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海底の道 02

「なんだ?」

 サーザントは、声のした方を見ました。



 するとそこには、なんと、あの、赤毛のシーラがいるではありませんか。シーラ

 は、今まさに塞がろうとしている水の壁の中で、もがいていたのです。

「危ない!」

 反射的に、サーザントは走り出していました。

 そして、水の中からシーラを救い出すと、

「馬鹿者! なぜ、このようなところにいる!?」

 と、叱りつけました。

「おい、そんな事より魔法に集中しろよ!」

 ミリオンが叫びます。ミリオンにそう言われて、サーザントはやっと、自分達を囲む水の壁が迫って来ている事に気がついたのです。彼は、慌てて唱えました。

「…アングァラン・リ・ウェル・フォウル・グァイン…」

 すると、轟々と音を立てて、再び海の中の道が広がって行きました。完全に術が聞いたのを見届けてから、サーザントはもう一度シーラを見て言いました。

「なぜ、このような所に居るのだ? 死んでもいいのか?」

 シーラは何も答えずに、サーザントの事を見つめています。その、エメラルドグリーンの瞳に、褐色のサーザントの顔が映っています。

 シーラは、心の中でつぶやいていました。

「今、こいつ、私を、助けてくれた…」

シーラは、まじまじとサーザントの顔を見つめました。

 褐色の肌、切れ長の瞳、額には紫の石がはめ込まれキラキラと光っています。面長で尖ったアゴを持つほっそりとした顔の輪郭を長い黒髪が覆い、その髪は首の後ろでやんわりと一つに束ねられています。形づくるものの概ねが、漆黒の闇の色であるこの魔界のプリンスの瞳は、さらに深い夜の闇のようでした。冬の星をいただくようなその瞳を見つめているうちに、シーラは何故だかとても悲しくなってきました。その時ちょうどサーザントの後ろから、ひょいとミリオンが顔を出し明日。とたんに、シーラは、顔を真っ赤にして叫びました。

「勇者様!」

 その声が余りにも大きかったので、サーザントは眉をしかめました。一方ミリオンは、シーラの言葉に驚いたようです。

「君、ボクが見えるの?」

「え?」

 シーラは、訝し気にミリオンの顔を見ました。「君、ボクが見えるの?」とは、

 どういう意味でしょう? ミリオンは、首を振りました。

「いや、いいよ。それより、ねぇサーザント。この可愛いお嬢さんは、君の知り合いなのかい?」

「ああ、知り合いというほどの知り合いでもないが…。あの港町の乱暴娘で、確か名前は、シーラ…カンスとかいったかな?」

 サーザントは、ぶっきらぼうにそういうと首を傾げました。

「誰が、シーラカンスよ!」

 シーラが怒りました。無理もありません、レディに向かってシーラカンスとは、余りにも失礼な言葉です。

「まあまあ、怒らないで!」

 ミリオンは、そう言ってふわりとシーラの前に着地しました。それから片手を胸の前に置き、反対の手をマントに添え

「はじめまして、可愛いシーラ。ボクはミリオネス・ホワイトウィンド。ミリオンて呼んで下さい」

 と、軽く頭を下げました。

 すると、シーラは真っ赤になってサーザントの背中に隠れてしまいました。どいやら「可愛い」という言葉がきいたようです。それから、サーザントの後ろでもじもじしながら、小さな…本当に小さな声で

「私は、シルリア・グレイス・オーシャンです。趣味は、編み物とお裁縫です」

 と、言いました。

「嘘をつけ!」

 サーザントが叫びました。

「お前の趣味は、棒を振り回したり殴ったり蹴ったりする事だろ!」

「お黙り!」

 シーラは、サーザントを思いきり殴りました。

「いたたたた…」

 サーザントは、その場にうずくまりました。

 ミリオンは、そのサーザントの頭に腰掛け、さわやかに言いました。

「へえ、編み物か、女らしいんだね!」

「どこが…」

 サーザントは、泥を噛みながらつぶやきました。しかし、ミリオンには聞こえていないようです。

「ボクにも何か編んでくれるかい?」

 シーラを見つめて言いました。

「よろこんで!」

 シーラは舞い上がって答えました。

「いつか、ビロードのマントを…」

「ビロードのマントが編めるか!」

 サーザントが毒づきました。

 しかしミリオンはにっこりと微笑んでいいました。

「ありがとう。うれしいよ。お礼に、ボクの得意な竪琴を聴かせてあげよう」

「まあ! 竪琴ですって?」

 シーラは、叫びました。

「なんて、上品でロマンチックなの?」

 そしてうっとりとした目でミリオンを見つめます。

「おい! 町に帰るぞ!」

 サーザントが、立ち上がって叫びました。シーラとミリオンの会話に我慢が出来なくなったようです。

「え? 町に?」

 ミリオンが、フワフワと宙を舞いながら聞きました。さっきまで魔界に帰ると言っていた癖に。と、でも言いたげです。

「あたりまえだ! こんなお荷物魔界へ持っていけるか?」

 サーザントがシーラを指差して言いました。

「お荷物ってなによ!」

 シーラが、サーザントに向かって言い返しました。しかし、サーザントはそれには答えず、

「さあ、帰るぞ。ただし、こいつを置いたら私は魔界に帰る。ミリオネス、貴様の言う修行は受けぬ」

 そう言って、サーザントがもと来た道を帰ろうとした時です。

「いけない! サーザント!」

 突然、ミリオンが叫びました。

「!!」

 サーザントがその声で立ち止まろうとした瞬間…、水の壁がぐにゃりと崩れ、その中から光るものがサーザントめがけてまっすぐに飛び出して来たのです…。


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