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エピローグ 君に届け(る)



それから、俺の目の前を長い時間が過ぎていった。

10代を手放して。

まあまあいい大人になって。

デリバリストとして経験も積んで。

それでもガムシャラだった17の俺の姿は、昨日のことみたいに鮮明に思い出せる。

いろんな現場を経験して、いろんな怪我や無茶をしてきた。

ひどい目に遭っても大怪我を追っても、やっぱり宅配はやめられなくて。

今でも俺はデリバリスト。

そんな風にずっと宅配を続けてきたからだろうか。


「ぎゃあああああああっ、変なトラップ作動したああああっ!」


最近よく、既視感(デジャヴ)に悩まされている。

ちなみに今、ピラミッドの中で岩に追いかけられています。

昔もこんなことあったよなと懐かしく思う反面、とにかく命の危機に冷や汗している。

真っ暗で狭い道を懐中電灯の光を頼りに全力疾走。

前回はどうやって切り抜けたっけ、と考えてブルートゥースで卯衣を呼ぶ。


「卯衣、隠し通路、ない!?」

『カタカタカタカター。あら、今回はないですねー。どんまい、きゃは♪』

「見殺しにする気かああああああっ!」


あっさり言ってくれやがって。

とにかく解決策が見つかるまで走り続ける。

岩がぐんぐん俺の背に迫ってきてーー

意外なところから、助けはやってきた。


「カケルっ!」


俺の目の前に現れたのは、ハンチング帽を目深にかぶった女の子。身長は150もない。

その女の子を巻き込む形で岩に追われながら並走する。


「ちょうどいい! 乗って!」

「うむっ!」


お決まりのお姫様抱だっこポーズ。

余談だが、別の持ち上げ方をすると後で機嫌が悪いのだ。

身長と同じく、ちょうどいい体重も昔から全然変わっていない。

俺はその重みに力を得て、飛脚の気質を発動。

一気にスピードを上げて後方の岩をぐんぐん突き放していく。

ゴロゴロ音が遠く聞こえる中、女の子の力強い声が響いた。


「カケル! 上に足場があるのだ!」

「おうよ! 掴まっとけ!」


彼女が指差す方向には確かに通路らしき物が見える。

俺は身体中のバネにエネルギーを送り、勢いを跳躍の爆発に変えた。


「おっ、らああっ!」


ジャンプ一番、足場を捉える。

ゴロゴロ岩が俺たちの下を通過していく。

しばらくしてドオオオンッ! という激突音。


「危なかったな……」

「うむ、ここを逃したら危なかったの」


それを眺めながら足場に腰を下ろす。

腕の中にいる彼女を膝の上に乗せて、ちょっと休憩。

30分前にはぐれた彼女に抗議するみたいに俺は口を尖らせた。


「どこ行ってたんだよ」

「すまぬ。迷っていたのだ」


彼女はバツが悪そうにぽりぽりと頬をかく。

そんな姿が可愛らしくて、俺は咎めるのをやめた。


「ま、無事で何よりだよ……ミーナ」


言って、俺は女の子の……ミーナの頭を帽子ごとくしゃくしゃ撫でた。

いつもなら「子供扱いするでない!」とテレ隠しにパンチが飛んでくるんだが。


「…………むぅ」

「どうしたんだよ?」


思ったより反応が薄く、心配になる。

しつこくなり過ぎない程度に問うと、ミーナは自分の制服をつまんで見せた。

左肘のあたり。


「ここを見るのだ」

「ちょっと汚れてるだけだろ?」

「…………足がもつれて転んだのだ」


ミーナの声がワントーン落ちる。

俺とはぐれて迷っている間にトラップか何かにやられたんだろう。

恥じるようなことでもないが、ミーナはかなり気にしているようだった。


「昔に比べて体力が落ちた気がするのだ……」

「まあ、今はお互いに10代じゃないしな。衰えるところは衰えるだろ」


フォローのつもりで言ったのだが、軽く睨まれてしまった。

俺のスネに軽くチョップを入れて、不機嫌アピール。


「そういう問題ではないのだ」

「どういう問題だよ?」

「我がカケルに……迷惑をかけてしまう」


俺の制服の膝をぎゅっと掴みながら、ミーナはため息まじりにつぶやいた。


「気にすんなよ。昔はミーナが俺のフォローしてくれただろ」

「しかし……」

「フォローだろうが救助だろうが、喜んでするよ」


ミーナは「変わりたくない」と思っているみたいだけれど……

長い時間が経ったんだ。

何もかも昔と同じように、とはいかない。

それはもちろん、俺とミーナだけに限ったことではないのだ。


たとえば、卯衣。

あいつは俺たちと同じで、まだデリバリスト運輸に籍を置いている。

しかし最近は後任オペレーターを育てることに集中し、実際にオペレーションすることは少なくなった。

まあ昔のよしみで、俺たちが出る時はオペレーターを買って出てくれるけど。

トレードマークのセクハラ・下ネタ・ブラックジョークは衰えを知らずなので、積極的に俺に絡んでくるのは相変わらずである。

初対面で植え付けられた苦手意識は結局抜けることがなかった。


たとえば、リンゴ。

あいつはデリバリストを引退した。

衰えや体力の問題があったわけではない。

3年前、プロのバイクレーサーに転向したのだ。プロになるや否やニッポンのリーグで優勝をさらいまくり、国内では負けなし。

子供時代からの夢だったモトGPからも招待を受け、3年連続出場。

ぶっちぎりの3連覇を飾り、名実ともに「世界最速のバイク乗り」である。

長い現役生活の中でどこまで連続優勝記録を更新できるか楽しみだ。

何度か予定を合わせて一緒に飯を食べたことがあるが……


『ミーナとはうまくいってんの?』

『まあ、それなりにな』

『へー。ふーん。あっそ』

『リンゴさん、無関心装いながらプロの技術で足を踏むのやめてください……』


こんな感じで、相変わらずのサバサバ具合である。

こりゃ一生踏まれ続けるんだろうな、俺の右足。


たとえば、千島千鳥。

彼女はオーサカエリア支部の支部長になった。

紅陽さん引退後のオーサカエリアを引っ張る凄腕デリバリストとなり、近々二つ名も貰えそうなんだとか。その任務遂行能力と天然さで支部を振り回していると風のウワサで聞く。

プライベートでの行き来はほとんどないので、年に一度のデリバリスト競技会で会ってちょっと話をするくらい。耳たぶは会うたびに噛まれる。

相変わらず奇行の目立つ千島だが、敵に回すと恐ろしいことに変わりはない。来年のデリバリスト競技会こそはトーキョーの連覇を止められるんじゃないかとヒヤヒヤしている。


そして、俺とミーナ。

昔に比べて一緒に仕事をすることが多くなった。

トーキョーエリア支部もニッポンで1、2を争う大支部になり、在籍デリバリストが増えたから2人1組で仕事をする制度を導入している。

いろんなデリバリストとミーナを組ませてみたのだが、二言目には「やっぱりカケルがいいのだ!」とワガママを言ってくる。俺も口では「仕方ないな……」と渋々了解するのだが、やっぱり組むならミーナ以外考えられなくて、この組み合わせに落ち着いた。

傍目には、俺がミーナを飼い慣らしているように見えているからだろう。俺はいつの間にか「伝説のデリバリストを飼い慣らすデリバリスト」として業界で伝説的な存在になっていた。

もちろん実際は逆。

力関係は初対面の時からずっと変わっていない。

飼い慣らされているのは、俺の方。

弱音を吐く度に尻を叩かれている。


こうして考えてみると……

みんなそれぞれ、変わっているとこ・変わってないとこ、両方ある。

きっと時間が経つって、そういうことなのだ。

……と。

ミーナが少し寂しそうな目をしているのに気がついた。

さっきの「衰え」という言葉に少し落ち込んでいるのかもしれない。


「ミーナ?」

「我……そろそろ引退しようかのぅ?」


深刻な言葉に、俺はミーナの顔を覗き込んだ。

視線を横にやって目を合わせようとしないミーナだが……。

チラッ、チラッと思わせぶりに目が合う。

その仕草が見えて、少しホッとした。

俺は知ってる。

こう言う時のミーナは、気を引きたいだけなのだ。

それがわかっていたから、俺はわざと大きなリアクションを返す。


「それは困る! ミーナがいないと仕事にならないからな!」

「そ、そうかのぅ?」


俺の慌てよう(演技)に、ミーナは満更でもなさそうに首を傾げた。

もう一押し。


「そうだよ! まだまだ俺のこと支えてくれ!」

「し、仕方ないのう。カケルのためにもうちょっとだけ頑張るのだ」


こんな俺の小狡さも長い年月が積み重ねた変化の一つである。

支部長が長いだけあって、頼られるのには極端に弱いのだ。

しかし。

引退なんて言葉が出ると俺も他人事ではないところがある。

ガムシャラに働いてきた頃はそうでもなかったが、余裕が出てきた最近はつい先のことを考えてしまう。


「俺もあと何年デリバリスト続けられるかな……」

「わからぬ。妙な家は増える一方だからの」


ミーナの言う通り、デリバリストの需要は増している。

全国のほとんどの支部は増員をしているくらいだ。

俺たちも一線を退くタイミングを逸している気がする。


「ま、やれるだけやってみて、時期が来たら2人で仲良く引退しようぜ」

「うむ。賛成なのだ」

「田舎に家でも建てて、一緒にのんびり暮らすか」


ふと、先のことを思い浮かべて漏れてしまった言葉。

それを聞いてミーナはしばらくキョトンとしていたが。


「プロポーズにしては遠回しだのぅ?」


笑顔を意地悪色に染めた。

ちょっと嬉しそう。

照れ臭くなって、そっけなく返した。


「違う。未来予想図の一つを語っただけ」

「我はプロポーズでも一向に構わぬがのぅ」

「遠回しって言ったり構わぬって言ったり、ワガママだな……」

「今に始まったことではなかろう?」

「だな。ミーナがワガママじゃなかったら俺もデリバリストになってない」


思い出すのは、人生が変わったあの春の日。

あの時は先のこともわからず、ガムシャラで、バカで、全力で……

でも、楽しかった。

それはきっと、これからも。


「昔みたいにさ。今を、全力で生きようぜ」

「うむ。きっと、そっちの方がずっと楽しいのだ」


二人で笑い合うと、通路の先にゆらっと揺れる影を見つけた。

俺たちの会話が聞こえて近づいてきたのだろう。

間違いない、依頼人だ。

依頼人に気付いたミーナと目を合わせて笑い、一緒に伝票を差し出した。

それは、俺たちがデリバリストである証。

幸せを届けるための招待状。

時期が来たら引退しよう、なんて言ったけれど。

俺もミーナも、しばらくは引退しないだろう。

ヘンな荷物があって。

ユニークな家があって。

個性的な仲間がいて。

将来を約束した相手(パートナー)がいてくれて。

こんな楽しい仕事、やめられるわけない。


「「デリバリスト運輸です! 受け取りのサインをお願いします!」」


史上最強の宅配業者は今日も、どこかで誰かの幸せを運んでいる。




デリバリスト、完結。

戦う社会人は書いてて楽しかったです!



というわけで……



戦う社会人小説、もう一発いってみよう!

次の業種はツアーガイド!


「やあ、よしはる。気分はどうだい? ちょっと斬らせてほしいな」


凛々しい三つ編みの戦闘狂、元王都警備団長、エルカナ・シャーネリー。


「家から出るくらいなら死んでやるわ! アタシ引きこもりだもん!」


旅から最も遠い引きこもり女子、冒険小説家、サウザー・ウォーウィック。


「ハルキせんぱいっ、お土産買ってきていいですかー?」


ガイドが苦手なツアーガイド、北欧系天然ハーフ女子、白鳥クロエ。


「『光を観る』と書いて観光! それが俺のモットーだ!」


お客様満足度、驚異の98パーセント。

ニッポン観光業界の超新星ガイド、又吉春樹。

デコボコ四人組、力を合わせてーー

異世界で観光ガイド、やっちゃいます!



 戦う社会人 × 異世界冒険コメディー

『観光ガイド、異世界を行く!』

 6月13日(予定)から連載。


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