3.阿久津祥子の苦悩(1)
「阿久津先生。今日はどうかしたのか?元気が無いようだが」
英語の授業を終えて第2職員室に戻った祥子は、机に顔をうつ伏せにしたまま微動だにしない。
その様子を見かねた向かいの席の国語教師、権田宗司が蛍光灯に頭を光らせながら尋ねてきた。
眩しい
この人がいるここら一帯は、いつも明るい
雰囲気の面でも、照明の面でも
「阿久津先生?」
「…いえ、何でもありません」
祥子は力なく答えた。
事務机の上には教材、パソコンの他に、近くのコンビニで買ったおにぎりが入った袋がある。
「阿久津先生がコンビニだなんて珍しいですよね。いつもお弁当を持っていらっしゃるのに」
隣のデスクの、同じく国語教師で高校時代の後輩でもある菅野文月がパソコンから顔を上げて祥子を見る。
長い黒髪を横にまとめ、質素なヘアゴムでしばっただけの菅野は身なりにあまり気を使わない。
高校の部活内では色気より食い気、と評されていた菅野だったが今では既婚者だ。
別に後輩に先を越されてどうとかいう話でもない
男なんて面倒臭いし、一人でいる方がよっぽど気が楽だ
男
今朝の出来事が脳裏をよぎる。
「阿久津先生?眉間の皺がとんでもないことになってますよ。生徒達が怯えてしまいます」
「何だ何だ。恋わずらいか?阿久津先生にもやっと春が来たのか!はっはっはっは…」
陽気に笑っていた権田は、周囲が一気に冷え込んだことに気づいて表情を変えた。
恋わずらいですって?
冗談じゃない
「……ぎよ」
「え?“ぎよ”?」
訝しがる菅野。
私は猫を拾ったのに
こんなことになるだなんて
「あんなの…」
祥子は勢い良く立ち上がった。
周囲の視線が祥子に集中する。
「詐欺よ!!」
タイミングが良いのか悪いのか、授業の開始を告げるチャイムが流れた。
まだ始まったばかりなのに、もう別の話を考え出しているmiaです。途中で挫折しないように頑張ります。




