good night, sweet dreams
電気も落とされた暗い部屋。セミダブルのベッドの上で祥子は、彼の腕の中に収まっていた。
固くて重い腕がしっかりと身体に回され、正直言うと窮屈だ。受け身の状態では寝にくい。
もう寝たかしら
静かになった彼の様子を伺おうと視線を上げると彼の目は開かれていて、真っ直ぐに祥子を見ていた。
とても愛おしそうに、そしてひどく切なげに。
「……眠れないの?」
「祥子の方こそ。さっき“お休みなさい”って言ったのに」
髪を撫でる彼の手は心地良く、すぐにでも眠りにつけそうだ。だが何度も言うが窮屈なのだ。
彼とこうして寄り添って眠るのは初めてだ。恥ずかしいが、今はこうしていた方がお互い安心できる。
祥子は自分の上から退こうとしない腕の位置を少し変えてもらおうと身動ぎした。
それに気づいた彼がわずかに腕を浮かせる。
自由を取り戻した祥子は枕に頭を何度か弾ませ、凝った肩をほぐす。
「俺のせいで眠れなかったんだね。ごめん」
そうだけど、違う
彼がまたいなくなったらと思うと、怖くて眠れないのだ。
祥子は言葉にする代わりに離れていこうとする彼の胸に顔をすり寄せた。石鹸の優しい匂いが鼻腔をくすぐる。
彼は祥子の行動に目を丸くし、枕代わりにしていた猫柄のクッションに顔を埋めた。
「もう、そんなことされたら…」
「え?何?」
ごにょごにょと何かを呟いた彼に祥子が顔を上げる。
クッションと彼の腕の隙間から覗いた瞳と、闇の中で目が合った。
「…何でもないよ」
ふいっと視線を逸らして、彼はクッションを潰れるくらい抱き締めた。
しわくちゃになるから止めなさい
注意しても無駄な気がした祥子は肩肘をついて頭を起こした。「あー、うー…」と唸り続けている彼の上に寄りかかり、ほんの出来心で髪越しにこめかみに口づける。
「……」
唸り声がピタリと止んだ。
「今度こそ寝るから。お休みなさい」
そう言って祥子はそそくさと彼に背を向ける。毛布を整えて目を閉じた。
閉じたのだが
「……英。今度は何」
後ろから伸びてきた腕に羽交い絞め状態にされた祥子。背中に彼の体温が服を通して伝わる。
さっきより苦しい
しかもこれは、下手したら1つの枕に二人で寝てることになってるんじゃ…
脱出を試みるものの、腰やらお腹をがっちりと固定する腕に阻まれてしまう。
しまいには祥子の肩に顔を埋める彼。
熱い吐息が肌に当たって、ぞくりとする。
「それ、やめて」
祥子は閉じていた目を開けて彼の方に顔を向けた。
「…嫌だった?」
不安そうな呟きに首を横に振る。
「そうじゃなくて、何か…変な気分になるの」
「…そう」
腰に回されていた手が動き、祥子の首筋を撫で上げた。
「ごめん。これ、服で隠せないかもしれないね」
「ああ…別に大丈夫よ。今度から気をつけてくれれば良いわ」
祥子がふわりと微笑んだのを気配で感じ取ったのだろうか。彼の腕に力が込められる。
「祥子の全部を俺のものにしたい。俺だけが見て、知って、感じたい」
唐突な言葉に祥子は押し黙る。彼の真意が分かって頬の火照りを抑えきれない。
彼は深く息をついた。
「でも無理なんだ。今の俺に祥子を抱く資格なんてない。今のままじゃ駄目だ。このまま逃げてるだけじゃ、キミを守れない」
葛藤に満ちた彼の声が耳朶を打つ。
励ましも、慰めも、彼は欲していない
ただ求めているのは“自由”だ
今もなお囚われ続けている彼がせめて良い夢を見られるように、祥子は心の中で切実に願い、彼の腕の中で眠りについた。




