青の貴公子 02
「さあ、どうされる? 王子」
トルネーダはそう言うと、冷酷な笑みを浮かべてサーザントににじり寄りました。
サーザントはこぶしを握りしめました。
…どうする?
サーザントは思いました。
…相手はトルネーダの100万の水軍だぞ。勝てる見込みなどあるものか。しかし、ここで逃げれば、「魔界の王子」の名を、またもや汚す事になるぞ。逃げて生き恥をさらすのか…?
サーザントは、カッと目を見開きました。
…いいや! …それくらいなら、ここで戦い、潔く死のう。
サーザントは、そう覚悟をきめると剣のつかに手をかけました。
トルネーダが、にやりと笑います。
「戦われるか。それもいいが、あなたに勝ち目はないだろう」
サーザントは無言で「勇者の剣」を抜こうとしました。…と、その時です。
「やめた方がいい。今の君に叶う相手じゃないよ」
ミリオンの声がします。
……やかましい
サーザントは心の中で答えました。そして、
「無理でもやらなくてはならぬ時があるのだ」
と、声に出してつぶやきました。
それを聞きトルネーダがニヤリと笑います。
「ふん、評判通りの出来損ない王子だな。己の力量もわきまえられぬとは……」
「なんだと、偉そうに」
ミリオンが怒りました。
「お前なんか、僕の敵じゃないんだよ! このイ●キンタムシの水虫野郎!」
その言葉の下品さに、シーラが耳を塞いで悲鳴を上げました。
「いや~! 勇者様!!」
せっかく盛り上がった緊迫感が台なしです。サーザントはつかにかけていた手を、ガクッと離しました。
「勇者様だと?」
トルネーダが、首をかしげました。
……しまった!
シーラは慌てて口を塞ぎました。今ので、ミリオンの存在がバレてしまったのではと思ったからです。しかし……
「魔界の王子が勇者に成り下がったという噂があったが、あれは本当だったのか?」
どうやら、トルネーダは、シーラの「勇者様」と、言う言葉をサーザントに向けられたものだと勘違いしたようです。
「違う!」
サーザントが叫びました。しかし、それには耳を貸さず、
「魔王の息子でありながら、神の犬に成り下がるとは……。勇者など、神の手先、犬だぞ」
と言ました。
「なんだと!」
ミリオンが怒ります。
「本当に、頭に来る奴だな」
……少し黙れ!
サーザントは心の中で毒づいて勇者の剣を構えました。
応えるようにトルネーダも黙って槍を構えます。その穂先に青白い光がちらちらと光を放っています。
見合う事数秒、そして、いましもサーザントが斬り掛かろうとしたその時、
「いけない!」
ミリオンが叫んでサーザントにぶつかるようにして、その中に入って行きました。
シーラがそれを見て驚きます。
……勇者様が、アイツの中に入った?
突然、サーザントの全身にぱりぱりと電流のような衝撃が走ります。そして、次にシーボーズと戦った時のように体の自由がきかなくなりました。右手がひとりでに持ち上がり、左手はシーラの腕を握ります。
そして、脱出呪文を唱えるとトルネーダ達の前から霧のように掻き消えてしまったのです。
と、同時に水の壁が崩れ始めました。サーザントが逃げた為、その場の呪文の抗力が消えたのです。轟々と唸る波を受け尚そこに立ち止まりながら、トルネードはつぶやきました
「ふん、逃げたか。ある意味賢明だが……しかし、あんな者が魔王の座についたら、間違いなくゾ-マ帝国は滅びるな。まあ、それはそれで都合が良いが……」
同時に、彼はこうも思いました。
……それにしても、あいつの周りに漂っていた、あの不可思議なオーラは一体なんなのだ?
「いずれにせよ、逃がしはせん」
トルネーダは片手を上げると、全軍に向かって叫びました。
「これより、裏切り者サーザントを追跡する」
やがて、海の道は完全に塞がり、トルネーダは彼の水軍と共に深海の闇の中へ消えて行きました。




