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勇者なう  1

 サンマリネの東海岸に、大きな三日月がかかっています。

 その月を左手に眺めながら…ざくざくと…、サーザントは砂浜を歩いていきました。胸に架けた約束の石のかけらが月の光をうけてキラキラと輝いています。

 しかし、その石の主であるサーザントの顔はと言うと、全く冴えないのでした。


 …勇者ミリオネスが、ふぐにあたって死んだ…


 その事実は、勇者を倒す事により、魔王の後継者である自分の地位を確固たる物にしようとしていた、この『出来損ない』(と、呼ばれ続けて来た)王子をおそろしく打ちのめしたようです。…しかも…!


 『あなたこそが、新しい勇者なのです』

 という、ヴェロニカの言葉を思い出すだけでサーザントの眉は怒りのあまりピクピクと震えるのでした。


 …誰が新しい勇者だ! ふざけるな!…


 サーザントは、心の中で叫びました。


 …侮辱しやがって! 私は、魔界に帰るぞ!…


 サーザントはそう決めると海に向かって手を広げました。そして、

「暗き海よ、魔界への道を開きたまえ」

 と、海を割る呪文を唱えようとした時、キーンとガラスを割るような音が、どこからか聞こえて来ました。

「?」

 サーザントがあたりをキョロキョロと見回すと、自分の左脇にさしている剣が、ぽうっと明るくなっている事に気がつきました。よく見てみると、それは勇者の剣で、剣全体が薄いベールをかぶせたように光のもやに包まれているのです。

「勇者の剣?」

 サーザントは、訝し気に首を傾げました。なぜなら、勇者の剣はさっきシーラと戦った時に、一度手から離れたはずなのです。…気がつかないうちに一緒に持って来てしまったのでしょうか?

 不思議に思いながら剣を眺めているうち、サーザントは非常に良い事を思い付きました。いや、それは実際良い思いつきなどではなく、たんなる姑息な計算に過ぎないのでしたが…

「そうだ! この剣を父・魔王に見せよう。そして、こう言うのだ。『私は、勇者を地獄の炎で焼き殺しました。骨も残らぬように焼き尽くしてしまったので、あいにく首は持ち帰れませんでしたでしたが、かわりにこの剣と、この首に架けた約束の石を持ち帰って参りました』…と」

 サーザントは、そうつぶやくと、みるみる邪悪な目つきになりグハグハと笑い声を上げ、雄叫びを上げました。

「そうだ、勇者を倒したのはこの私だ! これで次の魔王の座は、私の物だ! ざまあみろ、ロムデル!」

 サーザントの雄叫びは、暗い海を越え水平線の彼方にまで響くようでした。サーザントは、己のセリフに満足気にうなずくと、海に向かって手を広げもう一度こう唱えたのです。「暗き海よ、魔界への道を開きたまえ…アングァラン・リ・ウェル・フォウル・グァイン…」


 と、その時です。

「君ってずいぶんセコイんだね!」

 背後からかん高い声が聞こえました。

「はっきり言って、小物だね! 小悪党。姑息。時代劇で言うと、ヤクザの子分A…みたいな?なんだか、がっかりだね!」

 かん高い声は、言いたい放題の事を言います。

「誰だ!無礼者!」

 怒りに震えながら、サーザントは振り返りました。


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