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猫時々彼  作者: mia
本編
27/58

12.変わりゆく関係(2)


 華里内にとどまらず各地で人気の老舗菓子店“ふじがや”。

 老若男女を問わず愛され続けるこの店は藤ヶ谷家の敷地内にある。

 母屋では藤ヶ谷の父母と住み込みの従業員が暮らしており、離れは藤ヶ谷と文月のパーソナルスペースとなっている。


 そして現在“ふじがや”の7代目店主として経営を切り盛りしているのが今目の前にいる男、藤ヶ谷優紀だ。

 「どうぞ遠慮なさらずにお菓子とお茶をお召し上がり下さい」

 浅葱色の着物に身を包み、黒の帯を締めて濃い藍色の半纏を羽織った藤ヶ谷はまさに大和撫子王子。


 見てくれは清純なのに中身は真っ黒だなんて

 詐欺だわ


 そんなことを考えていると綺麗に揃えた前髪の下から温かさを持った目が現れて祥子を捉えた。

 「阿久津さんにはご迷惑ばかりお掛けしていますね。せっかくの休みなのに文月の我がままに付き合わせてしまって…すいません」

 狂犬すら手なずけるという“天使の癒しスマイル”(文月談)が発動した。


 ご、後光が…


 あまりのレベルの高さに、桐で作られた高価な机を挟んで反対側に座っている祥子は怖気づく。

 「い、いえ。いつものことですから。文月とは高校からの付き合いで、もう慣れていますし」


 「有難うございます。とても仲がよろしいんですね。羨ましくて妬いてしまいそうですよ」


 カコン、と庭のししおどしが鳴った。沈黙が周囲を取り囲む。

 祥子は膝の上に置いた手をきつく握り締める。手汗が酷い。


 まずい。墓穴を掘ったわ


 ……早く戻ってきなさいよ文月!


 通された座敷には祥子と藤ヶ谷の二人しかいない。

 無地の白Tシャツと高校時の体操服(下)という出で立ちだった文月は、取りあえず着替えてくると自室に行ってしまったのだ。

 藤ヶ谷を警戒しつつ、祥子は盆に並べられた和菓子をつまむ。向日葵の形をした生菓子を楊枝で4等分にして口の中に押し込んだ。

 餡子の甘味が広がって、喉に引っかかることなくほろりと溶けていく。

 「…ふじがやのお菓子はいつ食べても美味しいわ」

 「そう言って頂けて嬉しいです」

 和やかな雰囲気が訪れて祥子は肩を撫で下ろす。


 良かった。何とか窮地を免れたわ


 「祥子先輩お待たせしましたっ!さあ行きましょう!」


 突然、スパァンっと乾いた音とともに襖が開いた。

 「ぶっ…!」

 いきなりのことにお茶を飲んでいた祥子は吹き出しかける。

 「傷むからもっと優しく開けてって、この前言わなかったかな?阿久津さん、申し訳ありません」

 静かな口調の藤ヶ谷は詫びを入れて微笑んでいる。

 「ごめんごめん。滑りが良くて思わずやっちゃうんだって」

 なはは、と奇妙な笑い方をして客間に入った菅野に藤ヶ谷が初めて視線を向ける。

 途端、有り得ないのだが空気が感電したように震えた。


 「うぉっ!?金縛り!?」


 畳に両足を縫い付けられたみたいに動きを止めた菅野。

 藤ヶ谷は優雅な動作で立ち上がって菅野と向かい合う。

 祥子は体をずらし、菅野を見て全てを理解した。


 …あの馬鹿娘


 「ゆ、優紀?え、何で?」


 頭の上に疑問符を浮かべまくっている菅野は半そでのシャツに赤色のショートパンツを合わせていた。

 つまり、腕と素足が惜しげもなく人目に晒されているのだ。


 暑いから仕方ない。誰もがそう思うだろう。


 だが、そんな言い訳は――


 「今すぐ着替えておいで。もしそんな格好で僕以外の男に会ったら……どうなるか分かるよね?」


 「………すいませんでした」


 日本史上最恐の大和撫子王子には通用しない。


 

 「行ってらっしゃい。あまり食べ過ぎないようにね。夕飯までには帰って来るんだよ」


 にこやかに手を振って見送る藤ヶ谷。

 祥子は彼に向かって軽く頭を下げ、横に並んで歩く菅野を見た。

 薄手のパーカーを羽織り、チノパンを履いた菅野は見ていてかなり暑そうだ。

 せめてもの救いは裾をロールアップするのを許されたことだろう。


 「あちぃ…」


 励みになるかは分からないが日傘を差してやることしかできない。


 恐るべし、度が過ぎた愛妻家ね


 取りあえず目的地に辿り着くまで、熱中症にかからないことを願った。



 あれ、藤ヶ谷夫妻がメインになってる。

 これじゃ撫子時々腹黒ですね。

 ………。

 何とかします。はい。

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