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深海の魔女 02

 やがてシーラは、安らかな息を立てて眠り始めました。

 サーザントは、その横にあぐらをかいて座っています。

「君も眠りなよ」

 ミリオンがサーザントの横にしゃがんで言いました。しかし、

「私が眠れば、海水の壁が塞がる」

 と、サーザントは答えて眠ろうとしません。そう、魔法は術者の集中力がきれた瞬間にその効力がきれてしまうのです。

「確かにそうだ」

 ミリオンは頷きました。

「じゃあ、こうしよう。者の剣を鞘から抜いて、その切っ先に向かって三回呪文を唱えて、息を吹き掛けるんだ。その切っ先を地面に突き立ててごらん。君の変わりに呪文の効力を保ってくれる。ただし効力はきっかり12時間」

 サーザントは、やがてミリオンに言われた通り、勇者の剣を鞘から抜き、呪文を三度唱え、息を吹きかけ地面に突き立てました。すると、剣の突き刺さった辺りから、うす桃色の光が波紋のように広がり上に向かって上っていきます。

「これでいいよ」

 ミリオンはうなずきました。

「さあ、眠りなよ。何かあったら知らせてあげるから」

「ああ、頼む」

 サーザントは頷くと、その場に横たわり深い眠りに落ちていきました。


 サーザント達が目覚めると、辺りはすっかりと明るく、海水の壁をはるか見上げた上空には真っ青な空に太陽がこうこうと輝いておりました。

 シーラは大きく伸びをすると海水の壁の水を手にすくってぱしゃぱしゃと顔を洗いました。夕べ食べたリンゴのおかげかお腹は空いていません。一同は簡単に身ずくろいを済ませると、早速魔界へ向けて出発したのです。…が

「あれ? 方向が違うよ?」

 ミリオンが、先頭を行くサーザントを呼び止めました。

「魔界は北の筈だろ?こっちは西だよ」

「いいのだ、これで」

 サーザントが答えました。

「私は、アドリアナの館を目指しているのだから」

「アドリアナの館だって?」

 ミリオンが叫びました。

「なぜ、そんな所に?」

「アドリアナって、何?」

 シーラが尋ねました。

「深海の魔女だよ。」

 ミリオンが答えました。

「アドリアナは、その人の一番大事なものとひきかえに、どんな願いでも叶えてくれるんだ。人魚姫のお話を知っているだろ? あれに出て来る魔女だよ」

「まあ!」

 シーラは驚いて叫びました。

「人魚姫って本当に居たの?」

「ああ、居たとも」

 ミリオンは頷きました。

「そして、アドリアナはあの物語の通り、ずる賢こくて冷酷な魔女なんだよ」

「しかし、魔力は本物だ」

 サーザントがきっぱりと言いました。

「しかも、目先の欲に流されやすい」

「確かにそのとおりさ」

 ミリオンはフワフワと逆さに浮かび、サーザントの顔を覗き込んで言いました。

「でも、君は、この非常時にあの魔女の元にいって何をしようっていうんだ? まさかお願いごとを叶えてもらおうとか考えているのかい?」

「ああ。そのとおりだ」

「一体何を願うのさ? 今さら魔界の王位をつごうって魂胆かい?」

「王位の事などではない。そんな事はあの魔女に頼まなくとも、自分の力でなんとかする」

「じゃあ、何を願うのさ?」

「その赤毛の小娘を、人間の世界に帰してもらうのだ」

「え?」

 シーラは驚いて、サーザントの顔を見ました。

「どういう意味よ」

「お前を魔界へは連れて行けぬ。それだけの理由だ」

「そんなの、あんたの都合じゃない。私は戻らないわ」

「馬鹿が。トルネーダは必ず追いついて来るぞ。その時に、私だけの力お前の事まで守る事はできん」

「あんたなんかに守ってもらわなくたって、自分の身ぐらい自分で守れるわよ」

「いいや、ここは彼に従った方がいいよ」

 ミリオンが言いました。

「悪いけど、どんなに強くても人間の勝てる相手じゃない」

「でも」

「分かってくれよ。僕は嫌なんだよ。君みたいな素敵な子が殺されるのを見るのは」

「いいんです。私、死ぬ事なんて怖くないんです。勇者様のためなら、いいえ、世界平和の為なら死んだっていいと、ずっと前から決めてたんです」

「軽々しく、死んでもいいなどと口にするな!」

 サーザントが言いました。

「お前が死んだところで平和など来ぬわ!」

「なんですって?」

 シーラはサーザントにくってかかりました。

「なによ、偉そうに! あんたに何が分かるっていうの?」

「貴様こそ、ガキのくせに死について語るな」

「まあまあ。二人とも」

 ミリオンが割って入ります。

「大人げないぞ、サーザント君。でも、彼のいう事ももっともだよ。ねえ、シーラ。ここで君が死んだって世界は平和にならないよ。それよりも、生きて、自分の力をレベルアップさせて、平和のために役立てる事こそ世界のためなんじゃないかな?」

「でも、ヴェロニカ様は……」

「ヴェロニカは君の死を望んでいるのかい?」

「そ……それは」

「だろ? それに、彼女はロムデルとかいう小僧と何かの約束を交わしてして魔界へ向かったって聞いてるよ?」

「ロムデル……」

 その名を聞いたとたん、あの赤銅色の肌と緑色の髪をした恐ろしい少年の姿を思い浮かべて、シーラは思わず身を震わせました。

「あの残酷な第二王子が町を滅ぼす事を思いとどまった程の約束だ。よほどおいしい話にちがいない。それが何か知らないけど、手に入るまではロムデルは彼女を殺したりしないさ」

「でも、もしすぐに手に入るものだったら……」

「いや、大丈夫だろう。ヴェロニカが、そうやすやすと殺されるようなバカな事をするとは思えない」

「……」

「ねえ。分かってくれるだろう? ヴェロニカならしばらくは大丈夫さ。だから、今度だけは僕のいう事を聞いてくれないか?」

「分かりました」

 シーラはしぶしぶうなずきました。

「よし、聞き分けが良くて助かるよ。ついでに君も送り返してもらったらどうだい? サーザント君」

「私は人間の世界などに戻らぬ。一刻も早く魔界に戻って父王の誤解を解くのだ」

「あーあ。虚しい希望を持っちゃって」

「やかましい。話が決まったのならとっととアドリアナの館に向かうぞ。トルネーダの包囲網をくぐり小娘を地上に送り返す程の魔力を持つものは、この深海ではあの魔女だけだ」

「ハイハイ。じゃあ、先を急ぐとしますか」

 こうして、3人は魔女の館を目指して歩き始めました。

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