歌えよ!」何で功労者が歌うんだよ!全く……すいませんが、向こう行きますね」
俺の言葉に頷くウィリスさん。
「よし!お前らが知らないアニソンでも歌ってやんよ!アカペラだがな!」
「プッキャ!プッキャ!」
俺はウィリスさんとスピアさんに頭を下げてから、冒険者達と護衛の人達の所に向かったのだった。
……
side ウィリス
「いやはや。中々面白い少年だったな。スピアはどう思うかね?」
「私は……優しい方だと思います。それに、冷静な方だと」
スピアは彼を見ながら言う。
「スピア。以前君に話したが奴隷オークションに出品する事になる。普通の人は入れない特別なオークションだと」
スピアは頷く。
「私は彼なら君を預けても大丈夫だと思うよ。今やサイレントラビットは敵として認識されてる。全く…自分達が蒔いた種だと言うのにね」
私はスピアに言う。しかし、彼女は浮かない表情だ。
「確かに君の値段は破格の額になるだろう。だが、これは私の勘だが彼なら何とかするだろうと思うよ」
長年この勘に頼って来た時もある。しかし、外した事が無いのが私の自慢だ。
「それでも……彼が買うとは」
「大丈夫さ」
私はスピアに言う。
「私の話を聞いて嫌悪しなかったのだ。きっと彼は彼なりの価値観が有るのだろうからね」
私はそう言いながら彼を見る。
しかし、中々歌が上手いな。
side out
……
今回の見張りは人数が多い為半分は寝て貰い半分は交代で見張りをする事になった。
俺は見張り立候補して最初に見張りする事に。
「うん……思った通り空がメッチャ綺麗だ」
俺は空を見上げながらお茶を飲む。昔だったら見えないだろうな。
(さて、魔王軍やら帝国、王国なんかも有るみたいだが何とかなるだろうさ)
こんな時騒いだり焦ったりしても何も変わらんしな。
俺はそう思いながら見張りをする。そして、この護衛任務には魔物から守るだけでなく……同じ人間からも守ら無ければならない事を、俺は認識していなかったのだった。




