それは、呪いの剣から始まった 6
シーラと親父はしばらく剣を見てずっと考え込んでいましたが
「分からねえ、降参だ!」
とうとう、親父が音を上げました。
「ヴェロニカ様、一体この剣が何だって言うんですか?教えて下さい」
すると、ヴェロニカは声をひそめて言いました。
「実は、それは勇者様の剣なのです」
「勇者様の?」
「勇者のだと?」
シーラとサーザントが同時に叫びました。
「シッ!」
ヴェロニカが、人さし指を口に当てました。
「大きな声を出さないで! 誰が聞いているか分かりません」
そう言われて、思わずシーラは窓の方を見ました。どこからかコウモリが「キィキィ」と騒ぐ声が聞こえます。それでシーラは何となく不安な思いにかられたのですが、その思いは直に「言われてみれば…」という親父の声にかき消されました。振り返ると、親父が剣の柄をまじまじと見つめています。
「この柄の装飾は、確かにあの時勇者様が持っておられたのと同じ物だ。…するってぇとこのまん中の大穴は…」
「そこには、約束の石がはめられていました」
ヴェロニカが低い声で囁きました。
約束の石とは、500年前に或る天界人が聖なる光を結晶させて作った宝石です。それは丸く透き通った水晶のような石で、日ざしの中では七色の光彩を放ち、闇の中では月のように輝きます。勇者がそれに触れれば、石の持つ力と勇者の
持つ力が共鳴し、太陽ですら消すことができると言われています。
「けど、なんで約束の石がとれちまったんだ?盗まれたのか?…しかし、どうやって盗んだんだ?」
親父は首をかしげました。
「盗まれたのではありません。聖魔導士である私の手で柄から外しました」
ヴェロニカが静かに答えました。
約束の石は、勇者以外の者に触れられることを拒みます。勇者以外の者に対しては、それは炎の玉のように熱を発し、持つ者の皮膚はただれさせ、数日も数カ月も治らないと言われています。
が、一部の修行した聖魔導士であれば約束の玉に触れることも可能なのです。
「ヴェロニカ様が? 一体なんでそんなことを?」
シーラも首をかしげました。するとヴェロニカは、
「勇者様をお守するためです」
と、答えました。
「勇者様を?」
親父と、シーラはますます首をかしげました。
その時、サーザントが叫びました。
「やい、女! お前勇者の居所を知っているんだな! 奴は一体どこにいるんだ! 奴をここにつれて来い!」
「勇者様なら、とっくに旅に出られたわよ」
シーラは、そう言ってサーザントを睨み付けました。
「剣を置いてか?」
サーザントが意地悪く言いました。
その言葉で、シーラも親父もギョッとしました。言われてみれば、勇者の証である剣を忘れていくなんておかしな話です。
サーザントは、ヴェロニカに向かって言いました。
「女、勇者を出せ!俺は奴の首を取りに来たんだ」
「分かりました。会わせて差し上げましょう」
ヴェロニカは、頷くと
「その剣を持ってついておいでなさい」
と言って、木の扉を開け夜の街へ溶け込んでいったのです。それで、シーラと親父と…いつの間にか体が自由になったサーザントは、ヴェロニカを追って夜の街へ消えていったのでした。