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第零話 異世界に召喚された少年

陽が沈み黒く塗りつぶされた空に星々が輝いている。

夜道を一人歩く少年は歩く足を止め空に輝く星々を見る。

(綺麗だ……)

少年は本当にそう思った。例え、ルビーやダイヤモンド、どんな宝石だろうとこの輝きに勝るものはないだろう、と。

だが、少年の顔に笑顔はない。

星々が輝き綺麗だと思っているのに笑顔を見せる素振りすらない。

少年は笑顔を見せないのではなく(、、、、、、、、、)出来ないのだ(、、、、、、)

少年はあまりに多くの大切なものを失い過ぎた。

大切なものをたくさん失い、笑っていられるはずなどなかった。

しかも、つい先ほどまた(、、、、、、、)少年は失っていた(、、、、、、、、)


「誰か、誰でも良い……こんな、こんな失うことだけしか出来ないこの世界をーー壊してくれ……!」


少年は輝く星々に強く願った。


その願いは突如として叶えられることになる。

少年が光を失った目で歩き出した時だ。

暗闇に包まれていたはずの今、自分が立っている場所が淡い緑色に輝いているのだ。

その光は少年を中心とした円から放たれている。

すぐにそれが何なのか理解は出来なかった。

その円は更に輝きを増し、砕けた。

少年が立っている地面ごと。

そして、どこに続いているかも分からない虚空の中を真っ逆さまで落ちていく。

その時、少年は笑っていた。

やっと、この世界から解放されると思ったから。

少年は暗闇へと消えた。



☆☆☆



「はぁ……はぁ……ここまで来ればもう大丈夫……!」

膝に手をつき荒い息を吐きながら少女は言った。

その安堵も束の間、少女の顔が強張る。

森の奥から覗く光。その数は二つ。

光はだんだんと少女へと近付いていく。

少女が今いるところは森が開けた場所。

そのため月光に照らされその正体を確認することが出来た。

光の正体はーーー狼だ。

そもそも狼がこんな森にいるだろうか?

それも普通の狼ではない。体長は約二メートル。銀色の毛並みが月光に照らされ輝いている。

狼はゆっくり、ゆっくりと少女へと歩を進めていく。

少女は喉を鳴らし額に汗が浮かんでいた。

双方ともに睨み合いが続く。

先に動いたのは意外にも少女の方だった。

風刃(ウィンドエッジ)!」

少女が叫ぶと一陣の風が狼に向かって吹く。

すると、狼の体から鮮血が散った。

少女は魔力で風の刃を(、、、、、、、)作ったのだ(、、、、、)

「やった!」

声に出して喜ぶがそれも一瞬で終わる。

狼は傷を苦にすることなく飛びかかってきた。

咄嗟のことによけきれず狼の爪が左腕を捉えた。

「……ぐっ!」

左腕から走る激痛に顔をしかめる歪める。

狼はこちらを見て笑っているように見えた。

このままだと喰われる! 少女は確信した。

少女は意を決して右手を天へとかざす。

そして、詠唱を開始した。


我は汝をここに召喚せし者!


我は汝に力を乞う!


我は汝に血肉を与えここに汝を具現す!


汝は我に力を与え給え!


「《精霊召喚》!」


少女が叫ぶ。

すると、魔法陣が彼女の真上に出現した。

その魔法陣は淡い緑色に輝いている。

ギュッと目を瞑り、少女は助けて、と切に願った。

「痛ってぇ!」

「え?」

目を開くと私の前に一人の少年がいた。

魔法陣が消えている。少年は今魔法陣からここに落ちたのだと理解する。

「だ、大丈夫ですか!?」

「え、あんた誰?てか、ここどこだよ」

「そんなことより早く逃げてください!」

「なんで?」

「そこにウルフがいるんですよ!? 早く逃げないと食べられちゃいますよ!」

「うぉ、狼なんで生で見るの初めてだな」

狼を見た少年はギョッとした様子だ。

精霊ではなく少年が現れた。精霊は来なかった。

……やっぱり私にはーー!

「あんたはどうすんだよ」

少年の声に我に帰る。

「私が時間を稼ぎます。だから今のうちに逃げてください」

そう言うと少年が顔をひそめた。

少女は背を向けていたのでそれに気付かない。

これ(、、)、借りるぜ」

「え?」

少女の腰辺りに巻かれたベルトから短剣を抜き取る。

「え、な、何する気ですか!?」

「いいから黙ってろ。ーー俺の目の前でだけはもう誰も傷つけさせない」

「え、今なんてーー」

少年が何を言ったの言ったのか聞き返そうとしたが少年はもう狼に向かって走り出していた。



地面が砕けて落ちたかと思ったら森の中にいるし目の前に少女が、それを狙う狼がいた。

少女は逃げてと言ったが逃げる気などない。

俺は少女の静止も聞かずに短剣を抜き取り狼へと駆ける。

少女を助けて死ぬ終わり方も悪くない。

そう、思ったから。

狼も黙っているはずがなく俺へと駆ける。

狼が飛び込んできたのでそれをスライディングで躱す。

態勢を立て直し振り返ると狼はすでに俺に向かって飛んだところだった。

そのまま覆いかぶさるように狼が落ちてくる。

狼は俺の頸動脈(けいどうみゃく)を喰い千切ろうと牙を突き立てようとしてくる。

それを片手で狼の首元を押さえ抵抗する。

「くっ!」

風刃(ウィンドエッジ)!」

次の瞬間、狼の体が吹っ飛んだ。

見ると少女がこちらに手を向けていた。

今、何したんだ?

「大丈夫ですか!?」

俺の元へと駆け寄り心配する少女。

それは少し嬉しかった。

こんな俺でも心配(、、、、、、、、、)してくれるんだ(、、、、、、、)、と。

「大丈夫だ。心配ない。すぐ終わらせる」

「そんなの無理ですよ! 私の風刃だって効かないのに……あんなのに勝てっこないですよ!」

「なんで、そう言い切れる?」

「えっ」

予想外の問いかけに少女は言葉を詰まらせる。

「あんたの言う風刃が効かなかったからか? 狼が怖くて腰が抜けたからか? 自分自身が、自分なんかが勝てるはずがないと決め付けているからか?」

「それはーーー」

少女はとうとう俯いてしまった。

きっと思い当たる節があったのだろう。

尚も俺は続ける。

「あの狼に勝てないと誰が決めた? あんたが狼に勝てないと誰が決めた? そんなもの決めるのは他の誰でもない。自分自身だ」

「だったら、だったらどうすればいいんですか!? 私だって頑張ってるんです! 貴方に私の何が分かるんですか!?」

「分からないさ。さっき会ったばっかりなんだから」

「だったらーーー!」

「でも、その自分の中に出来たクソみたいなルールをぶっ壊すのも自分自身だ。それは誰にだって出来る」

激情した少女は数秒キョトンとして、

「………自分のルールを壊すのも自分自身………」

俺の言ったことを復唱している少女から離れ一人狼へと歩む。

身をかがめいつでも飛び掛かる準備は万端のようだ。

だが、そんなこと気にも留めずに歩いた。

狼は待ちきれなくなり俺へと飛んだ。

そこで身を庇うように左腕を前に出す。

左手に牙が沈み込んでいく。

「ーーーーッ!」

それは言葉にならない痛みだった。

痛いのを承知で左腕を差し出したのだこれぐらいは覚悟の上だ。

左腕に狼をぶら下げたまま右手の短剣を逆手に持ち替え狼の脳天へと振り下ろした。

ゴシャッ!

鈍い音が響いた。

少し体を痙攣(けいれん)させ動かなくなった。

短剣を抜き取ると狼が地面へと落ちた。

頭蓋を砕く感触、肉を貫いた感触がまだ手に残っている。

きっと、この感触を俺は一生忘れないだろう。

そこで俺も地面へと崩れ落ちた。

倒れた地面を見るとそこには自分の血で出来た水たまりが広がっていた。

それを確認すると意識が闇へと沈んだ。



☆☆☆



眼が覚めるとベッドの中にいた。

柔らかく包み込んでくる感じが堪らない。

心なしかお日様の匂いがする。

周りを確認するが俺以外にこの部屋には誰もいない。

一体誰がここまで連れてきてくれたのだろうか?

頭に浮かんだ疑問を考え込んでいると部屋のドアが開いた。

「あ、起きたんですね。心配したんですよ?」

「あんたは………そうか、確か俺、狼とーーー」

そう思うとあの感触(、、、、)が蘇る。

あまり気持ちのいいものではないな。

それに、なんであの時俺は左腕で狼の牙を防いだのだろうか?

あのまま飛び込んでくる狼に首元を喰い千切られその瞬間に脳天へと短剣を振り下ろすーーーそうすれば俺はあの時死んでいた。

死ぬのが怖いわけじゃなかった。

むしろ、やっと終われると清々するほどだ。

でも、そうはしなかった。

今考えるのはよそう。取り敢えず状況整理からだ。

「俺は真宵まよい恵斗けいと。あんたは?」

「私はアーシャです。あの、ケイトさんは人間何ですか?」

「そう、だけど。何でそんなこと聞くんだ?」

「だって、この世界に人間なんて居ませんから。いえ、正確には居た(、、)ですね」

「どういう意味だ?」

「まずケイトさんは私の《精霊召喚》でこの世界に召喚してしまったみたいなんです」

「《精霊召喚》?」

「はい、本来《精霊召喚》は精霊を呼び出すためのものです。私は狼を倒すために《精霊召喚》を使いました。それが何でか別の世界ーーケイトさんの世界に繋がってしまったみたいなんです」

「何でまた?」

アーシャは首を横に振ると申し訳なさそうに、

「……すみません。私にも分からないんです」

「いや、アーシャが気に病むことじゃないよ。でも、なんで俺が別の世界から来たのが分かったんだ?」

「ケイトさんが来ている服はこの世界のどこにもないからですね。それとーーケイトさん『魔法』はご存知ですか?」

「知ってるには知ってるけど実際に見たことは……あるか」

アーシャが狼を吹っ飛ばしたあの風の刃。

あれがそうなのだろう。

そして、今気付いたのだが左腕の傷が治っている。

まるで最初から何もなかったかのように。

「今の反応から見るとやはり『魔法』についてはご存知ないみたいですね。ケイトさんの左腕の傷を治したのも魔法ですよ」

「そっか。確かにそれだけあれば俺が別の世界から来たと推測を立ててもおかしくはない、か」

「はい。それで、そのケイトさんはこれからどうするつもりなんですか?」

「ん〜俺ここに来たばっかで何も知らないし行くあても特にないしな。どうしようかな?」

「その、ケイトさんさえよろしければここにしばらく住みませんか?」

「え? いや、でもそれはアーシャに悪いよ」

「助けて貰ったお礼、だと思ってください」

「ーー分かったよ。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな?」

「はい!」

満面の笑みを浮かべるアーシャ。

その笑顔はとても眩しかった。

アーシャの笑顔を見て俺はふと思った。

笑顔ってどうやってするんだっけ? と。

「それじゃあ、ケイトさんにこの世界のことについてお話ししますね」

「よろしく頼むよ」



こうして俺は異世界へと召喚された。

それは新たな旅立ちでもあることをこの時の俺はまだ理解していなかった。

この世界で俺はーーー








唐突に書きたくなり書いた次第です。

不定期更新になるかもしれませんが楽しんで読んでもらえると幸いです。

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