脱出
そして、その時……抜いた剣を構えまさに襲い来る兵士達に対峙したその時、サーザントは、左の方角から何かが唸りを上げて迫って来るのを感じ、反射的にそちらを向いて思いきり剣を振りました。
ガン!
鈍い音をたてて、青銅色の槍が黒い地面に突き刺さります。それは、トルネーダの 兵士がサーザントを狙って投げた物でした。長い柄の先で、噛み付くような、白い 穂先が光っています。そして、錆びたような緑の柄の向こう側に、十名ばかりの鱗の甲冑を纏った兵士達が駆けて来る姿が見えています。彼らは、各々、剣や槍を構え、口々に「捕虜を逃がすな」「捕まえろ」と叫んでおります。
「ちっ。あっちからもこっちからも湧いて出てきやがって…点」
サーザントが、毒づいている間にも、兵士達は、どんどんこちらに迫って来ます。そし て、ついに、先頭を走っていた兵士が、剣を構え、直近からサーザントに襲いかかって来た のでした。
「くそ…」
しかし、サーザントが剣を構えるより先に、その兵士は口から泡を吹いて倒れてしまいました。
「?」
驚いた、サーザントの鼻先で、ふわりと赤い髪がなびきます。
「お前…」
サーザントは、いつの間にか自分の前に立っていたシーラの横顔を見つめて呟きました。シーラは、炎のような赤い髪をなびかせ、いつ抜いたのか、先程サーザントに襲いかかって来た槍を雄々しく構え、迫り来る敵から目を逸らしもせず叫びました。
「こっちは私に任せて!」
そうして、次に襲いかかって来た敵の剣を、槍の柄で思いきりたたき落としました。
「嘘だろ?」
サーザントは呟きました。
「いくら雑魚敵だからって、相手は元天界の兵士達だぞ。お前、本当に女か? いや、それ以前に人間か?」
「なんですって?」
サーザントの言葉で、シーラの攻撃力が倍増しました。しかし、そのおかげで、あっという間に敵を一掃する事ができたのですが…。
「何、ぐずぐずしている! 脱出するぞ!」
呆然とシーラの活躍を見ていたサーザントにむかって、ムルグが叫びました。それで、やっと我に返ったサーザントは、シーラとともに、既に脱出呪文を唱えはじめている老魔導師の元に向 かって走り出しました。
「…シー・フー・ア・ライ・シー・フー・ア・ライ…」
呪文を唱えるムルグの周りに白い光が立ち昇りはじめています。
「さあ、早く、この中に!」
ムルグは、地面に杖を突き立てたまま、手招きをしました。後ろからは、新手の追って達の叫び声が聞こえて来ます。サーザントは無我夢中で 光の逆噴射を掻き分け、呪文の領域内に飛び込みました。続いてシーラが飛び込んで来ます。
こうして、地団駄踏む追っ手達の目の前から、無事に彼らは脱出する事ができたのでした。