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ムルグ

 やがて、月も星も見えぬ魔界の深い闇の中、トルネーダの元天界の兵士達が、騒ぎ疲れて 1人、また1人と眠りにつく頃。この、炎の赤と闇の黒の世界に、ぼんやりとし た白い霧がたちこめ始めました。それは、あの燃え盛る魔の山から続くでこぼこ とした道に、漂い、途切れながら、その向こうにある全てを乳白色に覆い隠して いくのでした。

 その、霧の中を、魔界の闇よりも尚深く、絶望的な闇色のローブを纏った老人が、ほとり、ほとりと歩いて行きます。目深にかぶったフードの中で、赤色の目が静 かに光り、灰色の高い鼻の下に白いヒゲを蓄え、気難し気な口元をむっつりと結 び、背よりも高い杖を片手に、トルネーダの野営を目指してゆっくりと歩いて行 きます。ゆっくりと…いいえ、歩調は緩やかなのにその速度は走るより速く、星 のように微かに見えていた野営地のたいまつの明かりが、見る見る彼の目前に迫って来るのでした。

 野営地に辿り着くと彼は、手にしていた黒い杖で、ズンと大地を叩きました。そ の衝撃で僅かに大地が震えたようです。今だに酒を酌み交わしていた2人の兵士 達は、その音に気付き立ち上がりました。そして背の高い兵士は、老人の姿を認 めると槍を構え、横柄に尋ねました。

「だれだ? 貴様」

「闇魔導師ムルグ…」

 老人は低く重々しく答えました。

「ふん、魔法使いが何しに来た?」

 もう1人の若い兵士が、薄汚れたローブを着た老人の姿を見て小馬鹿にしたよう に言いました。老人は、赤い目でぎろりとこの無礼な若者を睨み付けると、

「王子の身柄を引き受けに来た」

 と、無愛想に答えました。

「何だって?」

 若い方の兵士がせせら笑いました。そして真っ赤な顔を老人に近付けると、酒臭 い息を吐き吐き言いました。

「それは誰の命令だ? 魔王か? ロムデル殿か? どちらにせよ無用の事だ。 明日我々が連れて行くのだから」

それには答えず、ムルグと名乗った老人は兵士達の間を通り過ぎ野営地の奥、枯 れた木に縛り付けられたサーザントの姿を見つけると、さっさとそちらに歩いて 行きました。兵士達が慌てて追いかけて来ます。

「おい! 待て! くせ者か?」

背の高い兵士は、手にした槍で背後から老人の足を払おうとしました。

 その瞬間、兵士の体は激しく岩に打ち付けられていました。何が起こったか分か らぬまま、彼は岩の上で気を失ってしまいました。それを見た若い兵士は、驚き のあまり酔いも吹き飛んでしまったようです。槍を捨て剣を抜くと、「待て!  じじい!」と走り出し、正面から剣を振り上げ、老人に挑みかかろうとしました。

 すると、ムルグは黒の杖を振りかざし、ズンと兵士の腹をつきました。兵士は剣 を構えたままの姿勢で、地面の上に崩れ落ちました。老人は冷ややかにそれを眺 めると、

「わしの名前も知らんのか。バカ者!」

と呟き、そのままゆっくりとサーザント達に近付いて行きました。そして、サー ザントの目の前に立ちました。サーザントはまっすぐに老魔導師を見つめ返しま す。彼はあれから一睡もせず、全ての成りゆきを見守って居たのです。ムルグは、人さし指と中指を立てて口の中で何やら呪文を唱えると、杖を斜に切りました。 ぱらり…とサーザントを縛っていた縄が解けました。

 サーザントは大して驚きもせず老人の顔を見つめています。そして、

「これは父上の命令か?」

 と、尋ねました。しかし、彼が答えを得るより先に

「待たれよ」

 と言う声がして、トルネーダが現れたのでした…            

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