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後悔・・・した後に

作者: りっこ

なんで…人は死ぬの?どうして…自分の記憶を失くすの…


 うちのお母ちゃんは、兄弟が多い。つまり親戚が多い。正直言うと、うちは従兄が嫌いやった。うちが一番小さい従兄やったから、めっちゃいじめられたし…とにかく、お母ちゃんのお里で、いい思い出とかないに等しい。


ほんでもってお母ちゃんの実家はめっちゃ田舎やったから、うちの嫌いな虫がようさん出た。うちはお母ちゃんの田舎に寄りつかへんようになった。


 そのうちに、ばあちゃんが死んだ。なんか…涙もよう出ぇへん。なんで死んだ?わからへん。なんで…?坊さんの読経の声が響く中で…うちは違うことを考えてたんや。


 ばあちゃんが亡くなった次の日、うちは高校の部活の親睦会があった。男女仲悪い部活やったから、そんな話が出てきたことさえ奇跡で。ほんで、その日は皆で花火しようなーって言ってて…そんな日にばあちゃんの葬式。実感湧かんかった。親睦会やし…言うて葬儀から先に家に帰ってしまうように…ほんまに実感が湧かんかった。ばあちゃんが煙になった日、うちは呑気に花火に灯ともしよったんや。


 うちの実家からばあちゃんちが遠かったからやろか?一緒に住んでへんかったからやろか?うちは…ばあちゃんの死をそんなに重く受け止めてなかった。人一人死んでんのに…。単にいなくなったお人やと…そんくらいにしか思ってへんかった…。


 ばあちゃんが病院に入院した時を同じくして、じいちゃんは病院に入った。頑固者のじいちゃんを病院にやるのはすごく大変なことやったと思う。それをお母ちゃんとおばちゃんが体張って病院に連れてったらしい。即入院することになったじいちゃん。これだけ聞くと可哀想やと思うけど…。


 だってな?じいちゃんは知らんねん。ばあちゃんが死んだこと。


 ばあちゃん、死ぬ前に病気で入院した。そこでじいちゃんの記憶は終わってる。お母ちゃんとおばちゃんがじいちゃんを病院に連れてった時、ばあちゃんは生きてた。そもそもじいちゃんを外へ連れ出したんは、ばあちゃんのお見舞いに行く言うて連れ出しはったん。ばあちゃんのお見舞いに行く言うたのに、お母ちゃんの運転する車は違う方向に曲がって…車内ではじいちゃんが暴れて大変なんやったって。

「あいつの病院に行くんやないんか!どういうこっちゃ!?」


 後部座席のおばちゃん、必死に暴れるじいちゃんをおさえたんやって。お母ちゃんも運転よお頑張らはった。じいちゃん、結構な酒飲みで…結構やばいとこまできてはったから。


 ほんでじいちゃんはそのまま入院しはった。うち、はっきり言ってじいちゃんのこと怖い思ってた。まだ幼稚園に通ってた時分、じいちゃんの酒癖に恐怖を感じてた。めっちゃ怒鳴るし、意味わからんし…何なんこの人…くらいに思ってた。…けど、徐々に見えへんかった部分が見えてきた。じいちゃん…うちらがじいちゃんちから帰る時に、泣いてはった。


「もう帰んのか?」


 もしかしたら、酔っぱらってたからかもしれん。ただの泣き上戸かも。だけど…その時、じいちゃんを少し知れた気がした。十代だったうちに、やっと響いたじいちゃんの本音だったのかもしれん。





 ばあちゃんが死んでやがて十年経つ。じいちゃんはまだ病院にいる。うちは一度も会いに行けてない。


 どうしても怖くて。

 

 話に聞いていた。じいちゃんは痴呆が入ってるから、孫の顔はわからないって。じいちゃんが病院に入って六年くらい経った時、姉ちゃんが子供を連れてじいちゃんに会いに行った。うちも同行した。だけど…下の子の年齢がまだ一歳くらいだったから病室には入らせれないということで、うちはその子供と駐車場で待機することにした。


 …この子がいてくれてよかった。うちは…多分、じいちゃんに会う勇気がない。


 怖い。怖い。怖い。



 …はっきり言う。恐怖しか感じない。そもそも怖いイメージのじいちゃん。酒飲みのじいちゃん。怒鳴るじいちゃん。…うちのことを…忘れてるじいちゃん。



 嫌やった。怖かった。会いたくなかった。だから…うちは今も会えずにいる。


 じいちゃんが入院してやがて十年。途中危ないって言われた時も何度かあった。なんとか持ち直してきたじいちゃん。だけど…未だに会えずにいる。どうしても…怖い。うちを忘れたじいちゃんに会うことが怖い。



 そう思っていた。



 でも、今は会いたいと思う。



 それと言うのも、去年、一緒に暮らしていたばあちゃんが亡くなった。ばあちゃんはぼけることはなかった。だからこそ…なんか…痛くて…。


 ばあちゃんの死に直面した。死ぬところをみていた。死んでからも一緒にいた。きつくて、つらくて、意味が分からんかった。なんで死んだのかと。一週間前までうちのことを看護師さんに紹介してくれてたやんか。なんで…なんで死んだん?


 ばあちゃんの死を目の当たりにして、やっと少しだけ死と向き合えたうちがいた。めちゃくちゃきつかったし、めちゃくちゃアホかと思った。近親者が死んでも、周りは変わらん。いつもと同じように友達と遊ぶし、いつもと同じように時間は流れていく。



 人の死って何?人が死ぬいうのはわかる。誰でも死ぬ。そんなん知ってる。



 だけど…きつい、きつい、きつい、きつい。


 ちょっと鬱になるよね。うん。


 それからちょっとして、今度はお母ちゃんがお世話になった、お母ちゃんのおばちゃんいう人が亡くなった。仮に岡山のおばちゃんとしておこう。


 岡山のおばちゃんは、自分とこに子供ができなかったこともあり、お母ちゃんの子供をよくかわいがってくれていた。…姉ちゃんのことだけどな。


 おばちゃんが亡くなった後、おばちゃんの旦那さんが遺してくれていた8ミリビデオの存在を知る。岡山のおばちゃんの血縁者がうちらのことを残したビデオだからと、そのフィルムを送ってくれた。



 最近は昔の8ミリさえDVDに直してくれるんだから大変便利だ。



岡山のおじちゃんとおばちゃんが遺してくれた8ミリを業者に頼んでDVDにしてもらう。


 はっきり言って、無音だし、画像荒いし…なんだこれって思った。でも…見てるうちに、胸が締め付けられるというか…うっかり涙腺崩壊なシーンがいくつもあった。知ってる顔、すこぶる若い。その映像の中が、幸せそうで…。いや、事情知らないならいくらでも幸せだろうな~って思うかんじの動画だよ。うちも昔の事情とか知らないけど…でも、知ってる人たちが、幸せそうに笑ってる画面を見たらさ、やっぱり幸せな気持ちになったんだよ…。


 とにかく!!その岡山のおばちゃんとおじちゃんが遺してくれたDVDに曲つけたり、動画と動画をくっつけたりする…という大役を仰せ遣いまして。うちやったった。それぞれの家族の出る場面場面をくっつけて切って音合わせて…みたいなね?曲は当時はやった曲とか調べて編集して大変だったわけですよ…。



 だけど…この動画を見れてよかった。うちにとって怖い象徴のじいちゃんのイメージ壊れたし、おじちゃんやおばちゃんの若い頃の素顔を見れたし…。



 うちにとって+にしかならんかった。今回の動画編集。


 それを見たからこそ、じいちゃんに会いに行きたい。うち、極端な人間で、嫌なところを発見したら本当に嫌になる…んでもってその人と関わらんようにしてきたんよ。けど、うちに見えるその人なんてほんの一部で、一概にこんなお人やって言えんなって…改めて学ばせてもろた。うちはうちしか見えへん、狭い人間やったんやって、思った。でも多分それを嘆くのは間違ってる。嘆いて、もしうちが嫌な思いをさせた人に謝ったところで、その人の記憶の中には残ってる。うちがその人にとって嫌な人物だということを、謝罪で消すことはできない。起きてしまったことは戻せへん。罪悪感と共に生きていくしかない。




 …だけど、人は気付く瞬間がある。後悔をした後に、こうしたい、こうすればいいって、思う瞬間がある。だから、もしそう思ったのであれば、自分が負うことになるであろう傷のことなんか放っておいて、本能に忠実に動けばいいと思う。


 命には限りがある。



 たとえ今は健康でも、明日はどうなるともわからない。


 

 それが命。



 うちは…うちが傷つくことになろうとも、じいちゃんに会いたい。今まで会いに行けなかったことを詫びたい。自己満足だってわかってる。でも…それでも会いたいんだ。


 二度と、後悔を繰り返さないでいいように…。


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