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再び青の貴公子 03

 一方サーザントはといえば、今やすっかり落ち着きを取り戻していました。トルネーダの強さは十分すぎる程承知していましたが、魔界の王子として…彼のプライドにかけても、易々と言うなりになるわけにはいかないのです。そう考えれば、これも当然の成りゆきだと言えましょう。

 それに、勇者に「大丈夫なのかよ?」などと、念を押された事も、肚をすえる事のできた一因でした。…なぜ、勇者などに心配されねばならぬ?…という腹立ち…怒りが、トルネーダを恐れる気持ちを麻痺させてしまったようです。いいえ、それだけではありません、…確かにサーザントは心の虚をつかれて、うっかり「剣に物を言わせよ」などと口走ってしまったのですが、しかし、それはシーラが捕らえられているのを見た瞬間から、彼の心に込み上げてて来た正直な気持ちでもあったのです。

「やれやれ、王子、あなたにも困ったものです。なぜ、たかが人間に、そこまで肩入れなさるのですか?」

 トルネーダが剣を構えたままで言いました。

「別に、肩入れなどしておらぬ!」

 サーザントは答えました。

 その声を合図に、剣戟が始まりました。魔法を使わぬ事を暗黙のルールにした戦いです。

 剣と剣とがぶつかり、生まれる金属音が洞窟内に響き渡りました。2人は、マントをひるがえし、部屋中を駆け回り、果ては机の上に飛上がり剣の応酬を繰り返します。その動きの速さにさすがのミリオンも目を回しかけました。

 それにしても、トルネーダの強さは予想できた事ととして、意外なのはサーザントの方でした。彼は、逃げる一方でありながらも、いまだに傷一つ追っていません。

 それが、勇者の剣の力でないことは、剣の精霊であるミリオンが一番よく知っています。彼は先ほどの言葉通り、一切手助けをしていないのです。(この場合の手助けとは、サーザントの体を乗っ取り、高度な魔法を使う事だけではなく、剣の攻撃力と防御力を上げる事をもさします)更に驚いた事には、貝殻の机から飛び降りて襲いかかって来たトルネーダの脇をすり抜け、サーザントは見事に一撃を喰らわせたのです。トルネーダの蒼い肌から、紫色の血がほとばしります。この、プライドの高い貴公子は、かつてない衝撃を受けたように、傷を受けた頬を押さえ、キッとサーザントを睨み付けました。



「おい、やるじゃないか、サーザント!」

 ミリオンが降りて来て、喝采を送りました。

「シーボーズとの戦いの時とは雲泥の差だよ!」

 サーザントは小さな声で答えました。

「当たり前だ! あんな奴相手に本気になれるか?」

「なる程、『能ある鷹は…』ってやつか…」

「ようやく分かったか!」

 サーザントは、誇らし気にいいながらも我ながら信じられない気持ちでした。トルネーダに傷を追わせられるだけの力が自分に有るとは信じられないのです。

 …なぜだ? いいや、余計な事を考えるのはよそう。今はあの小娘を救う事に専念するのだ。

そう、思い定めた時…

ひゅっ!…

トルネーダの剣が、サーザントの頬をかすりました。

「何をぶつぶつ独り言を喋っている!」

 トルネーダは、そう言いながら稲妻のように剣をくり出して来ました。サーザントはよけ損なってその場に転びました。起き上がろうとする間もなく、また、切っ先が襲いかかって来ます。サーザントはトルネーダの攻撃をよける為に床をごろごろ転がらなければなりませんでした。しかし、右へ右へと転がっているうちに、とうとう壁際まで追い詰められてしまいました。そこで、なぜかトルネーダは、ぴたりと攻撃の手を休めました。サーザントは、床に手をつき、壁づたいに上半身だけ起き上がりました。目の前に、龍の鱗で覆われた、トルネーダのブーツが見えます。恐る恐る顔をあげると、トルネーダが氷のような目で自分を見下ろしています。

「もう、逃げ場はないぞ。王子…」

トルネーダは、くいっと口の端をゆがめました。


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