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猫時々彼  作者: mia
番外編
55/58

キミの方が綺麗だけど

お久し振りです、な投稿です。


今回は恋人の二人の話です。


 それは他愛もない日のこと。

 開け放した窓から入る、秋の訪れを感じさせる涼しい風を受けながら祥子はソファに座って本を読んでいた。

 後はもう寝るだけなのだが―――


 「……英。いつまで月見酒しているの?明日も早いんでしょう。いい加減にしておきなさいよ」


 網戸越しに声をかけると、彼は振り返った。手には日本酒の瓶とグラス。そして彼が見上げていた夜空には、真ん丸に肥えたお月さまが。


 「祥子も一緒に飲もうよ。せっかくお月さんが出てくれてるんだからさ」


 おいでおいで、と手招きして呼び続ける彼にため息をつき、仕方ないと読書を中断して腰を上げる。情けないことに、彼に甘くなってしまったものだ。

 ベランダに来た祥子に、彼は嬉しそうに微笑んでグラスにお酒を注いで渡した。瓶は蹴飛ばさない位置に置いてある。

 グラスを傾けて口に含むと辛くてピリリとした。かなりアルコール度数が強そうだ。喉が焼けるとまではいかないが。

 「やっぱり月見酒は良いよね。花見酒も良いけど、こっちも捨てがたい」

 ベランダの柵に肘をついて満月を眺める彼の横顔を見遣り、祥子は冷たい口調で言い放つ。

 「あなたはお酒が飲めればそれで良いんでしょう。花より酒、月より酒なんじゃないの」

 「あらら、言われちゃった。相変わらず厳しいなぁ、祥子は。花より酒、月より酒ね…確かにそうかもね。でも残念。ちょっと違うかな」

 「違うって何がよ。お酒よりも愛でるべきものがあるの?」

 灰色の瞳が祥子に向けられた。頬杖をついている彼は空いた方の手で祥子の細い肩を掴み、


 「――祥子」


 と名前を呼んだ。

 返事をした祥子に彼は再び名前を呼ぶ。


 「だから何」

 「祥子だよ。俺が三度の飯より好きな酒に目もくれずに愛でるものは、祥子。キミが俺の一番に決まってるでしょ」


 腕の中に抱きすくめられた祥子は顔を真っ赤にして俯いた。さっき飲んだアルコールが回ったのか体中が熱い。

 「またそんな恥ずかしいことをぬけぬけと…」

 「俺の甘い言葉に照れちゃった?惚れ直してくれた?」

 ふふっ、と満足げに笑う彼に何だか腹が立ち、横腹を後ろ手につついてやった。びくん、と彼が跳ねた振動が背中に伝わり、祥子は彼の腕の中から逃れようと動く。

 動こうとしたのだが――動けない。

 ぎゅうっと力の限り抱き締められ、頬に彼の髪が触れる。


 「…俺の急所、よくもやってくれたね」


 低い声で耳元に囁かれ、背筋がぞくりとした。彼の機嫌を一気に損ねてしまったようだ。ちょっかいの出し方を間違えると機嫌が悪くなるのは猫譲りか。


 まずい。間違えたわ


 どうにかして宥めようと開いた唇から零れ落ちたのは短い悲鳴だった。

 「やっ!舐めないで、ってば……!」

 隙だらけの耳に舌で触れられ、熱く濡れた感触に打ち震える。手から力が抜け、落としかけたグラスを彼が取って、まだ残っていた中身を飲み干した。ごくんと動いた喉仏をぼんやりと見ていた祥子に顔を近づけ、抗う間も与えず唇を塞ぐ。

 「んっ……」

 息継ぎの合間に苦しげに吐き出される吐息すら飲み込むような激しい口づけに耐え切れず、彼の胸を叩いて抗議の意を示す。

 薄目を開けた彼が上唇を軽く吸って離れた直後、祥子はお互いの唾が繋がりを絶つ前に大きく息を吸った。


 「お返し終了。もっとやっても罰は当たらなそうだったけどね。今回はこれで許してあげる」


 晴れやかな笑みを見せる彼に対し、祥子の表情は段々険しいものに変わっていく。


 こんな、ベランダで……

 隣の部屋の人に聞かれたかもしれない。明日からどんな顔をして挨拶をすればいいというのか


 今度は祥子の機嫌が最悪になったことに気づいた途端、彼はグラスを瓶の横に置き、両手で愛しい人を抱き締めた。


 「ごめん。調子に乗りすぎた俺が悪かった。何でも言うこと聞くから怒らないで。祥子、ごめんね」


 ごめん、と謝り続ける彼は優しく祥子の頭を撫でた。月光に照らされたアーモンドアイは潤んでいて、彼を非難するような鋭さを帯びていたが、その華奢な手は彼のシャツをしっかりと掴んでいた。

 「許さないわ」

 はっきりと紡がれた言葉に彼の顔が歪む。祥子を抱く腕に更に力が込められた。


 「……俺、捨てられるの?」


 掠れた声から彼の心情を読み取り、祥子は彼の背中に手を回して首を横に振った。

 「そんなことするわけないでしょう。これでお返し終了。おあいこよ」

 と言って彼の胸に耳を寄せる。忙しかった鼓動が徐々に落ち着きを取り戻し、彼は腹の底から息を吐いた。

 「もう…心臓に悪いよ、祥子」

 「それはこっちの台詞だわ」

 「あー…もう……」

 押し黙ってしまった彼は祥子の細い肩に頭を乗せ、横目で満月を見て呟く。


 「――月が綺麗ですね」

 「え?ああ、そうね」


 唐突な言葉に明るい茶色の髪から視線を上げた祥子は適当に相槌を打った。何の疑念もなく。


 ……ん?“月が綺麗ですね”って、確か――


 小さく息を呑んだ気配に、ようやく自分の言った意味を理解してくれたようだと、彼は可笑しそうに祥子に顔を向け、


 「まあ、祥子(キミ)の方が綺麗だけど」


 そう言って目を閉じ、月光のもと、唇を重ねた。



 fin.



miaも月見酒したかったです……。台風め。


というか久し振りすぎて英がチャラ男になってしまいました。

酔っているということで大目に見てください。はい。酔ってるんです。


月が云々、が分からなかった方はwebで(笑)多分すぐ分かります。


また思いついたら書きたいと思います。

では、miaの小話でした。

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