ブロローグ:1990年
プロローグです。
1990年 8月2日
僕は”佐野 勇気”夏休みの間、爺さん家に行くのが習慣のようになっていた。もう爺さん家に来てやっと夏休みを実感できるほどであった。僕にとって爺さん家に行くのはいわば、海に泳ぎに行ったり山に登りに行ったりなどするイベントの一つと化していた。ちなみに僕は今電車にのっている。この時間帯は客が少なく、僕のいる車両も僕だけしか居なかった。ボックス席で僕は窓のものを置くスペースに飲みかけのコーラの缶を置き、流れゆく外の景色を楽しんでいたのだが、その内それにも飽きてきて、僕はリュックの中からウォークマンを取り出し、音楽を聞くことにした。
5曲目を聴き終わった頃に電車のアナウンスが目的の駅の到着を知らせていることに気づき、僕は慌ててリュックを鷲掴みにして急いで電車を降りた。危ゆく乗り過ごすところだった。
付いた駅は小さくて田舎っぽいが、コンビニ等はあって、ここに着くと僕はまずそのコンビニでスポーツ飲料を買った。外を出ると、東京ほどではないがやはり暑かった。ずっと電車のクーラーにあたっていたため暑さが増したような気がしたほどだ。暑さで顔を歪めさせながらも僕は駅のバスターミナルに向かう(といっても3両ほどしかないが)。
「うぷっ!」バス停に着いて、僕はひどくバスに酔ってしまった。それはもう気持ち悪さが暑さをvうわ待っているほどであったから。僕はなぜか電車や船は大丈夫なのに車だけはダメなのである。
「うう・・・まさか酔い止めを忘れるとは佐野 勇気一生の不覚・・・」僕は先ほど駅で買った飲み物を喉まで来ている胃液を流し込むように飲んだ。少しだけ楽になった。爺さんの家はバス停から歩いて3分ほどで着く。
「うぅ、あち~。」酔いが収まった途端に今度は皮膚を焼くような暑さが襲ってきた。僕は昔から帽子が嫌いだったが、今回は持ってこなかったことを恨んだ。3分でつくのがせめてもの救いである。
遂に爺さん家に着いた。なんだか妙に緊張してきた。前回会ったのが去年の夏休みで会うのは1年ぶりくらいであったが、この緊張だけはなぜか慣れないのだ。それでも僕はインターホンを押した。すると相手が電話の受話器を取る時の音がなった時に低く響く声が聞こえてきた。爺さんの声だ。爺さんの声の音程はバスくらいで初めて聞いた人はおそらく不機嫌か怒っていると思われてしまうけど、実際は楽天家でかなり洒落た人、家族を笑わすヒットメーカーであった。
「あ、お爺ちゃん。僕だよ、勇気だよ。」僕はインターホンに向かって言ったが、なぜか返答に間があった。
「勇気、平成の歴代ウルト○マン。全部言えるか?」僕は思った。爺さん僕のこと詐欺師だと思ってるのか、現に先週爺さんは危ゆくオレオレ詐欺に引っかかりかけたのだ。そこで対策を練ろうとゆうことになって僕であると確認するときは僕が大好きだったウルト○マンを全部言えるかになった。僕は爺さんには見えないと思うが少しくだらないことをやっている子供を見たような呆れた苦笑いをし、爺さん、それは電話でするんだよと心の中で突っ込みを入れた。
爺さんこと”岸田 茂”は神奈川の田舎で一人暮らしをしている。数年前は婆さんも居たのだけど、ガンで爺さんを残してこの世を去ってしまった。そのため爺さんは夏休みだけではあるが訪れる孫が唯一の生きる希望だと話したことがあった。
「いや~久しぶりじゃな!」爺さんは僕の顔を見るなりまるで欲しいおもちゃが手に入った時の子供のような清々しい笑顔で僕を迎え入れた。そして爺さんは僕も知らない昔流行った歌を上機嫌に鼻歌で歌って台所でヤカンに水を入れていた。僕も手伝いたいのは山々なのだが、爺さんは年寄り扱いされるのが嫌いみたいで自分で出来ることは自分でやろうとする。だから、僕が手伝おうとしても拒否していしまうのだ。
「・・・・・・・」僕は爺さんのある一点を机に頬ずきしながらまるで今にも死んでしまいそうな飼っていた動物を見るような悲しい目で見ていた。そこは爺さんが来ている灰色のシャツの左手部分。そこがペラペラで垂れていた。爺さんは昔、「日ソ戦争」で左手を根元からなくしてしまったのだ。爺さん並みに苦労もしているが、楽天家の爺さんだしい生きていればなんとかなるという理念でそれでも今を元気に生きている。
「そういえば高校決まったのか?」僕は爺さんの言葉で現実に戻された。僕は一応高校は決めていたのだが、問題は内申点がギリギリで一発勝負であることだった。僕は爺さんに適当な解答を言った。いくらなんでも爺さんにこの話をしたくなかったからである。
「お爺ちゃん、テレビ付けてもいい?」
「うん、いいよ。」爺さんは台所で何かをしながら声だけ返した。僕は机に置いてあるテレビのリモコンを取り電源を入れた。ついたチャンネルでは調度お昼のニュースがやっていた。しばらくすると爺さんが台所から出てきた。爺さんの手には剥かれたリンゴが山のように盛っていて、当の本人はなにか何かを成し遂げた子供のような得意げな表情だった。
「今までで一番うまく向けたぞ。」爺さんは相当上機嫌みたいだ。僕は爺さんが皿と一緒に持ってきた小さなフォークでりんごを刺し、そのまま口に運んだ。
「”続いてのニュースです。今年も富士演習場で日本軍により大規模演習が行われました。”」爺さんはそのニュースを耳にした途端、反射的にテレビの方を見た。ニュースの映像には横に何台もの並んだ戦車がピッタリ合った一斉射撃を行う映像や装甲車が上部に搭載した機銃を目標(的)に向かって射撃を行う映像が流れた。
「お爺ちゃん日本軍の事好きなの?」僕はりんごを食べながら爺さんの方を見ながら言った。
「ん?いいや、ただ昔いた職場が今じゃどうなってるのかなっと。」爺さんは照れくさそうに右手で頭を掻きながら言った。
「ふ~ん。そういえばお爺ちゃんって位はどの当たりだったの?」
「そうだな、少佐ってわかるかな?」
「少佐!!」爺さんがなにか恥ずかしいことを言うようなしどろもどろな口調で言いた事に、僕は危ゆく口に入れていたリンゴを吹き出しそうになった。たしかに爺さんが軍人であったのは母さんから聞いたことあるけど、まさか少佐だったのかと僕は爺さんを尊敬するような眼差しで見た。
「おいおい、どうした?なんだか照れるじゃないか?」
「お爺ちゃんってどんな軍人だったの?」僕はまるで小さい時に何でもかんでも質問したあの時のような純粋な気持ちで爺さんに質問した。でも、そんな僕の心とは裏腹に爺さんは暗い表情になってしまった。そして爺さんは僕の方を向き何かを言いそうになったけど言わなく。僕に重い口調でこう言った。
「勇気、爺ちゃんがする話はあまり清々しい話ではないぞ。いや、むしろドロドロで胸糞が悪くなる話だ。・・・・・それでもいいか?」爺さんは自分の足元を見ながら僕に言った。表情はあまり良く見えなかったが、いつもの明るい顔つきではないのはわかった。僕は何も言わずに頷いた。そして爺さんは重い口を開いて話し始めた。
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