それは、呪いの剣から始まった 2
サンマリーナに夜がやって来ました。
家々に明かりが点り、海からは静かな波の音が聞こえてきます。
さて、ここサンマリーナの町外れに一件の武器屋がありました。赤い屋根、石造りの小さな武器屋で、軒下には
『武器 安く売ります 高く買います
港の武器屋 サンマリネ』
と、書かれた看板がかかっていました。
そこへ、先ほど水平線から現れた黒いマントの男が、重い足取りでやって来ました。男は、武器屋の前に差し掛かるとドアの前の石段に腰掛けて目をつむりました。そして、そのまま眠ってしまったのか…しばらく動こうとしませんでした。
実は、男は疲れ果てていたのです。なぜなら昼間、勇者を探して町中を歩き回ったためでした。しかし、誰一人として、勇者の居所を知るものは居ませんでした。無理もありません。人々は、町長のヤンバ・ルクイーナから『勇者様は今 朝早く出発なさった』としか聞かされていないのです。
『勇者め…一体どこへいったんだ?』
男が心の中でそうつぶやいた時、頭上からバサバサッと言う音がしました。男が上を見ると、体長30センチほどの三つ目のコウモリが、軒下にぶら下がって男を見ていました。男と目が合うと、コウモリはしゃがれた声で言いました。
「勇者は見つかったか?サーザント」
どうやら男の名は、サーザントというようです。
「カーミン、何しに来た?」
サーザントは不機嫌な声で聞きました。
「ロムデルに言われて、お前の様子を探りに来たのさ!」
カーミンと呼ばれたコウモリは、そう言って「キィキィ」と笑いました。
「ロムデル?あのハナ垂れが?」
サーザントが忌々し気に言うと
「ハナ垂れでもサーザントよりは優秀さ!」
カーミンはそう言って、また「キィキィ」と笑いました。サーザントはムッとしました。
「どっちが優秀かは、俺が決める。勇者を倒せば文句ないだろう?」
「それで、勇者は見つかったのか?」
カーミンは小馬鹿にしたように言いました。サーザントは首を振りました。
「見つからぬ。町のやつの記憶まで読んだが誰も知らぬようだ」
「キィッキィッキィ」
カーミンは羽根で口を押さえて笑いました。
「見つからないなら、町を焼け!勇者をいぶり出せ!ロムデルならそうする」
「ロムデルの名を出すな!」
サーザントは叫びました。
「俺には俺のやり方がある。」
それを聞いたカーミンはプーッとほほを膨らませ、さも軽蔑したかのように言いました。
「だから、お前はダメだって言うんだ。この出来損ない!」
「出来損ないと言うな!」
サーザントが怒ると、
「出来損ないは、出来損ないだ!」
と言って、カーミンはサーザントの周りを飛びながら「出来損ない出来損ない」
と、叫び続けました。頭に来たサーザントが立ち上がって石を投げると、カーミンはそれをひょいとよけて、
「まあ、せいぜい頑張れよ出来損ない!」
と、言い捨て羽根をはばたかせて夜の空に吸い込まれていきました。
「ちくしょう!」
サーザントはドサリと石段に腰を降ろしました。
その時です。サーザントの視界のすみで、何かがキラリと光りました。
「?」
サーザントは光の方を見ました。
…その光はどうやら武器屋の中からもれて来ているようです。サーザントは、武器屋の窓から中をのぞいてみました。しかし、カーテンが邪魔で何も見えません。それで、サーザントは店の中に入ってみることにしました。