表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/47

それは、呪いの剣から始まった 1

 勇者ミリオネスがフグに当たって死亡してから、1ヵ月が過ぎました。港の町サンマリーネでは、何ごともなかったように、穏やかな時間が流れています 

 人々は、勇者の死を知らされていませんでした。それは、町長のヤンバ・ルクイーナが事実を隠ぺいしたからです。もし、この町のふぐに当たって勇者が死んだなどと知られたら、サンマリーネ町長であるヤンバ・ルクイーナは、世界中の人々からどれだけ責められるか分かりません。


 それに…


さて、そんなある日の事、赤毛のシルリア…通称シーラは、浜辺で海を見ていました。遠い水平線をみながら、柄にもなくぼんやりと物思いに耽っています。

「勇者様…」

 シーラはつぶやきました。

 あの日…勇者の姿を見た日から、シーラの胸は波のようにざわめき続けていました。こんなことは14年の人生で始めてです。

「もう一度会いたい…」

 ヤンバ・ルクイーナは、勇者様は急用で夜のうちに町を出ていかれたのだと、町の人々に伝えていました。だから、シーラは、勇者が今もどこかで生きて戦っているのだと信じていました。

「力になりたい…」

 そうつぶやいて、シーラは遠い空を見つめました…

 

「あら?」

 シーラは、見上げた空がやけにどんよりとと曇っていることに気付きました。

 

 …さっきまでいい天気だったのに

 シーラはその視線を海へと移しました。穏やかだった海は、いつの間にか暗く、激しく波うちはじめています。そして、その暗い海の水平線から何者かがもの凄い勢いでやってくるのが見えます。

「モンスター?」

 シーラは立ち上がり、落ちていた棒を拾って構えました。


 ザザザザザザザザ…


 やがて、物凄い水しぶきを上げながら大きなエイに乗った男が現れました。男は波打ち際に辿り着くと、黒いマントを翻してエイから飛び降りました。そして浜辺に立ち、自分を乗せて来たエイにむかい

「ご苦労だった。キング」

と言いました。

「どういたまして。無理するなよ坊ちゃん」

 エイはそう言うと「キキキキ」と笑いながら荒れた海の中に戻って行きました。

「ふん! クソ生意気な魚め」

 男はそう言って消えていったエイの姿を見送ると、その視線をゆっくりとシーラの方に向けました。シーラは、その瞳のあまりの暗さに背筋が寒くなりました。


男はシーラを見ると言いました。

「勇者はどこにいる?」

  その声は、その瞳と同じく暗く、そして嵐を待つ海のように静かで…

「あんた、誰よ? なんでデビルフィッシュなんかに乗って現れたのよ?」

  シーラは叫びました。男の乗って来た大きなエイは、魔王から魔力を授かった

デビルフィッシュと呼ばれるモンスターなのです。

 シーラは思いました『この男を勇者様に会わせてはいけない』 

シーラは棒を握った手に力を込めると、それをゆっくりと構えました。

「あわてるな小娘」

  男が低い声で言いました。

「怪我をしたくなければ、そんなものは引っ込めろ」

「私は、あんたなんかにやられる程弱くないわ」

  シーラは、強気な瞳で男を睨み付けました。14になるこの年まで、男にも負けた事がないと言う自負がシーラの中にはあるのです。実際、彼女は町に押し入って来た盗賊のボスを一撃で倒したこともあります。

「女だからってバカにしてると、怪我をするのはそっちよ」

そう言うと、シーラは砂を蹴り男に向かって突進して行きました。

「やー!」

シーラは、男に向かって棒を振りおろしました。すると、男は片手でそれを受け止め、

「やっぱり、こんなもんだろ」

と冷笑して、シーラから棒を奪い海へ投げ捨てました。カッとなったシーラは今度は手刀で男にかかって行きました。

「よせっていうのに…」

男はふわっとよけると、自らも手を振り上げシーラの背中をポンと叩きました。

すると、シーラの体にものすごい衝撃が走り、目の前が真っ暗になりました。

遠のく意識の中でシーラは思いました。


…負ける?私が?うそよ


砂浜の上にドサリとシーラの体が倒れました。


「乱暴な娘だな。無駄に魔力を使ってしまった…」

男はそう言うと、シーラの体を抱き上げ、砂浜に繋いである舟の中にそっと横たえました。

それから、男は町の方を睨みました。


…待っていろ勇者。この私が必ずお前の首をとってやる!


男はそう心の中でつぶやくと、ザクザクと砂を踏んで町の方へと歩いて行きました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ