ご指名されたようです 2
その声は、ヴェロニカに向かってこう語りかけて来ました。
『ヴェロニカ、ヴェロニカ。僕の体を土に埋めないで』
ヴェロニカが「誰ですか?」と尋ねると、その声はこう答えました。
『僕は勇者ミリオネスだよ』
ヴェロニカは驚いて大きな声を出しました。
「勇者様? 本当に勇者様なのですか? 勇者様は亡くなったのでは?」
すると、不思議な声はこう答えました。
『確かに、僕は死んだよ。でも死にきれずに天国の門の前から引き返して来たんだ。だって、分かるだろ? 僕は、まだ天国には帰れないよ。僕はまだ魔王を倒していないもの…。だからね、僕の体を土に埋めないんで欲しいんだ。なんでかって言うとね、体がなくなってしまうと僕はどうしても天国の門をくぐらなければいけなくなってしまうのさ』
ヴェロニカは、姿の見えない勇者に向かって言いました
「けれど、勇者様。土に体を埋めなくても肉体と言うのはやがて腐り土になり消えてしまうものですわ」
すると、勇者はこう答えました。
『僕の剣に埋めてある約束の石を5つに砕き、そのうちの4つを僕の寝ているベッドの四隅に置くんだ。そうすれば、石のかけらが結界を張り僕の体が腐るのを防いでくれる』
ヴェロニカはうなずきました。
「分かりました勇者様。でも、それでは残りの一つの石のかけらはどうすれば良いのですか?」
すると、勇者はこう答えました。
『これから僕は、精霊になり、僕の意志を継ぐ新しい勇者を見つけ、彼を助けて魔王を倒そうと思う。勇者たるべき、その「彼」が見つかった時に、君の手で残りの石を彼に渡して欲しい』
ヴェロニカは、最後にこう尋ねました。
「それでは、その彼が彼である事は、どうやって知る事ができるのでしょう?」
すると、勇者はこう答えました。
『僕の剣を、この町の武器屋に置くんだ。「彼」はきっと、この町を訪れ、僕の剣に気付き、そして、僕の剣を装備できるはずだ。その彼が見つかった時、僕はその事を聖なる光で君に知らせよう』
ヴェロニカはそこまでのいきさつを、一気に話し終えると静かに目を閉じました…
しばらくの沈黙の後、武器屋の親父が口を開きました。
「それでおいらの所にあの剣を持って来たってわけか」
ヴェロニカははうなずきました。
「そうです。そしてミリオネス様のお言葉通り現れたのが、サーザント様なのです」
「うそよ!」
シーラが叫びました。
「勇者様はこの世にたった1人ミリオネス様だけなのよ。私は勇者様が死んだなんて信じないわ!」
シーラはエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いて、ヴェロニカの顔を睨み付けました。その瞳の強い光に、ヴェロニカは何も言えなくなりました。すると、町長のヤンバがシーラの肩に手を置き、慰めるように言いました。
「シーラ。信じたくないのは分かるが、残念ながら本当の事なんだよ。私はこ
の目で見たんだ」
シーラは町長の手を振り払い、だだっ子のように耳を塞ぎ、
「信じない!信じない!信じない!」
と、繰り返したので、見兼ねた親父がたしなめました。
「よさないか、シーラ」
すると、
「いや、その娘が信じないのももっともだ」
と、サーザント。
「もし真実だと言うのなら、証拠を見せて欲しいな…」
ヴェロニカと町長は、目を見合わせました。互いの目と目で何か相談しているようでようです。やがて、相談がまとまったとみえ、町長がこう言いました。
「いいだろう。ヴェロニカ様案内して差し上げて下さい」
「はい」
ヴェロニカは、うなずくと例の勇者の肖像を壁から外しました。すると、そこには金色の鍵がかかっています。ヴェロニカはその鍵を、部屋の左端の小さな穴に差し込みました。すると、壁が音をたてて回転し、その奥に小さな部屋が現れました。
「どうぞ、こちらへ」
ヴェロニカはそう言うと、シーラ達を回転扉の向こうの部屋へと手招きしました。