パーティー名【未記入】
「ギルド。パーティー登録用紙。
1.あなたのパーティーメンバーを記してください。
【レオ】
【グラヴス・ヴェルディ】
【テルード・ファティ】
【―未記入―】
【―未記入―】
【―未記入―】
[レ]これからもパーティーメンバーは増えます。
[ ]以上で打ち止めです。
2.あなたのパーティーの主な活動内容を次のうちから選んでください。(複数回答可)
[レ]狩猟
[レ]採取
[レ]ダンジョン攻略
[ ]合成・錬鉄
3.契約事項
【長々とギルドは責任を取らないということが綴られている】
[レ]同意します。
[ ]同意出来ません。 」
◆◆◆
ダンジョンという物がある。古代人が作り上げた伝説級の代物を封印するべく作られた巨大な迷路のことを、現代人が総称してそう呼ぶのだ。時々、成長の過程で迷路になってしまった森林や、自然の流れで出来た迷いやすい鍾乳洞等もダンジョンと名付けられることがある。が、基本的に現代人が思うダンジョンへの印象は魔物がいて、儲かって、ついでに美味しいというこの三つに大体分けられる。
実際これらはどれも間違ってはいないが、迷宮探索の本来の目的は封印された代物を手に取り、王家へと献上することであって己の欲を満たすための物ではないということをここに記しておく。
「ダンジョン行こうぜ!」
三人しかいない宿屋の部屋に、嫌に響くうるさい声。槍を拭く手を止めて、うるさいそれを見るのが一人。もう一人は視線だけ向けてぼけーっとしている、話だけは聞くということらしい。二人の反応によくしたのか、うるさいのがさらに語り出す。
「我らがパーティーを組んでからついに三ヶ月と立ったけどさ、なんていうか最初に渡された紙を適当に書いたのがよくなかったのかただの一銭にしかならない奴らの掃除だとか足元を見てくる不快なおデブさんの護衛だとか散々だったと思う訳だ! しかもその割にギルドの月々の入会費は高いしさ! いやほんとあのおデブさんクソだったよね水は寄越してくれないし暇潰しに話せって言うから思うがまま喋ったのに途中から黙らせるわでほんとなんていうかなってなかったっていうーの? これで魔物が強かったら文句の一つも減るのに魔物もオークとかウルフリーダーとかで歯応えがないどころが口の中でふわっと溶ける勢い! 霜降だよ霜降! 旨くない霜降だよ! あっ、今の上手くない? ねぇねぇ上手くない? ……わかったよ続けるって。なんで無言で流すかなーほんと。ノリがなってないというか……。はいはいわかったわかった。んでだ、稼ぎも悪いしここはいっちょダンジョンに行ってババーンと稼ぐなんてどうだ! 名案だろ! 聞けばダイヤゴーレムなんてすっげぇ金のなる魔物もいるらしいしよ! どうだどうだ!」
「いいんじゃないか、稼ぎは欲しい。所で俺のプリンを知らないか?」
「いいねぇ! そういう仕事に対してノリがいい所があるグラヴス、嫌いじゃないぜ! 後プリンはお前が食ってたぜ! 旨かった! テルードはどうだ?」
「……ぃぃ」
「おっ、ゴーレムと聞いてメイン盾の血が騒いだな? そういう所嫌いじゃないしむしろ好きだぜ! んじゃ明日の威勢のために今日はパパーっと飲みに行こうぜ! 俺チューハイ!」
「今日は焼酎のロックな気分だな」
「……ぃぃちこ」
結局その後、三人は金は稼ぐからと言ってバーに入り浸り、こつこつとためた金をその日中に全部使いきり、バーの経営を潤わせたそうな。しかし翌日にダンジョンに入るには若干の金がいることを門番に言われてから思い出し、ギルドの受付嬢に金を借りに行くのだが、それはまた別の話としよう。
◆◆◆
所変わってここはダンジョン。うるさい担当のレオが得意な話術でなんとか金を借りてようやく潜れた三人は順調であった。いや、それどころか
「うっひょー! これでダイヤゴーレム六体目だ!」
滅茶苦茶稼いでた。単に運がいいのかそれとも当たり部屋を引いたのか、それは当人達にも分からないし王家の探索員達にも分からないだろう。だが今ここでパーティー名未記入のチームはいつもの五十倍以上の稼ぎでガッポガッポと儲けていた。
誤解する前に記しておくが、ダイヤゴーレムは本来このダンジョンでは出会ってはいけない部類の魔物である。その硬さはまさに鋼鉄以上で、まさにその名の通りの物質で全身が覆われているため名剣ですら傷一つはつけられないし、そんな硬度とゴーレムの腕力が合わされば凹まない所か砕けない物の方が少ないほどだ。あの全長10メートルもある鱗の強度No.1で知られている鋼竜にすら、自慢の鱗を抜いてワンパンで沈めるほどだ。弱いわけがないし、王家の探索員達ですら出会えば死を覚悟するとまで言わしめる。
が、そんなのは三人の前ではただの金を背負って来たゴブリンだ。
「――ッ!」
最前線で槍を振るい続けるのはグラヴスだ。出会った当初こそはその硬さに舌を巻いたが、今では目にも止まらぬ突きを繰り出して一発で風穴を空けてその命を奪っている。というのも、刺さらないのは槍の問題ではなく、己の突く速度が遅いのだということに気づいたからだ。
それに勘づいてからはもう楽しくて楽しくて仕方がないらしく、狂暴な笑みを強める度に速度が増している。どうやらあまりの歓喜で己の限界を伸ばしているようだ。今のうちに言っておくが、王家の槍の名手がこの光景を見れば何故貫けるのかには気づけるだろうが「いやそのりくつはおかしい」と頭を抱えることだろう。
グラヴスが前方ばかりに気を使っているのに気付いたからか、後方からダイヤゴーレムが今自身が出来る全力疾走で迫っていく。その速度、時速40㎞ほど。分かりにくい人のために秒速で言うのならば11mほど、自動車と同じぐらいの速度だ。
さてそんな速度で体当たりされたら流石のグラヴスも血反吐を出すだろうし、今後の戦いにも響くだろう。ダイヤゴーレムはそのままの速度で思いっきりぶつかろうとしたその時、一つの人影が遮る。
メイン盾、テルードだ。その身長からでは体長三メートルもあるダイヤゴーレムの前に立った所で無惨な死体になるだけだと言うのに、彼は自身の身の丈ほどもある武骨な盾で受け止めようと盾を構える。あまりにも無謀な瞬間だった、それを見ても尚ダイヤゴーレムは速度を緩めない、いや緩めようとしない。この程度の小僧ならばグラヴス諸とも引き殺せると考えたのだろう。実際それは普通の判断だし、当たり前の考えだ。
そう、相手がただの盾持ちならば。
鉱物が鋼鉄に接触した爆音が重く響いた。その後に聞こえたのは二人の声なき悲鳴等ではなく、石の床に何かの破片が散らばる音の数々。別にテルードが砕けたわけではなく、逆に砕けたのは突進を繰り出したダイヤゴーレムの方だ。
「お、すまない」
「……気にしなぃ」
テルードが行った事は簡単だ、それも一文で解説できる。「盾で返した」、たったそれだけだ。あまりにも当然出来るだろうという言う風に書いてあるが、普通はこんなことは出来ない。恐らく、テルードぐらいしかこんな事は考えないだろう。
理論はこうだ。受けた衝撃を内に入れて、ぐるぐると筋肉のサーキット内を高速回転させパワーを増していき、最後に最初に受けた衝撃を何倍にもして返した、というものだ。王家の名手が見ても理解できないであろうそのテクニックは、テルードの体の構造あっての物だ。どんな英雄が似たようなことをしようとも必ず筋肉を断裂させるだろう。
「いざ刮目すべし! この俺の銃捌きってね!」
普段はおしゃべり、いや戦場だろうと死地だろうと関係なくおしゃべりであるレオもまた人外じみた動きを見せる。片手にはショットガン、もう片手にはスナイパーライフル、両足の側面には2丁拳銃といった何とも変態じみたアセンブルをダイヤゴーレム達にこれでもかと見せびらかしていく。
もちろん普通ではダイヤゴーレム達の表皮には傷一つ入らないが、そんなことはレオだって百も承知だ。だがダイヤモンドにはある有名な通説がある、それは一点の攻撃に脆いという説だ。グラヴスは速度×筋力の脳金突きで屠り、テルードは内側から殺す、ではレオはどうするか。当然先にもあげた通説を使う、一点集中のバ火力で貫き通す。人並み外れた精密さが必要となるガンナーならではの思考だ、当然ダイヤゴーレム相手にその考えはおかしいのだが。
「オーソレミーヨっとぉ!」
やかましい声をあげてダイヤゴーレムの右フックを見事回避。
「いやほんと俺って本来は中距離遠距離向きな装備してるし実際そっちの方が得意なんだよね! だのになんで俺こんなバカみたいに近づかなきゃいけねーんだよ畜生め! この腐れダイヤゴーレムが綺麗にばっきばきに砕いてやるぜ!」
ここまでの独り言をしながら丸太のような一撃をステップ回避しているのにも関わらず息一つ乱していない所も見ると、いつも通りすぎてもう体が完全に慣れてしまったようだ。いや、天から与えられた異常な肺活量のせいというのもあるだろうが。
ダイヤゴーレムに感情というものがあるかはわからないが、怒っているようにも見えるし、そのせいでやけに攻撃が大振りにもなっている気がする。うるささは全種族共通の煽り効果があるということだろうか。
そして今日一番の大振りな攻撃。当然ステップ回避、その後に残っているのはあくびが出るほどながい大きな隙。
「ある日ぃ鉄の、雨にぃ撃たれぇ父はぁ死んでぇいったぁ!!」
懐に入り、ショットガンを脳天に突きつけ発砲、30はある鉄の破片が一気にダイヤモンドの表皮に襲いかかる。だがその程度ではダイヤモンドは砕けない。それが分かっているレオの思考は単純だ、穴が開くまで撃つのを止めない。
フルオートショットガンがまさに火を吹く。十発のショットシェルも、この距離ではばら蒔きようがない。その瞬間火力はアサルトライフルの数倍以上。当然ダイヤゴーレムも苛烈には耐えきれずに砕け散る。
「……あっ、ダイヤモンドって鉱物だから腐らねぇじゃん! まぁいいやどんどん行こうぜ!」
その場でショットガンとライフルを投げ捨て一回転、その遠心力で両足の2丁拳銃の宙に放り出され、特にこけることもなく着地したレオの両手に収まる。投げ捨てた二丁はレオの背中に設置された専用のホルスターに収まる。
この後、その部屋からは爆音が鳴り止まなかった。
「あーっスッキリした! いやぁ稼いだ稼いだ! ダンジョンって最高だな本当、受付ちゃんを言いくるめてんっんんっ説得してマジよかったぜ!」
「確かに、こんないい日はなかっただろうな」
辺り散らばる輝かんばかりのダイヤモンドの山を見て、三人は眼を輝かせて喜びに浸っていた。特にレオは前々から欲しかったものが結構あったらしく、顔をだらしなくさせてとろけさせて笑顔にしている。グラヴスとテルードは言わずもながら無表情だ。いや、グラヴスは若干口元を緩ませているような気がしないでもない。
「後は持って帰るだけだな!」
「底無しとは言われているが、本当に鞄に入るだろうか」
彼らが一つずつ背負うギルドバックなるものは、特別な魔法をかけられているらしくいくら入れても満タンにはならないし重たくもならない、まさに究極の鞄なのだ。そんな物もギルドで配布される時代、いい時代になったものだと歴年の冒険者は語る。
すっかり帰ったらパーティームードになっている彼らだが、すっかり忘れていた事がある。それは、遠足は帰るまでが遠足だということだ。
ダンジョン全体を揺らす地響きが鳴る。何事だと他のダンジョン内の冒険者達が慌てる中、三人は非常に冷静であった。一人は盾を構えて一人は槍を構えて一人は逃げる姿勢に入る。まるで何のせいなのかが分かっているようだ。
いや、分かっているのも当然だろう。何故ならその原因が、丁度目の前に現れたからだ。
「お、おぅ………レヴィアタンですか。流石の俺もこんな化け物相手してらんないぜ! 三十六計逃げるにしかず! 大体俺らはダイヤモンド取りに来ただけだしな、うんそうだそうだ。逃げよう」
そうレオが漏らすのも仕方がない。このレヴィアタンと呼ばれる黒い巨虫、今立っているダンジョンの主なのだ。どうやらダイヤゴーレム相手に派手に暴れまくったのが原因で起き、しかも熟睡しているところを邪魔されたのでとってもとっても怒り狂っている。ダンジョン崩壊の危機だと言っても過言ではない。
「えっ、ちょっと二人とも聞いてる? 何武器構えてわくわくしてんの? いやマジで無理だって! 聞いた話じゃ甲殻の強度はダイヤモンドの比じゃないらしいし、体が全長45メートルもあるらしいから俺みたいな奴はマジで不向きなんだって! 盾で返すにもテルードのちっこさじゃ突進止められないから返しようもないしグラヴスの槍だってアイツにとったら爪楊枝どころか髪の毛程度にしかならないって!」
「……」
「あーっとテルード選手走り出したぁ! ってテメェ自分の愉悦を優先しやがったなぁ!? 待てってっ、無理だってマジで!」
「……すまん、アイツはなんだ? 俺の記憶には無くてな……。ん? なんだテルードが走り出してるじゃないか、俺も槍を試しに行くか」
「っておぉいこんな時に都合のいい記憶喪失かよこのくそったれがァッ! 畜生、この戦闘狂どもめ! 俺だってなぁ、俺だってなぁ……」
「ヒャッハァー! もう我慢できねぇ! フルバーストだァァア!!!!!!」
この日、ダンジョンが一つ壊滅した。