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第3話:満州の地にて(その3)

あまり上手に戦闘シーンを描けませんでしたが、見てみてください。

中国:大興安嶺地区だいこうあんれいちく 6月2日 午後10時


日本の第4師団が移動したあと、ここの防衛の後釜を担当することになったのはイギリス陸軍第8師団であった。その第8師団第2連隊第3大隊に所属している”エリック・スプライク”軍曹の乗車する戦車<チャーチル歩兵戦車>は現在複数の歩兵輸送車両を引き連れて砂埃を上げながら走行していた。この戦車は見た目は巨大で強そうな車体にそれとは対照的な小さな砲台を乗っけたようなデザインであった。エリックは戦車内の小さな視界確認用の穴から前方を見ていた。視野が狭く、自からがハッチから乗り上がって見たほうがいいとさえ思えたが、その行為は戦闘行動中以外では禁止されているのでできないので、エリックはイラついていた。

「軍曹。どうなされましたか?」

「ん。あぁ、いや、なんでもない。」エリックは知らないうちにイライラしているのを部下に悟られた事を気恥ずかしく思い覗き穴に顔を押し付けながら部下の問いに返答した。エリックは先程からあとがつくほど覗き穴に顔を押し込んで外界の様子を見ているが、もう夜中である。あたりは暗くて見えるはずがない。確かに出撃前に暗闇に目を鳴らしておいたつもりであったが、さすがに上手くいかないものだな。とエリックは心の中で自分に向かって皮肉りながら言った。

「そういえばレーダー機のエンジン音がならないな?」エリックが不思議そうにつぶやいた。本来はこの付近を走行していると聞こえてくるはずのレーダーを搭載した観測機の爆音のように響き渡るエンジン音が今日に限って聞こえてこないのだ。エリックのつぶやきを聞き取った部下が言った。

「どうやらエンジンに不調がでて今基地に戻っているとのことです。」

「そうか。」エリックは交代交代とはいえ、長時間飛んでいるのだから仕方がない。と思った。

そう思った矢先、遠くから爆音のような音が聞こえてきた。飛行機のエンジン音だ。エリックはその音が修理の終わったレーダー機の音だと判断した。しかし、その判断が間違いであったと理解するのはその直後であった。エリックはある異変に気づいた。それはエンジン音がどんどん大きくなってきていることであった。レーダー機が本来哨戒している高度で響く音よりも明らかに大きかった。それによく耳をすませてみれば、それはレーダー機のような大型機のエンジン音ではないことに気づいた。大型機のエンジンは馬力を重視しているので戦闘機のエンジン音よりも音程が低く重々しい音はずなのに、この音はそれに比べて音程が高い。それが戦闘機だとエリックが気づいた時にはもう手遅れであった。突然先程までのエンジン音に加えて、まるで何かが風を切って進んでいるような音が聞こえてきた。次の瞬間、後ろを走っていた歩兵輸送車が轟音と閃光と共に炎に包まれた。輸送車には一応鉄板で強度を強くしているが、所詮は鉄板に毛を生やした程度の強度したなかった。そのため歩兵輸送車は跡形もなく吹き飛んだ。

「敵襲~!!!」エリックは急のことで今起こっていることがよくわからなかった、しかし今起きているのは謎の敵戦闘機から攻撃を受けているということだけであった。エリックはその場で叫んだ。しかし、叫んでもその声が聞こえるのは自分の戦車に搭乗している者たちだけでもう1両の装甲車に届くはずがなかった。再び風切り音が響くとその装甲車のすぐ右で爆発が発生した。装甲車は直撃自体はしなかったが、爆発により応じる衝撃で車体全体が大きく揺られ、砲撃手と通信士が負傷したのだ。エリックは自分の戦車と装甲車にジグザグに回避行動を行うように通信した。敵は1機だけ搭載できる爆弾も限られているのだから、もしかしたら逃げられると思った。しかし、いきなりのことでパニックになっていたのか、エリックの搭乗している戦車は回避行動を行ったが、後続の装甲車は未だに真っ直ぐに走行し続けていた。

「畜生!!なにやってるんだ!!」エリックはその場で殺意すら籠った声で叫んだ。するとエンジン音が何重に聞こえ始めた。その瞬間、エリックは自分の生涯を終わりを悟った。今襲ってきている敵の援軍が来たのだ。


同時刻:イギリス軍第8師団第2宿営地


ここ第2宿営地で空襲警報が鳴り響いたのは数十分前のことであった。現在ここでは酷い有様であった。突然警報が鳴りだしたと思えばその直後に爆装(爆弾を搭載すること)したソ連軍の戦闘機”Yak-1”が大量に襲来し、基地を爆撃していった。幸い、パイロットの力量が大したことがなかったのと当時風がやや強かったおかげでなんとか被害が思っていたよりも少なく済んだ。ちなみに少なく済んだというのは悪魔で兵器や装備がという意味であって決して人員のことを指していない。

「消火班急げ!!」現在ここでは宿営地のダメージコントロールを行っていた。建物への損害は少なかったが、火災も発生しているので消火班は火の消化にあたっていた。ちなみに無事、または戦闘可能と判断された車両や兵士たちは基地の防衛のためにここにはいない。


第2宿営地から北へ2キロ地点


「畜生が、ソ連め。宣戦布告もなしに・・・」第2分隊長であるグレイ伍長はうめき声のようなものを上げながら言った。彼らの分隊は現在歩兵輸送車によって運ばれていた。グレイは持っているリー・エンフィールド小銃を銃口を下にして杖のように立て、足は貧乏ゆすりをしていた。それは彼が機嫌が悪いときに行う仕草であった。一緒に乗車している部下たちはそんな彼を見て、気まずい心境になっていた。グレイは部下からの信頼が良くない、理由は無能であるわけではない。彼のキレやすい性格であった。グレイは現在の紳士の国のイギリス人というよりはまだ海賊バイキング時代であったイギリス人に近かった。

すると車がとまり、後ろの止めてあった扉が開いた。

「やっとついたか。もたもたするな!急げ急げ!」怒鳴りつけるような声で部下たちに下車命令をだしたグレイは呆れているような疲れているような表情で下車した。さすがに1日中警戒任務のあとに休むまもなく空襲、そして防衛任務をやらされでば誰でも疲労が出てくるものだ。グレイの指揮する第2分隊は下車地点からしばらく歩いたところに設けられた塹壕に入っていった。塹壕内にはほかにも多数の歩兵が居て、全員緊張と不安が顔に表れていた。グレイはその様子を見て情けないやつらだ。と呆れた心境で思った。彼自身は冬戦争の際に派遣部隊としてフィンランドでソ連兵と戦闘した経験があった。しかし、ここに居るのは実戦を経験したこともないベテランたちから見ればいわゆるヒヨっ子であった。グレイはその場に腰をおろした。調度下ろした所に小石があって座り心地は最悪であったが、フィンランドのような極寒地獄での時と比べたらまだマシだと自分に言い聞かせるように思った。グレイは持っている小銃リー・エンフィールドの動作確認を行った。いざ実戦になったらどんな些細な故障でも命取りになりかねないことを彼はフィンランドで体験していた。

(あんときは死ぬかと思ったな。)と小銃を弄りながら彼は思った。結局、小銃に特に目立った故障は見られなかった。グレイはふと隣にいる新兵が何かをつぶやいているのに気づいた。グレイは多少イライラするが始めは我慢していた。しかし、だんだん声が大きくなっていくとイライラが雪のように積もり始め、ついには怒鳴ってしまった。

「うるせえぞ!!怖えのはてめぇだけじゃねぇんだぞ!!」その新兵含め、彼の周囲に沈黙が支配した。グレイは不機嫌そうな顔をして黙り込んだ。彼は怒りと同時にまた評判が下がるなとどうでもいいことを考えていた。

しかし、突然報告員から伝言があった。先防隊たちが数は不明だが、進軍してくるソ連師団を確認したとのことだった。しかもその師団は戦車を主力としたいわゆる戦車師団であった。それを聞いて第8師団全体で動揺が起こった。この師団にも一応戦車は配備されているが、問題はそんな大量にはないという点であった。

「クソ。とうとう来たか。」グレイは吐き出すように言った。その直後遠くから爆音が響いてきた。兵士たちはそれががなにかがすぐにわかった。グレイは空を見上げると星空の中に異様な黒いシルエットがあるのに気づいた。しかもそのシルエットは一つや二つではない、数百はあるのではと思えるほどの数であった。その編隊の何機かがこちらに向けて迫ってきているのが見えた。

「第2分隊!!その場に伏せろ!!」グレイが叫ぶような声で伏せると同時に言った。グレイは顔も地面に伏せたため今視界に見えるのは地面の黒い影だけであった。しばらくするとどんどん大きくなっていく風切り音のあとに鼓膜を破るような爆音が響いた。砂埃や砂利が自分に降りかかる。また爆発、今度は一緒に断末魔のような、いや断末魔が聞こえてきた。

(畜生、畜生、畜生!!)グレイは心に中で叫んだ。その罵声は敵に向かってではない。なんも反撃ができない自分のひ弱さに向かって言っていた。

風切り音、爆音、風切り音、また爆発、砂利が降り注ぐ、爆発、悲鳴、風切り音、爆発、断末魔。それが繰り返されていた、グレイが地面に突っ込んだ顔を抜くことができないでいた。いま抜けば自分に降ってきそうな気がしたからであった。グレイは自分の愚かさを身をもって知った。彼は恐怖に震えていた新兵を怒鳴りつけたのを思い出した。

(クソ!これじゃあのガキと変わらねぇじゃねぇか!いや!俺はあのガキと同じだ!そうさ、俺も怖いさ、怖くて怖くてたまらねぇさ!切れやすくて部下たちに怒鳴りつける最低な指揮官の俺でも怖えぇさ!)グレイは自分を自虐し始めた。それは恐怖からなんとか逃れようとするためだった。

「畜生!!航空隊はなにをやってんだ!!ド畜生が!!!」グレイは叫んだ。本来はここにある通信車両が師団本部へと通信を行い、その次に師団通信部が近くにある自軍の航空基地に応援の通信を送って基地も緊急用スクランブル航空隊を出撃させる。しかし、彼は知らなかった。今支援が行える予定であった航空基地はソ連軍の陽動行動によって気を取られてグレイたちの方に戦力を回す余裕がなかった。しかも、運悪く通信車両に爆弾が命中したために応援の電文を送れない。そのため航空基地どころか師団本部ですら、第8師団がこのような状態になっていることすら気づいていない状況であった。


同時刻 中国:黒河こくとし


現在岸田の指揮する第3大隊は宿営地で第8師団の状態も知らずに宴会騒ぎになっていた。宿営地の兵舎では兵士たちが酒を飲み合い、未成年の兵士は上官からの命令で強引に飲まされて酔いつぶれている状態であった。つまみが生ゴミのように机の上や床に散らかり、空になった酒瓶が床に転がっているせいでもうすでに何名かそれを踏んで転倒している(幸い怪我人は出ていない)。岸田はその様子を外で兵舎の窓から覗いていた。彼は酒が人よりも飲めないので酔った勢いで強引に飲ましてくる部下たちから逃れるために今は外で風を浴びていた。日本のとは違って乾いた風なのが少し不満だが、それでもあそこにいるよりはマシだ。と岸田はもう宴会を通りこして乱闘と化している兵舎の中を呆れた目で見ながら思った。岸田は空を見た。遮る光がないために空には一面に星が輝いている。やはり長野の時の光景と同じだな。と岸田は無量な感情で思った。

「せんぱ~い。たすけて~。」せっかく感動を味わっていたのに突然背後から拍子抜けしたような声が聞こえてきた。伊藤の野郎と酔うと怒っりぽっくなる岸田は少し怒りを思いながら振り向くと、そこには伊藤が今にも倒れそうな千鳥足で岸田の方に歩いてきた。よくみると後ろから何かが追ってきていた。

「・・・・藤田か・・・」岸田はもう怒りを通り越して呆れた。伊藤を追いかけていたのはいつも口うるさい藤田大尉であった。

「伊藤。悪いが私にかかわらないでくれ。」

「そんな~、ひどいですよ~。せんぱ~い。」

「待て伊藤!まだまだ飲むぞ!」岸田は歩いて伊藤から逃げた。それを伊藤は何度も足を絡まりそうになりながらも千鳥足で追いかけ、そんな伊藤を口調は元気だが、やはり千鳥足の藤田が追いかけるという異様な図が出来上がった。





次回:ソ連極東軍VSイギリス第8師団

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