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深海の魔女 03

 それから、3人は、海底の道をどんどん進んでいきました。進むにつれ海は深くなり、やがて遥かな空は、押し寄せる海面によりまったく見えなくなりました。(それは、サーザントの魔力の届く範囲が、海面まで達さなくなったからです)同時に海底の道は光を失い、徐々に暗くなり、いつしか夜の帳にも似た濃紺色の道を3人は進んでいきました。一行のたよりはミリオンの纏う金色のオーラの光りだけです。彼は、まるで海に落ちた月のように、シーラとサーザントの道を照らしました。

 時おり、こちらの壁からむこうの壁へと大きな深海魚達が通り過ぎて行きます。そのたびにシーラは驚いてサーザントにしがみつきました。

 そうして何日歩いたでしょうか? ある時、3人は薄暗い水のトンネルの彼方に、一点の星のような瞬きを見つけました。サーザントは、その光を指差して言いました。

「あれが、アドリアナの館だ」

 それは、海底にそびえるおおきな岩盤のふもとにポッカリと開いた洞窟の中でした。洞窟の入り口の左右には、チョウチンアンコウの顔と人間の体

 を持つモンスター『シンカイトウ』が槍を持って立っています。サーザントは彼等に近付いて言いました。

「私は、魔界の第一王子サーザントだ。この館の主人アドリアナに頼みたい事があって来た。案内をしてくれ」

 すると、二匹のシンカイトウは、岩のように厳つい顔をこちらに向けビー玉のような目でサーザントの顔をじっと眺めました。それから、手招きをするとサーザント達を洞窟の中へと導いて行きました。シンカイトウは、ひたいに釣り下げた発光体をカンテラのように揺らして、薄暗い洞窟の道を進んで行きました。その後ろをサーザントとシーラが追って行きます。一行の頭上には、金色の光を放つミリオンがいますが、シンカイトウ達にはみえていないようです。


 やがて、3人は洞窟の奥の広間に通されました。

 洞窟の中の壁という壁には虹色に光るクラゲが無数に貼り付いており、その光のおかげで、広間の床に絨毯のようにびっしりと生えている真っ白な植物も、隅に置かれた壷の数々もはっきりと見る事ができました。

 そして、その壷の前の大きな貝の椅子の上に、紫色の髪に青色のドレスを着た美しい女が座っています。

「久しぶりだな、アドリアナ」

 サーザントが言いました。

「久しぶりね、魔界の王子様。急に水が引いたと思ったらあんたの仕業だったんだ。相変わらず迷惑な奴」

 アドリアナが爪を研ぎながら答えます。

「あれが人魚姫の声を奪った魔女?」

 シーラが驚いて言いました。

「まだ、若いじゃないの。もっとおばあさんだと思ってた」

「若いのは見かけだけだ。ああみえても300才の老人だ」

 サーザントが答えます。すると、

「誰が老人ですって?」

 アドリアナが怒りました。

「人魚の寿命は500念よ。300才なんて、まだまだ青春まっさかりなんだから」

「人魚?」

 シーラは再び驚いてアドリアナをまじまじと見ました。しかし……

「人魚なんて嘘よ。足があるじゃない」

「何よあんた?」

 アドリアナは始めて気付いたようにシーラを見ました。

「私はシーラよ」

「じゃあ、シーラ。教えてあげるわ。あたしは特別なマーメイドなの。生まれつき尾びれが無かったの。でも、尾びれを貰えなかったかわりに魔力を授かったのよ」

「尾びれを貰えなかったですって?」

 思わずシーラが食いつきかけたとき、

「おい。そんな事どうでもいい。それより私の話を聞け」

 サーザントが二人の会話を遮りました。

「何よ、相変わらず偉そうなサーザントね。それより、この人間の子以外にももう一人誰かいるようだけど……一体誰?」

「何?」

 サーザントは驚きました。

 この魔女にも勇者の姿が見えるのでしょうか? だとすれば、それは、まずいとサーザントは思いました。なぜなら、ここでミリオンの存在を知られれば、自分が勇者に取り付かれていることがバレてしまうからです。

 何と、言い逃れをしよう?

 サーザントが、迷いつつ口を開きかけた時、ミリオンがふわりとアドリアナの目の前に降り立ち。後ろを向いて、お尻ペンペンのポーズを取りました。それを見たシーラは手で顔を覆い、サーザントは眉をしかめました。しかし、アドリアナは無反応です。ミリオンは、言いました。

「どうやら、見えてるわけじゃないらしい。気配を感じてるだけじゃないかな?」

「そうか」

 とサーザントはうなずきました。それならとぼけておけばすむ話です。

「もう一人いるだと? 私には見えぬが? おい、シーラとやら。お前には何かみえるか?」

「いいえ。何も見えないわ」

 シーラが調子を合わせます。

「だそうだ。アドリアナ。お前、年のせいでヤキが回ったんじゃないのか?」

「年のせいとはなによ! 失礼ね」

 アドリアナが怒ります。

「怒るな。…それより用件を聞いてもらおううか? 私はお前に頼みたい事があってここに来たのだが」

 アドリアナは、ふてくされたまま答えました。

「何の用よ」

「ひとつ叶えて欲しい願いがあるのだ」

「願い?」

 アドリアナは驚いたように言いました。

「魔界のプリンスともあろうものが深海の魔女にお願いごとですって? ……そういえば、噂じゃあんた魔界を裏切って勇者になったっていうけど、まさかその事に関係してるわけじゃないでしょうね?」

「違う! というか、そんな噂がここまで流れているのか?」

「そうよ。でも、私は魔界にも天界にも義理はない、中立派だから、あんたがどっちにつこうがどうでもいいんだけど……」

「お前が中立派なのは知っている。いずれにしても、根も葉もない嘘だ」

「どっちでもいいわよ。で、どんな願いを叶えたいわけ? 金? 銀? 宝石? それとも世界一強い魔力? どんな願いもかなう秘薬を取り揃えてあるわよ。ほら、あの壷の中に」

 アドリアナは、自慢げに両手を広げて背後の壷を示しました。

「いいや。そのような大きな事ではない」

 サーザントが首を振ります。そして、シーラを見て

「あの娘を、地上に帰してやって欲しい。それだけなのだ…」

 と、言いました。するとアドリアナはいぶかしげな顔をしました。

「そんなこと……何も私に頼まなくとも、王子様の力があればどうにでもなるんじゃないの?」

「ところが無理なのだ」

「なんで?」

「実は、トルネーダに追われている」

「トルネーダ? あの水軍の大将に? またなんで?」

「私が魔界を裏切ったという噂を真に受けた父王が、私を捉えるために差し向けたらしい」

「ああ、なるほど。しかし、厄介な奴に追われているのね」

 アドリアナはそう言ってため息をつくと貝の椅子に深く腰掛け、左の真珠をちりばめたテーブルの上に置いてある古い鏡を手にして、その表面に域を吹きかけました。

「何をしている。鏡に見とれている場合ではないぞ」

 サーザントが文句を言います。すると、アドリアナはうるさそうに答えました。

「慌てないでよ。今、海の底を調べてるんだから」

 そして、アドリアナは手にした鏡をこちらに向けました。そこには、先程サーザント達が歩いて来た海底の様子が映し出されています。

「アドリアナが、遠く四方を映し出すように鏡に魔法をかけたんだ」

 ミリオンがひそひそと言いました。

「へえ……」

 シーラはあっけにとられてうなずくばかりです。

 やがて、アドリアナは、

「ああ! まずいわ!」

 と叫びました。

「どうした?」

 サーザントが鏡をのぞき込みます。そこには、槍を手に行進している兵士達の姿が見えます。

「トルネーダの水軍だわ」

 シーラが青ざめた顔で言いました。

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