目覚めたら悪夢だった 01
どこか遠くから人々が泣き叫ぶ声が聞こえます。それから、ドーンドーンという振動、ぱちぱちとはぜる炎の音、キーンキーンという金属音。
「サーザント、サーザント!」
誰かのかん高いが自分を呼びます。その声は、高く低くサーザントの意識を揺さぶります。サーザントは、その声に答えて動こうとしました。しかし、体が動きません。そして、そのまま深い闇に捕らえられて、意識が消えていきました。
リンゴーン…リンゴーン
夕暮れを告げる鐘の音が、冬のサンマリネの町に響き渡ります。
サーザントは、目を覚ましました。
リンゴーン…リンゴーン
鐘の音は、この場所にまで響いて来ます。
誰が運んできてくれたのでしょうか? サーザントは暖かな羽毛のふとんにくるまれていました。一体どれだけ眠っていたのか、不思議な夢をたくさん見たような気がします。
サーザントはベッドの上に起き上がり、辺りを見回しました。まっ先に目に入ったのは、薔薇に埋もれた勇者ミリオネスの肖像画でした。あれは、確か聖魔導士ヴェロニカが描いたものです。どうやら、ここは例の隠し部屋のようです。あの壁の向こうに勇者ミリオネスの遺体が静かに横たわっているはずです。しかし、今のサーザントには、勇者の遺体よりも自分の置かれた状況を確認する方が先決でした。なにしろ、シーボーズと戦って意識を失ってからの記憶が飛んでいるのです。それにやけに頭がボーッとするのです。サーザントはベットから降りると、外の様子を確認すべく、入り口の金の扉に向かっておぼつかない足取りで歩き始めました。
サーザントは、地下の闇の中に続く長い階段をゆっくりと昇っていきました。彼の記憶では、この階段は教会の聖堂の天使の銅像の下にある隠し扉につながっており、その扉の向こうには聖マリーナ教会の礼拝堂があるはずでした。ところが
…
サーザントが最後の一段を昇りきって、重いはずの隠し扉を片手で押すと、扉はあっさりと開きました。その手ごたえに、サーザントは拍子抜けしました。この扉の上には天使の銅像が置いてあり、それを動かさねば開かない仕掛けになっていたはずです。実際サーザントは、扉を壊して開けるつもりだったのです。それが軽々と開いたので、サーザントは驚いたのです。さらにサーザントを驚かせたのは、扉の向こうに広がる風景でした。
かつて礼拝堂だったその場所の、瓦礫の山を築いています。焼けこげた絨毯の上には、汚れたマリアの像がごろんと転がり、割れたガラスの向こうには焼けた木々が見えます。それは、多分教会の庭園だった場所です。サーザントは焦げた絨毯の上を よろよろと歩いていきました。
教会の外には、4月の淡い日ざしをうけたサンマリーナの港町が広がっているはずです。サーザントは、初めて訪れた時のあの美しいサンマリーナを思い浮かべました。
しかし、…サーザントの記憶を裏切り、教会の外に広がっていたのは、冬の木枯らしの中に陰鬱に横たわる、暗い廃虚の町でした。
サーザントは何がなんだか分からぬままで、焼け落ちた家の立ち並ぶ町を呆然と眺めました。そして、教会の外へと歩を進めました。何が起きたのかを確かめるためです。
サーザントが一歩を踏み出した時、彼を呼び止める声がしました。
サーザントが振り返ると、そこには皮の鎧と紅色のマントをまとった、赤毛の少女が立っていました。