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海底の道 01

 サーザントは、笑いながら割けた海の中の道を走っていきました。

 割けた海は、サーザントが走り過ぎて暫くすると、轟々と音を立てて閉じて行きます。海の中の道は、サーザントを中心に、前後100メートル程の距離で、現れては消えて行くのでした。

 サーザントは、上機嫌で走り続けます。これで、あの小うるさい勇者を追い払う事ができたと信じて。

 …勇者め! さぞ度胆を抜かれたろう!…

 サーザントは、浜辺に取り残されぼんやりしているミリオンの姿を思い浮かべ、ほくそ笑みました。

 …勇者め!間抜けづらをさらしやがって! ざまあみろ!…と、心の中でつぶやきます。

 しかし…

「って、いうかさあ」

 突然、すぐ後ろで間の抜けた声が聞こえ、サーザントは立ち止まりました。

「その首今度こそ、我が手中に収めるなり! とか、言われても、ボクもう死んでるしさあ」

 振り返るまでもなく、分かります。その声は、勇者ミリオンのものです。サーザントは、がっかりしてその場にへたり込みました。

 サーザントは、しばらく無言でその場に座り込んでいました。立ち上がろうにも、精神的に脱力仕切ってしまったため、立ち上がれません。

 そんなサーザントの頭の上を逆立ちして飛び回りながら、勇者ミリオンは息継ぎもせずに話し続けます。

「ねえ、聞いてる?ボクは、もう死んでるから首なんてないんだ。だからさ、その首を手中に収めるな んて、マジシャンだって無理だと思うんだ。どうしても欲しいっていうなら、人形屋に発注して、似たようなのを創るしかないと思う。でもさ、そんなんじゃ、君のパパは騙されないと思うけどさ。あ、それよりも…」

 ほっておけば勇者ミリオンは、際限なく喋り続けます。始めは、耳を塞ぐ事で我慢していたサーザントも、ついにキレてしまいました。

「ああ、もう! うるさい! 黙れ!!」

 サーザントは、思いきり気持ちにはずみをつけて立ち上がりました。そして、顔を上げ、ミリオンを睨み付け、人さし指を彼の顔に突き付け、

「なんで、ついて来るんだ? 新手のストーカーか?」

 と、叫びました。

「あははははははは!」

 ミリオンが、さわやかに笑います。それから、くるりと体を起き上がらすと、

 サーザントの胸で光っている約束の石を指差しました。

「あのね、ボクと、君は、その約束の石の力で強く強く結ばれちゃってるんだよ! 例えて言うなら、飼い主と、鎖に繋がれたペットみたいに…」

「なんだと!?」

 サーザントは、青くなりました。

 …この場合、どっちがペットなのか…。いや、そんな事より、つまり、この石をつけている限り勇者と縁を切れないという事なのか?!

 サーザントは、約束の石を外そうとしました。が、外れません。サーザントは、がっくりと頭を垂れて思いました。

「こんなペット、いらぬわ!」

 どうやらサーザントは、勇者をペットだと決めたようです。すると、ミリオンがニコニコしながら言いました。

「まあ、そんなわけでボクは君から離れないからね! だいたい君、一人にするとヤバいじゃん」

 サーザントは頭を垂れたまま考え続けました。

「どうしたらいいのだ? こんなものを連れたまま魔界には帰れぬぞ。ええ、クソ忌々しい勇者め。仕方ない。引き返すか? いや、魔界へ行ってこのふざけた石を外す方法を考えた方が良いかもしれぬ。おそらく、この石を外せぬようにしているのは、呪いであろう。それであれば、深海の魔女で外せるはずだしかし勇者の呪いに掛かったなどと知れたら、私はまた、笑い者になるかも知れぬ。やはり、引き返すか?…ああ、どうしたらいいのだ?」

 一人で、悶々としているうちに、サーザントは自分が今使っている魔法への集中力を欠き始めていました。つまり、それは、海を割く魔法で、「魔法を使うものは、常に術に集中するべし」全ての魔導師にとっての基本の基本を、彼はこの時忘れていたのです。それにより、海の中に出来た道は、徐々に塞がって行ったのです。そして、やがて、

「きゃあ!」

 と、いう少女の悲鳴で、サーザントは我に返りました。


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