・19 方略(中)
袁術も袁紹も出ません。その代りに別の人が……
陽都県を発った李光は、往路と同じ日数を掛けて朐県に戻り、その足で糜竺を訪ね、諸葛家での一歳を話している。
諸葛姉妹とも散々に話し、糜竺の示した条件の全てを満たしているだけに快諾が 得られと思っていた李光にすれば、顔を曇らせた徐州一の賈人の反応は意外の一言であった。が、
「悪くはありませんが……」
と、口籠る様子には戸惑いを覚えるしかないのだ。
諸葛亮の言葉を借りれば、陥穽の発案に携わったのは人生経験に乏しい者達でしかない。が、目立つ疎漏が見られる訳では無く、上手く事が運べば、袁術は名声が、糜竺は金が、そして淮水流域の民は安定が得られる妙案である筈なのだ。誰もが必要とするものが得られる筈なのだ。にも拘らず、糜竺の曇り顔は、
――如何したものか……
と。
その理由は、糜竺本人の口から告げられる。
「確かに袁術は浅慮です。順を追って説得を行えば、治水の為の資金を提供するかもしれません。併し、同時に短慮でもある袁術は、長い時間を要す治水事業を辛抱強く待てる器量が有るとは思えません。逆にこう言った事業を成すなら、慎重な性格の袁紹を説得した方が得策だと思います」
と。
情報通の糜竺にこう言われれば、李光としては肯かざるを得ない。計画を一から練り直さなければと思いながらも、自分達で立案した計画を諦めきれないのは若さ故も有るだろう。
「例えば、袁術に近い者の手を借りれば……」
「誰かお知り合いでも?」
「……」
治水事業と言う一大事業が現実として形を為し始めていただけに、李光としては諦めが付かないのだが、其れを諭すのが大人の糜竺の役目であろう。
「李先生、治水事業は大掛かりなだけに慎重を期さねばなりません。思い付きとまでは言いませんが、思慮が足りなければ李先生自身に禍と為って返ってきます。浅慮な袁術を相手にするのか、慎重な袁紹に的を絞るのかは、熟慮を重ねた上でも遅くはありません。どちらにしても、計画を実行するにはもっと明確な何かが必要です」
と。
併し、李光には諦めきれない理由がある。糜竺が提示した条件を達成出来なければ、魯邑を始めとする淮水流域との穀物の取引が出来ないと有れば、諦める訳には行かないのだ。
が、其れも糜竺の口から代案が出される。
「李先生が、其処まで淮水流域の民の為に治水に拘るのを人情と言い換える言葉出来るのなら、賈人の私とて人情を示さねばなりません。李先生に投資する代価として、先ずは魯邑に穀物の提供をしましょう」
と。
正に李光が拘っているのは、糜竺の言葉の中に有る。魯粛とは行き摩りの関係の様なものだが、約束を交わしただけに拘っているし、困窮を極める者とは真摯に向き合おうと思って尽力をしている。
愁眉を開いた李光であったが、更に糜竺は釘を刺す事も忘れない。
「但し、飽く迄李先生への投資の一環として魯邑に援助を行うのです。貴方が掉尾を飾る事が出来なければ、其のツケは魯邑に跳ね返る事に為ります」
と。
決意を新たにした李光は慎重に顎を引いた。先ずは、糜竺の言葉に従って袁紹と袁術の事を調べてみよう、と思った。
――敵を知り、己を知らば、百戦危うからず。
と。本人の意識していない所で焦り、性急に為っていたが、糜竺の言葉で心にゆとりを取り戻していた。
李光が江湖に秩序を齎そうと躍起に為っていた頃、朝廷では様々な事が起きている。内憂外患と言う言葉とは少し違うが、黄巾の乱、涼州の乱と、立て続けに外患が一応の決着を見れば、内憂とも言える朝廷内の諸問題が頭を擡げるのも肯けるのだ。
掻い摘んで言えば、時の天子・劉宏の後継者問題であるが、長子である劉弁を推す官僚の何進派と、次子の劉協を推す宦官の蹇碩による派閥抗争が顕著に為っていると言う事だ。
正義が何処に有るかを論ずるのは難しい事だが、儒教を国学としている国家なら、長子が跡目を襲うのが本来ある姿であろう。
尤も、庶民にしてみれば、朝廟の住人が先憂後楽の精神を忘れなければ其れで良いだけだ。が、其れも単に願望でしか無く、庶民の声は朝廷には届かない。今の朝廷は、それ程までに庶民からの期待に応えられていないのが現状なのだ。
扨、件の袁紹は、朝廷混乱期の間隙を縫って、と言う事は無いだろうが、渤海郡太守として昇進している。黄巾の乱や涼州の乱での功績がある訳では無く、又、朝廷でも目立った功績が見止められていない事から、勢力拡大を図る何進の口添えが有ったとは容易に想像できる。此の一事から鑑みても、此の頃の朝廷は私利私欲の温床と化している、と言い換えて良い。
因みにもう一方の袁家の勇の袁術も、やはり理由が定かでは河南尹に着任している。当時は売官と言う制度が有り、功績の無い袁術がどうやって袁紹よりも一階級上の官に推されたのかは全く分からない。唯一つ言える事は、郡太守と同等の権利が有る河南尹には、どうように軍事権が有ると言う事だ。
これらを知った李光は、先ずは近い渤海郡を訪れて袁紹の周囲の事情を探る事にした。
其の李光を呼び止めたのは糜竺である。
「袁家が巨万の富を築き上げている事を考えれば、その富に釣られて仕える者は必ずいるものです。そう言った者は財貨に弱く、信用こそできませんが其処に付け入る事で突破口として利用が出来ます。其の時に、此れなら必ず役に立つでしょう」
と言い、一寸が欠ける小振りな田黄の玉を二つ手渡した。一つは袁紹の下で、もう一つは袁術の下で使え、と言う事だろう。其れを懐に収めた李光は何度も頭を下げ、糜家から出発した。
朐県は徐州の海岸線の北端に近い所に有り、翌日には青州との境に到達する。州境には必ず関所が設けられているが、中央政府からは最も目の届きにくい地方の一つに数えられる青州だけに賄賂はものを言い、容易に通過が出来る。
唯、青州に足を踏み入れて、徐州の状況とは一線を画す程に変化している。此れまでと違って物々しいのだ。其れも、山東半島が軽犯罪者の流刑地に為っていると分かれば、理由は容易に知れる。泰山に立て籠もる黄巾の残党と受刑者が合流すると、再び大きな反乱に発展する可能性がある為に神経を尖らせている。
李光達四人が検挙されなかったのは、賊徒とは程遠い身形であったからだ。尤も、嫌疑はうんざりするほどに掛けられている。唯、厳戒態勢なだけに危険が無かった事は確かで、五日目には臨淄県に、その翌々日には渡河して平原県に至る。此処までくれば、渤海郡都の南皮県は目と鼻の先で、二日程で到着している。
早速、渤海郡の官吏の聞き込みを始めた李光は、思わぬ名を耳にした。
「荀女史が居るのですか?」
「中々に目端が効くらしいが、余り長く無いんじゃないかな…… 自信が有るか如何かは知らんが、現在の境遇に対して頻りに不満の声を上げているらしい」
とは、少し余分目の心付けを渡されて気が良くなった役府の門衛の言葉だ。荀彧は、李光と初見した翌年から、荀一族の長の命に従って袁紹に仕えている。
当初は任侠衆に亘りを付けて貰おうと思っていただけに正に渡りに船、降って湧いた僥倖と言って良い。どちらにしても好機の到来である。袖降る仲も多生の縁と言うように、多少でもあっても知り合いの荀彧が片棒を担げば、袁術の周囲を調べるまでも無く、淮水の治水は一気に現実味を帯びるのだ。
余りの幸運に口端を釣り上げた李光が、荀彧を待ち伏せたのは言うまでもない。
熟した柿の様に赤くなった夕日が稜線の谷間に吸い込まれそうな時に為ると、やっと李光が目的とする人物が役府から姿を見せた。相手が気付いたと思った時に会釈した李光は、待ち切れないと言った風に荀彧に近付き、
「御無沙汰しております。御待ちしていました」
と声を掛けた。此の時に、
「会いたくて追い掛けて来ました」
とでも言えば、荀彧が頬を赤らめて乙女宜しく恥じ入ったろうか、其れとも目を三角にして股間を蹴り上げたろうか。尤も、李光にそんな気の利いた台詞を期待する方が間違いなのは、敢えて書き記すまでも無いだろう。
但し、以前に鶏血石の帯飾りを送られた荀彧にすれば、多少なりとも邪推をするのは仕方がない事だ。此れでもうら若い乙女で、一族の中には彼女よりも若くして嫁いだ者もいるし、頭の片隅の小指の垢よりも小さい所には、結婚したいと言う願望が無い訳では無い。平たく言えば殆ど無いが、他人の後手を踏む事が我慢ならないだけに無いとは言い切れないのかもしれない、其れが一族間の事なら尚更であろう。
扨、そんな気持ちが心の何処かに有ったからか、李光の顔を見た荀彧は、多少なりとも鼓動に騒がしさを覚えると共に、夕日に晒されている御蔭で全く平素の時と区別が出来ない程度に赤面している。言うなれば、傍目からは全く解らない程度、と言う事だが……
尤も、そんな些細な事に気が回る李光では無い事も書き記す必要は無いだろう。現に李光は、荀彧の様子には全く気付かずに話を始めている。
「実は、相談に乗って頂きたいのです」
と。
此の時の李光の顔を見て、色恋沙汰ではないと悟った荀彧が失意を覚えたかどうかは別にして、二つ返事で肯いたのは、やはり以前に送られて来た鶏血石の帯飾りの返礼の意味が強かったからだろう。
手頃な酒家に場を移した二人は差し向かいに腰を落ち着かせた。口を開いたのは、やはり李光の方だ。
「淮水流域の実情を御存知ですか?」
大量の真白な絵具に赤の絵具を本の一滴だけ落とした程度の淡い期待は確かに有った。其れが淡いと言うのか如何かは物議を醸す所だが、荀彧は期待が裏切られた事に落胆する事は無く、寧ろ、
――やはり……
との思いの方が強い。次には四方山話よりもこう言った謀の方が余程に面白そうだと思っている。その一方で、泗水地域の治水が定めっておらず、大雨が降れば直ぐに氾濫する事は有名な話だけにその辺の事情は熟知している。同時に荀彧は、顎を引いて話の先を促した。尤も、目端の利く彼女は、この言葉だけで李光の胸裡を察している。其れだけに、
「何とか治水事業を進めたいのですが……」
「袁紹に其の為の資金を出させようと言うのね?」
と、李光の言葉は実を結ぶ事は無く、荀彧の口によって締め括られている。
今度は、李光が顎を引いて肯定していた。
「結果的には悪い話では無いと思うのです」
「そうね。袁紹は名声を手にし、庶民は安定を手に入れる。仲介をした者は富を手に入れる事に為るわ。でも、アンタがそんなに金に執着が有るとは思わなかったわ……、少し意外だわ」
「金に其れほどの興味が有る訳ではありませんし、其れで他人に恩を売ろうとは思っていません。些細な事が発端ですが、関わったからには最後まで付き合おうと思っているだけです」
此れまでの経緯を李光の口から聞いた荀彧は口端を上げた。楽しいのだ。荀彧自身もそうだが、人生を謳歌出来るか如何かが、生きる意味に繋がると思うのだ。己が度量を越えている無謀な事に挑戦するのもその一環だと思うのだ。李光が自分と同じ価値観が有ると知ると、彼女は依頼が何なのかを聞く前から手を貸そうと思った。
「話を戻しますが、当初は袁術に的を絞ろうと思ったのです。が、短慮な者では、何時どんな時に気が変わるかもしれないと指摘を受けました。其処で、慎重な袁紹も標的に含めてもう少し模索しようか、と」
荀彧はこの言葉に肯き、更に続きを促す。
「唯、如何転んでも私の様な部外者では、大事業だけに信任は得られませんし、寧ろ、面越も出来ないでしょう。どちらにしても、袁紹から信任がある者と繋ぎを摂らねばなりません」
「それなら、袁紹に的を絞った方が良いわ。彼女は今、将来を見据えて手に余る程の名声を欲している。目の前に餌が釣られれば、間違い無く食いつく筈よ。でも、残念ながら、私では袁紹との繋ぎ役には為れないわ。でも、袁紹の愚図々々とした性格に嫌気がさして致仕する心算だから、何にだって力は貸すわよ」
と。詰り、荀彧にすれば、今後は袁紹が如何為っても構わないし、袁紹に近しい者の心当たりが有るだけに相貌に曇りは無いのだ。
今度は李光が肯き、続きを促す。
「現在、袁紹からの信任が厚いのは郭図ね。郡政を代行しているのは彼だし、袁紹の扱いにも長けているわ。其れに、袁紹に連絡を取りたいのなら彼を介さなければならないしね」
「その郭図と渡りが付けられませんか?」
「同郷だから出来ると思うけど、欲が深いのよ……」
言葉の意味を察した李光は、糜竺から受け取った田黄を懐から取り出した。田黄は稀少で鶏血石よりも余程に高価である。荀彧は其れを取り上げて掌で弄ぶ様に眺めている。
「此れでは足りませんか?」
「本当なら璧や環の方が良いんだろうけど、何とか話を付けてみるわ」
再び口端を上げた荀彧は田黄を懐に仕舞うと、夜陰へと塗れた。
荀彧に掛ける決意をした李光は、郭図との面越が叶うと確信した。確固とした因縁が有る訳では無いが、少なくとも荀彧ならば信頼できる。誰よりも心強い味方である事は確かなのだ。
荀彧から連絡が有ったのは四日後の事であった。場所は、南皮県で最も高名な料亭である。李光は一足先に料亭に向かって場を設え、郭図との面越に備える。彼が現れたのは夕暮れに太陽が隠れるのと同時であった。
郭図を上座に案内した李光は下座で膝を揃え、たっぷりと時間を掛けて辞儀をし、更に視線を胸の高さに抑えて話を始める。
「李光と申します。郭大人に於きましては、御機嫌も麗しく、態々このような所にまで御運び頂き、恐悦も至極で御座います」
と。
言わば、貴人への対応であるが、此処までくれば其れ以上と言って良い。此の待遇で、郭図が多少なりとも気を良くしたのは事実だ。しかも、彼が座した椅子には、糜竺から受け取ったもう一つの田黄がそっと置いてあり、此れが機嫌を良くする一因を買っている。
「儂の力を借りたいそうだが?」
鷹揚に肯く郭図の声調は軽く、其処からも機嫌の良さが窺える。此れに依り、李光はこの会談の成功を半ば確信している。
「実は、淮水流域、泗川地域が抱えている問題なのです。同地方が常に水害の危機に晒されているのを御存知でしょうか?」
李光は相変わらず郭図の胸の高さに視線を抑えているが、襟元の動きで肯いていると判断し、更に言葉を続ける事にした。
「併し、政府はこの問題を歯牙にも掛けず、苦労を重ねている泗川の民は政府に失望しております。其れでも国家の繁栄の為に民には斯業に勤しんで貰わねばなりません。併し、政府は其れを理解せずにいるのです」
「確かに、民が余業に熱心になった所為で国家が乱れたのは遂最近の事であるな」
「其処です。先の反乱では特に泗川の民が多く参加したそうです」
「由々しき問題である」
「其れは偏に国家への離心が故です。しかも、問題は民にでは無く、政府に有ります」
此処まで言うと、流石に国家批判に為り、郭図の顔も多少の険しさを帯びる。が、李光は構わずに話を進める。
「併し、民だけで生きて行く事は出来ません。其れも先の反乱が証明しています。政府の討伐軍の活躍も有りますが、確たる指導者の不在が黄巾賊の弱体の最たる理由です。併し、政府は当てに為りません。民は、確たる指導者を待っているのです」
話の行き着きどころが見えた郭図は、再び鷹揚に肯き、李光に先を促す。
「袁閣下に、新たなる盟主としての実を示して頂きたいのです」
「私の口から、我君へ伝えろ、と?」
肯いた李光は、更に言葉を続ける。
「下賤の出自の私では、残念ながら袁閣下に拝謁しただけで感涙に咽て言葉を発する事も出来なくなってしまいます。併し、この事業は誰が考えても偉業として後世にまで伝承されるものであり、何としてでも実施したいと考えております。寵児として袁閣下には歴史に名を残して頂きたく、同時に郭大人にも献言した者として名を残して頂きたいのです」
流石に此処まで持ち上げれば郭図の貌は緩んでくる。其処に追い打ちを掛ける様に、荀彧が郭図の耳朶に口唇を寄せて囁いた。
「唯、国家事業ではない為に労働に関わる民には賃金を払わねばなりません。併し、政治の一環として治水を行うよりも、太守の私財を投じて事業を為した方が信奉は高まります。ですが、魚心あれば水心あり、と言う言葉が有る様に、人足に支払う日当を、長期を要す事業と言う理由で二十枚の所を十九枚に減らしてみ不満が出る筈が有りません」
詰り、事業の責任者に為れば、莫大な富を得る事が出来る、と言っているのだ。しかも、責任者は事業を提案した者が推されるのが道理であろう。累計で億万の民が事業に従事すれば、億万の富を手に入れると言う事だ。
「若し、お聞き届けいただけないのなら、袁公路を頼るしかありません」
悲壮な貌の李光の追い討ちをそっちのけにして郭図は銭の事を頭で計算したのか、目尻をだらしなく緩ませている。否や立ち上がり、
「善し! 儂に任せるが良い」
と言うや袁紹との拝謁の為に雒陽への出立の準備の為に、急いで屋敷に戻っていった。
李光と荀彧は、哄笑したい気持ちを抑えて郭図を送り出している。
謀の成就を確信した李光と荀彧ではあるが、何処の壁に耳が有り、何処の障子に目が有るか知れない事もあって、河岸を変えて祝杯を上げる為に夜の帳に身を躍らせた。
ほろ酔いの客で犇く酒家に移動した李光と荀彧は、偶々空いていた最奥の卓子に腰を落ち着けた。そして何はともあれ、謀の成就を祈って、
「乾杯」
である。
卓子を挟んでの会話は他愛の無いものが多かったが、こんな言葉も飛び出している。
「仮に、袁紹の子飼の手下の中に、袁術と通じている者が居たら面白いと思いませんか?」
と李光、荀彧は其の言葉に一頻り笑った後にこう応じた。
「二人共に名声を得ようと、競うように投資をするわ」
と。
勿論、他愛のない会話で、此処だけの話だ。
翌朝、李光と荀彧は、雒陽に向かう郭図の見送りの為に城門に姿を見せている。本来なら、発案者の李光は雒陽まで随伴すべき存在である。が、李光本人が其れを望まず、手柄を一人占めしようと考えた郭図も強要をしなかった。
李光は、郭図の此の厚顔さで有れば、
――必死に袁紹の説得を試みるだろう。
と思った。
沈思する李光を余所に、郭図を乗せた馬車は、既に豆粒の様に小さくなっている。




