夜の襲撃 01
「魔界にだと!?」
サーザントは牙の生えた口を大きく広げて言いました。
「何の抵抗もせずにか!?あの聖魔導士が…」
ヴェロニカは、この町の結界を守る程の力をもった聖魔導士です。2流、3流のモンスターがかなう相手では有りません。もし彼女を捕らえる事ができるとするなら、それは魔界七武将か、あるいはそれ以上の力を持った、上級のモンスターか…
サーザントは首を傾げました。一体誰が…?
「もちろん、ヴェロニカ様は、偉大なる光魔法で我々を守ろうとしてくださいました。そこにいるシーラや、町の勇士達と共に…」
ヤンバが、サーザントの疑問に答えるように語りはじめました。
「あの夜は、風一つない夜でした。5月だと言うのに蒸し暑く、何となく眠れないままベットで横たわっておりますと、突然、地響きと共に町の方がいきなり明るくなったのです。」
ヤンバは、何ごとかと屋敷の外に飛び出しました。屋敷のある丘の上から、町の方を見下ろすと、なんと、家々が燃えているでは有りませんか! 驚いたヤンバは、転がるように町に向かって走っていきました。
町の中では、森や海のモンスター達が暴れ回っていました。火とかげが、炎を吐いて町を燃やしています。一つ目の大猿が棍棒を振り回し、人々を追い散らしています。空では吸血コウモリが羽根を鳴らし、闇の中では毒を持った大蛇がしゅーしゅーと牙を向き、海から来た「顔は魚、体は人間」の半魚人の兵隊が鮫の牙の槍を唸らせ、巨大な蟹が鋏を振り回しています。
「火とかげに半魚人の兵隊だと?」
そこまで聞いて、サーザントが叫びました。
「そんな奴らにやられたのか?あいつら、魔界の中でも一番下等なモンスターだぞ!」
すると、シーラが怒ったように言いました。
「もちろん、あんな奴ら敵じゃなかったわよ。問題にもならなくてあっという間に全部やっつけてやったわ!」
「その通り!」
ヤンバが手をたたいて言いました。
「全くシーラはよく戦ってくれましたよ。ネグリジェのすそを翻し、剣を持つその姿はかの伝説の美しき女戦士、フローレルのようでした」
「まあ」
シーラは、「美しき女戦士」という言葉に反応して、頬を染めました。しかし、サーザントが冷たく言い放ちました。
「町長、寝言はいい。早く続きを話せ」
シーラが燃えるような目でサーザントを睨み付けます。
「そうですね、はい」
ヤンバは、絹のハンカチで頬の汗を拭うと、その先を続けました。
シーラと、町の勇士達、そして聖魔導士ヴェロニカは、次々とあらわれるモンスター達をどんどん倒していきました。ヤンバは安全な場所でそれを見守りながら、これなら大丈夫であろうとホッと胸を名でおろしたのです。
しかし、戦い続けるヴェロニカの姿を見ているうちに、ある疑惑がヤンバの頭をかすめたのでした。それは、「聖なる力」によって守られた結界を、誰がやぶったか? という事でした。
そう、人々の住む町は、神の力による聖なる結界で守られています。その結界を施すのは、厳しい修行に耐え、国王によって任命された聖魔導士達です。ヴェロニカも、国王に任命され、この町にやってきたのです。彼等はいずれも優れた知性と、崇高な精神。そしてなにより高い魔力を備えています。それが故に、並の魔物では彼等聖魔導士の施す結界をやぶる事は、不可能なのでした。
ヤンバは、思いました。今、この町を攻めているモンスター達に、ヴェロニカ様の結界を破れる筈がない。だとすれば、もっとおそろしい敵が、奴らの後ろに隠れているのでは!?
やがて、シーラ達がモンスターをあらかた片付けた時、激しい波のうねりと共に町長の不安は適中したのでした。




