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第2話:満州の地にて(その2)

書き溜めておいたものを少し改良したものです。あとこの話には他作品の要素もあります。

1990年 現在


「それでわし達は黒河市こくかしに移動することになったんじゃよ。」

「へぇー・・・」僕は爺さんの話を空いた口が塞がらない状態で聞いていた。爺さんはあまり昔のことを話さない、いや、話すことは話すけど戦時中の話は全くしないのだ。そんな爺さんの話を聞いて僕は驚きの連続で、今の僕は小さい子が何かを発見した時のような心躍るような気持ちであった。そして、何より思ったのが。

「話聞いて思ったんだけど、お爺ちゃんって昔から性格変わってないんだね。」

「う!」爺さんは痛いところを突かれて、まるで鳩が豆鉄砲食らった時のような顔になった。

「い・・・一応これでもおとなしくなった方なんだぞ!」

「ふ~ん」爺さんは慌てて言い返そうとしているが、僕にはどのように聞こうとも爺さんが言い訳しているようにしか見えない。言い訳しているんだろうけど。

「それでそのあと、どうなったの?」

「ん?嗚呼・・・」爺さんはさっきまでの態度とは正反対な表情になって、また語りだした。


1938年 5月17日 午後1時 中国東北部:黒河市こくかし 第4師団宿営地


目の前に見える川はアムール川。現地では黒河ヘイホーなんて呼ばれているだしい。岸田はこの川をのんびり眺めていた。黒河市こくかしに到着したのが数日前くらいで、やっと一段落できるくらいまで落ち着いた。アムール川の流れは穏やかであった。特別綺麗というわけではないが、岸田は落ち着きたい時は自然の物を眺めるようにしているのである。今までいた大興安嶺山脈だいこうあんれいさんみゃくの時にも、岸田は落ち着きたいために近くのモンゴル高原をバイクで飛ばして訪れたほどである。

岸田はふと空を見上げた。先程まで調度自分の真上まで来ていた太陽が傾き始めた。そうか、もう午後なんだな。と岸田はつくづく思った。

「先輩!どうしたんですか?まるで黄昏たそがれているかのような風貌をして。」伊藤の声で我を戻した岸田は後ろを振り向いた。彼の手にはラムネの瓶を2本持っていた。

「相変わらず正直者だな。お前は。」

「いや~、褒めても何も出ませんよ。ラムネどうですか。」

「おお!気が利くな!」岸田は伊藤からもらったラムネを内地にいたときよく寄った居酒屋の酒を飲むように一気飲みした。それを伊藤はいい飲みっぷりと褒めた。岸田は少し照れくさくなった。

「そういえばお前の部隊はどうなった?」

「・・・どうしたんですか突然!?」急に自分のことを質問されて伊藤は驚いて危ゆく口に含んでいたラムネをその場に吹き出してしましそうになった。伊藤は軽くむせた後になんでそんな事聞くんですかと訴えている目で岸田の方を見た。ちなみに当の言った本人は伊藤の訴えに気づいていないようだが。

「いや、お前吉原で問題起こした後にな、お前の指揮していた中隊は誰が後任したのかなっとふと思ってな。」岸田は瓶に残っていたラムネをすべて飲み干し、空の瓶をアムール川に投げ捨てた。その後二人の間に沈黙が訪れる。

「・・・・別に話したくなければいいさ・・・・」

「すみません。」岸田はその場を立ち上がり、珍しく微笑みを浮かべながら伊藤の肩を2、3回軽く叩くと、そそくさとどこかへ行ってしまった。ちなみに伊藤はかつていた部隊のことを話したくないのではなく。ただ単にわからないだけであった。移動する際に誰が後任をやることになるかを上官は一言も言ってくれなかったのだ。伊藤は複雑な心境になり、残っていたラムネを飲み干し、岸田と違い伊藤は空瓶を捨てずに持ち帰った。伊藤は変なところだ神経質なのだ。


同時刻 日本:横須賀港


ここは日本海軍の重要拠点の一つである神奈川県:横須賀港。ここには今、3隻の戦艦と10隻の駆逐艦がまるで鉄の城のような堂々とした将軍のようなオーラをだた漂わせながら停泊していた。そんな軍艦の中には連合艦隊の旗艦である<長門>の同類艦である<陸奥>の姿もあった。長門は世界に七隻しかない16インチ砲を搭載した戦艦の通称:ビック7の1隻であった。そんな<陸奥>を陸地から眺める男がいた。その男はやや高齢で小太りであった。彼の名前は”山口多聞やまぐちたもん”中将。”派欧艦隊”司令官である。山口が軍服の胸ポケットからタバコの箱を取り、その内1本を抜き取り、それを口くわえて火をつけようとしたとき、ふと山口の目にあるものが写った。それは関係者以外が入れないように門に固く閉ざした鉄柵から中の様子を見ようとするセーラー服を着た、女学生だしき人物が鉄柵の隙間から<陸奥>を覗こうとしている光景であった。


「わぁ!すごいよ!見てあれ!」

「もうみっちゃん早いよ。急いだって戦艦は逃げたりはしないよ。」横須賀市立第三中学校に通っている武藤芳香は親友である美代子のことで振り回されている。今日は授業も早く終わるので帰りに横須賀港を覗こうということになり来たのだが。

「どう?見えた?」

「うん!少しだけだけど!!」美代子は半分我を忘れて興奮していた。彼女は女性では珍しくかなりの戦艦マニアで、男の子たちに混じって戦艦の話を良くしているのを武藤はよく見ていた。武藤は半分呆れ、半分諦めていた時に、こちらに軍人だと思われる男が来ているのに武藤は気づいた。

「みっちゃん。まずいよ。」武藤は美代子の肩のところを引っ張るが当の本人は気づいていない。武藤に焦るが出てきたとき、もうすでにその男は表情がわかるほど近くにいた。


「嬢ちゃんたち、軍艦好きなのか?」山口はその2人の女学生に声を掛けた。身長はかなり小さく小学生のようで、制服からしておそらく近くの横須賀第三中学校のものだなと山口は推理した。武藤と美代子はいきなり話しかけられたせいかかなり驚いた反応をした。そのあと二人は山口を伺うような目で見て、おじさんは誰ですか。と聞いてきた

「おお、俺は・・・・」山口はあることを思いつき、言葉を切った。

「通りすがりの軍人ってところだ。」山口が微笑みを浮かべながら軽く冗談を言った。それを聞いた2人は緊張が溶けたのかのように小さく笑っていた。どうやら山口がふたりの緊張を解くための作戦だっただしく、成功してよしっと心の中で言った。

「しかし君、<陸奥>をずっと見てたね。好きなのかい」

「あ・・・はい。<陸奥>と言ったらあの連合艦隊旗艦である<長門型>ですから。」美代子は山口に子供が好きなものや大切なものを説明するような表情になって言った。

「詳しいんだね。女の子なのに。」美代子の予想外な言葉に山口は関心を通り越して軽く呆れたほどであった。

「はい、確か<陸奥>は排水量:32720t。全長:215m。全幅:28.96m。世界でも7隻しか存在しない16インチ砲を搭載した戦艦だったはずです。」美代子はなんとか思い出したかのような顔で説明したが、一緒にいた武藤どころか山口ですら言葉が浮かばなかった。そんな山口を見た美代子は間違っていると解釈してしまっただしく、間違ってましたか。と山口に言った。山口はあってるよとなんとか言葉を発せた。

「おじさん。」すると後ろにいた武藤が山口に言った。山口はなんだいと武藤の方を反応した。

「みっちゃんはね、将来は海軍関係の職業に就職したいだしいんです。その時はよろしくお願いできますか。」

「ちょっ!?芳香ちゃん、さすがに気が早いよ。」美代子は武藤の発言に恥ずかしそうにしていたが、山口本人はなにか考えるような表情になっており、それに2人も気づいた。そして口を開きこう言った。

「あまり軍関係はオススメできないな。」山口は残念そうな表情で言った。美代子は何でですかと反論した。それはそうだ、将来の目標を否定されれば誰だって反論する。山口はまぁ聞いてくれと話を続けた。

「軍っていうのはな、君らが思っているほど輝かしいものではないんだよ。軍っていうのは例えるなら国のペットみたいなものなんだ。俺ら軍人たちも国から見たら言わばハチ公なんだ。君みたいな女の子がわざわざ国の家畜になりに行くものじゃないよ。」山口に言葉の前に二人は呆然とした顔で立ち尽くしていた。山口はさすがに刺激が強すぎたかと思った矢先に誰かが自分を呼ぶ声を感じた。そして振り向くと自分の方に副官が駆け寄っているのが見えた。

「山口中将!!」そう呼ぶ男は新しく山口の副官になった”園田そのだ ゆずる”という”帝国諜報機関ニンジャソルジャー”から派遣された男であった。山口は始めは園田という男は、諜報機関から来る人だからさぞかし勉強バカのように陰湿で同僚の奥さんのように嫌味ったらしい奴だと思っていた。ところが、いざ顔を合わしてみれば彼の見た目は体育学校の応援団のような印象で、陰湿さすら感じられなかった。帝国諜報機関は通称:ニンジャソルジャーと呼ばれており、名前の由来は自分たちの行う仕事(工作・諜報・偵察)は忍者のそれと同じという理由であった。兵士ソルジャーと付いているが前線に出向かず、主に机で書類と睨めっこしているので所属している者のほとんどはインテリ系であるのに対し、園田は前線で部下たちに怒号を飛ばして指示しているような風貌であった。

「中将!?」山口が昔のことを振り返っている内に美代子が反応した。

「みっちゃん、ちゅうしょうって?」

「中将はね、軍隊で2番目に偉いんだよ。」

「え~!?」美代子に説明されて理解した武藤が反応した。山口は美代子の説明を聞いて少し照れくさくなった。園田は武藤と美代子を不思議そうな目で見ていた。

「山口中将、この子らは誰ですか?」園田は山口に目を向けながら2人の方に指を刺しながら言った。武藤と美代子はドキッとして思わず固めっている。

「君ら、中将に無礼なことはしていないか?」園田は普通に言ったつもりだった。しかし、体育会系の顔つきのためどうしても強面な表情で怒って言っているように相手に捉えられてしまう。二人は生まれたばかりの子鹿のように二人で抱きしめながら震えていた。

「よしなさい園田君、怖がっているじゃないか。ただ僕から話し始めただけだよ。」

「はぁ、そうですか?」山口の言葉に園田は不満そうな顔をなるべく隠しながら従った。そして武藤と美代子の方を振り向くと、微笑みを作った。二人はそれを見て少し安心しただしく、先ほどより落ち着いた。そして山口はじゃあと言って、園田と二人にしか聞こえない声で会話しながらどこかへ行ってしまった。


それから十日後の5月27日 ソビエト連邦 極東地域


鉄筋コンクリートで固められた飾りも何もない質素で巨大な土地のある建物が雪がようやく溶けて無くなってきたソ連の極東地域、かつてあった針葉樹の森を切り開いた平原。そこに異様な存在感を漂わしているこの建物こそがソビエト陸軍「極東管轄区司令部」であった。その司令本部の戦略などの作戦について会議する最重要作戦室では極東軍の上層部トップたちが集まってきていた。その作戦室には長い机、壁にはソ連の国旗やソ連軍の軍旗、共産党の象徴である槌と鎌を象ったモニュメントが飾られていた。

「皆に集まってもらったのには理由がある。」極東軍司令官が口を開いた。

「同志スターリンからの指導でとうとう計画されていた「南下作戦」が決定された。」司令官はまるで自分が考えたかのような態度で言い放った。そして前もって配られた書類を見るように今いる参謀たちに言って、その内容を話し始めた。その内容は次のとおりであった。

<作戦第1段階>

・中華民国領である大興安嶺山脈だいこうあんれいさんみゃく付近の陸軍基地を空爆

・その際作戦行動を行うと予想され、その際は敵部隊を再び空爆する。

・それと同時に敵の航空支援が遅らせるように敵航空基地周辺に陽動作戦を行う部隊が行動を起こす。

・それに気を取られている隙に極東軍が進行する。

簡単に言うとこのような順序になっている。参謀たちはそれを流すようにして見た。その後はしばらくこの作戦についての微小な作戦行動についての説明を行いこの会議は終了した。

この会議に参加していた戦車師団の師団長である「アズレト」中将は司令部の入口付近に止めてある迎えの光沢のある黒い車に乗り込んだ。

「どうでしたか同志アズレト?」

「そうだな・・・・我が軍にしてはちゃんと考えられている作戦だな・・・・ってのが素直な感想かな?」彼は呆れたのような笑い声を小さく上げた。冬戦争の時、大規模部隊ではないとはいえ、作戦内容が敵陣に突っ込めという命令を出したことのある本国がな。と彼は呆れるを超えて情けない気持ちになって思った。ふと彼は車の窓から外の景色を見た。ここは極東地域でも比較的人が住んでいる方で、途切れ途切れではあるが商店や人の姿を確認できた。ここにいる人たちは決して豊かではない。彼らは冬を開けるまでは簡単な作りをした旦土でマイナスにも下がる寒さを耐え忍んでいた。

(共産主義か・・・・)アズレトは妙に悲しいような呆れるような、言葉では上手く言い表せないようないろいろな感覚が混ざったかのような複雑な感情になった。しかし彼はそのことは言わなかった。なぜなら、彼の考えていることは共産党を否定しているのような考え方であるのがわかっていたからであった。







ソ連軍のことはネットで調べてもよくわからなかったのでオリジナルの軍人が結構出てくる予定です。

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