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猫時々彼  作者: mia
本編
44/58

19.図書館と彼と

 初デートとお知らせしたのに、なぜかこうなりました。

 しかもあとがきで遊んで…

 すいません!


 ある晴れた日曜日、休みが被った祥子と彼は散歩ではなく、華里大学の附属図書館に行った。

 休日ということもあって学生の数はまばらだが一般開放されているのでそれなりに人はいる。

 「へえ、随分広くて綺麗なんだね」

 一階のロビーに来た彼は初めて訪れる場所にきょろきょろしていた。

 カウンターで何やら女性陣のざわめきが聞こえたのは気のせいだということにしておこう。

 ラウンジで軽食を取っている女学生がガン見していることにも同じく。

 一身に注目を浴びているのに気づかない彼は無邪気にも祥子のパーカーの裾を軽く引っ張る。

 「何?」

 「ここって料理の本とかある?俺新しいレシピ増やしたいんだけど…」

 階段に向かう祥子に続きながら彼は尋ねた。相変わらず家庭的だ。

 「2階の奥の棚にあるわ。ファッション雑誌の隣に並んでいるはずよ」

 「分かった。祥子は3階に行くの?」

 「ええ。後で2階にも行くから、あまりうろちょろしないで待ってて」

 はぁい、と間延びした返事をして彼は背を向ける。

 祥子は3階まで上がり、適当に本をいくつか選んで降りた。

 本をめくる音、ペンが机を叩く音、本を閉じる音。話し声も時折聞こえるが、ほとんど静寂に満ちている。

 ブラインドが下ろされた窓に目をやると先ほどよりも日差しが弱まっていた。


 雨でも降るのだろうか


 彼がいるだろう棚に近づくにつれ、祥子は別のことに意識を逸らした。というか逸らさざるを得なかった。


 何なの、あの人だかりは


 ある棚に集中して群れができていた。ほとんど女学生だ。なぜかおばあちゃんまでいるが。

 彼女達は同じ対象に見入っている。図書館なので騒ぎは起こしていない。ただ見ているだけらしい。

 その異様な群れの中心にいたのは彼だった。

 熱い視線をものともせず、立ったままページをめくっている。

 すっと伸びた背筋に憂いのある横顔。まるで切り取られた絵のようだと祥子は思った。


 …でも手に持っているのはオレンジページ


 ギャップにこれが現実なのだと思い直すものの、この群れの中に突入する威勢の良さなど持ち合わせていない。

 現に本の整理をしている図書館員でさえ仕事を放棄しているではないか。


 ほとぼりが冷めるまで上にいた方が良いかもしれない


 そう思い立った祥子が踵を返しかけた瞬間、彼は不意に後ろを振り返った。

 ちょうどその先では女学生が覗き見をしていたのだが、彼の灰色の瞳は通り越して祥子を捉えた。

 きゅっと口角を上げた彼は読んでいた雑誌を戻し、借りるのだろう雑誌を脇に抱えて近づいてくる。

 途中、なぜか拝んでくるおばあちゃんに不思議そうな顔をする彼を、祥子は笑って見ていた。

 「祥子、どうして笑ってるの?何か面白いものでもあった?」

 「ふっ…何でもないわ…」

 おかしくて口を手で押さえて堪えている祥子に「えー?」と首を傾げる彼。

 女学生その他諸々は何食わぬ顔で散らばっていく。

 ぼそっと「マジ目の保養になったし。今日はもう目薬要らない」「うん、勉強頑張ろう」と励まし合い、去っていく女子もいた。

 上戸に入ってしまった祥子の代わりに彼が貸し出しの手続きをする羽目になった点は仕方ない。



 「わ、雨降ってる。さっきまで晴れてたのに」

 図書館を出た彼はどんよりと曇った空を見上げ、本や雑誌を入れたトートバッグを肩にかけなおす。

 「やっぱり降ったわね」

 後から続いて出てきた祥子はバッグから折り畳み傘を取り出した。日傘と雨傘兼用だ。

 「ひどくならないうちに帰ろっか」

 祥子が開いた傘を、彼は当たり前のように手に取った。

 「私が差すわ。あなたには荷物を持っててもらっているんだから」

 取り返そうと伸ばした手は虚空を掴む。

 「俺の背に合わせると祥子の腕が疲れちゃうでしょ?ほら、入って入って」

 天気とは正反対の晴れやかな笑みとともに促され、祥子は渋々彼が差す傘の中に入った。

 折り畳み傘なのでサイズも小さく、相合傘には向いていない。

 さりげなく腰に回された彼の手に鼓動を速め、祥子は縮こまる。


 こんな些細なことでドキドキするなんて…不覚だわ


 雨足が強まり、一旦弱まるまで雨宿りしようと彼が提案して公園の屋根がある休息所に駆け込んだ。

 当然遊んでいる子供は1人もいない。

 「祥子、雨に当たらなかった?」

 トートバッグをベンチに置いた彼は傘を畳んでいる。

 「ええ…何とか」

 祥子は手でスカートの裾の水気を払い、ハンドタオルで手を拭き取った。

 ざあっと降り注ぐ透明な雫を眺めている彼に目をやった祥子は、彼の肩が濡れていることに気づいた。

 冷たい風にさらされていて体が冷えてしまう。

 ハンドタオルを彼の肩に押し当て、とんとんと優しく叩いて水分を吸い取る。

 気が済むまでそうしていた祥子は顔を上げた。

 彼に空いている方の手で頬を包み込まれたからだ。

 「英…?」

 目を閉じた彼に唇を奪われる。仄かな温もりに蕩けるような心地に陥るのも束の間、彼はあっけなく顔を離した。

 ぎゅうっと抱きすくめられても、どこか物足りなさを覚える自分に恥ずかしくなる。

 広い背中に手を回すと更に彼は強く抱き締めてきた。


 いつもと少し違う、かしら


 彼は大きく息をついて、祥子の耳元で囁く。雨が屋根を打つ音がやけに響いた。


 「――明日、田宮沢の家に行くよ」



 げっ、雨!?洗濯物取り込まないと!(Sさん)


 僕が取り込んでおいたよ。漫画に夢中で気づかなかったんだね(Yさん)


 わー素晴らしい夫を持てて幸せー(Sさん)


 清々しいくらい棒読みだね。それにどこ見て言ってるの?ちゃんと僕の顔を見て…(Yさん)


 えっ、来週休刊なの!?続き超気になるのに!もー!(Sさん)


 ……ニコリ(Yさん)


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