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目覚めたら悪夢だった 02

 皮の鎧で身を包み剣を携えた少女は、その緑色の瞳に怒りとも悲しみともつかない光をたたえて、サーザントをまっすぐに見つめていました。

「お久しぶり…といったらいいのかしら? 私の事、覚えている?」

 サーザントは頷きました。

「ああ、何回も私に戦いを挑んできた小娘だろ…確か名前は」

「シルリアよ。シーラでいいわ。私もあんたの事サーザントって呼ぶわ。いいでしょ? それより、随分長い事待ったわ。私は、眠っているあんたの事を、10月10日ずっと守っていたのよ。ここで」

「10月10日だと!?」

 サーザントは叫びました。

「私が10月10日も眠っていたというのか!?」

「そうよ」

 シーラが頷きました。

 サーザントには、にわかには信じられませんでした。しかしだとすれば、この頬を打つ風の冷たさにも納得ができます。

「あの夜のシーボーズとの戦いの後、あんたは海の中に落ちたのよ。私達驚いたわ。あんたが溺れ死んじゃったのかと思って…。でもあんた、自分で泳いで砂浜にたどり着いたわ。それは、覚えてる?」

 サーザントは首を振りました。

 確かに、あの戦いの後、体中の力が抜けた事は覚えています。しかし泳いで砂浜にたどり着いた事は、全く思い出せません。

「それじゃあ、砂浜に泳ぎついた後、『ボクは10月10日寝るよ。生まれ変わるために』と言って、そのまま気を失った事は?」

 それを聞いて、サーザントにはピンと来るものが有りました。

「それは私ではない!」

 それは、きっと勇者ミリオンの仕業に違いありません。ミリオンが気を失ったサーザントの体を操り、砂浜まで泳ぎたどり着いたのでしょう。サーザントは、なんとなく腹が立ってきました。

「何を言ってるのよ。あんたじゃなきゃ、他の誰なのよ。」

 シーラが眉をひそめて言いました。

「とにかく、それから今日で10月10日。だから、私は隠し扉を塞いでいた天使の像をずらして、あんたが出て来るのを待っていたのよ。」


 ひゅうっ


 2月の冷たい風が、2人の髪をなぶりました。

 その風の音に混じり、どこからか、誰かの声が聞こえてきます。

「シーラ! シーラ!」

 2人は声の方を見ました。すると、町と教会を繋ぐ道をぼろをまとった男がかけて来るのが見えます。男は叫びながら走っています。

「シーラ! サーザント殿は目を醒まされたのか?」

 やがて、近付いてきた男に向かってシーラは頭を下げて挨拶しました。

「ごきげんよう、町長さん。 サーザントさんなら今目を醒まされたましたわ」

「町長だと!?」

 サーザントが驚いて叫びました。なぜなら、そこにはサーザントの見知っていた小太りで小じゃれた紳士の姿はなく、代わりに痩せこけた頬に目ばかりぎょろぎょろさせた幽鬼のような男が立っていたからです。男は、トレードマークの「鳥をかたどった帽子」を、薄くなった頭の上にのせていました。それで、彼が町長のヤンバ・ルクイーナ本人である事を、サーザントはかろうじて確認したのでした。

 町長は、サーザントを見て歓喜の声をあげました。

「おお、サーザント殿、お久しぶりです」

「…お前は本当にあのヤンバ・ルクイーナなのか?」

 サーザントは、思わずそう問いかけました。すると、町長は目に腕を当てて、泣くような仕種を作りながら答えました。

「はい、情けない姿に成り果てましたが、確かに私は、サンマリーナ町長ヤンバ・ルクイーナでございます。しかし、私がこのようにやつれ果てたのには訳が有るのです。」

「一体何があったのだ? お前だけではない。この町の惨状は…」

 サーザントは、くずれた家々を指差して言いました。

 すると、シーラが低い声で答えました。

「モンスターの仕業よ。モンスターがこの町を襲って、家を焼き町の人たちを次々に殺したの…。あんたがシーボーズと戦った3日後の事よ」

「何だって?」

 サーザントは叫びました。町長がシーラの後を引き受けるようにこう続けました。

「そうして、町の人口の半分は失われました。私どもは残った人々と共に町を復興させようと頑張っているのですが…」

 サーザントは、町長に皆まで語らせずにこう言いました。

「あの女は? 金髪の聖魔導士は、どうした?」

 それを聞いたとたんに、シーラと町長の顔つきが変わりました。

 そして、しばらくの沈黙の後、町長が沈痛な面持ちでこう言ったのです。

「ヴェロニカ様は、魔界に連れていかれました」

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