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第42話 難攻不落、無尽城に届ける3


俺はいきなりフルスロットルで管理人にアタックーー

ーーはせず、少し様子見することにした。

理由は簡単。隙がないのだ。

壁を背にして防御体制を取る管理人。

管理人からすれば「入られたら負け濃厚」なわけだから、ごく自然な行動と言える。

しかし油断は禁物だ。相手は守るだけが能じゃない、攻撃性能を持つアンドロイド。こっちが攻めあぐねいてしまえば、向こうから仕掛けてくる可能性もある。

もちろん相手は機械だから、油断することも隙を見せることもない。

俺の動きと出方に合わせて機械的に動きを決めるのだ。

迂闊に動けば、ボコボコにされる。

それは前回、千島が身を犠牲にして教えてくれたことだ。


「ふぅーっ、どうしたもんかね」


一番いいのは、抜き去ること。

しかし扉が閉まっている以上、開ける時に追撃を受けることは免れない。

であれば次にいい方法は無効化すること。

じゃあ遠慮なくーー


「前回みたくさせてもらうぜ!」


PPテープに手をかけて、管理人の右腕に飛ばした。

これだけは前回効果があったのだ。

とぐろを巻いたヘビのように管理人の手に襲いかかってーー


じゃきんっ!


「へ?」


鋭い音とともに、管理人が左手を振り抜く。

瞬間、俺の持つPPテープから手応えがなくなった。

その左手は、鋭い刃物のように変化している。


「スタンガンだけじゃないのかよ!」


PPテープは荷物の負荷には強いが、刃物にはとことん弱い。

対策済みのようだった。


「すげえ学習能力だな……さすがアンドロイド」


刃物をかいくぐりながら両腕両足を縛り付けるのは至難の技だ。

何度か投げてみるも、すべて切り落とされてしまう。

気は乗らないけど片手ぶっ壊すくらいの気持ちではいないとな……。

やはり予想外の動きが多く、迂闊に踏み込めない。

と、深く息を吐いた瞬間。


ガバッ!


「おうっと!」


管理人が一気に距離を詰めてきた。

両腕はスタンガン。

この短距離ではPPテープを使えない。俺は10km巻きのテープを諦めて放り出し、攻撃を避けることに集中。

ワンツー、ワンツーとボクシングのように繰り出されるスタンガン。

今横を抜けば門まではたどり着けるが、管理人のプレッシャーの前に机上論で終わる。

ワンツー、ワンツー……

突然の、ツー、ツー!

人間ではあり得ない動きに、俺は完全に虚を突かれた。

腹にスタンガンが突き立てられる。


バチンッ!


腹に感じる重い衝撃。


「おうっ、あっぶねー!」


なんとか踏みとどまり、追撃をけん制した。

服に仕込んだ絶縁体。感電させられたらアウトなので、スタンガン対策はしてある。

しかし狙い通り感電は防いでくれたが、まったく無傷とはいかない。電流の衝撃が強く、内臓に響くような痛みが残った。

卯衣の見立てだと、あのスタンガンは護身用と呼ぶには出力が高すぎるらしい。

市販の絶縁体じゃ100パーセントは防ぎきれないか。

俺のスタンガン対策。

管理人のPPテープ対策。

互いに、相手の攻撃への対抗手段はある。

しかし。

小細工なしのインファイト。

それで、大きく差が開く。


「痛ってぇ、っての!」


スタンガンが数回、服の上から直撃。

その度にチマチマとダメージを稼がれてしまう。

向こうは完璧な対策をしているが、こっちは対策というには不完全。

やがて電流を受けすぎたのだろうか、膝に震えがくる。


「失敗するわけには……いかねえだろ……」


この二週間でいろんなことを考えて、いろんなものを背負った。

そして覚悟も決めてみせた。

もう「大人になれ」なんて言わせないし。

二度と「甘えるな」なんて聞きたくない。

俺は、自分で決めたんだ。

ここに、トーキョーエリア支部にいるって。

ミーナがどの道を選ぶとしても、その横にいたいって。

それは……甘えなんかじゃないだろ?


「成功させなきゃ……ミーナを安心させられないんだよっ!」


もう、一か八かの勝負だ。

管理人が攻撃に転じた瞬間、抜き去って門の中に飛び込むのだ。

すぐ管理PCが見つかるか、管理人に追いつかれないか、心配は多いけれど。

このままぶっ倒れるよりは確率が高そうに思える。



その、一歩目を踏み出した瞬間だった。


「我を呼んだかの、カケル?」


という声と。


ガコンッ!


第二門の吹き飛ぶ音が、俺をずっこけさせた。

門が。

ベニヤ板みたいに宙を舞う。

床が抜けそうな音を立てて落ちた。

管理人も突然のことに動きを止める。

そして俺も。

この舌足らずな声に、門をものともしないパワー。

それに心当たりがあって、俺は震えてしまった。

一体、他に誰を想像すればいいっていうんだ。

俺は息を整えて、振り返った。

やっと目覚めたのか。

どうやってこの場所がわかったんだ?

連絡してくれよ。

いろんな思いが溢れてくるけれど。

一番の心に深く根を下ろした思いは。

頼もしさ、だった。


「ミーナ!」

「うむ。待たせたの!」


身長145センチの最強支部長、現場復帰。

ベッドの上で見た顔の青白さはどこにもない。

長いこと眠ってたんだ、もう動きたくて仕方がないんだろう。

肩慣らしをするみたいに腕をぐるぐる回しながら、管理人に一瞥くれる。


「そやつが相手か」


管理人は、ミーナの視線に敵意を読み取ったのだろう。

ボロボロの俺を無視して、ミーナに一直線。

ご丁寧なことにスタンガンを隠して突進した。

そしてミーナの見えない角度で武器を出し。

強襲。


「ミーナ、そいつはーーっ!」

「アンドロイドなのであろう?」


ガシッと不意打ちの腕を根元から掴んで。


「ふんっ、ぬうっ!」


ミーナは管理人を投げ飛ばした。

不意打ちの不意を突く、不意打ち。

さすがのスペックに俺も唖然としてしまう。

ミーナは驚く俺に振り返った。


「報告書はしっかり読んでから来たのだ。心配には及ばぬ」


ぶいっと指でサインを出して、再び管理人に向き直った。

管理人にはすでに体勢を立て直し、ストレートにスタンガンを向ける。

ミーナの制服は特殊加工されていない。

当たれば、即感電。

チラッと、俺はミーナに目配せする。

ほんの一瞬のアイコンタクト。

それで、ミーナはすべてを理解したらしい。

心配そうな表情で眉根を寄せる。

しかし俺が強く頷くと「もう止めぬ」という顔で管理人に向き直った。

ミーナが管理人のラッシュをいなす。

たまに織り交ぜられる不意打ちにもしっかり反応。

攻撃には転じないミーナだが、ペースを握っているのはこっちだ。

そして、管理人が大ぶりになって機械の体ごとミーナを襲おうと構える。

機械の体丸ごと覆いかぶさるように前のめりになって。

ガード不能のタックル。

小柄なミーナに、襲いかかりーー


バチリッ!


「ぐ、ううっ!」


スタンガンを管理人ごと受け止め、苦悶の声を漏らしたのは俺だった。

ミーナをかばうようにして身を投げ出したからだ。

真正面から受けたのは初めて。

全身の神経にビー玉突っ込まれて無理やり押し込まれたみたいな痛み。

チカチカ点滅する視界が、気絶一歩手前であることを教えてくれた。

あまりの痛みに逆に冷静になる。

しかし、それでいい。

瞬間、俺は両腕をバンザイさせる。

降参のポーズではない。

ミーナの攻撃を通すためのポーズだ!


「我の部下を痛めつけるなど、極刑ものなのだ」


バキリ、バキリ!


音が響いた瞬間、管理人のスタンガンが根元から折れた。

管理人が人間だったら、驚きの表情をするんだろう。

壁になった俺の後ろから、ミーナがフックを繰り出したのだ。

バンザイで脇腹にスペースができたから、ぎりぎり届いた。

スタンガンが壊れた今、もう恐いものはない。


「思い知ったか。俺たちの連携プレー」


言って、俺はブラジリアン柔道のように足元から管理人を絡め取る。

管理人の体勢が崩れた。押し倒すようにガバッと覆いかぶさる。

バタバタと手足を暴れさせる管理人を力づくで押さえ込んだ。

手負いの俺だから、気を抜いたらすぐひっくり返されるだろう。

長くは保たないと確信し、すぐミーナにUSBを放り投げる。


「ミーナ、この門の向こうだ!」

「任せるのだ!」


ミーナがダッと門に駆ける。

ミーナがメインPCに差し込めばすぐに終わる。

キツいがあと少しの辛抱だ。

可動域の広い関節からの攻撃に気をつけながら、しっかり地面に押さえる。

しかし。

そんな思いとは裏腹に、まったく管理人は大人しくなる気配がない。

柔道だったら押さえ込み一本が貰えるくらいの時間が過ぎて、ミーナが小走りで戻ってきた。

困った時はいつもそうするように、首を15度くらい傾けている。


「どうした!」

「これ……どこに挿すのだ?」

「ここに来て機械に弱い設定がああああああああっ!」


いい加減USBの使い方くらい覚えてよ現代っ子だろ!?

しかし笑い事じゃない。

真下の管理人は疲れ知らずのパワーで俺をグッグッと押し返している。

そして俺ももう限界が近い。

口で説明してもミーナはわからないだろう。

俺が行くしかない。

かくなる上は……っ!


「ミーナ、こっちにジャンプ!」

「うむっ!」


ミーナが、ぴょん! と跳ぶ。

俺の元に落下してくるまでに、俺は管理人を解放した。

すぐガバッと立ち上がろうとする管理人。

しかし半立ちの瞬間を狙って突き飛ばした。

3メートル先の床で管理人が再び転ぶ。

振り返って空中のミーナをキャッチ。

ミーナの体重により力を受け、俺は立ち上がった。

力の入らない身体中に新たな神経が通ったみたいな感覚。

ああ、これだ。

ミーナはこうでなくちゃ。

びんびん、くる。

懐かしさと心地よさを感じながら、俺は半開きの門を一歩で突き抜けた。

第三門、突破。

目の前に、配線とコンセントの多い部屋が広がる。

無尽城最深部。

メインPCはすぐにわかった。

部屋の中心に位置する、見たことがないほど大きいPC。

複雑に絡む配線を辿って、ようやくメインPCの「核」に行き着く。

USB差し込み口はどこだ、と焦る。

瞬間、門がばああんっ! と乱暴に開いた。

管理人が入ってきた。

やばい。

早く。

迫ってくる。

急げ。

追ってくる。

あった。

もう真後ろ。

かちり。差し込む。

メインPCが青い画面を光らせた。

そして。


キュイィィィィィィィィン!


人間に聞こえるか聞こえないかの音が響いた。

瞬間。

管理人が俺の真後ろで崩れ落ちた。

電池の切れたおもちゃみたいに、コテっと。

夢でも見ているような気分で管理人を眺めていたが……


「はぁーっ、長かった……」


ついに限界が来て、俺は膝から崩れ落ちた。

ミーナを落とすのはすんでのところで防ぎ、そのまま床に横になる俺。

俺が仰向けになり、その上にミーナがお尻を乗せて座っている構図。

終わった。

無尽城のメインPCにUSBを届ける、クリア。

いろんな代償は払ったが、今は充実した気持ちでいっぱいになる。


「お疲れ様なのだ、カケル」


ぽんぽん、と脇腹を優しく叩かれた。

その時俺の頑張りがすべて報われたような気がして、もう何もかもが頭から吹き飛ぶ。

やがて、その幸せな時間にみんなが加わる。

ブルートゥースに、音が入った。


『どうやら成功したみたいですねー』

『ん。お疲れ、カケル』

『かけるならやってくれると信じていた』


ブルートゥース越しにかけられる、労いの言葉。

それぞれ無事らしい。


「そりゃどーも。もうへとへとだ……」

「みんな、お疲れ様なのだ!」


ミーナが俺からブルートゥースを奪い取って話した瞬間、通信中の全員に動揺が走った。

本当に誰にも知らせなかったらしい。


『ミーナ? いつの間に起きたんですかー?』

『大人しく寝ときなさいよ』

『秋月氏、お早いお目覚めで』

「詳しいことは帰ってから話すのだ」

『そーね。あたしらも疲れたし』


無尽城の外に車が停めてあるから早く来い、とのことだった。

みんなお疲れなのだろう、さっさと通信が切れて俺たち二人だけが残される。

しばらく二人で惚けたようにぼぉーっと時間の経過を感じていたが。


「では行くかの、カケル」


ミーナが俺の肩に体を滑り込ませた。

肩を貸してくれるらしい。

しかし俺は。


「待ってくれ!」


それをゆるりと拒み、ミーナの肩に両手を当てて対面した。

ミーナの大きい瞳がころり、と揺れる。

ブルートゥースはどことも通信していない。

この部屋にいるのは、俺とミーナの二人だけ。

話をつけるのにこんなに都合のいいことはない。

幸せな時間に水を差すことになるかもだけれど。


「ごめん、ミーナ!」


口をついて出てきたのは、心に深く突き刺さっていた後悔。

言った瞬間、俺は立っていられなくて床に膝をつけた。

教会で懺悔するみたいなポーズで、俺は話を続ける。


「俺……ミーナのこと何もわかってなかった。ずっとミーナに頼りっきりで依存してたから、ミーナの辛さとか苦しさとか何も考えずに無責任なことばっかり言ってた。本当にごめん!」


二週間、溜め込んでいた思いが一気に決壊する。

寝ているミーナにしか言えなかった言葉が、自分でも驚くほど素直に流れていく。

ごめん、すまん、悪かった。

そんな頭の悪そうな謝罪を連発するしかなくて、俺は泣いた。

すっ、と。

あまり綺麗じゃない涙が、拭き取られた。

目をあげると、ミーナの指が俺の顔に当たっていた。


「我の方こそ、謝らなければならぬ」


にじんだ視界にも、ミーナが優しく微笑んだのがはっきり見て取れた。

ミーナの優しさが、穏やかさが、思いやりが溢れる。

一片の罪悪感みたいなものも顔に乗せて、ミーナは俺と目線を合わせた。


「カケルの言う通りだったのだ」

「え……?」


お互いにひざまずくような格好。

視線の高さが合って、意外な言葉が直接俺の心に染み込む。


「支部で留守を守っているなど、退屈で仕方なかった。我はやはり現場に出てこその我だった。だから……謝らなくてよい」


するっ、と。

絡んだ糸がほどけた音がした。

複雑な糸も、素直になればこんなにすぐ解決するのだ。

そんなこともわからなかった俺は、やっぱりガキだったのかもしれない。


「しかしのう、カケル? 一つ、悪いニュースなのだ」


悪いニュース、と言いつつ。

ミーナは優しい笑みを絶やさない。

むしろ俺の心に一層触れあうようにして。

口をゆっくり動かした。


「こんな宅配に手こずっているカケルには、まだまだ支部長の座は譲れぬ」


その言葉に、心臓が跳ねる。


「それってもしかして……」

「うむ。もう少しだけ続けてみようかのう、支部長を」

「ミーナ……ありがとう!」


言うが早いか。

俺はミーナを真正面から抱きしめた。

小さくてあったかくて、心地よい感触。

大胆なことをしたという自覚はあるが、止められなかった。

やがて聞こえてくる、抗議の声。


「苦しぃのだぁ」

「す、すまん」


その気持ちをお互いに声にできなくて、笑顔を使って伝え合う。

そんな余韻に浸っていたかったのだが。


「そろそろ本当に行くかの。リンゴを待たせると怖いのだ」

「おうよ」


立ち上がれるくらいに回復した膝を起こして、ようやく立つ。

肩貸さなくていい、とミーナに言うと、代わりに手を繋がれた。

小さくて、パワフルで、ちょっと温かくて、かわいい手。


「これからビシバシ鍛えていくからの。覚悟するのだ!」

「おうよっ!」


力強く答えながら、俺は右手の幸せをかみしめた。


「では帰るかの、我のーー我らのトーキョーエリア支部に」


次更新で完結です。

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