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夜の襲撃  04

ポカーンとした顔のロムデルを前に、ヴェロニカは不思議な言葉を話し続けまし

 た。それは、闇の荒野に吹きすさぶ風のように、冷たく、寂しく、どこか物

 悲しくなるような韻律でした。


「それは、きっと、古代ゾーマの言葉だな」

 サーザントが、シーラの話を遮って言いました。

「古代ゾーマ?」

 シーラが不思議そうな顔をサーザントに向けました。サーザントは、得意げに答えました。

「ああ、まだ世が渾沌としていた頃に生まれたゾーマ王国の言葉だ。今は全闇世界を統治する偉大なる大魔界帝国ゾーマも、昔は辺境の一王国にすぎなかった。しかし、それは、多くの優れた闇魔導師を輩出した国でもあった。古代ゾーマの言葉は、彼等闇魔導師達によって使われていた言葉なのだが、今でも上級の魔族の間では使われる事がある。」

 しかし、その説明にシーラは納得いかないようです。

「闇魔導師達に使われていた言葉ですって? でも、ヴェロニカ様は聖魔導師よ。なぜそんな言葉を知っているの?」

「魔導師と呼ばれるものにとって、古代ゾーマの言葉は必修科目だと、魔導師を目指す私の甥ッ子が言っておりましたよ」

 ヤンバが言いました。

「なるほどね。それを聞いて納得いったわ。あれが、そういう言葉だったなんて…あいつ、あの化け物…はじめはヴェロニカ様の言葉を聞いてぽかんとしていたけど、だんだん顔つきが変わって来て…」


 …そうロムデルは、ヴェロニカの言葉を聞くうちに、だんだん表情を変えていったのでした。それは、はじめは驚きであり、次に疑いの色に変わり、最後には、ニヤニヤしながら自分も同じような言葉で話しはじめたのです。それから、ロムデルとヴェロニカは、延々と不思議な言葉の応酬を続けました。シーラ達は、ただただ二人のやりとりを、見ているばかりでした。どうなることかとみていると、やがて、ロムデルの方が納得したように頷きました。そして、こう言ったのです。

「いいだろう。お前の言う事を信用して、この町から手をひいてやろう」

「え?」

 ロムデルの意外な言葉に、町の人たちがどよめきました。

 一体、ヴェロニカとこの化け物の間に、どんなやりとりがあったと言うのでしょう?

「ただし、100%ってわけにはいかない。」

 そう言って、ロムデルは町の人たちを見回しました。そして、一人一人の顔を物色するように見ていましたが、やがて、シーラと目が合うと、どくろの杖をシーラに向けて、

「おい、お前、人質になって魔界に来い」

 と、言いました。

「いけません!」

 すぐにヴェロニカが叫びました。

「人質には、私がなります。」

「お前が?」

 ロムデルは、不思議そうに叫ぶと宙に浮かびヴェロニカの鼻先まで飛んでいきました。そして、ヴェロニカの顔をじろじろとながめると、その見事な金髪に自分の赤銅色の手を無遠慮に突っ込み

「まあ、いいか。じゃあお前、来い」

 と言って、海を裂く呪文を唱えました。そのとたん、港の方に大波が立ち上がり、それが中心でまっ二つに割れました。

 ロムデルは、宙に浮かんだままヴェロニカに手を差し出して言いました。

「さあ、来い」

 ヴェロニカは、頷きました。そして、自分の手をのばしその手を取ろうとしました。すると…、

「いけない、ヴェロニカ様! 私が行きます」

 と、シーラがヴェロニカに飛びついて来ました。

 ヴェロニカは、シーラの方を向きました。そして、シーラの肩に手を乗せると、とても小さな声でこう言いました。

「シーラ、あなたには町の人々と、新しい勇者様を守ってほしいの」

「新しい勇者様?あの魔族の王子の事?」

 シーラも小さな声で答えました。

「そうよ、10月10日後に、サーザント様が目を覚まされるまで、敵に見つからないようにきっと守ってさしあげて。そして、できるなら目覚めたあの方を助けて、この世界に平和を取り戻して…!」

「私が、新しい勇者様を助けて…?」

 シーラは、驚いて、ヴェロニカを見ました。

「ええ、これはあなたにしか出来ない仕事よ…」

 ヴェロニカは小さな声でそう言うと、シーラの額に軽くキスをしました。

「おい、何してるんだよ」

 空の上で、ロムデルが叫びました。

「さっさと、来いよ」

 その声に、ヴェロニカは立ち上がって頷きました。そして、町の人たちに軽く一礼すると、魔物の手を取り、闇の虚空へ、そして大波の中へ消えていきました…

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