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魔界へGO! 03

 そのころ、聖マリーナ教会の大聖堂に置かれた粗末なベットの中で、シーラがまんじりともせずに夜を過ごしていました。既に夜は深く、聖堂内には人々の安らかな寝息が聞こえています。それは、あの夜の惨劇で家を失った女子供達のものです。彼女らは、町が復興するまでの間、ここで暮らす事になっていたのでした。シーラの武器屋はかろうじて無事だったのですが、ここに集まった人々を守るために、彼女も教会で寝泊まりしていたのです。

 シーラは、自分の両腕を枕にして高い天井を見上げていました。

 …納得いかないわ

 シーラは思います。

 『やはり、魔界の王子を勇者にしようなんて言う事に無理があったんだよ』

 …と、町長は言ったけれど。

 『じゃあ、なぜ、ヴェロニカ様は自分が人質になってまで、あいつを守ろうとしたのですか?』

 シーラは、心の中で町長のヤンバに問いかけました天井に描かれた天使が、微笑んでいます。その顔は、どこか勇者ミリオンに似ているようです。

 …ミリオネス様…

 シーラは、その名を呟きました。その途端に、ぽっと、胸の奥が熱くなるようです。他の人と同様に、シーラにとって勇者ミリオンの存在は絶対的なものでした。まして、シーラは彼に恋をしています。

 …そうよ、なによりあいつを次の勇者にと決めたのは、他でもないミリオネス様じゃない。ミリオネス様が、間違うはずないわ!

 ミリオンの事を考えると、シーラは居ても立ってもいられなくなり、ベットの中で起き上がりました。そして、自分の持ち物を手に取ると、他の人達を起さないようそっと部屋から出ていきました。

  外では2月の木枯らしが、ひゅうひゅうと吹いています。赤い髪をなびかせて、シーラは坂の上から海を見下ろしました。坂の下では、港の灯りがちらちらと瞬いています。シーラは、思いました。

 …あの魔界の王子は、きっとまだこの町にいるわ。だって、海があんなに静かですもの。

 それから、シーラは、うん、と頷くと、坂の下に広がる海に向かい、強い足取りで歩き始めました。



 浜辺では、サーザントがあぐらをかき腕組みをして唸っていました。ホワイトクロスを撃った事が原因で10月10日も眠ってしまったと言う事が、余程ショックだったようです。

 その回りでミリオンが、フワフワと飛び回りながら、不思議な歌を唄っています。

 突然、サーザントが立ち上がりました。

「どうしたの?」

 ミリオンは、歌をやめてサーザントの顔を覗き込みました。

「立ち直ったのだ」

「は?」

 ミリオンは首を傾げました。すると、サーザントはとても立ち直ったとは思えない表情で言いました。

「考えてみれば、私は勇者になる気などないのだ。ホワイトクロスが使えないからと言って、何を落ち込む必要がある!?」

「ま~た、負け惜しみ言っちゃって」

「負け惜しみではない!」

 サーザントは、きっぱりと言い放ちました。しかし動揺から来る震えを押さえきれないようです。すると、ミリオンが、空中でひっくり返り、楽しそうに言いました。

「じゃあ、いい事教えちゃうけどさ、僕は光魔法の使い手の勇者だけどさ、闇魔法でも難易度がかなり高いって言われている『絶望の吐息』が使えたりするんだよ!」

「絶望の吐息だと!」

 サーザントが叫びました。

「嘘をつくな! あれは、魔界でも父王と、…限られた魔族にしか使えぬ術だぞ!」

「でも、使えるんだから仕方ないじゃん」

 ミリオンがしれっと答えます。サーザントは、ムキになりました。

「だったら、今、ここで、使ってみろ」

 サーザントは、自分の立っている地面を指差しました。

「そうしたいのはやまやまだけど、」

 ミリオンは、頭の後ろに手を組み非常に残念そうな顔をしました。

「今は、無理なんだ。ほら、僕魂だけの存在になっちゃってるだろ?君の体を使ってならできるんだけど…」

「いいだろう。私の体を使うが良い!」

 サーザントは、自分の胸をポンと叩きました。すると、ミリオンがサーザントの鼻先に自分の右手をばっと開いて言いました。

「5年!」

「はあ?」

 サーザントはミリオンの手のひらを見て首を傾げました。一体、何が5年なのでしょう?

「ホワイトクロスで10月10日なら、絶望の吐息では5年だね! 5年間寝こんでもかまわないかい?」

 ミリオンが真剣な顔でそう言うと、サーザントは再び黙り込んでしまいました。



 ちょうど、その時でした。シーラが港へたどり着いたのは…



 シーラは、港の埠頭に立って、東の海岸を見つめました。そこには、影のように立ち尽くすサーザントと、対照的に月の色の光をこぼすミリオンの姿がありました。けれど、遠目にそれを見ていたシーラには、一体何が光っているのか分かりません。

 シーラはゆっくりと、足音を消して二人に近付いていきました。

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