プロローグ
私は生涯82分
82分とは、人間が夢を見る時間が大体82分といわれている
私はその82分と同じ、あと82分しか存在できない
もう約80年前だったか、三輪車、といっても、子供が乗るようなものじゃない
車が三輪になってる古い香りのする車だ
私はそれにぶつかったことがある
そんなに強くぶつかることはなかったが、こけてしまっていた
そのこけた先が、大きな不幸
田舎の木々が多くある中の道、木の方向へ私はダイブしていた
しかし、そこからの記憶がまったくない
いや、気絶したのか、木の枝が体を傷つけ、目の中にまで入っていた
記憶も同時に視力も失った古き話
そんないきなりのこと、冷静になれたものじゃない
いきなり目の前が変わってしまったというより
色とか背景、見た目、今までずっと見てきたものが全て奪われてしまった
別の言い方をすれば私は別の世界に引っ越してきてしまった
まったく見えない不慣れな世界だ
好きなものも見れない、色も見れない、絵も描けないし、何もできない
目が見えない芸術家なんてものがいるが、その人はその人だ
一体その人に辿りつくのに何をして、何を思って、何を堪え忍んで、どこまで時間をかければいいのか
まったくわからないという、道がない暗い道のようで、その先を進めば進むほど虚しい意味のない時間
じゃないかと、不安に思う。目が見えない人の声を聴くとうんざりする、こんな耳もなければいいのにと
虚しさで泣きそうになる
非常に強いホームシック、元の世界に帰りたい、帰れない、不可能という奴だ
現代医学でも潰れた目を治すなんてことできやしない
これから先もずっとそうだと思った、確信なき確信、直感でもない、無気力感からの結論
私はこれからずっと、突然変わってしまった世界を呆然として見ることにする