7.癒してあげる(2)
猫型のハンバーグ、作れるのか疑問です。
彼に作らせておいてなんですけれどね。
「お帰り、祥子」
ドアを開けると満面の笑顔を浮かべた彼に出迎えられた。
祥子は手早くドアを閉め、鍵をかける。
隣近所の住人に彼の存在を知られないようにするためだ。
「た、ただいま…」
1人暮らしでは口にすることの無い言葉。
何か、まだ慣れない…
複雑そうな顔をしている祥子に首を傾げながらも、彼は手を差し出してきた。
「はい」
な、何?
咄嗟に身構えると
「重かったでしょ?後は俺に任せて」
そう言って彼は祥子が持っていた買い物袋を手にし、キッチンに向かう。
別に重くなんてなかったのに
自由になった左手を眺めていた祥子に、冷蔵庫を開けていた彼が声を掛ける。
「ご飯できてるから食べて」
「あ、ええ…」
靴を脱いで居間に行くとローテーブルには既に夕飯が並べられていた。
祥子はジャケットをハンガーに掛けてクローゼットに仕舞い、キッチンに手を洗いに行った。
適当なグラスを取り出してうがいを済ませ、居間に戻ろうとした祥子は彼に目を向ける。
彼は卵やら牛乳やらをきちんと整理して冷蔵庫に入れていた。
そう言えば、お弁当のことをまだ言っていない
わざわざお礼を言うのも気恥ずかしいけれど……
「…お弁当、美味しかったわ」
ぼそっと祥子が口にしたのを、彼の耳はちゃんと聞いていたようだ。
冷蔵庫の扉をパタンと閉めた彼は振り返って、
「ん、ありがとう」
とても嬉しそうに言った。
夕食を終えた祥子が入浴している間、彼は洗い物を終わらせる。
明日の弁当の下ごしらえが完了した頃に、祥子が風呂から上がってきた。
キッチンにいた彼と鉢合わせした祥子は僅かに肩を強張らせ、濡れた頭に被っているタオルを鼻まで引き下ろす。
「お、お風呂入っていいわよ」
「……あ、うん」
大分間を開けて返ってきた声がどこか気落ちしているような感じを受けて、祥子は目線を上げる。
すると彼は微かに顔をしかめていたのだ。
「どうかしたの?」
祥子が尋ねると、彼はハッと我に帰ったかのように
「いや、何でもないよ。ごめん」
慌しく浴室に行ってしまった。
別に謝らなくてもいいのに
釈然としない気持ちを抱えつつ、居間のソファに腰掛けて髪を乾かす。
ドライヤーの熱風に目を閉じていた祥子は、無意識に考えていた。
前から疑問に思っていたが――
彼はちゃんと風呂に入っているのだろうか?
垢すりは祥子の物しかないしタオルだって今祥子が肩に掛けているものが風呂場用だ。
浴室に行く時はいつも彼だが、出てくる時はいつも英である。
それにシャンプーやリンスを使っている痕跡も見当たらないのだ。
まさか、ね
祥子は浮かび上がった答えを否定する。
風呂もトイレも使用を許可しているし、猫のままで風呂に入るなんてそんなの…
ふと、祥子は思った。
着ている服、いつも同じよね
彼はあの服をいつ洗っているのか
「……」
疑問があり過ぎるわ
髪を乾かし終えた祥子はタオルを手に立ち上がる。
向かう先は――
浴室だ。
祥子は風呂場で何を目撃するのでしょうか。
大体想像がついてしまいますかね。
彼に何かやらかしてもらおうと思っています。